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《ショートショートを書いてみた》812文字 アイツの表彰台

学校の朝礼台に上がれるやつは特別なやつ。

頭がいいかスポーツができるか人前で話すのが得意か。
アイツは全部出来た。
まずは自由研究で人体の仕組みとかっていうタイトルで優秀賞を受賞。
とんどん気温が上がる夏の校庭。1学期の終業式。
校長先生に名前を呼ばれて朝礼台で賞状を受け取っていた。

あの高いところからゆっくり降りてきて
私の横に並んだんだ。
「あとで賞状見せてね」
自分のことみたいに嬉しかったから。

体育祭ではクラスの応援団長。
みんなアイツの名前が出たときは
「えー??」ってブーイングをかましたけど。
堂々として広い運動場で、学ランにハチマキをしめて
「フレーフレー」って誰も出せないくらいの大声。
団員の女子が羨ましかったな。
うちのクラスが2位になって、誰かが団長のせいでもあるとか言い出した。

すごくムカついた。
だってあんなに頑張ってるアイツ。

誰がどうして責められるんだろう?
これだからガキは嫌いなんだよね。
自分は何にも出来ないくせに。
表彰台の上に乗れる?
あんたたち、それだけで足が震えるんじゃない?
言うのは簡単、
やるのは大変てやつだよ。

あれから30年経って、この間の同窓会にアイツは来なかった。
私はいつもしない化粧とお洒落をして、リップをつけた。
「変わったね」て言われたいが為に。

噂でどこかの市長をやっているって聞いていたから。
その真偽のほども確かめたかった。

「どこの市長なんだっけ?」
元同級生にわざと知ってるけど忘れちゃったみたいな顔をして聞いてみる。

「あ、それね。弟だよ。弟が市長なの。どこだっけかな」

「弟?本人はなにしてるの?今日は来てないみたいだけど」

「アイツはね、大学中退してインドに放浪しに行ったんだよ。それからどうなったのか誰も知らない」


アイツは表彰台を降りたんだね。
あんな狭いところ、誇り高い位置じゃなかったんだ。

「ふうん。アイツらしいね」
アイツらしい。
アイツらしい。

この赤すぎるリップどうしてくれるの。


#ショートショート

★初ショートショートを書いてみました。
リップにするかグロスにするか口紅と称すか悩みました……
うーむ

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