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アイスクリームが溶ける頃には。

美月が死んで2週間が経った。

それから自炊なんてしてないし、部屋の電気がつくことすら少なかった。

今日も仕事から帰って、すぐに風呂でも入り眠ってしまおうか…

そんな時だった。


——ピンポーンッ


突然なったピンポンに僕はすぐに起き上がって玄関の覗き穴から誰か確認する。


けれど、誰もそこにはいなかった。


僕は一応周りを確認しようとドアを開ける…


『やっほ‼︎』


ドアの目の前には確かに死んだはずの美月がコンビニの袋を右手に下げて立っていた。


僕は信じられず思わずドアを閉じる。

『おいおい〜‼︎なんで閉じるの‼︎』


ドアをドンドンと叩く音がする。


美月…なのか?


きっと夢だ。そう思った。


僕はそっとドアを開けて彼女を中に入れた。

『うわぁ、コンビニ弁当のゴミ捨ててないじゃん。』


美月はズカズカと家に入ってきて僕の机の上を片付け始める。


「な、なぁ、本当に美月…なのか?」

僕は呆然と立ちながら言った。


『え?見て分かんないの?体で分からせてあげようか?』


なんて言って美月は僕に少しずつ近づいてくる。

一歩…二歩…三歩と


そして僕にぶつかる……


——はずだった。


君の体はほんのり透けていて僕の体を通り過ぎる。


『ふふっ…これでわかった?』

少し悲しそうに笑っていう君の顔を見るのは辛かった。


「美月…なんで…」


僕は泣くのを我慢しながら言った。

『○○のせいだよ?○○が電気もつけないで辛気臭い顔してるから』


それだけ言って再び机の上に散乱したゴミを片付ける。


そして片付け終えたらコンビニの袋からアイスを取り出して座った。

『○○も座りなよ、アイス食べよ‼︎』


君は美味しそうに取り出したカップアイスを頬張りながら言った。


僕は横に座って美月の買ってきたアイスを食べる。

幽霊でも買い物はできるのかなんて今は気にもしなかった。


『○○、笑わないね。どうしたの?そんな感じだった?』


美月の言い方はまるで理由が分かってないようだった。


理由なんて簡単なのに。

「なんでだろうな…」


『もう‼︎元気出して‼︎ほら、アイスあーんしてあげるから‼︎』


そう言って美月は僕の口にアイスをグッと近づけてくる。


僕の口に入ったアイスは少し甘酸っぱいそんな気がした。


『ねぇ、新しい彼女作んないの?』


「作るわけないだろ。」


僕は少し無愛想に言った。

『ふふっ…そっか…』


君は少し嬉しそうにでもどこか寂しそうにしていた。


「なんで、帰ってきたの?」


『だから、〇〇が元気ないからだよ‼︎』


「元気だよ…僕は。」


『何言ってるの?私がきてずっと泣きそうな顔してるのに。』

「泣きそうな顔してる?」


僕は無理やり繕った笑顔で美月にそう言った。


『ふふっ…私元カノだよ?流石にわかるよ。』


「そっか…」


『まず、電気はつけなさい‼︎あと笑顔‼︎わすれるな‼︎』


美月は僕にグッと近づいて僕に重なってそう言った。


「美月…近いよ…というかくっついてるよ…」

『へへぇ…○○の中ってこんななんだね。胃の中がコンビニ弁当だらけだ。』


「え!?胃の中も見えるの?」

『嘘でーす、見えるわけないじゃん。○○はバカだなぁ。』


「な!?騙したな?」


『ふふっ…』


「なにがおかしいんだよ‼︎」


『ううん、やっと笑ってくれたなって…』

「え?僕笑ってた?」


『うん…凄い笑顔だったよ。』


「ふふっ…そっか…」


僕は美月の方を向いて自分からしっかりと笑った。


『よーし、じゃあ私そろそろ帰ろうかな…』


美月は突然立ち上がってそう言った。


「え…?」


『もう、やっと○○笑ったからさ…私もやっと成仏できそう。』

「離さないって言ったら…?」


僕は美月の目を見て真剣に言った。


『ふふっ…触れないのに?』


「で、でも‼︎」


僕は思わず立ち上がり美月を抱きしめようとするが通り過ぎるだけ。


何往復しても通り過ぎて…


「なんで…なんで触れないんだよ!!」


『私と離れるの寂しい?』

「当たり前じゃないか‼︎」


『じゃあさ、ちょっと目を瞑ってよ。』


「じ、じゃあってどういう…」


『いいから、ほら。』


僕は言われるがままに目を閉じる。

今、美月が何をしているかわからない。


けれど突然、何故か今は思い出したくもないのに美月との想い出が駆け巡る。

桜を見て"どっちの方が綺麗?"って美月って言うまでずっと聞いてきたり。

海に入れない僕を思いっきり引っ張って海の中に突っ込ませたり。

月を見て"月が綺麗だね"って笑いながらいってムードもクソもなかったり。

雪を見て"来年もまた二人で見たいね"って少し痩せこけた君は笑って言ってきたり。


美月との全てが今起きている事のように思い出されて涙が溢れ出てくる。


『○○…ありがと。』

ポツリと美月の声が聞こえて僕は何故か眠りについた。

—————————————————

ピピピッピピピッ

カチャッ

いつものように目覚ましに起こされる。

なんだろうか、何かが心につっかえて思い出せないような…

気のせいか…と自分に言い聞かせて僕はスーツに着替える。


そしてリビングに向かう。

リビングのテーブルには何故か食べかけのアイスがあった。

「あれ?僕昨日アイス食べたっけ?」

独り言をこぼしながらゴミ箱にアイスを捨てて鞄を持つ。

何かを忘れているような。

けれど何かなんて分からなくて。

忘れちゃいけない。

そんな気がするのに、思い出せなくて。

ただ、僕は笑顔で誰もいない部屋に"行ってきます"とだけ呟いて家を出た。

"行ってらっしゃい!!"

聞こえるはずのない声が聞こえた。

そんな気がしたんだ。

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