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通話を抜けて、唯花は1人で配信のアーカイブを聞き直していた。会話が続かなかったところや、静寂が訪れたところをメモして次はどうすれば配信が盛り上がるのかを考えていた。

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   ピコン 『新着メッセージがあります』

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メッセージを開いてみると、相手は咲南花だった。
咲南花と唯花は小学3年生の時に知り合い、唯花が自分の人生を終わらせようとしたところを咲南花が止めて、2人は仲良くなった。当時、唯花は人間関係に咲南花は周りからのプレッシャーに悩んでいた。そんな闇を抱えた2人が仲良くなるには、そう時間はかからなかった。
だからこそ今は“相棒”として、お互い深い信頼を寄せている。

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咲南花『お疲れ様。今日のふり返りはどうする?』

唯花『なんとなくアーカイブを見た感じ、話題転換の時になんとなーく雰囲気で変わってる気がするから、少し気まづかったり静寂が訪れたりしてるかな。』既読

唯花『だから次回からは、会話が広がらないって思ったらすぐ話題を変えよう』既読

咲南花『なるほど。無駄な時間を作らないようにってことだな』

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咲南花と会話をしていると、なんとなく安心する。ずっと独りで作業をしていた唯花にとって、相棒からのメッセージは救いの手とも呼べるほど心強かった。

もともと一緒に歌い手になろうと言ったのは咲南花の方で、はじめ唯花は“Clover(クローバー)”というグループに、咲南花はソロで活動していた。しかしいろいろな事情があって、今は同じグループで活動している。
唯花はクロバ(クローバー)のメンバーとれいどろのメンバーを重ねてしまい、また大切な人を失いたくないと、もう何も壊れてほしくないと思っている。

さらに唯花はれいどろの今後について、毎日毎晩悩んでいる。1分ごとにエゴサをして、常に誰かが炎上していないか調べて、SNS内のメンバーの投稿で不適切な言葉づかいをしていないか。過去の炎上と照らし合わせて、共通する部分はないかと確認している。

(頭……いたい)

唯花は痛む頭を押さえながらリビングへ向かった。


「あら、もう配信“ごっこ”は終わったの?」

母親の一言目はその言葉だった。モヤモヤを抱えながらも頭痛は我慢できないので、頭痛薬の在処(ありか)を尋ねて会話は終わる。

両親は今まで、唯花のことを褒めたことがない。同様に謝罪をしたこともない。
だからこそ、ずっと忘れない。

あの日々を​──​──​────中学受験時の悪夢を。

あれから3年経った今となっては、もう誰もこのことは知らないだろう。

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