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態度。

夜空に一輪の大きな花が咲いた。

『綺麗だね。私この花火の音すきなの。』

君は言った。

"あぁ"と僕は答えた。

『私たち、もうおしまいにしない?』

"え?"と僕は言う。

あまりに唐突すぎる。

『もう○○は私のこと好きじゃないでしょ?』

そっと彼女の横顔に目を移す。

夜空の花に照らされた彼女の頬はほんのり湿っていた。

"いや、好きだよ"と僕は答えた。

『言葉だけじゃん。言葉だけじゃダメなの。』

「本当なんだ。好きだよ。飛鳥。」

振り向き去ろうとする飛鳥の手を取る。

『もうやめてよ。言葉以外で示してよ。もう嫌なら無理しなくていいよ。』

飛鳥が僕の手を振り払い走ろうとした時、夜空に大きな音共に花が咲いた。

そして、その瞬間。飛鳥が倒れた。


すぐに救急車を呼び、飛鳥は病院へと搬送された。

まだ意識は戻ってないらしく検査のためすぐには会えそうになかった。

というか、僕に会える権利があるのかと言われればわからない。

実際飛鳥の事を好きだったのかわからない。

飛鳥は誰がどう見ても可愛い。

だが少し口が悪くツンデレチックなところが玉に瑕である。

僕は態度に示せと言われたが飛鳥に言われたくはない。

たしかに飛鳥はほんとごくたまにスキンシップで好きということを示してくる。

しかし、そうは言っても僕の方が言葉でも態度でも多く感情を表している。

今少し思い返しても彼女から好きだよと言われたのは丁度1週間前が初めてだった。

付き合って4年にもなるのにだ。

『ねぇ、○○。私○○の事本当に好きだよ。』

いきなりだった。

僕の目は見ないでボソッと。

嬉しいか嬉しくないかだと正直嬉しかった。

「ふふっ…僕も好きだよ。」

そう返した。

"彼女が倒れました"

と会社には連絡を入れた。上司の生田さんからは、

"コッチは全部やっておくから隣にいてあげな"

