後悔
『人って死ぬ時に何を後悔するか知ってる?』
ベッドの上でただ雪に包まれた外の世界を見つめながら奈々未が言った。
「分かりません…てか最後みたいな雰囲気出すのやめてくださいよ…」
僕は嗚咽が出そうになるのを抑えながら出来る限り感情を押し殺して言った。
『なんで、君が泣きそうなのさ…』
奈々未は僕の頬を撫でるようにして微笑みながらそう言った。
僕はその時により強く感じたんだ。
奈々未さんは強い人なんだって。
『何を後悔するか教えようか?』
「聞きたくないです…」
僕はズボンの裾が破れてしまうのではないかというくらいに握りしめる。
『それはね…』
奈々未は僕の言葉なんかには聞く耳も持たず会話を続ける。
"好きな人に好きって伝えられなかった時だよ"
ただ空に舞う雪を眺めながら言う貴方の横顔はどこか切なくて、でもどこか晴れているそんな気がした。
「奈々未さんは言えたんですか……」
僕は彼女から涙を隠すように上を見上げる。
病院の無機質で真っ白な天井は決して気休めにもならなかった。
『私の唯一の心残りはそれだよ…ゲホッゲホッ』
奈々未は哀しそうな顔で苦しそうに咳き込む。
「大丈夫ですか?」
僕はすぐに彼女に駆け寄り背中にそっと触れた。
『ふふっ…うん、大丈夫だよ。君は後悔しちゃいけないよ?』
「……」
ただ風が病室の窓を揺らす音だけが部屋に響く。
『何か言ってよ。最後くらいカッコいい先輩でいたいじゃないか。』
……
ただ僕の脳内を様々な感情が走り回る。
どうすればいいのか。何を伝えればいいのか。
答えは単純だった。
そして僕は奈々未を抱きしめた。
「奈々未さん…好きです。」
『え?』
「僕も後悔したくないです。だから奈々未さんが好きです。会社に入った時からずっと。」
僕がそう言うと奈々未は僕の身体を感じた事ないくらいの強さで抱きしめた。
『私は本当ダメな後輩を持ったみたい。』
「奈々未さん。好きです。」
『うぅ…ずるいよ君は。』
"最低だよ君は…最後に私の後悔を二つに増やしたんだから。"
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