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【記者日記】学費値上げ反対·院内集会に参加
かわすみかずみ
大学の学費値上げが問題となっている。大学生が学びをあきらめる状況が出てきている中で、衆議院第二議員会館で院内集会が開かれた。集会の様子などを報告する。
14時過ぎ、衆議院第二議員会館前で、レポーターらしき女性とカメラマンが位置の確認をしていた。国会議事堂や参議院会館などが密集する場所のため、警備員や警官がそこかしこに立っている。15時半からの集会に合わせて、大学生や新聞記者、有識者らが会館に入っていく。各党の国会議員も数多く参加した。院内集会を主催するのは、東京大学、中央大学、大阪大学など6大学の有志だ。金澤さんら東大の有志の呼びかけに、多くの学生が呼応した。
当日は15の大学から大学生がアピール。立憲民主党、れいわ新撰組、共産党など、多くの国会議員が駆けつけた。
立憲民主党の杉尾秀哉議員は「自分も娘を2人私立大学に行かせたが、ほんとに大変だった」と語り、翌日に国に対し高等教育無償化の要求を出すことを告げた。
社民党の福島みずほ議員は、「軍事費に4兆円使えるなら、高等教育の無償化は2兆円もあればできる。お金の使い方がおかしい」と政府を非難した。
この日は文部科学省、総務省、財務省の職員も参加し、要望書を学生側から手渡した。
要望の内容は①近年行われた/来年行われる学費値上げのため、145.2億円を緊急措置してください ②大学等の学費をまず10万円引き下げるために3216.2億円を措置してください ③少なくとも世帯収入650万円まで無条件に受け取れる給付型奨学金を拡充してください④上記項目は、国立大学運営交付金、私立大学等経営費補助金、地方公共団体への国庫支援金等、大学等の基盤的経費に資する国からの支援金の増額により実現してください、という4項目だ。
緊急アクションが上述の要望書への連名を呼びかけたところ、95の国公立大学、20の私立大学、高専1校が賛同した。
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共産党の田村智子委員長は、「学生が自ら試算まで出し、ここまで詳細に要望を出しているのは素晴らしい」と評価した。
同党の堀川あきこ議員は、国会で学費値上げ問題について質問している。奨学金の継続にGPA評価を取り入れていることについて、堀川議員は生活費を稼ぐためにバイトしながら通う学生がGPA評価(学生の成績を共通した数値にして、相対評価として可視化するもの)が下がって奨学金を切られていることなどをあげて、奨学金の基準の見直しを求めた。
政府の失策が招いた学費値上げ
日本学生支援機構の調査(2023年)では、国立大学に通う学生360万人のうち、給付型奨学金をもらっている学生は約96万人、貸与型は約34万人で、国公立大学の全学生の1/3にのぼる。給付型奨学金は、世帯収入が年額270万円以下に限られ、給付の基準として、成績を数値化し、単位数の平均をとって表す「GPA評価」が下から1/4以下になると警告を受ける。3回警告を受けると給付金を切られる可能性があるなど、厳しい基準となっている。また、出席日数なども加味され貧困世帯からの就学が狭められることも学生側から指摘されている。貸与型奨学金の返還に困り、弁護士や教員に相談に来る学生は多いそうだ。
GPA評価によって奨学金をカットすることは、日本国憲法第26条の教育を受ける権利および義務教育の条文に違反するのではないか?文部科学省にその点を確認すると、「GPA評価は大学に限らず活用される指針です。また、公費での支援には、一定の成績要件を設ける必要があります」と答え、26条には違反しないとした。
大学ばかりではない。大学に通う余裕のない高等専門学校生たちにも、値上げの波が来ている。
学費値上げについては、ずっと前から政府が行ってきた悪政の結果という声がある。
17時半から参議院会館で行われた議員や有識者の院内集会では、社民党副党首の大椿ゆうこ議員が以下の発言を行っている。
