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絵本探求ゼミ4期第四回振り返り

テーマ「絵本の絵を読み解く」
  ★ 選んだ絵本は「ぼくはおこった」
                     ハーウィン・オラム作
                     きたむらさとし 絵  訳     評論社
1988年 佑学社から刊行されたものの
1996年評論社から復刊

★作者プロフィール
          ●ハーウィン・オラム
  南アフリカ共和国生まれ
ナタール大学で英語学と演劇学を学ぶ
卒業後イギリスに渡り、広告のコピーライターとして活躍する。
世界的に著名な児童文学作家
子どもの本の執筆のほか、子ども向けテレビ番組の制作にも携わっている。
   
          ●きたむらさとし   喜多村恵
1956年東京生まれ
1979年に初めてイギリスに渡り、絵本を作り始める。
イギリスを中心に絵本作家、イラストレーターとして活躍。
「ぼくはおこった」で、イギリスの絵本の新人画家に贈られるマザーグース賞を受賞している。
絵本にっぽん賞特別賞も受賞。

★選書理由
       私が今まで絵本では見たことのない怒りの表現が面白いと感じたことと、怒りは家だけでなく地球や宇宙まで、こっぱみじんにしてしまう破壊力があること。
その中に描かれている赤色の猫、お父さんのガウン姿、地球が壊れた時のおばあちゃんの宇宙服姿など、怒りの怖さが緩和されていくように感じたので、細部まで絵を見ることで多くのことを読み取れるのではと選びました。

★「ぼくはおこった」のあらすじ
    僕は夜、テレビで西部劇をみている途中でお母さんに「もう遅いから寝なさい」と言われてしまいます。
僕は最後まで見たかったのに、そう言われたことに怒って家中の物を壊します。
さらに怒りの感情は収まらず、町中の物を壊し、海の中に町をひっくり返し、地球を割り、宇宙も木っ端みじんに砕いてしまいます。
火星のかけらの上のベッドの布団に入ったら、どうしてこんなに怒っていたのか、もう思い出せなくなってしまいました。

★私が絵から感じたこと
       アーサーの怒りがギザギザの線、色の変化で表されている。
また宇宙を震わせる場面では、アーサーも猫も重なりあい歪み震えていると共に、星も線で繋がれ震えている表現が面白いと感じた。
地球も宇宙も木っ端みじんにする前には、猫と宇宙遊泳をするような構図になっていて、次第にアーサーの表情が怒りから不安の表情に変化してきているように見えた。
アーサーは怒りで周りを破壊しているが、人には危害を加えていない。
面白いことにテレビも無傷。
怒りが悪いことであるとは表現されていない。
また怒りを「もう  じゅうぶん」と言うお母さんの手にはフライパン。
お父さんはガウン姿で手には新聞。
台風が来て、町を海の中にひっくり返した時に、おじいさんは板戸のような物につかまり「もう  じゅうぶん」と言う。
その近くで猫が嬉しそうに魚をくわえている。
地球にバリバリとひびが入ってしまう場面で
「もう じゅうぶん」と言うおばあさんは宇宙服で椅子に座ったまま編み物をしている。
アーサーの怒り中でユーモラスな表現がされていて、怖さが緩和されているように感じた。
またアーサーにいつも寄り添う猫に安心感を感じた。

●怒りをユーモラスに描く
     文章は簡潔で、歯切れよく、最低限のことしか語らない。言葉だけ見ると、暴力的に見える。しかし、絵がきっちりカバーしている。アーサーが怒ったら、部屋や家がどうなったのか、町や地球がどうなったのかを、ユーモラスに描いて見せてくれるのだ。
●幼い読者に安心感を与える
  また彼らは、常に部屋の中にいることが暗示されている。お父さんのそばには、居間のソファーが倒れ、おばあさんの横のやかんのかかったストーブとラジオも、テレビのそばにあったもの。
絵の中に小道具を描き込むことで、アーサーの怒りは、宇宙を木っ端みじんにしたが、現実には、家から一歩も出ていない事がしめされる。それは、猫がずっと一緒にいることと同様に、幼い読者に安心感を与えるだろう。
そして、ラストの場面。火星のカケラの上のベッドに不時着したアーサーは、頬杖ついて考えた。「ぼく、どうしてこんなに   おこったんだっけ。」思い出せないまま、アーサーはパジャマに着替え、衣類は宇宙に漂わせたままベッドにもぐりこんで寝てしまう。
これで読者はほっとして笑っておしまいにできるだろう。文章には「寝る」などとはひとことも書いていないにもかかわらず。


英米絵本のベストセラー40より

  私はアーサーが、一歩も外に出ていない。
もしかしたら引きこもりかもしれないことまでは読み取ることは出来なかった。
子どもの怒りの沸き上がり状態が、これからどうなっていくのかを俯瞰してみることが出来た絵本かもしれない。
また違う視点に立つと、ほんの些細な事で怒り、話し合うことも理解し合うことも無いと戦争に発展する危険性をはらんでいることにも繋がることが頭をよぎる。

アンガーマネジメントにも思いが広がった。
  怒りの感情と上手に付き合い、人との違いを認めて人間関係をより良いものとするための心理トレーニングだ。
  絵本の中の家族はアーサーに対して、「もう じゅうぶん」とは言うが、誰も頭ごなしに怒ってはいない。
 子育て期間、現在も子どもと関わっている中で子どもが怒り出すことは何度もあったが、怒っている時に感情的になり言葉を発すると火に油を注ぐようなもので、自分自身に余裕が無く失敗したこともある。
今は無駄な経験は何も無いと思っている。

さて、絵本の最後の場面
火星のカケラの上のベッドで、どうして  こんなに怒っていたのだろうと考えたけれど分からなく、そのまま寝てしまうアーサー。
そばにはずっと寄り添う猫も一緒に。
これは妄想だったのか?
これから先どんな展開になるのか?
読み手が、いろいろ想像出来ることも、この絵本の楽しみのひとつかもしれない。
 
今回のテーマ「絵本の絵を読み解く」
     今まで、こんなに何度も絵本の絵を、じっくり見たことはあっただろうかと思うほど集中して見ました。
すみずみまで絵を見ることで、気付くことがあることを学びました。
これからも続けていきます。

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