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[ラス/キュイ] 幼なじみ:終章

 ラスの体に鳥肌が立った。  ジャイアントの目は回復した。  ラスとジャイアントの距離が近すぎた。  ラスはジャイアントの視線を認識すると、すぐに身体を動かした。  大きく開いた不気味な目が、今まで苦痛を与えた相手を探すように、転がっていったラスに向かった。  ラスは唇をかみしめながら走った。  巨大な手とその手に持った巨大なこん棒が、ラスが向かうその道に、大きく振り回された。 「うっ!」  振り回すこん棒を避けて床を転がるのも束の間、こん棒を握っていない手がラスを掴

    • [ラス/キュイ] 幼なじみ:6話

       キュイが倒れる姿が、ピンク色のツインテールの髪の毛が揺れて、力なく落ちていくのがとても遅く見えた。  ラスはキュイの名前を叫びながら駆け寄ったが、距離が離れていたため、キュイの身体はそのまま地面に倒れた。  倒れちゃったよ! と起き上がるかと思ったが、小さな身体はがれきと一緒に転がり、起き上がらなかった。 「キュイ!!」  ラスは急いで倒れたキュイをつかんだ。  手に触れる身体が驚くほど冷たかった。  小さな身体に満ちていた体温が、あっという間に消えてしまった感じだっ

      • [ラス/キュイ] 幼なじみ:5話

         エレスを取り戻したということは、キュイの火力が倍に増えたという意味だ。  グランウェポンで強化された強力な火炎は、何が飛び出してくるかわからない迷路で、二人の安全性を高めてくれることは明らかだった。  しかし、問題は思いもよらないところから生じた。  何が飛び出すかわからないはずの迷路では、何も飛び出して来ず。  そして、キュイは忍耐力が高くない方だった。  ラスとキュイは、さっきまでこんな会話をしていた。 「キュイ、騎士団のお姉さんが教えてくれたんだけど、迷路と迷宮

        • [ラス/キュイ] 幼なじみ:4話

           濃い茶髪の少年とサーモンピンクの髪のミケ族の少女は、足音を忍ばせながら洞窟の中へと進んだ。  ラスとキュイが閉じ込められたのと同じ牢屋は四つだけで、以後は石で構成された狭い通路だった。  石壁にかかったたいまつに子供たちの二つの影がゆらゆらと揺らめき、小さくなったり長く伸びたりが繰り返された。  通路は長かった。  ドスンドスンという音と悲鳴はもう聞こえなかったが、この長い沈黙が良い兆候なのかどうかは、子供たちには分からなかった。  石の道は少しずつ下に傾斜していた。

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:3話

           冷たい水が一滴、二滴と頬に落ちた。  少年の肌をトントンと叩く手は、少年の意識を引き上げてくれた。  ラスはかろうじて目をうっすらと開くことができた。  石で覆われた天井が見えた。  一滴の水が岩の端を伝ってラスの頬に落ちた。  ラスはしびれる手を何度か握りしめて、ゆっくりと身体を起こした。  頭は割れるような痛みを感じ、お腹は吐き気を催した。  ラスが横になっていたところは冷たい石の床だったので、寒気が身体を伝って徐々に上がってきた。  隣には、サーモンピンクの髪を

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:3話

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:2話

           サーモンピンク色のミケ族の耳の下から、ゆるく流れるツインテールの少女、キュイが気勢を上げて叫ぶ。 「エレス、準備できたよ!」[うん! ]  キュイの傍らに浮かぶオーブの形をしたグランウェポンが、ほのかに輝きながら答えた。キュイは再び元気よく叫んだ。 「ウチらの敵は目の前にいる! 勇猛な砲撃こそが敵を倒すのだ!」  エレスも負けずに声を高めた。  [炎の杖よ~! ]「いや、ちょっと待って……!」  茶色い髪の少年、ラスは必死に叫んだ。 「どうしてオレが標的の傍に

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:2話

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:1話

          「グランウェポン?」  キュイがミケ族の耳を動かしながら、ハリネズミとその下にある玉を眺め、ラスは力強くうなずいた。  ラスは信じられなかった。  グランウェポンだなんて! グランウェポンがゴミ捨て場から出てきたなんて!   ラスと一緒に住んでいるカルリッツは、エスプロジェン王国の騎士団長で、彼の巨大なハンマーはグランウェポンだった。  グランナイツに憧れるラスは、カルリッツにグランウェポンの話をしてほしいと、暇さえあればせがんで、彼は大きな手でラスの茶色の髪をくしゃくし

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:1話

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:序章

           女神が庇護する地、エスプロジェン。  生命が始まったこの偉大な地には、彼女の祝福が込められた特別な武器が存在した。  その名は「グランウェポン」  かつて大陸を駆け巡った英雄たちの記憶は、寿命が尽き、大地に埋もれた肉体と共に消え去る代わりに、女神の導きを受けて魂が武器に宿り、その武器は英雄の力を具現する強力な兵器「グランウェポン」となる。  生前の英雄の力をそのまま使えるグランウェポンは、誰もが欲しがる魅力的な武器だが、誰もがグランウェポンを使えるわけではなかった。  

