「日本酒は成功と希望の象徴」 ─ 代表・生駒龍史が語る、日本酒と会社のこれから
はじめまして!日本酒スタートアップ 株式会社Clearでインターンをしている山村です。
今回は、ジョインして間もない立場の私から、創業者である生駒に「なぜ会社を立ち上げたのか」「今、会社はどんなフェーズなのか」「何を目指しているのか」といった話を伺いました。
Clearへの入社を考えている方や、Clearに興味を持っていただいたメディア関係者のみなさまに向けて、生駒の人となりや、会社の概要をお伝えできればと思います。
日本酒との出会いから事業を持つまでの黎明期
─ まず、日本酒を好きになったきっかけを教えてください。
生駒龍史(以下、生駒):はい。少し遡るんですが、二十歳になってお酒を飲めるようになると、まずは色々な種類のお酒に挑戦してみました。ワインとかウイスキーとか。その中で日本酒って、僕にとって未知で謎のお酒だったんです。米から作られていることすらも知らなかったし、アルコール度数も高いし、漢字が難しくて読めない銘柄も多いし。サークルの仲間と一気飲みなんてした日には、吐くし辛いし、次の日授業行けないし…。だから、危険なものとしか思えませんでした。
─ 確かに、そういう経験をした人は多いですよね。マイナスな印象から、なぜこれほど日本酒を好きになったのでしょうか。
生駒:大学を2009年に卒業した後、サラリーマンを経て独立し、アパレル系のECサービスを展開していました。起業願望はもともとあって。そんなとき、2011年の夏に大学時代の同級生が実家の酒屋を継ぐことになって、「日本酒のネットショップをやりたいから手伝ってほしい」という話をもらいました。
当時は自分の事業だけでは食べて行けず、バイトを2つくらい掛け持ちして、睡眠時間2-3時間とかの生活だったんです。そんな中で、興味がない日本酒を売るのは正直しんどいなぁと思いました。
─ 命削ってますね。
生駒:ね(笑)。楽しかったですよ。
そうしたら、その酒屋の同級生が「じゃあ日本酒持っていくから、飲んで美味しかったらやろうよ」と言ってくれて。その時飲んだお酒がものすごく美味しかったんです。美味しくないと思っているものが美味しかったというギャップが、自分の中では大きなターニングポイントでしたね。
それに今思えば、日本酒によくついてまわる枕詞のイメージも悪かったんだと思うんです。「居酒屋とかの悪い酒飲んじゃって」という枕詞。その「悪い酒」って何だろうなあ、って、今では疑問に思います。悪い酒を飲んだから日本酒を嫌いになったんじゃなくて、悪い飲み方をするから嫌いになるんだろうなと。何を飲むかじゃなくて、「どう飲むか」が重要だと思います。これは余談ですが…。
話を戻します。それで、日本酒業界を調べていったら、webを使ったサービスがなかったり、90年代から更新されていないようなホームページが出てきたりして、これはチャンスだと思いました。とはいえ、酒屋さんは既にオンラインショップを持っている。それならサブスクリプションサービスだ!と思って「SAKELIFE」を始めました。
*SAKELIFE…日本酒をどう選んだらいいかわからない、だけど飲みたい!という方のために、専門家が厳選した日本酒をサブスクリプションでお届けするサービス。生駒は2012年4月から2014年4月まで運営を担当。
─ SAKELIFEを運営してみて、どうでしたか?
生駒:2011年の年末に構想を練ってクラウドファウンディングをして、2012年の4月から酒屋と共同運営の形で事業を始めました。僕にとっての日本酒との出会いから事業を持つという意味で、ここまでが第0章という感じですね。
SAKELIFE自体はすごく順調でした。「サブスクリプション」という形態は当時のトレンドだったし、毎日のように取材依頼も来て。
だから僕にとって日本酒は「成功や希望の象徴」です。起業をしたものの鳴かず飛ばずだった自分の、初めての成功体験が日本酒だったんです。僕は約2年間SAKELIFEに携わったんですが、すべてが良い経験というか。ありがたいことに「ユーザーニーズから生まれた良いサービスだね」と言ってもらえることも多かったです。軌道に乗ったことを機に、2013年2月に法人化しました。
「売る」経験を通じて「知る」ことの重要性を知った
─ では、そこからSAKETIMESを始めるきっかけというのは?
生駒:僕は当時、もっと自分と同じような日本酒ビギナーを増やしたいと思っていたんですが、そういう人たちに買ってもらうためには、まずは日本酒を知ってもらわないといけないと気づいたんです。情報がない中で日本酒のサブスク契約をするのは難易度が高いですよね。
日本酒を知るためのメディアに100%の力を注ぐことを決意して、SAKELIFEの事業をすべて酒屋に譲渡し、2014年6月にSAKETIMESを始めました。
─ なるほど。SAKETIMESは今では日本最大級の日本酒専門メディアですが、どのように立ち上げていったのでしょうか?
