【小児科医コラム】ベイビーファースト・チャイルドファースト
現在の日本は少子化が進んでいます。さまざまな政策がとられつつありますが,いまだに少子化対策として有効な対応はないようです。むしろ,子どもとその発達支援者を取り巻く環境は少子化が進むとともに悪化しつつある面も多いと感じています。私は小児科医と児童精神科医として,子どもの診療にたずさわっていますが,病院に勤務する小児科医は絶滅危惧種になりつつあります。病院における収益健全化のため,「小児科」の縮小や廃止が相次ぎ,小児科医を志望する者も減少しているためです。業務が少なくなり,他の科の医師の視線が気になり,自ら退職する者も少なくないです。私も,それを理由に辞職し,勤務先を変更した者の1人です。「小児科」以外の業務をするなど,違った形で病院に貢献していましたが,やはり収益性のこともあり,院長や事務長,とくに小児科医の上司と人間関係が悪くなったためでした。これらにより,子どもの入院や夜間診療に関する空白地域が出てきています。しわ寄せは残された小児科に負担となって出てきています。移籍した病院は,まさにそういった小児科です。「ありがとうございます」,「今日は小児科の先生が当直しているので助かりました」や「小児科の当直は混みますから,大変ですね」といった有り難い言葉を頂くことで孤軍奮闘し,子どもや養育者から頼られることは励みになり,心も満たされますが,精神的肉体的なストレスも多大な物です。
他の発達支援者では,幼稚園教諭や保育士の負担も大きいようです。幼稚園では少子化による収益減少から,延長保育を実施するようになり,勤務時間の延長や業務の繁雑化,保育士の資格取得が必要になるわりには,給与がそれに見合った増加もないため,幼稚園教諭や保育士が一斉退職したといった話はよくある話です。頑張っているわりに報われない思いが強く,保育園の待機児童数の問題が議論になる中,約半数の保育士資格保有者は資格を活かした業務をしていないようです。また,児童虐待に関し,家庭への立ち入り,指導や一時収容など最前線で身を削った仕事をしている児童相談所職員が,1人につき関わっている相談件数が70を越える地域も数多くあります。
このように子どもが好きで,子どもに関わる仕事をしたいと考えて仕事を始めた者たちのうち,予測を超えた少子化の速度による環境の変化に適応できない者も数多く存在します。
「子ども」には未来が有り,我々の今後の社会を担う大事な存在です。しかし,子どもと発達支援者の存在は重要視されていません。ベビーカーで電車に乗ったときや子どもが電車内で泣き止まないときなどは周囲の冷たい態度などで明らかになるでしょう。すなわち,養育者自身を否定するような言動をとる者さえ出てくることが有ります。しかし,「子どもは社会の宝であり,それを支える発達支援者も社会にとって重要な存在」であります。たとえ,はっきりと目に見えなくとも,それを理解している者はいます。そういった絆が貴方を強くします。仕事をする意義は個人個人によって違いますが,子どもにたずさわる発達支援者の仕事は養育者を始めとする様々な人と関わることで,人としての自分の成長につながります。そして,経験を活かし,発達支援者の後継者を育て,子どもが社会にとって重要な存在であるといった認識の有る社会づくりもしていかないとならない,やりがいの有る仕事です。本来は,社会の1人1人,発達支援者として子どもを見守り,育てていくべきなのです。ベイビーファースト・チャイルドファースト。ともに,子どもを支えましょう。