          [ラス/キュイ] 幼なじみ:序章

          [ルイン/セリアード] 血の奉献式:後編

          ※この小説はメインクエスト8章のネタバレを含んでいます。  姉妹は奉献式のために新しい服を受け取り、新しいブローチをつけた。  セリアードは、毎日身に着けていた神秘的な青い宝石のブローチではなかったので、不思議そうな顔をしていたが、新しく受け取ったブローチも気に入ったのか、すぐに明るく笑った。 「これもきれいだよね?」  にっこり笑う妹とは違って、少女は別のことを考えていた。 「セリアードのブローチは、持っていかせないようにしなさい」  神殿から帰る馬車で交わした、

          [ルイン/セリアード] 血の奉献式:後編

          [ルイン/セリアード] 血の奉献式:前編

          ※この小説はメインクエスト8章のネタバレを含んでいます。  新しい服がカサカサと音を立てた。  両手を重ねて座っていた少女は、音のする方に顔を向けた。  明るい金髪を綺麗に三つ編みにしている、少女の双子の妹が、小さな手でスカートをしわくちゃにしているのが目に入った。  青い瞳がこちらに向くと、人差し指を持ち上げ、慎重に口元に当てた。  静かに、という意味だ。  幸い、そのジェスチャーを理解した少女は、スカートから手を離し、両手をそっと前に集めた。  カタカタと鳴る足音

          [ルイン/セリアード] 血の奉献式:前編

          [ナマリエ] Happily ever after:終章

           ナマリエとルドミラは、無事に王国の救助船によって命を救われた。  二人はそれぞれ違う人から、膨大な量のお説教を受けなければならなかった。  ルドミラはカルリッツに、ナマリエはカナリエに、だ。  どちらも相手が年下であることは同じだが、一つだけ大きく異なっていた。  ルドミラはカルリッツの小言を聞き流していたが、ナマリエにはそれが出来なかったのだ。  ナマリエは傭兵ギルドから約束された完遂金を受け取ることができた。  これだけでも彼女にとっては莫大な金額であったが、驚くべ

          [ナマリエ] Happily ever after:終章

          [ナマリエ] Happily ever after:12話

           ナマリエは、再び海岸沿いを走る。  人生でこんなにも走った日は記憶になかった。  海岸には再び霧が集まっていたが、森を燃やした影響からなのか、先程よりもはるかに視野が広かった。  それでも問題がなくなったわけではない。  ルディが誘引してくれた亡霊たちが、なぜか彼女に飛びかかり始めたのだ。  数は決して多くはなかったが、突然、現れる度に気絶するかと思うぐらい驚いた。  ナマリエは後ろからついてくる奴らは無視して、前を塞ぐものだけを処理して走り続けた。  息がぐっと上が

          [ナマリエ] Happily ever after:12話

          [ナマリエ] Happily ever after:11話

           狂風が吹き荒れた。  ナマリエは驚きのあまり洞窟の壁に手を伸ばす。  海岸の砂が流されるかと思っていると、信じられないことが起きた。  どこからともなく吹き始めた風が、島上空の気流を渦巻かせた。  最初は小さかった旋風が、次第に勢いを増していく。  霧が揺れた。木々が倒れる音とともに、水蒸気が逃げるように島の外に散らばった。  海岸に押し寄せるはずの波さえも、逆に海へと押し出された。  まるで嵐のようだ。  全ては一発の銃声とともに始まった光景だ。  荒波が洞窟の中ま

          [ナマリエ] Happily ever after:11話

          [ナマリエ] Happily ever after:10話

           ナマリエは信じられない様子で、目の前の光景を見下ろした。  彼女が起こした風で海岸の霧が晴れた。何日たっても起こせなかった突風を起こしたのだ。  ナマリエは上気した顔で、どうしたら良いのか分からなくなっていた。 「やったわ、フィルモ!」 『やり遂げると思いました! 本当に凄いです、ナマリエさん!』  二人は抱き合って喜びを分かち合った。  こんな達成感は初めてだ。興奮で頭の中が爆発しそうだった。  しかし、喜ぶ時間はあまり長くなかった。先程よりも濃い霧が立ち込めてきた

          [ナマリエ] Happily ever after:10話

          [ナマリエ] Happily ever after:9話

           今日はとても寒い日なので、暖炉では薪が燃え続けていた。  ナマリエは母が温めてくれたティーカップを持ち、窓の外を眺めていた。  彼女が住んでいるエルフの村は、樹皮が白い木々に囲まれていて、そのためか真夏でも冬のように感じられる時もある。  特に、ナマリエの家は村の外れにあるため、冷たい森の印象がより強く感じられた。  森の上には、依然として五色の光が漂っていた。何度見ても不思議な光景だった。  一日中、見ていても飽きなかった。 「あれは何なの?」 「隠蔽魔法で時々発生す

          [ナマリエ] Happily ever after:9話

          [ナマリエ] Happily ever after:8話

          ナマリエはすっかり気力を失い、地面にへたり込んでしまった。 森に入った後、再び抜け出す道を探そうと歩いたが、いくら歩いても同じ場所をぐるぐるとさまよっているような気分だ。 そんな彼女の様子をフィルモが察したのか、彼は座れそうな空き地が現れると同時に、休憩しようと提案してくれた。 固執する気力もなかったので、ナマリエはただ頷いた。 冷えた空気と海水に濡れた服が肌へ当たり、急激に体温が下がり始め、肌は青白く冷え切っていた フィルモは心配そうに言った。 『火を焚いた方がいいと思

          [ナマリエ] Happily ever after:8話