生駒:メディアはSEOが重要ですから、最初はとにかくがむしゃらに、検索されやすい記事の数を増やすことに注力しました。今でも2014年から2015年に公開した記事はSEOに強いです。
一方で、そういう記事は検索すれば類似記事が出てくる、誰でも書ける浅いものっていうこともわかっていて。もちろん検索上位に表示されて、丁寧に分かりやすく伝えることで、みんなが知りたいことを解決できる重要なことなんですが…。
今でこそ有識者や人気蔵元との対談、400以上の酒蔵を訪問した記事など、ストーリーやメッセージ性の高い記事も書けているけれど、当時はネットワークも資金も何もないから、深い記事をそもそも書けませんでしたね。
─ そうなんですね。リリースから5年になりますが、どのように成長してきたのでしょう?
生駒:SAKETIMES PRESSとSAKETIMESパートナーズが大きいです。
*SAKETIMES PRESS…2015年6月から開始した、日本酒に関する新規情報を無料で記事配信するサービス。
*SAKETIMESパートナーズ…2015年8月から開始した、連載記事を中心とした酒蔵とのタイアップサービス。記事配信に加え、PRや広報活動を広くサポート。
月間利用者数が10万人前後の頃に、初のマネタイズ施策であるSAKETIMESパートナーズを始めました。最初のパートナーは菊水さんでしたね。
記事広告をメインとするサービスですが、酒蔵さんのファンを増やすにはひとつふたつの記事じゃ伝わらない!ってことで、年間4本から12本の連載を基本とした形態になりました。
─ 確かに読み手としても、ここでしか読めない連載がいいって思います。
生駒:そう言ってくれると嬉しいです。あと、SAKETIMESライターっていう施策は、僕たちだけじゃ追いきれない全国の日本酒情報を、各地のライターさんに書いていただくっていうもので。これは今でもやって良かったと心から言える施策の一つです。
─ SAKETIMESで大事にしていたことなどを教えていただけますか。
生駒:読者との信頼関係のために、いかに誠実な記事を届けるかですね。いくら僕や社員の志が高くても、記事の質が良くなかったら、それはメディアとして評価されません。
そのために意識していることが3つあります。
一つは一次情報を扱うこと(検索して出た情報の引用ではなく、自ら取材して記事を書く)、二つ目は読者にポジティブな態度変容を起こすこと(記事を読んでマイナスな気持ちにさせるのではなく、楽しい!面白い!さらには、飲んでみたい!行ってみたい!などポジティブな行動を促すこと)、三つ目は信頼に至る第三の主観であれということ(SAKETIMESはこの点がこういう理由で良いと思う、これを伝えたい、という意志を持つこと)。
この3つの方針を大事にしています。その結果、読者数はもちろん、クライアントも増えて売り上げに繋がったり、興味を持ってくれる人が増えてきました。
─ ここまでが生駒さんの日本酒人生"第1章"、ということですね。
生駒:そうですね。メディア運営の5年間を通じて、僕たち自身の日本酒における知見も深くなり、全国の酒蔵をはじめネットワークも広がりました。今では、日本酒業界の有識者として国税庁や内閣府の意見交換会に招聘されたり、各団体や企業主催のイベントやトークセッションに登壇したりと、専門家として認識・評価いただけるようになりました。
僕は昔よりもさらに強く、日本酒の可能性を信じるようになったんです。この日本酒のポテンシャルを、日本酒業界内外の人たちに、ベンチャー起業家としてビジネスの視点からも伝えていけるのは、僕だからこそできることのひとつだと考えています。
「シンプルに売る」ためのブランドが必要
─ SAKETIMESの他に、2018年からClearが力を入れているのがSAKE100ですよね。
生駒:はい。SAKETIMESを通して、日本酒が安すぎるとか、流通構造により値付けが固定化しているとか、そういう業界の課題も見えてきた一方で、日本酒っていうのは海外を中心に高単価のニーズがある、評価されるポテンシャルがあるということもわかって。じゃあ、海外でもっと評価されるためにはどうしたらいいか、何が鍵になるのかっていうところで出た結論が、「ブランド×高価格帯市場」です。
海外の人が日本酒に興味を持ってくれているのに、入り口があまりにもシンプルじゃないなと思いました。色々な銘柄を並べるよりも、「我々は日本酒のブランドSAKE100です。この中から選んでいただければ最高級の体験ができます」。絶対的にこのメッセージが伝わりやすい。
─ すごくシンプルですね。すでに日本酒ファンになった人は自分で調べられるようになる。入り口としてはとにかくわかりやすく、ということですね。
生駒:そうです。ブランドという看板を作ることで、みんなが理解してくれるっていうこと。日本酒ならSAKE100を買えば良いらしい、と思ってもらえたら勝ちだと思っています。だからブランドビジネスっていうことで、高単価とブランドの2つの軸で立ち上がったわけです。もちろん、めちゃくちゃ美味しい日本酒であることは大前提ですけど(笑)。
自分たちが思っていたよりも高い山に登ろうとしている
─ SAKE100は、いつから構想があったんですか?
