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これは、蒲団だ。

夫が風邪をひきました。

うつすといけないから、ということで、夫は隔離部屋に閉じこもって固く扉を閉ざしています。

夫がいないと、暇。
することない。

いや、することはたくさんあるんだけど
すべきこともあるんだけど
なんかやる気が起きないというか
だから結局、何もせずに夜まで過ごしました。

徹底的に別々に過ごしているので、隔離部屋から出てトイレかお風呂か歯磨きに行く夫の後ろ姿と、また戻っていきがてら、力のない笑顔でこちらに手を振る夫、夫を目にするタイミングはこれだけです。

近所の野良猫のほうが、目撃するチャンス多いかもしれない。

普段、夫がいると、見てもいないテレビを付けたり、スポーツ中継を見たりするので結構やかましく、わたしは音や光に過敏なところもあるので特に頭が痛いときなどは「もし見ていないのであれば消してもよいか」と尋ねたり、します。

すると案外、見ていないようで見ていたりして、それでもわたしを気遣ってテレビを消して、タブレットにイヤホンで続きを見たりする夫の姿を見ると、申し訳なさが湧きあがります。

いいよ、見てるなら、大丈夫だよ
あ、いいよいいよ、辛いなら、大丈夫だよ
いやでもそんなすごい痛いわけでもないし
大丈夫だよ
いやいや、大丈夫大丈夫

みたいな会話で、我こそが大きくて強い漢(大丈夫)であるとアピールし合います。

で、そんな夫が引きこもっている1日。
夫が足りない。夫不足。

暇を持て余して、ベランダに出て伸びをしたり、植物に葉水したり、撮り溜めたドラマの「かしまし飯」を4話目から最終話まで一気見して、あっちゃんの涙にもらい泣きして、これ全話撮ってあったっけ最初からまた見ようかな、と思ったら1話目だけ消しちゃってて一瞬呆然として、もう夕飯の時間だけど別にお腹空いてないな、なんか食べたほうがいいかな、でもまあ別にお腹空いてないなら食べる必要もないか、と思ったわたしは、何をしたでしょう。

急にクイズです。

答えは、
夫の座椅子に顔を埋めて、嗅いだ

でした。

こりゃ『蒲団』ですよ。
田山花袋の。

去っていった女学生の蒲団を、彼女の師である妻子持ちの中年作家が嗅ぐやつ(ネタバレ)。

わたしが『蒲団』を読んだのは、まだ年端もいかぬ女学生だった頃ですから、オイやべー奴いるなこれ。
なんでうちの兄、わたしにこれ読ませたんだろ、どういう意図?意図とか無いの?
と思いましたが、まさか将来、自分がおじさんの残り香を自ら進んで嗅ぐ日が来るなんて。

人生って、何が起こるかわかりませんね。

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