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【記者日記】ジーン·シャープ『独裁体制から民主主義へ』を読んだ
かわすみかずみ
私の家には、いろいろなところから読書会や上映会、集会や会報が届く。気がつくとチラシだらけになってしまい、知り合いが精魂込めて作ったチラシを、申し訳ないと思いながら捨てる日もある。
あるとき、ジーン·シャープの『独裁体制から民主主義へ』の読書会のチラシが目にとまった。本との出会いは恋愛と一緒で、一目惚れしてどうしても買わずにいられない本もあれば、何度も手にしているが、最後まで読みきれない本もある。ジーン·シャープは前者だった。
世界には今も、独裁国家がいくつも存在する。体裁は民主主義だが、見方を変えれば日本も独裁国家かもしれない。記憶に新しいところでは香港の民主化運動や、今も闘いが続くミャンマーの軍事政権への抵抗運動、パレスチナ民族の存在をかけた闘いもある。それらの運動の指導者らがいつも手にしていたのが、この本である。
著者のジーン·シャープは、1928年にアメリカで生まれた。1951年にオハイオ州立大学を卒業。1953年には朝鮮戦争での良心的兵役拒否により9カ月服役した。その後、ロンドンの「平和ニュース紙」の副編集長を経てマサチューセッツ大学ダートマス校の教授として政治学を教えた。1983年にはアルベルト·アインシュタイン研究所を開設し、非暴力闘争の研究と共に、独裁政権と闘う人々のもとを訪れた。
独裁体制の弱点を知る
ジーン·シャープはマハトマ·ガンジーの研究を行い、大変影響を受けたという。「非暴力闘争」による独裁政権崩壊という一見途方もない話を、現実に引き寄せていったシャープの説得力は、ガンジーという、現実の非暴力闘争革命家の実践があったからに他ならない。シャープはこの本の中で、具体的な独裁政権の分析や攻撃方法を挙げている。その象徴となるのは、中国の「猿の主人」という逸話だ。
ある男は猿を召し使いとして雇い、山から木の実を取らせては自分の蔵に貯めていた。猿たちは分け前を1/10しかもらえないのに、毎日働かされていた。
主人は木の実を持って来られない猿がいるとムチで打った。
ある子猿が、他の猿に聞いた。「山の木の実はあの主人が作ったものなの?」「いや、山に自然に生えているものだ」「主人の許可がないと木の実をとってはいけないの?」。猿たちはそのとき、無意味な服従に気づき、蔵の木の実を持って山に帰った。
わたしたちの周りには、こういうことがたくさんあるのではないか。日本の学校の「トンデモ校則」や役所の年号使用など、意味もなく従わされていることはたくさんある。
シャープは、独裁体制にも弱みはあるという。この本の中では17の項目が挙げられているが、なるほどと思わせるものがあった。例えば、「9.機関内部での争いや個人間の競争や敵対が、独裁政権の運営に害を与え、分裂させることがある」などはいい例かもしれない。大阪では絶大な権力を誇っていた維新の会は、個人間の競争が激しく、そのために選挙において過剰な国取り合戦が起こり、不祥事や法律違反が複数起こった。これが内部分裂や崩壊を招いた一因であると言われている。
「5.上司の機嫌を損ねるのを怖れる部下が、独裁者が決断を下すのに必要な情報を曲げて報告する、また完全に報告しないことがある」については、兵庫県知事の問題で明らかになっている。元県民局長の告発文書が発覚したあと、片山元副知事は元県民局長のパソコンを押収し、個人的なデータが入っていたと、維新の会の県議らを通じて吹聴させた。斎藤知事もこれに乗じて選挙を闘った。
独裁政権に抵抗する方法
シャープはこの本の巻末に、政権に抵抗する具体的な方法を挙げている。198に及ぶ抵抗の方法は、誰にでもできるものも多い。例えば、経済的非協力の項目では、消費者によるボイコットや家賃の不払い、賃貸拒否など。音楽や演劇による抵抗もある。
これらは、独裁政権の分析や民主化運動の強み、弱み、タイミングなどを考えながらの行動もあるが、誰でもできる運動もある。シャープは研究者であり、実際に抵抗運動を行う活動家ではない。だからこそ、冷静な分析と助言ができるのかもしれない。
シャープは、まず独裁政権の弱みを分析し、弱点を突くことを勧めている。また、民主化の計画をたて、計画的に進めていくことが大事だという。独裁政権が崩壊しても、すぐに他の独裁政権が起こることもある。それを防ぐためには、民主化のあとに、人々が生活できる基盤をどれだけ作れるかが重要だ。民主化されても生活ができなければ、人々はさらに不満を爆発させるからだ。
独裁政権は結局、民衆がそれを支えなければ成り立たない。民衆は、「猿の主人」に従う必要はない。
まずは小さな抵抗を行うこと。これが第一歩だ。
NHKの報道によれば、マイナンバーカードは、2025年4月の利用率が6.56%、保険証廃止後の利用率も28.8%と低調になっている。政府はマイナンバーカードの利用が増加した医療機関に一時金を支給するなど、利用率増加に向けた取り組みを行ってきたが効果が上がっていない。
大阪·関西万博では、「機運醸成費」を大量につぎ込んだが、「万博に行きたいと思わない」人々が67%に及んだ(毎日新聞 2/16)。これらは、市民運動や市民メディア、大手メディア、議員らの連携による勝利だ。
あなたのできることから踏み出そう。それが社会を変えていくのだ。