生駒:2017年夏くらいでしょうか。
─ じゃあ、実際にSAKE100がスタートするまで約1年かかったんですね(SAKE100のリリースは2018年7月)。それから更に早1年。現状としてはいかがですか。
生駒:一番大きな発見は、自分たちの登ろうとしている山が最初に思っていたより高かったことです。富士山に登ろうかなーと思っていたら、登りたかった山はエベレストだった、みたいな。
たとえば、リリース当初は「"プレミアム"日本酒」と謳っていましたが、2019年5月に「SAKE100が目指すべきはプレミアムではなく"ラグジュアリー"だ」と方針転換しました。これら2つには明確な差があります。僕たちはエルメスやルイヴィトンのような世界に食い込んでいかなければなりません。
そういうブランドづくりって、「我々は何者か」という自己理解を進めるのがファーストステップで。それがないブランドって人に理解されないので、この1年はとにかく自己理解を深めた期間でした。SAKE100はこういうことしちゃダメでしょ、こういうものでしょ、とお客さんに理解されて、言われるようにもなりたいし、そのために自分たちがとことん自分たちを理解することが大事です。
─ 海外の品評会で受賞したり、G20カンファレンスの乾杯酒に選定されるなど、国内外でも評価されていますね。
生駒:自分たちで絶対の自信を持って造ったSAKE100のお酒ですが、やはり第三者から高く評価されるのは嬉しいし、さらなる自信に繋がりますね。世界でもっとも影響力のあるワインコンペティション「インターナショナルワインチャレンジ2019」で金賞を受賞、フランス人ソムリエら約100名による品評会「Kura Master2019」でプラチナ賞を受賞しました。
2019年夏より一流レストランやラグジュアリーホテルにも納入が決まり、味わいやサービスにおけるプロフェッショナルの方々に高い評価をいただいているのは、とても嬉しいです。
SAKE100は、どんどん新しい道を開拓し、この1年でまた色々変わっていきます。
─ それは見逃せませんね。今後、具体的にどういう目標をお持ちでしょうか。
生駒:ずっと言っていることでもありますが、日本酒のラグジュアリー市場を開拓することです。
ロンドンでもパリでもニューヨークでも銀座でも、SAKE100のブランドショップがあって、世界中の人々がSAKE100の世界観を体験できるイメージです。そのためには海外の激戦区で評価されなければならないですよね。そして、僕が今思うアルコール飲料の激戦区はアメリカのナパバレーだと思っています。ナパではいろんな新しいブランドや価値が生まれているし、一流のワイン生産地であり消費地ですから。
Clearのうしろに道ができるのが理想
─ ここまでは事業としての話を具体的にしていただきましたが、生駒さんが作ったClearという会社は、これからどう進んでいくのでしょうか。
生駒:Clearは日本酒のリーディングカンパニーでありたいです。産業をリードしていくというか、Clearが行った事業の後に道ができ、産業が発展していくのが理想です。僕たちだけで何かをやるんじゃなくて、僕たちが作ったカテゴリに他の酒蔵が入り込むことで、産業全体が潤う。そしてそれが、Clearのビジョンである「日本酒の未来をつくる」ことに繋がっていきます。
1から100は業界全体で盛り上げていけますが、0から1を作ることはコストもリスクも伴います。そこを、Clearがやりたい。なぜならベンチャーは、リスクをとることが使命ですから。
─ なるほど。自分の会社が利益を出すことが、産業全体を潤沢にしていくことに繋がるんですね。私の中で、「日本酒の未来をつくる」というビジョンの解像度が上がりました。
おわりに
以上、生駒の生の声をお届けして参りました。
個人としての思いだったり、事業それぞれの成り立ち、会社のこれからなど、Clearそのものがよくわかる話が聞けました。このインタビューでは、常に産業全体の経済成長を考えている点と、リスクをとることは至極当然であるという姿勢が印象的でした。
私は冒頭でも触れたように、ジョインして僅か2ヶ月ほどなのですが、初めて生駒さんにお会いしたときに「日本酒のことはわからないけど、SAKE100は凄いブランドだとわかる、という人を増やしたい」と言っていたことをよく覚えています。
2ヶ月前にはそのままの意味でしか捉えていなかった言葉ですが、今では、裏に潜む想いも含めて、より深くわかってきたような気がします。
このnoteでは、これからも皆さまにClearのことを熱くお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いいたします。
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