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『銀河ヒッチハイクガイド』の思い出②

 ①の続き、ということでお気に入りギャグを紹介します。
 なんでこんなことをやっているのかというと、好きな作家の文章を書き写すと良いトレーニングになると聞いたからnoteついでに書き写しをしている次第です。
 まずは作中屈指の名シーンから!

「それじゃ、2機の追尾ミサイルはどうなったんだ?」
「どうやら、ペチュニアの鉢植えと、すごくびっくりした顔のクジラに変身したみたいだな…」
 まったくありえない確率で、マッコウクジラがこの異星の地表数キロ上空に現れた。
 これはこの生物が自然に生息できる場所ではもちろんない。というわけで無邪気なクジラはあわれにも、クジラとしての自我と折り合いをつけるひまもないうちに、もうクジラではなくなったという事態と折り合いをつけなくてはならなかった。
 生をうけてから死ぬまでの短い時間に、クジラの頭に浮かんだ思考を忠実に再現するとこうなる。
 あれ…なんだ、どうなってるんだ?
 えーと、すみません、わたしはだれですか?わたしはだれってどういう意味だろう?
 落ち着け…わっ、なんだか変な感じだぞ、なんだこれ?なんていうか…穴があいているみたいな、うずうずする感じがこの…この…まずモノに名前をつけることから始めないと、とりあえず話と呼ぶことにしたものが、ぜんぜんこの、前と呼ぶことにした方向に進まないぞ。
 いまいきなり頭と呼ぶことにしたもののまわりでひゅうひゅうごうごう鳴っているものは?そうだな、これは…そうだ、風と呼ぶことにしよう!この名前はどうかな?まあとりあえずいいか…たぶんあとで、もっと良い名前を思いつくかもしれない。きっとすごく大事なものに違いないぞ。だってまわりじゅうそれだらけみたいだもんな。おい、これはなんだ?この…しっぽと呼ぶことにしようーそうだ、しっぽだ。あれ、このしっぽってやつはよく動くじゃないか。いいぞ!すごく良い気分だ!どうもあんまり役に立ってないみたいだけど、なんに使うのかきっとそのうち分かるだろう。さてと、だいぶ首尾一貫した世界像を構築できたんじゃないかな?
 まだまだだけど、まあいいか。だってすごくわくわくするもんな。これからいろんな事が起きるだろうし、あんまり楽しみで頭がくらくらする…
 それにしても、風がすごく増えてきてないか?それからあれ!すごい!あれはなんだろう、こっちに近付いてくるけど。すごくすごく速い。ものすごく大きくて平らで丸いから、大きくて広そうな名前をつけなくちゃ…そうだな…だ…だい…だいち、大地だ!それだ!すごくいい名前だ。大地!
 仲良くなれるといいんだけどな。

 そこまでだった。ぐしゃっという大音響を残し、あとはただの沈黙。
 不思議なことに、ペチュニアの鉢植えが落ちてゆくとき、その心に浮かんだ思いはこれだけだった。ーまたかよ!
 ペチュニアの鉢植えがそんな風に思った理由を正確に理解できたら、宇宙の本質がいまよりもっとよくわかるだろう、そう考える人は少なくない。

『銀河ヒッチハイクガイド』より

 ペチュニアの鉢植えが思った「またかよ!」。哲学のしっぽのようなこの感じ、よいですねえ。映画版のこのシーンも秀逸かつ爆笑です。
 ちなみにペチュニアの鉢植えがなぜこう思ったのかは第三作『宇宙クリケット大戦争』で明かされることになります。

 「いらっしゃいませ」動物は、どっこらしょと尻を床に落として座った。「わたしが本日のメインディッシュです。わたしの各部位の肉についてご説明いたしたいのですが」咳払いをして、小さくのどを鳴らし、尻をもぞもぞさせて居心地よく座りなおすと、穏やかな目でテーブルの面々を見つめた。
「肩肉などいかがでしょう」動物は勧めた。「白ワインのソースで煮込むのも悪くないかと存じますが」
「それはその、きみの肩肉のこと?」アーサーはぞっとしてかすれ声で言った。
「もちろんわたしの肩肉のことでございます」動物は満足そうにモーと鳴いた。「よそさまの肩肉をお勧めするわけにはまいりません」
「ひどすぎる」アーサーは叫んだ。「こんな胸くそ悪い話は聞いたこともない」
「地球人、なにを興奮しているんだ」ゼイフォードが言った。
「自分で自分を食べてくれって言ってる動物を食べるなんて、そんな血も涙もないことができるか」
「じゃあなにか、食べないでくれって言ってる動物を食べるほうがいいってのか」
「失礼ですが、わたしのレバーなどはいかがですか?」動物が尋ねる。

『宇宙の果てのレストラン』より

 宇宙の果てのレストラン、ミリウェイズでのシーン。カオスですね…

 二つとも長かったので今回はここまで。まだまだ続けるよ。読み返したいし。

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