【記者日記】総務省の副知事、副市長出向と地方行政の不思議な関係
かわすみかずみ
2021年10月1日現在の国から地方自治体への出向者数は1724人で、最も多い省庁は国土交通省の465人となっており、総務省が284人、厚生労働省が120人と続く。同年の部長以上の出向状況を見ると、総務省が118人と最も多く、農林水産省が37人、経済産業省が32人だった。副知事、副市長への出向については、総務省が副知事11人、副市長が24人で最多で、厚労省が副知事3人、経産省が副知事2人と総務省からの出向が飛び抜けて多いことが分かった。
国から地方自治体への出向は、若手に地方で経験を積ませる他、国と地方自治体の交流の目的もあるという。総務省に確認すると、以前から省庁への就職希望が減っていることなど人手不足により、出向も減っているという。だが、実際の出向者数は微増しており、総務省の見解とは異なっていた。
国と地方自治体の微妙な関係
地方自治体の長は選挙で選ばれた、いわゆる「落下傘候補」が多い。都道府県知事や市長は、居住地がどこであっても立候補できるからだ。また、知名度や組織票が選挙戦を左右することから、行政手腕や実績を問われないことも多い。
そういう状況において、多くの自治体では副知事や副市長が実権を握ることが一般的だ。前述したように、総務省を中心に、行政手法や実績がある官僚が出向していることが多いからだ。
大阪府を例にとると、現在の副知事のひとりである渡辺繁樹氏は、東京大学卒業後、自治省、埼玉県出向、内閣府勤務などを経て総務省に勤務。その後はデジタル庁でマイナンバー制度を推進した。総務省は渡辺氏について「副首都大阪の実現」や大阪のスマートシティ化を進めるためには適任であると、出向理由を記している。
前任の海老原諭(さとし)氏は2019年から内閣府大臣官房審議官を務め、2021年7月から2年間、副知事として万博の開催に向けた取り組みを行った。現在は総務省大臣官房審議官の職に就いている。
調べてみると、副知事の多くは出向後に元の省庁に戻っていることが多く、まるで中央から監視しに来ているような印象を受けた。これらの事実から、知事や市長が独自の政策を行うことが難しい状況があることがわかる。
大阪府の吉村知事が「独自政策」と掲げる高校無償化や万博·カジノも、国の政策を独自政策に見せかけただけのものだ。行政経験の乏しい吉村知事が副知事の知恵を借りずに政策を行うことは難しい。また、国とのパイプを持っている副知事と良い関係を作っておくことは、政治家として大事なことだと考える首長は多い。
ローカル10000プロジェクト
総務省や内閣府はローカル10000プロジェクトを始めた。このプロジェクトは産業、大学、金融機関、行政の連携により、地域の人材、資源、資金を活用した新たなビジネスを立ち上げようとする民間事業者などの初期費用を支援する取り組みで、最大5千万円が公費で支援される。地方自治体か金融機関に相談し、事業の審査を通過すれば、行政と金融機関から融資が受けられ、事業をスタートできるというもの。支援対象となるのは①地域密着型事業②地域課題への対応③新規性④モデル性、のある事業だ。
このプロジェクトは、公共事業の丸投げであり、企業と行政の癒着を強めるものだと言える。
また、大阪府市は万博·カジノを契機に都市開発や施設建設を進めている。これらを「地域密着型」と拡大解釈することは可能であり、現に万博についても吉村知事は「社会的課題の解決」を謳っている。今後大阪府市のこれらの開発を「地域密着型事業」「地域課題の解決」と位置づけ、企業が補助金を引っ張る可能性はないだろうか?ここに副知事の総務省とのパイプを利用する可能性はないのか?私たちの税金がどこに消えていくのかを、特に大阪府民は監視する必要がある。