とだけ言われた。

生田さんと飛鳥は仲がいい。

生田さんは飛鳥の大学のサークルの先輩だったらしい。

かれこれ四時間は経っただろうか、というころに病院の人から家の方に帰ってもいいと言われた。

飛鳥が目を覚ましたら直ぐに連絡をくれるらしい。

僕は家に帰るか。

それとも飛鳥が目を覚ました瞬間に病室に行くためにここにいるか。

悩んだが病院側にも迷惑だろうと考え、家に帰ることにした。

家に着くとすぐにはソファに座らず飛鳥の部屋に向かった。

そして僕は飛鳥の部屋の机の上に一冊の日記があることに気づいた。

中身はごく平凡な3行ほどの日記。

内容はどれもしょうもなかった。


『今日は○○と一日中家でダラダラした。○○の横で本を読むと集中できないけど、何故かそれが良い。』


たしかに飛鳥は僕が横にいると"集中できない"とか言ってたな…

なのに何故か、その度に僕がどっか行こうとすると服の端を掴まれた。


『今日は私の誕生日。朝は何も言ってくれなかった。でも真夜中に仕事から帰ってくると机に突っ伏した○○とケーキが!○○いつもありがとう。』


何故か自然に涙が溢れ出てくる。


『今日は○○の誕生日!私はサプライズとか苦手…だから凄くお祝いしたつもり…ちゃんと伝わったかな。』


"伝わらなかったかもな…"と独り言をこぼす。


僕はどんどんと読み進めていき、とうとうここ1ヶ月の内容になっていた。


『今日は○○が帰ってこなかった。後輩と飲んでて後輩の家に泊まるって言ってたけど心配。○○が浮気はないだろうけど。』


ここら辺は少し暗い内容だった。

実際この日は生田さんと飲んでて終電を逃した。

生田さんはタクシーで帰り僕はその辺の漫画喫茶で寝た。

嘘をついたのは少しでも飛鳥を傷つけたくなかった。

とうとう日記はあの1週間前に到達した。


『○○といくちゃんが二人で歩いてた。浮気かな。私は好きなんだけどな。私だけかな。ここでだけ弱音を吐かせて。』


このページの紙は少し濡れた後のようによれていた。

生田さんと歩いてたのは理由がある。

わけではない。

ただ僕と生田さんはそんな仲でもなく昼休みに一緒に過ごしただけだった。


『もうきっと○○は私を好きじゃない。私から別れを告げようと思う。それに今日は少し体調が悪くて病院に行った。結果は—書かなくていっか。』


3日前の日記にはそう書いてあった。

病院。きっと何かあったのだ。

僕は確信した。

そしていつのまにか僕は日記を抱え病院の前にいた。

4年分の日記を一気に見たこともあり、もう夜は明けていた。

「あの!飛鳥。齋藤飛鳥‼︎はいませんか?」

僕は昨日と違う看護師なんて意にも介さず聞いた。

彼女の名札には秋元真夏と書いてあった。

『え、えっと少し待ってくださいね。齋藤飛鳥さんですね。四階にいらっしゃいますよ。』

ありがとございますとだけ大きな声で伝え僕は階段で四階へと向かった。

406号室。

ここに飛鳥はいるらしい。

何故連絡が来なかったのか。

不思議だったが今はもうどうでもいい。

飛鳥に聞けばいいのだから。

だがそんな甘い考えは次の瞬間かき消される。

ドアを開けるとずっと窓のほうを見ている飛鳥がいた。

普通こっちをちらっとは見るだろうに

僕はさっきまでの勢いとは打って変わって少し塩らしい態度をとる。

「なぁ、飛鳥。昨日はごめんな。」

僕はドアのすぐ横から言った。彼女の視界には入っていない。

「おいおい、無視はないだろ。飛鳥。」

何度言っても飛鳥は反応しなかった。

そこでとうとう痺れを切らし飛鳥の肩を掴んだ。

飛鳥はひどく驚きまるで今まで気づいてなかったかのようだった。

「飛鳥?」

飛鳥の目から大量の涙が溢れ出る。

「どうしたの?大丈夫?」

飛鳥は首を横に振る。そして僕の手を握った。

そして僕の手のひらを上に向けそこに指で文字を書いた。

『わ、た、し、み、み、き、こ、え、な、い』

僕は咄嗟に飛鳥から手を離してしまった。

はっとしたのだ。

全て理由がついた。

"態度"で示してほしいってのも。

横で涙目の君を僕は抱きしめた。

もう別れようも。

どうあがいても離れられないくらいの力で僕は飛鳥を抱きしめた。

そして喚いた。なんで飛鳥なんだ。

どうして飛鳥がこんな目に遭わなければならないんだ。

どうして。どうして。どうして僕に言ってくれなかったのか。

あぁそうか。


——僕が飛鳥の愛に気づけてなかったからか。


そこからの僕と飛鳥の生活は大変極まりなかった。やはり耳が聞こえないのは不便だった。

僕らは筆談をした。

一冊のメモ帳で。

そしてその生活にも多少は慣れ約一年が経過した。

『今度花火行きたい。○○連れてって。』

「いいよ。久しぶりに浴衣着る?」

飛鳥は分かりやすく頬を赤らめる。

そしてそれを見て僕がニヤニヤしていると飛鳥は僕の方に突進してきた。

そして、僕の胸で泣いた。

一年ぶりに来た花火大会はとても人が多かった。

大学生カップルに小学生の初々しいカップル、或いは熟年の夫婦もまたきていた。

暗い夜道で筆談は出来ないのでこういう場では僕らはスマホで会話した。

「飛鳥。人多いね」

『多すぎ。』

相変わらず淡白とも感じるが僕のフリが悪かったとも思う。

僕たちはちょうど良い場所を見つけ花火が打ち上がるのを待った。

そして一つ目の花火が打ち上がった。

その瞬間、僕は飛鳥の方を向いて、

「す、き。」

口をうまくうごかし僕は飛鳥にそう伝えた。

だが、飛鳥は伝わってないのか目が笑ってなかった。

あぁそうか。

ごめんね、飛鳥。

———僕は飛鳥の唇にそっと唇を重ねた。

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