第22話 労いの言葉
テストが終わり、部活動も再開した。
夏休みには地区大会が2つある。1つは私たち1~2年生全員で出るちょっとしたコンクール。
もう1つは厳しいオーディションを勝ち抜いた者だけが出られる、アンサンブルコンテスト
────────通称“アンコン”だ。
「ゆいちゃん!テストお疲れさま〜!!!」
「おつ〜」
この2人は双子で、メガネをかけて一見大人しそうに見えるが実際は人懐っこく元気な長谷川 椿月(はせがわ つばき)
キラキラしたおめめが特徴で元気そうに見えるが常に冷静沈着な衣蝶(いちょう)
椿月はフルートのパートリーダーをしており、衣蝶はユーフォニアムのパートリーダーをしている。
唯花はホルンのパートリーダーをしているのでどちらかといえば衣蝶の方が話す機会は多い。
2人ともかわいくて優しくて、おまけに成績もいいので一緒にいて楽しい友だちだ。
「お疲れ様!」
という唯花に
「テストどうだった〜?」
と椿月は明るく尋ね、
「いや〜マジでやばかった……数学に関してはもうゴミ」
と唯花は答える。
「それな。さすが田中先生。某有名大学の教授だっただけあるわ」
衣蝶は数学が得意だ。そんな衣蝶が“難しい”と言っているのだから、文系の唯花は解けなくても仕方ない。
……と、唯花は現実逃避をしている。
「ねー!!
問題がガチでむずかしかったよねー!!!」
「わたし、分からなさすぎて途中から鉛筆転がしてたもん(笑)」
唯花と同じく文系の椿月も分からなかったようだし、やっぱり唯花が解けなくても仕方ないのだろう。たぶん。
「ちょっとそこの1年!」
いきなり、同級生の怒号が聞こえてきた。
「わっ!?」
「っ……!」
「…………」
「1年のくせに生意気なんだよ!うちらが1年の時は先輩の荷物とか持って行ってたし、雑談する暇ないくらい忙しく動き回ってたんだけど!!」
「すみません!」
「はぁ〜…ほんと、しっかりしてよね。
ねえ、アンタの楽器何?」
「……ホルンです」
(…やべ)
唯花の背中に冷や汗が伝う。
(やばくないっ!?)
(うわ〜1年の指導をしっかりしろって怒られるルート確定じゃん)
「ねえホルンの2年生どこいんの!?てかパーリー誰!?」
「すみません、、私です、、」
唯花は俯き、小声で返事をする。
「夜桜さんだったの!?夜桜さんは真面目な優等生だと思ってたのに……
先輩が引退したばっかで油断してんのかな。ほんとしっかりしてよね!」
「だいたい夜桜さんは普段の練習から気合い入ってないよね。歌が好きなのか知らないけどいつもネットの話ばかりしてるじゃん」
「この前椿月ちゃんたちとボカロ?とか歌い手?とかの話してるの聞いてたけどさ、部活に本気になれない人がパーリーとかしないでくれないかな?やる気あんの?」
「ちょっと佐藤さん!さすがに言いすぎだよ!」
と、椿月が止めに入ってくれるが
「ほら、そうやってお友だちに優しくしてるから1年が生意気になるんだよ!!」
怒り心頭の同級生は鋭い睨みを添えて返答する。
吹奏楽部は比較的人間関係がこじれやすい。
…………と言われているが、まさにその通りだ。
先輩が後輩に説教するのはもちろんのこと、同級生の中でも派閥があったり、揉めごとは多い。現にその揉めごとのせいで辞めてしまった部員もたくさんいる。
「ごめん、とにかく今は基礎練を早くしなきゃだよね!」
唯花は穏便に済ませようと声を張り上げる。
この部活では部長やセクションリーダーと呼ばれる人、つまり幹部の言うことがすべてだ。
幹部の言うことには逆らわずに従順になることで、この世界(吹奏楽部)を生き抜くことができるのだ。