笠置シヅ子のプロマイドから力をもらう
自室のキャビネットの引き出しに、1枚の写真が入っている。
10数年前に浅草のマルベル堂で購入した、笠置シヅ子のプロマイドだ。
ここ数年は特に眺めることもなく、引き出しの奥のほうにしまっていたが、NHKの朝ドラが話題になっているので、ふと思い出して取り出してみた。
埃をかぶったマルベル堂のビニールから出して、じっと見つめる。
満面の笑顔で両手を大きく振り上げてポーズをとる笠置さん。
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当時、昭和期の別の女優や女性歌手のプロマイドを買うつもりでマルベル堂を訪れたのだが、大量のプロマイドを夢中で漁っているうちにこの1枚に出会い、一目惚れした。
不思議な雰囲気を醸し出している写真だ。
映画の一場面だろうか。
頭に花飾りをつけて、ストライプのぴったりした衣装を身に着けた姿は、それまで抱いていたイメージよりはるかにスタイルが良くてかっこいい。
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他のプロマイド数枚と合わせてお会計する際、店の女主人(?)が、「あら、笠置さん・・・」とささやくように優しく声をかけてくださった。
あなた、笠置シヅ子さんが好きなの?と言いたげだった。
私は吃音があり、状況によっては言葉がスムーズに出てこない。
どもるのが不安で、「あ、はい・・・」としか言えずに店を出た。
あの時、少しお話ししたかったな。
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笠置シヅ子を初めて知ったのは、19歳の時だった。
記憶は定かではないが、当時はまだパソコンなど持っていなかったし、YouTubeもなかったから、おそらくテレビの映像で彼女が歌い踊る姿を見て、興味を持ったのだろう。
後日、近所の図書館でCDを借りてきて聴いた時の衝撃は、今でもありありと覚えている。
CDプレーヤーにセットして、最初に流れてきたのはたぶん「東京ブギウギ」。
かなりアップテンポなバージョンで、みるみるアドレナリンが上がり、お恥ずかしい話だが、曲に合わせて狂ったように踊った(笑)
踊らずにはいられなかったのだ。しかも何度も。
「買い物ブギー」や「ジャングル・ブギー」も、なんともすごい迫力だ。
あまりの斬新さとファンキーさに、19歳の私はたまげてしまった。
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その後も笠置シヅ子を好きなことに変わりはなかったが、若い頃の美空ひばりや江利チエミに夢中になり、リアルタイムの歌手では小沢健二とか聴いていて、次第になんとなく笠置さんから遠ざかった。
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歳月は流れに流れて、令和5年10月。
NHKの朝ドラ「ブギウギ」が始まった。
主役が趣里に決定したと知った当初は、正直ちょっと微妙に思った。
個人的に、笠置シヅ子の魅力は図太いおばさんっぽいところだと思うので、趣里ではちょっと可愛らしすぎるのでは?とえらそうな目で見ていたが、いざ放送が始まってみると、あぁ、この人物を演じられるのは趣里以外にいないかもと感じた。
これまで朝ドラは一度も見たことがなく、連続テレビドラマを欠かさず視聴できる人間ではないので(なぜか途中で離脱してしまう)、YouTubeで趣里が歌い踊る名場面をちょくちょく観ている。
表情も動きも生き生きとして、実に素敵だ。
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今回の朝ドラが始まって、引き出しの奥で静かに眠っていたプロマイドの存在を思い出せて良かった。
こののびやかな姿を眺めると、パッと気持ちが明るくなる。
久しぶりにマルベル堂を訪れて、別のプロマイドも探してみようかな。
女主人ともしまたお会いできたら、昔ここで購入した笠置シヅ子のプロマイドから力をもらっているんですよと、今度こそ一言お伝えしたい。