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第18話 テスト期間


唯花たちにとって、地獄の時間が始まった。

「テスト期間、始まったね」

という瑠愛子の呟きに、

「わあああ!!嫌だああああ!!」

「うるさい」

叫び散らす舞美を冷たく制したのは綸音だった。
綸音は普段無口な代わりに口を開けば毒舌が飛び出す。それが綸音の魅力である。

「うげぇひどいよぉ………(泣)」

「テスト2週間前だから、課題とか小テストとかたくさん出されるよね。テストでいい点を取るためにも、小テストはがんばらないとね………」

「うえ〜ん!お絵描きしていたいよおおお」

「だからうるさいって」

「ごめぇん…」

また綸音節が炸裂したところで、瑠愛子は真剣な顔つきになる。

「咲南花は次のテストが勝負よね」

「うん。次回のテストの点数次第で活動ができなくなるかもしれない」

「なんで!?咲南花ってすでに点数高くないっ!?」

「家では95点以下は許されないんだ。
それなのに前回89点を取ってしまったから、次回のテストで挽回しないと機材とかを捨てられるんだよ。」

咲南花の両親は、とても…薬を超えて毒になるほど教育熱心だ。

自分たちもまた教育熱心な親に育てられ、日常生活や人間関係まで制限されてきたので、それを咲南花にも強いているのだそうだ。
……というより、それしか愛情表現の方法が分からないのだろう。

まるで、自分が子ども時代に殴られてきたからという理由で我が子に手を出す唯花の家庭と酷似している。

咲南花は勉強に関することだけでなく趣味や娯楽、さらには学校生活まで監視され管理されているらしい。
唯花が咲南花と仲良くできているのは唯花の両親が外面がよく、高学歴だということを知っているからだろう。さらに唯花の父親は公務員なので、それも安心材料なのかもしれない。

「そう。ただでさえ2週間前にマイクを捨てられてたんだよね……。」

「マイク捨てられたの!?酷すぎる最低許せない!!!」

「舞美、活動の話はあんまり大声でするものじゃないの」

瑠愛子は舞美を静かに諭す。

“身バレしないようにするために活動の話をしない。”それは暗黙の了解であった。

「咲南花の親、結構怖いね」

という綸音の呟きに

「咲南花の親といい唯花の親といい、高学歴の人は我が子にもそれを強いるのかな。」

花音譜はそう返す。

唯花の父親は中学受験で県内トップの私立中学校に行っていたし、母親も進学校に通い、成績上位者の集まる特別クラスに進むくらいには勉強が得意だったと言っていた。

それがかえって唯花を苦しめているのだが。

「でもさ?咲南花の両親は見るからに頭いい!って感じの人でちょっと怖いけど、唯花の両親は笑顔が柔らかくて、とっても優しそうに見えるんだけどな……」

「たしかに。うちの親も唯花のお母さんと仲良くしたい!っていつも話してるし」

たしかに舞美や瑠愛子の言う通り、唯花の親は機嫌がいい時や他人と話す時はとても優しく笑顔が朗(ほが)らかだ。

「まあ、うちの場合は勉強に関することだけ厳しくて、普段はそこまで厳しくないからね!いたって普通の人だと思うよ?」

「それより今は咲南花のことでしょ?咲南花のためにも、今回はみんなで勉強がんばろー!!」

唯花はあまり自分の話をするのが得意ではない。
一度口を開いてしまうとすべて話してしまいそうで、暗くて重たい話をしてしまいそうで怖いのだ。

「そだね!がんばろ〜!!!」

「一緒にがんばろうね」

「うん。がんばろう」

「勉強会とかも開こうね!」

「ありがとう、みんな」

4人の言葉に咲南花は少し微笑んだ気がした。

れいどろの活動を始めてから、4人と出会ってから以前より咲南花は感情を取り戻そうとしている気がする。
配信でも私生活でも前を向こうとしているのがよくわかる。相棒である唯花には、少しずつ前に進む咲南花の成長がとても嬉しかった

(そう。それでいいの…)

(私のことより、みんなのこと。みんなの幸せが1番なんだよね……?)

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