アダルトチルドレンの夫が命を落としそうになったこと
その日用事があり、夕方近くに帰宅すると、すでに夫は相当酔っぱらっているようにみえました。
テーブルでうつむいてコックリコックリとしていました。
また何か怒っているのかなと思いしばらく放っておきましたが、いつもと違う様子に恐る恐る声をかけてみました。
「大丈夫?」
「うん」
覇気のない返答に近くに寄って話しかけてみました。
「どうしたの?」
すると朦朧とした表情で力なくつぶやいたのです。
「お酒と一緒に血圧の薬60錠以上飲んだ・・安定剤も」
「どうして?」
「なんかもうどうでもよくなって」
私は少し呆然としていましたが、事の重大さにやっと気が付き怒鳴っていました。
「何してるの!」
この20年以上、色々修羅場はあったものの、これでもう終わったなと思いました。
今回思い当たるきっかけはありましたが、これだけのことをした原因は、そのことだけではないことはわかっていました。
「救急車呼ぶよ」
「いいって!はは恥ずかしい」
彼のろれつは回っていないし、絶望している様子でしたが、救急車を呼ぶことだけは必死で阻止していました。
すぐにまた薬を飲もうとするので、取り上げようとしたら、獣のように腕をおもいきり噛まれ、すぐに血が滲んできました。
それを見て子供のように驚いた夫は、自分の腕も2か所思い切り噛んで、私以上に血が出ていました。
もともとヒステリーで感情の起伏が激しいところがありましたが、お酒を飲むとさらに悪化してしまいます。
これはもう限界なんだ。
そう思いましたが、酩酊状態の夫を横に、私は現実的なことも考えていました。
このまま救急車で病院に行ったとしても、自ら薬を過剰に服用したということは、当然保険が効かない、保険会社の医療保険も効かないではないか。
しかも、自尊心が低くプライドの高い彼のこと、この悪夢から覚めた時の彼の落ち込みは相当なものに違いない。
彼はもともと特異体質で、異常に血圧が高い時があり、病院で血液検査を受けても、異常が見つかったことがなかったのです。
いくらお酒を大量に飲んでも、いつも肝臓や糖尿、腎臓の数値も全て正常でした。
どうしても嫌だとわめいている彼を見て、私は彼の生命力にかけることにしました。
結局救急車も呼ばず病院にもいかなかったのです。
その後、時間が経つにつれ嘔吐が激しくなりましたが、酒と薬しか胃に入れていない状態だったのもあり、吐くことができず、全く尿も出ずに、夜中の血圧は上が50くらいまで下がり、1週間程生死をさ迷いました。
しかし、彼の生命力は凄かった。
低かった血圧も少しづつ高くなり、体力も戻っていきました。
しかし、精神面では今まで以上にダメージが大きく、自分自身が今回のようなことをしてしまったことで、それだけ自分自身は相当病んでしまっていると強く自覚しているようでした。
もう20年以上前に、彼が不安定になりだしたきっかけは、彼のお姉さんの病死でした。
お姉さんに余命が言い渡されてから、亡くなるまでの半年間の彼は、かなり狼狽えていました。
なぜか毎晩のように幼い頃の辛かった事を延々と語るようになり、それは、ヒステリックに、時には子供のように涙を浮かべている時もありました。
それでも、根がまじめな彼は、どんなに精神的に不安定でも、与えらえた仕事は朝早くから暗くなるまで、コツコツとこなしていました。
当時私は、夫のそんな姿を見ていて、褒められるために必死でお手伝いをしていた、夫の少年時代の姿が浮かんでいたこと、思い出しました。