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第27話 無力な私
深夜、通話アプリにて
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『……はぁ』
『あら、どうしたの?』
『あ、いたんだ』
『もちろんよ。最近は眠れない日が続いているからね』
『花音譜もそうなんだ〜
わたしも、作業してると時間を忘れてつい夜更かししちゃうんだ…(笑)』
言い方的にこれは嘘なんだろうなと思った。瑠愛子は優しいから、私に迷惑かけないようにって気遣ってくれているんだ。
“かわいいけどスポーツが好きな子”
初対面の時からこの印象は変わらない。
そのギャップが可愛いと私は思っているけれど、現実はそう甘くない。
『瑠愛子はたしか昨日、テニスクラブに行っていたわよね?』
『っ………そ、そうだよ?』
『私は週1回のバレエしかしていないから、1週間にたくさんのスポーツができる体力を持っているのは尊敬するわ』
母親が子どもの時からバレエをしていて、バレエの先生をしていたことから私もバレエを始めた。もちろん最初は母親の教室に通っていた。
現在母親は秘書検定を受け、父親の経営する会社の社長秘書をしている。
『体力があるっていうか、好きなことをしてたらいつの間にか時間が経っちゃった!って感じだよ?ぜんぜん運動してる〜とか思ってないし』
『まあでも本当は、スポーツもやめた方がいいんだろうけどね』
瑠愛子の通話越しにでもわかる悲しそうな声がとても苦しかった。
『どうして?』
『前も話したけどうちの家系は代々おしとやかな女性が多いからさ、わたしみたいな元気っ子は珍しいみたいで。最近は塾に入ったからスポーツクラブも何個かやめちゃったんだよね〜』
たしか前は毎日のようにスポーツをしていたような気がする。
でも塾に入ったらスポーツをする時間もなくなるから、泣く泣くやめるしかなかったらしい。
『あら、そうなの?』
『うん。平日は基本塾に行ってる。土日と木曜日だけはスポーツクラブに行ってるよ。そっちはどう?』
『私は相変わらず部活とバレエを続けているわね。最近は放送部の方が忙しくて料理部には顔を出していないから寂しいわ』
『でも料理部って1ヶ月に1回くらいしかやってないよね?』
『そう。だけど放送部のイベントと被ってたりして参加できてないの』
前回の料理部の活動日はかなり重要な放送機器が壊れてしまって、それを直すために業者と連絡を取ったり代わりになりそうな機器を探したりして料理部に参加できなかった。
『前回料理部ではクレームブリュレを作っていたみたいよ?』
『ええ〜!?めっちゃ好きなやつ!お姉ちゃんたちも好きって言ってた!』
『まあ仕方ないよ!あ、もうこんな時間!
明日も学校だしテスト終わったからって徹夜は厳禁だよ?』
『ふふっ……そうね。そろそろ寝ましょう。
おやすみなさい』
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「………………」
思わずため息が漏れる。
最近、瑠愛子の様子がおかしい気がする。
どこか空元気というか、無理に明るくしようとしている感じがする。
成績がよくないという理由で塾に入ったと言っていたが、前までそんな話は聞いていなかった。
まるで急に塾を入れられたみたいな感じ。
考えることしかできない。そばにいることしかできない。
そんな、“無力な私”にできることは何だろうか。