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 最近気づいたことがある。これって、どれぐらいの人が知っていることなのかはわからないんだけどね、みんなの背中から翼が出る時があるんだよ。ずっと出ているわけじゃなくて、出たり消えたりしているんだ。

 一番初めに気づいたのは、小学校からの帰り道。僕が一人で歩いていたら、ランドセルを担いだまま僕を追い越して走っていった男の子。初めは錯覚かなって思ってた。でもそれから、学校の授業を受けている時とか、普段過ごしている時とか、翼が出ている子がいるんだ。だけど、その子の翼は何かの拍子で見えなくなることもある。それはその子が、意識的に翼をしまっているのか、無意識にしているのかはわからないんだけどね。でもそんなこと、僕からは聞けないよ。

「どうして翼を出したり、引っ込めたりしているの?」

 なんて。でもさ、翼が見えるようになってから、僕も自分の背中を見てみたんだ。もしかしたら、僕にも翼が出ているかもしれないだろ? けど、僕の背中からは翼は出ていなかった。僕も、みんなみたいに翼を出してみたいんだけどな。

「翼を出す方法を、ワシが教えてやろうかニャ?」

 突然僕の前に現れたしゃべる黒猫。僕は驚いて後ろにこけそうになってしまった。

「なっ何?」
「だから、ワシが翼を出す方法を教えてやろうかと言ってるニャ!」
「何でしゃべってるの? どういう仕掛け?」

 僕は猫の周りをぐるりと見渡す。だけど、本物の黒猫にしか見えない。これってどういうこと?

「どういう仕掛けって、酷い言葉ニャ。君だって話をしているじゃニャいか。周りの人に、君はどんな仕掛けでしゃべっているのかと聞かれたらどう思うニャ?」
「えっと……」

 そう考えてみると、確かに目の前の黒猫の言葉が正しい気がした。でも、僕は人間で、目の前にいるのは黒猫だ。

「だって君は黒猫じゃないか。僕は人間だから話ができるんだよ」
「それは思い込みニャ! 猫だってしゃべる。それにワシは普通の猫とは、ちょっと違うんニャ。ワシは大人になる道先案内の猫だからニャ!」

 黒猫は二本足で立ち、エッヘンと胸を張る。本当に人間みたいな黒猫に、僕はだんだんと猫がしゃべってもおかしくないと思えるようになってきた。

「大人になる道先案内人って何?」
「ん? それはニャ、ワシが大人になるための道筋を示してやるありがたい存在ということニャ」
「ということは、君の言う通りにしたら、僕は大人になるってこと?」
「そういうことになるニャ。君だって、早く大人になりたいだろ?」
「うーん……」

 大人への憧れは確かにある。けど、今すぐに大人になりたいかと聞かれると……。僕はだんだんわからなくなって、その場を走って逃げた。よくわからないけど、あそこにあまり長い時間いるのはよくない気がしたんだ。

 翌日。僕はだんだんと翼が出る瞬間が、どんな時なのかがわかってきた。よーく観察していると、あの子は鉄棒の時間になると翼が出るし、あの子はサッカーをしていると翼が出る。そして、あの子は家庭科の授業で料理を作っている時に翼が出るんだ。しかも翼が出ている時の、その子たちはみんないい顔をしている。

 だからもしかして、あの翼が出るのって……。

「気づいたようだニャ」

 校内に、またあの大人になる道先案内の黒猫が現れた。ただここは、小学校の裏庭のベンチだから、そんなに人が来る場所でもない。僕はいつもここで一人で休み時間を過ごしていた。

「昨日の……なんだよ、いきなり現れて。他の子に見つかったら追い出されるよ?」
「大丈夫だニャ。ワシのことが見えているのは、君だけだからニャ! それより、翼が出る時が、どういう時かわかったようだニャ」
「え? うん。得意なこととか才能があることとか、本人が自信をもっている時とかに出るんじゃないの?」
「正解だニャ~!」

 大人になる道先案内の黒猫は嬉しそうに小躍りをした。

「ほら、だったら、君もどんな時に翼が出るか知りたくなったんじゃないニャンか? 君の場合は、あまりに変な時に出るから、ワシが助言してあげるニャン」
「いらない」
「どうしてニャン!?」
「僕は早く大人になりたいわけじゃないし、誰かに教えてもらった翼が欲しいわけじゃないからだよ」

 僕はようやく、昨日、目の前にいる黒猫から逃げた理由が分かった。

「誰にだって翼はある。今は見えなくてもね。どんな翼があるのかわからないし、それがどう変わっていくかはわからない。それを少しずつ自分で見つけていくことで、大人になっていくと思うんだ」
「でも、わからないままかもしれないニャンよ?」
「それでもいい。僕はわからないからこそ頑張れると思うから」
「わからないから頑張れる?」

 チャイムの音が鳴る。5時限目の授業が始まる合図だ。

「僕はいつか、僕自身で翼を出してみせるよ。じゃあね」

 その後、僕は二度と大人になる道先案内の黒猫には出会うことはなかった。

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