ずさんな計画・逃げる事業者
編集部 かわすみかずみ
2018年から始まったIR事業は、日ごとに混迷を深めている。当初3社あったIR事業候補はMGM1社になった。25年に開業予定だった事業も30年にずれ込んだ。経済波及効果は2兆円弱というが根拠は薄く、費用は10兆円を超えることが明らかになった。
事業には不明な点も多く、市民の不信感は強い。IR事業について取材した。
3月14日、大阪地方裁判所で行われた夢洲IR差し止め訴訟の口頭弁論は物々しい雰囲気に包まれた。
裁判所東口玄関前での傍聴券抽選前には、職員が傍聴希望者に対して「敷地内でビラを配るのはやめて頂けますか」などと個別に声をかけ、傍聴希望者と口論になる一幕もあった。
傍聴希望の男性が「いつからビラまきあかんようになったんや?前は大丈夫やったやんか」と声を荒げると、職員は「決まりですので」と繰り返した。弁論の開始前にも職員が各席を見回り、携帯電話の電源を切るよう個別に声をかけるなど、録音や録画への警戒感を露にした。
22年8月に提訴した同訴訟では、IR用地の引渡し差し止めや違法な支出行為をやめることなどを求めている。だが、裁判で係争中にも関わらず、23年2月には基本協定書が交わされ、12月には液状化対策工事が始まった。
今年1月に開かれたIR公聴会では、複数の公述人から「環境影響評価に液状化対策の項目がない」という指摘がでたが、その後追加することはなかった。
大阪市によれば、市の環境影響評価専門委員会は、専門委員が自然環境や騒音・振動など15項目での評価を行うが、液状化は含まれていない。
液状化の要因として、砂地であることや地震などの振動による影響が挙げられているのに、環境影響評価に含まれないのはなぜか。これについて定例会見で質問したところ、横山英幸大阪市長は、「専門委員が行っているので私にはわかりません」と答えた。
また、市長は今後液状化を環境影響評価に含める可能性はないと否定。「これまで市民からの質問も多く、その都度市から回答しているが、ご理解いただけない場合もあるため、丁寧に説明していきたい」と述べた。
液状化対策については、府が召集する専門委員会が非公開で設置されており、簡単な要約がでているのみだ。IR推進局はこれについて、内容を公表しているので問題ないと答えた。
ずさんな調査 不信感を抱くMGM
先の協定書には、IR株式会社は条件に合わなければ3年間無償で撤退できるとある。コロナ前の収益が見込める状態にならなかった場合や、土地の整備ができていないときなどがその条件で、業者にとって有利な不平等条約だ。横山市長は、公的には「液状化対策は市の責任として支出する」と発表しているが、IR推進局は、本格的な工事のための引渡しが行われるまで支出しないと言っている。
万博協会が三カ所のボウリング調査を行い、液状化はないという前提で市が公募した。ところが、事業者による39カ所のボウリング調査で液状化の危険性がわかった。
昨年9月、市は液状化対策工事費用が255億になると公表。予定の2割を削減した。建物の直下のみを工事するというが、安全性が保たれるのか不安だ。市にその点を問うと、建設局、計画調整局ともに「うちが担当ではないので」 と回答を渋る状況だった。液状化対策の工法や範囲は専門委員会が決めているが不透明だ。
IR株式会社は、MGMとオリックスの合同企業だ。同社をネットで探すと会社概要、事業計画などはあるが、住所や連絡先はない。市のホームページにも、大阪IR株式会社の電話番号はない。
あまりにも遅い会社立ち上げ
事業計画では株式を資金源としており、23年度の資金計画では、資本金の全てを合同会社日本MGMリゾーツとオリックス株式会社が半額ずつ出資している。
大阪IR株式会社の代表は、MGMのエドワード・バウワーズ氏とオリックスの高橋豊典氏だ。高橋氏はオリックス不動産の元社長で、万博・IRの経済波及効果を狙ったうめきた開発の責任者でもある。
大阪IR株式会社は、肥後橋駅近くのダイビル24階にある。1階の企業名表示には該当する企業名はなく、合同会社日本MGM株式会社という名前があった。
2403、2411室を借りているが、2403は平日13時頃にも関わらず電気も消え、誰もいない。昼食後に帰ってくる社員がいるのではないかと待っていたが、誰も帰ってこなかった。
2411は入り口の「警戒」というセンサーが作動しているらしく、中を覗くとカチャッという音がした。2403同様電気は点いておらず、物品すら置かれていなかった。
市IR推進局は、IR株式会社が登記されているだけで実質には立ち上がっていないため、MGM株式会社と連絡を取っている。この状態でカジノ事業の開始などできるのか、疑問しかない。
(2024年4月20日号掲載)
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