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クリロナはアイドルで、メッシはバンドマン?

なぜメッシがGOATなのか?

2000年代後半から2010年代を席巻したリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウド。

その年最高の選手に与えられるバロンドールをメッシは8回、クリロナは5回受賞しています。合わせて13回。ここ10年以上は2人の時代でした。

しかし、両者の評価はかなりメッシ寄りになっている気がします。アルゼンチンが2022年カタールワールドカップを制する前からその傾向はありました。

その理由をクリロナは4番打者でアイドル、メッシは投手でバンドマンという考えから思ったことを書いていきます。

同業者の評価

メッシとクリロナに優劣をつけるのは難しいです。タイトル?記録?記憶に残るゴール?

しかし確実に大差がついている部門があります。

同業者、すなわち同じサッカー選手からの評価です。

多くのサッカー選手がメッシorクリロナの問いにこう答えます。

「難しい問いだね。でもやはりメッシだよ」

その理由に「メッシのほうが魔法がある」「ファンタジーや創造性で抜きんでている」という言葉。この「魔法」や「ファンタジー」や「創造性」って何でしょう?

漫画『アオアシ』にヒントあり

2024年現在、大人気のサッカー漫画『アオアシ』にこんなセリフがあります。エスペリオンという架空のJクラブユースで最近のトレンドの司令塔型サイドバックを務める主人公・アシトは、ユースの先輩にして名ストライカーの義経健太にこう言われます。

アシトと高校生にしてトップチームの司令塔・栗林晴久が「似ている」と話し、「嫉妬する」と。その理由をこう続けます。

俺は誰よりも点を取る自信があるが、あくまで11人の中の一人。でも栗林はそうじゃない。

小林有吾『アオアシ』8巻

名ストライカーでたくさん点を取る自分も、11人のうちの一人でしかない。それに比べて司令塔という名の通りピッチを「司る」栗林と、サイドバックとして司令塔の役割を担うアシトが羨ましい。

これって、ゴールを決めることに特化したクリロナと、チャンスやパスも出すメッシとの比較に重なります。

ゴールを決めるという「数字」を残す役割に対し、「魔法」や「ファンタジー」で試合をコントロールする主体性。

本来はどちらかだけが良いということはないのですが、選手目線で言うと、よりサッカーを楽しんでいると感じることもあるのでしょう。

クリロナは4番打者、メッシは投手

野球で例えると分かりやすいと思います。いうなればクリロナは四番バッター。誰よりも長距離ヒット(ゴール)を期待されていますが、あくまで9人の打者の一人です。

しかしメッシは野球でいう投手。野球の投手は、その人が振りかぶらなければすべてが始まらない存在感を持ちます。

少し無理のある比較に聞こえますが、サッカーにも投手に近い「聖域」があります。いや、かつては必ずありました、かな。

久保建英も長谷部誠も…「トップ下」への憧れ

それは「トップ下」です。実はそのポジションが無くなったとも言われているのですが(後述します)、そのポジションを務める選手はかつて背番号10を着け、「ファンタジスタ」と呼ばれました。

サッカーはポジション・役割ごとに「○番」と呼びます。図にするとこう。

ーーーーーーーーーー09ーーーーーーーーーー
11ーーーーーー10ーーーーーー07
ーーーーーー08ーーーー06ーーーーーー
03ーーー04ーー05ーーー02
ーーーーーーーーーー01ーーーーーーーーーー

「01」が「1番」、ゴールキーパーです。9番は最前線の点取り屋。こうやって見ると10番の役割の特別さがわかります。

11番と7番の役割を従え、9番にパスを出しながら、自らドリブルを繰り出し、シュートを放ちゴールも決める。花形です。

実は20歳の頃のメッシは「10」の位置でクリロナが「11」もしくは「07」でした。彼らの背番号は若い時に由来しているんです。

右ウイング(「07」の位置)で活躍する久保建英も、トップ下で出場したいと語り理由をこう明かしています。

ほかの人たちが作り出せないものを作ることが好きなんです。僕の場合はDFと1対1で対峙したり、ボールをライン間に通したり、前でプレーしたり、だから、僕はピッチの中央でプレーするのが好きなんです。僕はいつも10番に対して、憧れがありました。特別なサッカー選手になって、人々に見て楽しんでもらいたいんです

『FOOTBALL ZONE』記事

「ほかの人たちが作り出せないものを作る」「特別なサッカー選手になって、人々に見て楽しんでもらいたい」という言葉に「表現者になりたい願望」を感じます。

守備的なポジションでレジェンドになった長谷部誠も若いころは典型的なトップ下で名ゴールキーパー・川島永嗣曰く「相手をあざ笑うようなスルーパスを出したりドリブルで切り裂いたりして満足するような」プレースタイルだったそうです。心を整える献身的な姿から想像できませんね。

プロ入り前からディフェンダーで守備の選手だった槙野智章も自身の守備と努力に誇りを持ちつつもこんなことを話しています。

天才肌の選手には憧れます。カッコいいじゃないですか。そもそも僕はトップ下をやりたかったんですよ。感性だけでプレーして、鮮やかなスルーパス、通してみたいですもん

雑誌『Numbe』インタビュー

この「感性だけでプレーして」という箇所がミソかもしれないですね。それに、ドリブルならメッシもクリロナも得意ですが、「鮮やかなスルーパス」には確実にメッシに分があります。

ペレだってマラドーナだってトップ下だった

かなり昔のレジェンドの話をします。メッシが台頭する前には「史上最高はペレかマラドーナ」と言われてきました。

ペレは生涯1281ゴールの得点力、マラドーナは「5人抜きゴール」のドリブルが注目されがちです。

しかし、2人とも実はパスや味方を操ることが上手い「トップ下」でした。実際の背番号のように、彼らは紛れもなく10番でした。

ペレが1970年の、マラドーナが1986年のワールドカップの決勝で優勝を決定づけたのは、シュートでもドリブルでもなく、アシスト(ゴールをお膳立てするパス)でした。

YouTubeの動画をぜひ見てみてください。綺麗なパスです。それに、彼らのプレー集、ハイライト動画を観てみると試合を組み立てる黒子のパスをたくさん出していることが分かります。3分くらいの動画で見られるので是非ご覧あれ!