「私は氷河期世代の生まれです。私たちは第二次ベビーブーマーと言われていますが、私たち世代が子どもを産めなかったために、少子化が加速したと思います。それは、政府の失策によるものです」。
森政権から小泉政権の間で国立大学法人法ができ、安倍政権では教育の根幹となる教育基本法や教育指針に手を入れた。
菅政権では学術会議任命拒否問題で、研究者を言いなりにさせた。この間継続して、国公立大学などへの運営補助金を減らし、研究者への補助も切っていった。
「儲ける大学」の名のもとに、産学連携を進めた結果、「就職予備校」と化した大学には、将来につながらない文系学部が減少。成果を出せない学部は縮小し、研究者は大学から去っていった。
ある院生はこう証言する。「研究室や、そこに所属する研究者がテレビや新聞で取り上げられると、大学側は評価してくれるんです。紙面の大きさが大きいほど評価が高い。そうすると補助金が多くなるんです」。
大学側は、少ない学生を獲得するため、都市部にキャンパスを移したり、新しく学部を作るなど、誘致活動に必至だ。その結果、経営を逼迫させたことも、学費値上げの一因となっている。
学生たちの苦悩
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院内集会では、15の大学から学生がアピールした。中央大学法学部の学生は大学側が9月にホームぺージで値上げを発表会したが、期間が短く、周知されていなかったと語る。学生有志のアンケートによれば、学生の9割が値上げを知らなかったと答えている。同大学では値上げに反対する有志の会を結成し、活動が始まった。
武蔵野美術大学では、留学生を対象に「就学環境整備費」の名目で年36万円の値上げを発表した。学生向けの説明会には学生証の提示を義務付け、部外者を入れないようにした。また、値上げの具体的説明はなく、留学生が日本文化に理解がないなど、差別的発言が目立ったため、学生側が抗議する場面もあったという。
静岡大学1年の男性は、地方の自宅通学の大学生の状況を伝える。静岡大学は駅からバスに乗って行かないといけない。昨年値上げしたバスの運賃は片道350円。定期代は一万円を超え、自宅との往復にも時間がかかるため、バイトができない。
この学生の発言に、会場の学生たちは驚きの声あげた。自宅通学生は奨学金が低く抑えられているため、困っているという。ある女子学生は、在学中に大病を患った。奨学金を受けていたが、学校に通えず、GPA評価を下げたため、給付金を切られてしまった。
アイヌにルーツを持つ男子学生は、発達の特徴により、新しい環境に慣れるのが苦手だという。1年目は休学し、その間は奨学金がもらえなかった。他校にはあった療養中の交付金がなく、日々の暮らしに追われ、中退を余儀なくされた。アイヌの人々はそもそも大学への進学率が低く、25%程度で、和人の半分以下だと、男性は言う。アイヌの学生への支援も貸し付けが中心で、減らされ続けている。男性は、すべての学生への無償化が必要だと訴えた。
学生たちの叫びを聞け!
院内集会には学生、教員、議員、メディアが200人以上参加し、会場に入りきれない学生たちは、極寒の路上で街頭アピールを始めた。沿道には手作りのプラカードを並べ、足踏みしながら交代でマイクを握る。「皆さん無理はしないでくださいね。風邪をひいたらバイトにも学校にも行けなくなりますから」と声をかけた。筆者が学生の頃には考えられない状況だった。
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生活費を稼ぐために週6日働いて、学校に行けずに辞めていった同級生がいる。姉が就職したために奨学金のランクを下げられ、わずか数週間で20万以上のお金を学校に納めないといけなくなった学生もいた。
日が暮れた衆議院や参議院の会館に、学生たちのシュプレヒコールが響いた。「学費値上げ反対!」「すべてのひとが学べる社会を実現しよう!」「教育無償化を実現しよう!」。
そもそもこの問題は、こういう社会を作ってしまった大人の問題だ。学生たちに、大人の責任を押し付けてはいけない。問われているのは学生ではなく、大人の方なのだ。