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【医師エッセイ】SOPHIAのビューティフル beautiful 松岡充の曲と私と
児童精神科医人生25年を歩んできた私は、人を支え支えられてここまで来ました。
失恋や失業など、人は時としてどん底に落ちることがあります。どん底から這い上がることは非常に難しく、堕ちた先で漂ってしまう人も多いものです。ですが、それが悪いわけではありません。自分の力だけで這い上がれないなら、這い上がれないことを認めることが大事です。誰もが、自分だけで這い上がれるわけではない、這い上がれない自分が悪いわけではない、そう思うことが大切です。そして、堕ちてしまって、這い上がれないからと言って、一人でこもることは推奨できません。そういう時は、人との関係を切らさず、私のような児童精神科医に頼ってもいいですし、心理士に頼ってもいいですし、友人や家族など支えてくれる人に頼ってもいいのです。
辛い気持ちに寄り添ってくれる人はいます。ゼロだと思わないで下さい。ただ、人は人。完全ではありません。相手はあなたのためにと思った言葉が、あなたにとっては突き放されたように感じることもあるからです。人はどうしてもすれ違いを起こします。完全に理解し合えることは、残念ながらありません。自分が落ち込んでいる時は、なおさらそう思ってしまいがちです。本当は、自分のために言ってくれた優しい言葉なのに。その優しさに気付くことができないぐらい、視野が狭くなり、誰も自分のことなんて心配していない、誰も自分のことを理解してくれないといった、悲劇のヒロインになってしまいがちです。
職業として、児童精神科医をしている私でさえ、そう思ったことが何度あったかわかりません。ですが、そんな時に、私の心を溶かしてくれたのが音楽でした。音楽は頑なになっている私の心に入り込み、気持ちを柔軟にさせてくれます。温もりをくれる、優しさをくれる、そんな存在です。
その中でも私のそばに常に寄り添い、私を支えてくれた曲があります。Sophiaのビューティフルです。
疲れて仕事から帰る。毎日うんざりしている。1人ベッドで泣いて。でも永久未来続くものなんてないからまた頑張っていくしかないのさ。
曲はその曲を作った人との会話だと思います。解釈は人それぞれかもしれませんが、私と同じ気持ちの人がいる。そう思えただけで、私の心は元気づけられ、どん底から這い上がることができ、ここまで来たのです。
私は大学の医学部2年生で1型糖尿病になりました。自分の体内で血糖値を下げるホルモンであるインスリンが生成されないため、インスリンの自己注射を1日6回も打たなければいけません。血糖値測定は、インスリン自己注射前や体調不良時などに測定をするため、測定だけでも1日に10回も必要です。
ただこれは数の問題だけではありません。血糖値が低血糖や高血糖になれば、意識が定かでなくなったり、体がだるくなったりします。1型糖尿病があっても、プロ野球選手や私のように医師として生活している人もいますが、無理をすることや食事の時間や内容によっては、血糖値のコントロールが難しいこともあります。ましてや51歳にもなると、合併症がどうしても出てきてしまいます。私の場合は、合併症から目の手術も必要になりました。
病気があっても仕事している人は一杯いるよ。自分だけ病気を理由に休むなよ。病気があると悲惨だね。僕は病気じゃなくてよかったよ。病気があるなら夢も、あきらめないといけないのかもしれないね。
そんな心ないことを言う人もいます。誰も私の心を労わってくれる人は存在しない、本気でそう思った時期もあります。私に対して心無い言葉を言った人は、もう何十年も前の話だから、覚えていないでしょう。ですが私は、その言葉で傷ついたので、未だに覚えていますし、一生忘れることができないかもしれません。人を傷つけるというのは、そういうものです。
ですが、私には音楽があります。Sophiaが歌ってくれました。その歌詞が、音楽があったからこそ、私は傷ついた自分を引きずりながらも、立ち上がり、少しずつでも前に歩くことができたのです。
そして、Sophiaは、私に今の奥さんとの出会いも用意してくれました。奥さんは、私を勇気づけてくれる存在です。Sophiaの曲があったから、今の私がいます。Sophiaの曲が常に私の傍にあったからこそ、今の私がいます。私にはなくてはならない音楽。この先もずっと、Sophiaは色あせることなく私を立ち上がらせてくれるでしょう。一人じゃない。助け合える人がいる。助けてくれる曲がある。この曲に出会えたことを、私は心から感謝しています。