見出し画像

わたしはあの時、二度傷付いた

わたしはかつて、性被害に遭ったことがあります。

レイプではありませんが、なかには気分が悪くなる方もいらっしゃるかと思います。
心配があればどうぞページを閉じてください。

***

高校生の頃のことです。
わたしは朝、駅で待ち合わせた友人と一緒に歩いて高校に向かっていました。

通学時間帯、歩道いっぱいに学生がひしめくなか1人、何をするでもなく立ち止まってこちらを見ている大人の男がいて、珍しいなと思ったわたしはその男と一瞬、目が合いました。

男の目に異様な光を感じたような気がした…
けれども関わり合いになりたくなかったので、わたしは目を逸らし友人と喋りながらそこを通り過ぎました。

しばらく歩いたあと、誰かが後ろから走り寄ってくる足音が聞こえて、嫌な予感とともに振り向こうとした瞬間、わたしは後ろから羽交い締めにされました。

さっきの男だ。

直感でそう思いましたが、声は出ません。
異常を感知した周りの生徒たちがサッと引き、あっという間に人だかりができます。

男はわたしを片方の手で捕らえたまま、もう片方の震える手でスカートを後ろから捲り上げ、下着の中に手を入れてきました。

そして、耳元で言ったのです。

ここで下着をおろしてやる。
みんなの前で恥ずかしい思いをさせてやる。

わたしは凍りました。
どうしよう。暴れたほうがいいのだろうか。
なんとかこの男から逃れる術はないか。
武器は持っているのだろうか。
急に羽交い締めにされたから確認できなかった。
動いたら刺されたりするだろうか。

そうだ、一緒にいた友人はどこにいるのだろう。
…いた。
観衆の1人となってわたしを見ている。
ちょっと、笑っている?

そう思った瞬間、何してるんだ!と声がして、複数人の男子生徒がバタバタと現れ、わたしからその男を引き離しました。

男は特段腕っぷしが強いわけでもなく、武器も持っていなかった為にすぐ屈服し、誰かが呼んだらしく駆け付けた教師と、後から到着した警察にあっけなく取り押さえられました。

後日、男子生徒たちとわたしは、揃って校長室に呼ばれました。
わたしには母親と、母の友だちが付き添ってくれました。

校長は言いました。

勇気ある君たち(男子生徒)の行動に、わたしも鼻が高いよ!

君(わたし)は、ボーッとしてないで、ちゃんと周りに気をつけて歩きなさいね。

…え?

わたしも母親も唖然としたところ、母の友だちが口火を切りました。

なんですか?それ。
どこの高校生が、朝の通学時に、それも駅から学校までの道で、周りを警戒して歩いてるって言うんですか?
あなたは、この子が悪いって言うんですか!

彼女がそう言ってくれて、救われた気がしたのを今でもはっきりと覚えています。

わたしが悪かったの?と思う暇もなく、ビシッと言い返してくれる人がそこにいなかったら、わたしはもっと深く手酷く、傷を負っていたことでしょう。

他者の怒りを目の当たりにすることで、そうか、怒っていいんだ、わたしの怒りや悲しみは間違いではないんだ、と気付けることがあります。

あれは、シスターフッドという言葉の無かった(あったとしても知らなかった)時代の強い連帯だったし、あの経験は今のわたしを形作った大きな出来事だったと思います。

あれから20年以上経つけれど、わたしは未だに、後ろから駆け寄られるのが苦手です。

いいなと思ったら応援しよう!