【小説】終末記

 悠久の時を生きる―。
 なんてカッコつけて生きてきたが、まさか、私の周り誰一人いなくなるとは…。 
 見渡す限り廃墟ビルに次ぐ廃墟。コンクリートは隆起や沈降で割れたい放題、その割れ目からは雑草どころか平屋の屋根に届くほどの木々が生えている始末。建物にはツタが這い回って緑の城が並び立つ。
 そんな風化した街中を私は今歩いている―。
 「らんらんらーん。らららららー」と鼻歌交じりにクルクル舞うように、私は誰ひとりいないこの世界を進んでいく。
 道の左右、ビル達の割れた窓ガラスに映る私のなんと綺麗なことか―。
 自画自賛しても気にならない。
 だって今ここには私しかいないのだから。全ての価値観は私一人で決まるのだから。
 この長い黒髪も、切れ長の目も、筋の通った鼻も、笑うと見える尖った八重歯も全て―私の一存で素敵だと決まる。
 空模様だって私が決められる。
 「晴れ」
 私は人差し指をピンと立てて、天に向かって思いっきり突き出した。
 見上げる私の前には雲一つ無い晴天。
 ビル群がまるでそこに生えているようにすら見えるくらいに大きく広がる空は地上を飲み込んで、私の遠近感を狂わせる。
 吹く風が運んでくるのは人の声ではなく、木々の揺れと虫の声だけ。
 それがどれほど私にとっては嬉しいことか。
 何百だか、ヘタをすれば千年続いた喧騒も今となっては何処へやら。
 私の記憶の中とここにある残骸のみでしか存在できないほど弱々しいものだ。
 私を取り囲むこの全て―仰々しく立ち並ぶコンクリートの塊たちすべて、彼らが作り上げたものなのに、今となってはこの有り様。
 なんともまあ、無常とは言ったもので―。
 驕れるものも久しからずということだ…。
 いずれこの風景もまた終わりを告げて、残骸すらなくなるとついに、彼ら彼女らは私の中でしか生きられなくなる。
 命―とまでいうと大層に思えるが、その存在は私の裁量一つで簡単に消えてしまう。
 これだけのものを作っておいて、なんともまあ脆いことこの上ない。
 私が一歩進むたびに踏む猫じゃらしが、その脆さを一掃強めているように思えた。
 「さてと」
 そんなこんなで今日の目的地に辿り着いた。
 周りに建つビル群から頭2つほど抜きん出て、私の前にその頂点すら見せないほど高くそびえ立つタワー。
 見上げるだけで首が疲れる…。
 その周り少し鉄臭く、茶色く錆びて剥げたのがところどころ見受けられる。
 まだ騒がしかった頃は真っ赤な肌を主人公のように自慢していたそれも、今となってはくすんだ色をして、この自然の世界をひきたてる脇役を買いでている。
 鮮やかに生き生きとした緑色に対して、褪せた生気のない赤や灰色。
 私もいずれこうなるのかと生唾を飲んで覚悟をした。
 さてタイムリミットはあとどのくらいか。
 
 
 
 
 
 
 
 

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