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親のありがたみを知った、一人暮らしの始まり
高校を卒業し、私は東京の私立女子大へ進学しました。これまでの記事でもお話しした通り、もともと外国に興味があり英語系の学部を選びましたが、それ以上に心が躍ったのは「実家を出られる」ということでした。
地方で生まれ育ち、ずっと家族と暮らしてきた私にとって、一人暮らしは憧れでした。自由になれる、好きなことができる、そんな期待ばかりが先行していました。しかし、いざ父に引っ越しを手伝ってもらい、荷物を運び終えて「じゃあ、元気でな」と言われた瞬間、心にぽっかりと穴が空いた気がしました。ドアが閉まり、父の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、涙がこぼれました。「本当に一人になってしまった」と。
入学式には母が来てくれました。その前後1週間東京に滞在し、あちこち東京を一緒に回りました。慣れない東京生活に戸惑いながらも、母がそばにいてくれる安心感がありました。しかし、母が帰るときもやはり寂しさを感じました。それでも、大学生活が始まると少しずつ気持ちは変わっていきました。
授業は1,2年生は一般教養もあり、正直勉強したくない分野もありました。ゼミはイギリス人の教授を選びました。なぜなら授業がすべて英語だからです。私はこういう環境で勉強したかったんだと。すべてを理解できたわけではなかったですが、すごく刺激がありました。ただ、一般教養の授業を受けてみて衝撃を受けました。授業中に普通におしゃべりをする生徒が多く、先生の話を聞いていません。何のために大学に来ているのか疑問に感じました。そして、周囲の関心ごとはブランド品や恋愛の話ばかり。田舎出身の私にはそのノリが合わず、自然と似た価値観の友人たちと仲良くなるようになりました。
友人と一緒に食事をしたり、夜の街を歩いたりすることが新鮮でした。中でも特に仲良くなれたのは、故郷が近く、家も近い友人でした。彼女とはしょっちゅう遊び、夜ごはんを食べ、まるで姉妹のように過ごしました。帰省のときも一緒に新幹線で帰ったり、途中で待ち合わせて東京に戻ることもありました。一人暮らしの友人の家に集まってクリスマスパーティーをしたときは、「これぞ大学生活!」と心から楽しく思えました。
月日が経つにつれ、一人暮らしの生活にも慣れていきましたが、母のすごさを実感しました。毎日疲れていてもごはんを作り、洗濯や掃除をし……それを全部自分でやらなければいけなくなり、母の存在のありがたさを改めて感じました。
そして親になった今、当時の親の気持ちがよくわかります。私が一人で東京に出るのを、どれほど不安に思っていただろうか。そんな心配を抱えながらも送り出してくれた親に、今は心から感謝しています。