元西播磨県民局長の告発文書は事実だったのか?
かわすみかずみ
9月19日、兵庫県議会は全会一致で斎藤元彦知事の不信任決議案を可決した。兵庫県で51年ぶりに開かれた百条委員会は、自民党、立憲民主党の代表選挙を吹き飛ばすほどの視聴率だった。
元西播磨県民局長が残した告発文書には、ひょうご震災記念21世紀研究機構の人事についての告発があった。ひょうご震災記念21世紀研究機構とは、阪神・淡路大震災を機に、兵庫県内の防災に関する研究や啓発、震災を伝えていく役割を持つ組織だ。同機構で河田恵昭氏、御厨孝氏を副理事長から解任したことで、理事長の五百旗頭真氏が体調を崩し、それが遠因となって亡くなったというものだ。
ひょうご震災記念21世紀研究機構では、2024年6月に河田氏、御厨氏は副理事長から退任し、河田氏は同機構の下部組織である「人と防災未来センター」の代表に、御厨氏も同様に下部組織である研究戦略センターの代表となっている。五百旗頭氏は2024年3月に死去。6月まで理事長職は空席だったが、6月から川崎重工業の顧問を務める牧村実氏が理事長に就任。副理事長には兵庫県立大学学長の香坂氏、元淡路県民局長の藤原祥隆氏が就任した。香坂氏は臨時職員、藤原氏は定年退職して常勤職員として迎えられた。
ひょうご震災記念21世紀研究機構に事実確認すると、上記の事実を認めた。だが、違うところもあるという。河田氏、御厨氏は、ふたりとも80代で今後の継続は難しいため継続しないことになったと職員は証言した。また、元々副理事長は4人おり、歴代兵庫県職員から1人、兵庫県立大学学長、河田氏、御厨氏の4人だったが、2人に減らそうという理由もあったと職員は言う。だが、スッキリしない部分も残る。
副理事長交代人事は妥当か?
河田氏、御厨氏は日本でも有数の防災の専門家であり、副理事長を減らすなら、専門家を減らす必要はない。むしろ後任の専門家を入れて、県職員や兵庫県立大学学長を補佐に据えればいいのではないか。
また、2024年6月から理事長に就任した牧村実氏の経歴を調べたところ、川崎重工業に就職後、技術開発部門にずっと携わり、防災に造詣が深いように思えない。この点について職員に尋ねると「牧村さんは防災にとても関心があるんですよ。それと、この機構は防災の研究だけでなく、地域産業についても研究しているんです」と答えた。
職員に対し、「人事異動は知事の介入があったのですか?」と聞くと、「私のような下っ端にそのようなことはわかりません」と笑った。
2023年6月に、大阪日日新聞の木下功記者が河田氏にインタビューをとり、万博の防災上の危険性を記事化している。
川崎重工業は今回の大阪万博に「未来社会のショーケース」という部門で出展予定で、この部門の協賛企業でもある。この企業はこの他にも子どもたちに万博の素晴らしさを伝える取り組みにも参加している。
牧村氏は産官学の連携による経済発展を推進してきたようで、機構の職員もその点を強調していた。
元淡路県民局長の藤原氏がこの機構の常勤になった理由について兵庫県の人事課に尋ねると、「人事異動の上で考慮したところ、一番適任だった」と繰り返した。淡路県民局長は淡路島の担当者だ。兵庫県全土を舞台に繰り広げられる「兵庫フィールドパビリオン」の一部として、淡路島でも企画が立ち上がっている。フィールドパビリオンとは、兵庫県の各地の名産品などの生産現場などを訪れ、兵庫県の良さを知るイベントだ。淡路島での企画はパソナが中心となって進められている。
筆者は以前、淡路島でのフィールドパビリオンの試験航海として、神戸港から淡路島まで行き、現地での斎藤知事に同行した。
パソナから派遣された有名大学の現役学生が、島内の各企業にインターンシップで入り、商品開発をともに行うことで町おこしをする現場をみてもらうというものだった。 最後に行われた会議では、斎藤知事がパソナ職員をよいしょしていたのが印象的だった。
2024年6月といえば、大阪万博の防災計画が発表されている。うがった見方をすれば、牧村氏、藤原氏をトップに据えることで、万博の防災計画への批判を封じ込める狙いがあったのではないか。
淡路島の防災は大丈夫なのか?
兵庫フィールドパビリオンについて、兵庫県南あわじ市の産業建設部に聞いた。淡路島のフィールドパビリオンの入場者数の想定はしておらず、島内で災害が起こったときは、各パビリオンで対応してもらうとのことだった。
その旨の話を各パビリオンに伝えているかと聞くと、伝えていないとの回答だった。
淡路島の南海トラフにおける最大震度予測はマグニチュード6〜7で、被害想定はあわじ市で死者120人、負傷者1300人としている(冬の発生時)。また、津波の際は3.1メートルの津波を想定し、190人の死者が出ると予測する(夏の昼間に発生した場合)。津波や地震の程度は10年前に国が出した予測を用いている。
阪神・淡路大震災のときには、淡路島北端から尼崎市まで伸びる巨大な断層がズレ、淡路島では甚大な被害があった。島内でも大きな被害を出した洲本市では2.78メートルの津波予測に基づき、3メートルの防波堤を作ったので津波の被害は少ないとしている。だが、本当に3メートル以内の津波で済むかはわからない。
高齢者が多く、避難にも人手がいることが予想されるが、これについてあわじ市に尋ねると「市職員では手に負えないので、自助、共助をお願いしています」とのことだった。
兵庫県庁にも確認したが、フィールドパビリオンは県内に230ヶ所あり、災害時は各パビリオンにまかせている。各パビリオンにその話はしていない、と南あわじ市と同じ回答だった。
来場者の想定もなく、防災計画もないフィールドパビリオンは、ある意味未来社会の実験場だ。
死を持って抗議した元西播磨県民局長がこの件で伝えたかったことはなんだったのか?斎藤知事問題の一端に触れた気がしている。