見出し画像

■現実の転科は……

まんがでは、「コウノドリ」で産科医である下屋加江が、患者を助けられなかった未熟さを悔やんで救急科に転科する。「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」では、神経内科の新米女医・宮崎が、病理医である岸京一郎に憧れて病理医に転科する。

まんがだから。まんがだけど。

50歳にして、このような話は私の心を動かす。転科をする人には、いろいろ理由はあれど、別の診療科に興味がわいたり、人間関係、年収やワークライフバランスなどを考えたりした結果、行動を起こしたのでしょう。これまでと関連性の高い診療科なら、転科によって現在のスキルを活かしながら、自分がやりたい医療やキャリアを実現できるかもしれません。そして働き方を変えられるかもしれません。

私は研修医が始まって6か月もたたないうちに、老年病科から小児科に転科しました。研修医が始まって間もないころですから、これまでのキャリアがゼロになる心配はなかったのですが、私の友人にこれまでのキャリアをゼロにしてしまうような転科をした友人がいます。

■整形外科医に転科した友人医師

共に小児科医となり8年目。私は小児神経科医、彼は小児科専門医となり、小児アレルギー科医を目指していました。

彼の実家は整形外科病院。お兄さんが整形外科医となり、アメリカ留学中。次男の彼は医学生から小児科医を目指していたので、私より思いは強いようです。ただ、彼のお父様が病に倒れたときに、彼は即座に整形外科医への転科を決めました。

医師となって9年目。一から勉強をする必要性があるのと、年下の医師が指導医や上司になるという事実があるにも関わらず。

今では整形外科専門医となり、整形外科病院だけではなくデイサービスや訪問看護ステーションなどもお父様から継いでいます。

「すごいよなー。小児科医から整形外科医への転身なんて俺にはできないよ」
私には真似ができないことをやってのけた彼に、そんなことを言ったことがあります。

「親父が体を壊したのに、兄貴が継がないって言うんだから仕方がないじゃん。地域の整形外科医療も崩壊しちゃうところだったしね。親父の痛みや地域の患者さんの痛みより、俺の痛みの方が大したことはないって思ったから、転科したんだ」

「でもさ、冷たいよな。君がいて僕がいて、そうやってずっと小児科でともに頑張ってきたのに、君は引き留めてくれないんだから」

「あ~あ、君が羨ましいよ。何せ君はお父さんの産婦人科を継がないばかりか、老年病科そして小児科医になった不義理医師だから。なんて冗談だけどね」

「でも……整形外科医として任された仕事をしていて悩んだこともあったけれど、人間的にも鍛えられたよ。うん、僕はこういう人生でよかったんだよ」

■彼はやっぱり素晴らしい医師

彼は仕事に対する思いが真っ直ぐな人だったので、彼を引き留めることなど考えもしなかったのですが、でもそんな風に言われると、もどかしい思いもありました。

引き留めてくれというなら、彼のもとに飛んで行って引き留めたかったです。だって私は、彼が医学生の頃から小児科医になりたいと言っていたことを知っているのですから。

私は自分のやりたい道を進んで小児科医を選んでよかったと思える。
彼も自分がやりたい道を進んで整形外科医を選んでよかったと思える。

言葉では一緒に受け取られるかもしれない。でも私は彼が選んだ道は、やりたい道かもしれないが棘の道だったと思うのです。それを微塵も見せない。彼は素晴らしい整形外科医だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?