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【短編小説】言葉にできない (#7)

#7 終わりと始まり

悪夢を見た日から2回目の日曜日を迎えた。あの時の自分を考えたら、今朝は発熱もないし、よく眠れたわけではないが、体のだるさなども一切ない。カーテンを開けると、外は青空。今のところ、不安感はない。まだ何も始めていないが、一輝は、今日は特別な一日になると感じた。例え、最後の一日となっても、悔いなく過ごそうと決めた。

昨日から、違うクラスの友だちと遊びに行くことを郁美に伝えていた。ちなみに、紀彦には何も聞かれていないので、あえて何も話していない。一輝は、大して詳しいことも話さずに家を出た。すぐさま電車で移動、向かった先は東京駅だった。郁美に噓をついたのは、とにかく心配を掛けたくない、それだけだった。

9時30分発・のぞみ21号博多行き・・・一輝は、この新幹線で京都に向かおうとしていた。両親に内緒の行動なので、もちろん自腹だった。月々のお小遣いの残りやお年玉などで貯めたお金を一気に使うことに抵抗があったが、すべては事が済んでから両親に話そうと考えていた。いや、京都に着いてから話せばなんとかなると思っていた。もっと言うと、姉の佳純と再会し、急遽、会いに行った理由を話し、佳純から両親に話してもらうことで大目にみてもらう、そう考えていた。自分が生きていても、そうでなくても。

11時44分。定刻どおり、のぞみ21号は京都駅に到着した。佳純の勤務先の場所はすでに調査済みだ。早速、地下鉄を使って最寄り駅へと向かった。佳純の勤めるホテルは、大通りから少し離れた路地の先にある、低層階のホテルだった。京都の街に馴染んだ和テイストの外観で、エントランス手前の大きな藤色の暖簾が印象的だ。その暖簾を潜ると、縦に長いロビーが広がり、数組の外国人観光客がチェックインの手続き中だった。クロークやお土産売り場、カフェスペースとなっているラウンジなどを見回したが、佳純の姿が見当たらない。一輝はチェックイン手続きの対応を終えた男性スタッフに自分が佳純の弟であることを告げ、佳純の居場所を伺った。

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