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作戦名 「人間」
長官、移住可能な惑星がついに見つかりました。
想像通り、知的生命体が確認されております。
現段階での調査では 我々より少し進んだ科学技術を有している模様です。
武力での制圧はお互いに甚大な被害が出ると予測されます。
早速コンタクトを取りますか?
副長官が少し興奮した様子で報告する。
地球は長きに渡る戦争で荒廃し、人類は居住する場所を宇宙へと移すことを余儀なくされていた。
そんな中での移住可能な惑星の発見は大ニュースとなり またたく間に世界中に知れ渡った。
しかし、当然ながら先住民がすんなり移住を認めるわけはなかった。
地球サイドは色々な物資や技術提供を提案し なるべく平和的に移住することを望んだ。
しかし交渉はことごとく決裂していった。
決裂の主な原因は人類を信用できないという点だった。
どうすれば信用してもらえるのか各国で議論された。
みな戦争をやめ、移住先をどう攻略するのか躍起になっていた。
そこでひとつの作戦が産声を上げた。
それが 作戦名「人間」である。
作戦名「人間」の準備が整いました。
長官の前には大勢の部下たちが整列している。
長官は大きく頷き作戦に不備はないか改めて確認していった。
作戦「人間」とは
人間の信頼を勝ち取り、惑星を乗っ取る為の作戦である。
まずは惑星に人間を捕虜として送り込む。
信用を得る為に、送る人間には子どもの頃から教育が施されている。
選ばれし人間たちは良い労働力となり、聞き手となり、愛玩動物となるだろう。
賢く従順でよく働く。
こんな生き物に好意を寄せないはずはない。
そして人間を信用したその時。
人間の真骨頂とも言うべき特性を発揮させる。
そう 裏切り だ。
従順だった愛玩動物が突如として牙を向き、クーデターを起こす。
人間の特性をうまく活かした完璧な作戦だ。
これなら必ずやあの美しい惑星を我らの手に。
長官の声に一同は歓声を上げた。
しばらく作戦名「人間」は継続された。
しだいに移住先の惑星には徐々に人間が増えていった。
予定通りうまく潜り込んでいる。
「人間」は愛玩動物として もうすぐ一家に一人はいる状態になる。
統率者にも「人間」がついているようだ。
そろそろいい頃合いだろう。
長官は作戦司令部へ指示をとばす。
本日をもって 作戦名「人間」を最終段階へ移行する。
作戦司令部は慌ただしく作業をする。
「人間」達へ伝達。
身近な先住民を抹殺せよ。
一匹残らず殲滅せよ。
繰り返す、一匹残らず殲滅せよ。
容赦はするな。
長官、「人間」たちから伝達です。
「我々はご命令通り裏切ります」
このメッセージを最後に「人間」と連絡がとれなくなってしまった。
すぐさま無人偵察機が送り込まれた。
「人間」達は先住民を抹殺してはいなかった。
無人偵察機が映し出した映像は、先住民と仲睦まじそうに暮らす「人間」達だった。
そこには確かに信頼関係のようなものが観察された。
人類の敗北であった。
長い時間と巨額の投資の結果の失敗。
人類は原因を探る。
いったいどこで間違ったんだ。
各国で様々な議論がなされた。
恐怖に支配されてしまったのか
道徳観を植え付けられてしまったのか
愛が芽生えてしまったのか
全世界が出した結論は「愛」だった。
人類がもつ「裏切り」の特性を活用しようとした作戦は もっと強力な想い「愛」に負けてしまったのだ。
そう結論付けられた。
しかし人類は馬鹿ではない。
みんな表には出さないけれど理解していた。
あれは「愛」なんかじゃない。
損得勘定だ。
愛などではなく「長いものに巻かれろの精神」だと。
そして全員がそんな「人間」を羨ましがった。
人類は「人間」もろとも征服する為に戦争を開始した。
先住民は心の底から思った 人間とはなんと醜い生き物なのか と。