中田英寿と本田圭佑が捨てたパスの美学

これは海外に挑戦した日本人選手にも影響しています。

一発でチャンスを生む「キラーパス」が代名詞の中田英寿、トップ下というポジションを「俺の庭」「1番自分の良さが生きる」と公言してはばからない本田圭佑も、昔からトップ下にこだわりが深かったことで有名です。

それでもヨーロッパのクラブに移籍した当初は2人とも「パスの美学はいったん捨てた」と話しています。

実際、中田も本田も「2桁得点」を目標に掲げ、本当に10ゴール以上決めます。Jリーグにいた時の彼らはラストパスの目立つ、決してゴールの多くない選手でした。

その心は。2人が言っていたのは「助っ人として海外に来て、海のものとも山のものともつかない自分は、注目されなくてはならない。そのためにはわかりやすい数字、つまりゴールが必要だった」という旨のことでした。

アイドル路線で評価を勝ち取ったサムライ戦士

音楽活動に例えると、自分たちの楽曲性の高さを知ってもらうには話題になることが必要。それならまずは自分たちのやりたいアーティスト志向より、キャッチーでポップなアイドル路線でCDを売ることが先決ではないか。

そんな葛藤が平成の時代に欧州マーケットを切り拓くサッカー選手にはあったわけです。

ここで言いたいのはアイドルを貫くことは立派な尊い偉業だということ。ただ、同業者からすると「自分でプロデュースもしたい」という自我が芽生えるのでしょう。そこがファンの人気とはまた違う「メッシ信者」の増加を生んだ理由だと思います。

芸人で例えると、クリロナは明石家さんまで、メッシは……名前を出すことを迷いましたが、往年の松本人志の立ち位置かもしれません。どちらも抜群の話術で真似できない存在だけれど、ある時期の芸人には「松本人志フォロワー」がわんさかいましたよね。

つい昨日、ひと段落ついた騒動については真相はわからないので明確な言及は避けますが、松本人志にオリラジの中田敦彦が苦言を呈したのも、その影響力が過剰になってしまったという指摘なのかもしれません。

その点、サッカー選手の憧れは平和です。技を真似してボールを蹴るだけだから。

10番の消滅と「サイドの時代」

ところが現在のサッカーでは、前述のとおり「トップ下」が消滅しました。今のサッカーの布陣のトレンドはこうです。

11ーーーーーー09ーーーーーー07
ーーーーーー10ーーーー08ーーーーーー
ーーーーーーーーーー06ーーーーーーーーーー
03ーーー04ーー05ーーー02
ーーーーーーーーーー01ーーーーーーーーーー

そう、10番がど真ん中じゃなくなったんです。何なら10番と8番というより8番が二人。今だったらペドリとガビ、少し前ならシャビとイニエスタが「2人の8番」でした。

そう、10番の消滅です。ファンタジーやテクニックのある選手はどこに行けばいいのか。

それがウイング、図で言うところの7番と11番です。メッシが背番号に10を着けて右ウイング、7番の位置にいるのは時代の流れです。

久保建英のトップ下願望はやや古風という指摘もありますが、久保もまた中央もできる右ウイングとして活躍することが多いですね。

そしてクリロナは、昔から背番号7で若いころはサイドのドリブラー、背中と同じ7番や11番の職人でした。

しかし、2010年代の時代の流れに乗るように9番、すなわち点取り屋に能力を特化させていきます。

メッシとクリロナは攻撃の華でこそあれ、スタイルは全然違います。メッシにクリロナと同じ強さでゴール前の打点の高いヘッドはできないし、クリロナにメッシレベルの足技で繰り出すパス交換も難しいでしょう。

2人とも万能なのでできなくはないですが、互いにライバルのレベルにはいかないはず。

そのどっちに憧れるか、どっちなら真似してみようと思うかでメッシファンが多いのではないのかと思います。

そこが、試合を決めるプロフェッショナルなアイドル、クリスティアーノ・ロナウドと、曲作りもするバンドマン、リオネル・メッシの違いであり、それぞれの持ち味なのだと思います。

結論 0を1に、1を100に

アイドルの尊さもあれば、バンドマンの良さもある。ただ、同業者からするとスター性と売り上げという記録を持っていくアイドルへのやっかみや嫉妬に加え、自分で世界観を作るというプラスαでバンドマンへの憧れが高じて、あるいは作詞作曲のできるアイドルの方ががもてはやされることはあります。

芸人でも、笑いを生み出すという点では同等の人気を誇るコンビでも、芸人界隈ではネタ作りに長けた方のタレントを称賛する動きがあります。

メッシとクリロナの差異もそこで、0を1にするメッシと1から始まり100を叩き出すクリロナの違いといったところでしょうか。

どちらも凄いんです。格好いいんです。ただ、昨今の「メッシこそGOAT」という熱い意見には「サッカーはゴールを決める場面の手前に面白さがある」というサッカー玄人さんの本質を突いた意見ともいえるのではないでしょうか。

メッシとクリロナの再来となるスターは、どんな良さを持った選手なのかな。想像すると楽しいですね!

そんなことを思って書いてみました。長い文章を読んでくださりありがとうございました!

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