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私には趣味がない
小学生の頃、“アドレス帳”と呼ばれるものが流行った。
ただの住所録ではない。
ルーズリーフの様に1ページずつ取り外すことができ、その紙には名前、住所、電話番号の他に、好きなタイプや趣味、今ハマっていること、おすすめのお店などを書き込むスペースがある。
そして最後に、「書いたら〇〇まで返してね」と書いてある。
それを友達に1枚ずつ配り、記入してもらったみんなの個人情報をファイルに挟むと、自分だけの友達録の出来上がりというわけだ。
最近は見かけない様に思うが、今もあるのだろうか。
私も一応流行りに乗っかって、書いたり書いてもらったりしていた。
だが書く時にはいつも、“趣味”の欄で困ってしまう。
私にはこれといった趣味がなかったからだ。
それでも何とか、自分は何をしている時間が好きなのかと考えた。
考えた末わかった私が好きな時間は、“ぼーっとしている時間”だった。
授業中窓の外をぼーっと見る。
宿題の合間にぼーっとする。
歯を磨きながらぼーっとする。
寝る前布団に入ってぼーっとする。
ぼーっとしている時間は、何も考えていない様で考えている様な不思議な感覚になる。
急に何かを悟ることもあるし、目線の先にいた鳥の特徴を知ることもある。
なんとなく癒されることもあるし、何も得るものがないこともある。
そんな時間が好きなのだ。
それに気づいてからは、趣味の欄に“ぼーっとすること”と書く様になった。
奇をてらってるスカしたやつだと思われそうだけど、それ以外に趣味が無いのだから仕方がない。
その後今に至るまで、やはり趣味があった方がサマになるし、知識も身につくからという理由で色々趣味と称してやってきたが続かない。
そもそも趣味とは、そんな打算で持つものではないのではないか。
気付いたらしちゃってる、得にならないのにやりたい、そういう純粋なものではないのか。
以前和田誠さんが、自分は映画を趣味にしようと決めて映画に詳しくなったという話を聞いたことがある。
そういうパターンもあるのかと思ってやってみたりもしたが、飽き性のせいかやはり続かない。
最近は趣味について聞かれることは少ないが、聞かれた時には大抵、読書などと無難な事を言っている。
ぼーっとする事だとか言って、めんどくさそうな人間だと思われたくないからだ。
これが趣味だと胸を張って言える人って、何割くらいいるのだろうか。