第11話 夜想曲
────────満天の星空が世界を彩る。
そのような幻想的な夜空は、現実世界でなかなかお目にかかれない。今日もどんよりと重たい曇り空を眺めながら歌の録音をしていた。
『────────♪』
「っ……」
(歌えない。思うように声が出ない)
瑠愛子は小さいころから音楽に囲まれている。
母親はピアノの先生をしており、長女は数年前に歌い手活動をしていたり、次女は過去に作詞作曲を学ぶために音楽の街へ行き、三女は小学生の時からバイオリンを習っていたりしている。
瑠愛子も長女に憧れて歌い手活動を初めて唯花たちと合流したものの、最近自分の歌声に違和感を抱き、最近の配信でもあまり話せていない。
配信をするたびにコメントで「かわいい」「親しみやすい」と言われるのはうれしい。
だけど、心のどこかで本当の自分との差を感じて悲しくなるのだ。
本当のわたし────────というのは大げさだけど、明るくポジティブで天使のようなかわいいキャラクターは、自分に合わないのではないかと思うようになったのだ。
でも、“るあ”として活動を始める決意をしたのは自分でこのキャラクターで動画や配信をしているのは自分の意志のはずなのに。
リスナーから求められている“るあ”というのは、いったいどのようなキャラクターなのか。ぐるぐると考えを巡らせているうちに、気づけば夜中になっていることが多い。
個人の動画や歌ってみたは自分のペースで撮れるが、他のメンバーやコラボ動画を撮る際には、他の人を巻き込んでしまうので余計に焦ってしまう。
「ねーえー瑠愛子ー!ちょっと来てぇ♡」
という長女の声に瑠愛子は震えが止まらなかった。
しかし姉たちに────主に長女には逆らえず、リビングに向かうと予想通りの光景が広がっていた。
「じゃじゃーん!!瑠愛子のためにケーキを作ったよ!!」
「このいちごタルトが瑠愛子のね。
姉さんはプリンで柑奈はティラミス、で私はモンブランね」
「瑠愛子は甘いのが好きでしょ?」
「……うん、ありがとう」
「それじゃあ紅茶を用意するわね。瑠愛子は紅茶苦手だろうからココアにするわね!」
「ありがとうお母さん」
瑠愛子はモヤモヤとする気持ちを抑えながら、“あの話題”が出ないことだけを祈ってケーキを食べることにした。しばらくは楽しく雑談をしながら食べていたので今日はもう大丈夫だろうと思っていた。
しかし、あとひと口で瑠愛子は食べ終えるという時に事件は起きた。