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第13話 勝手に貼られたレッテル
放課後、咲南花はいつも通り体育館に向かった。部活が嫌とか、先輩が怖いとか、そんなものは一切感じなかった。
咲南花は昔から周りからの期待に応えるために誰にも本音を話さず、自身の感情すらも殺してきた。
親が喜ぶから、クラスメイトの見本になれと言われたから咲南花は部活や勉強に取り組んでいる。ありがたいことに自分は器用らしくやろうと思えば何でも“完璧”と言われるくらいの出来にはなる。
部活でも未経験なのに勧誘に負けて入ったものの、体験入部の時点で県大会には出れると周りに言われた。
「お、咲南花ちゃんじゃん!」
今日も先輩から話しかけられる。これも日常だ。
「あ、先輩!お疲れ様です」
「咲南花ちゃんっていつも落ち着いてるよね」
「咲南花ちゃんってクールだよね〜」
「ね!そういうクールな女子って憧れる!!」
「そういえば、今日は1~2年合同で筋トレをする回だからみんなに伝えといて」
「じゃ私たちは職員室に行ってくるからあとはよろしく〜」
入部した時から先輩と話せるのは、咲南花だけだった。理由は分からないが先輩たちから気に入られ、いつも友だちのようにフラットに話しかけてくる。
だから部活の時には、毎回咲南花が先輩からの伝言を1年生に伝えている。
同級生から悪口を言われたこともあるが、先輩に媚びを売ったわけではないため自分ではどうすることもできずに無視するしかないのだ。
「またアイツ、先輩と話してるんだけど」
「先輩に媚び売ってんの気持ち悪いんだけどー!ww」
「頭がいいからってなんでもしていいわけじゃないよねー」
「アイツあんま感情を表に出さねえじゃん?
マジで“ロボット”みたいで怖いよなーwwww」
体育館の入口ドアを挟んで同級生の声が聞こえた。しかもその人たちは明らかに咲南花の悪口を言っており、特に悲しいとは思わなかったがとても空気が悪かった。
まだ更衣を済ませていないのに加え、そのまま放置しておくわけにもいかないので咲南花は意を決して体育館のドアを開けた。
「っ……!?き、霧雨さん?」
「今日は筋トレをする回だからネットは立てないでだって。」
「了解……」
先輩に言われたことだけを伝えて、咲南花は女子更衣室に向かった。
更衣室に向かう途中に背後から
「やっぱアイツ、“ロボット”みたいだな」
と言われた途端、無意識に早歩きをしてしまった。
悪口を言われるのにはもう慣れた。今さら傷ついていたっけ忙しいだけだし。他にもやらなければいけないことなんてたくさんある。
だけど、“ロボット”という単語にはどうも過剰に傷ついてしまうようだった。
(今ごろ、みんなは楽しくカラオケでもしてるのかな…)
(……そんなこと考えたって、意味ないか)
あのころからずっと変わらない。
環境も、現状も、考えていることも、
ずっとずっと───────小学生の時から変わらないのだ。