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ショーン・タンの世界に誘われて  

最近読んだ本ですごく印象に残った本がこちら。

『内なる町から来た話』 ショーン・タン著 岸本佐知子訳 河出書房新社

この本は、フォローさせていただいている樹山 瞳さんの記事で知りました。
私は恥ずかしながらショーン・タンという作家のことを全然知らなかったのですが、樹山さんの記事を拝読し、読みたくてたまらなくなりました。

まずは樹山さんが最初に紹介されていた『いぬ』が収録されている『内なる町から来た話』を読んでみることに。「動物たちが主役のシュールな物語集」と表紙の不思議な絵にも心惹かれました。

『内なる町から来た話』を買った時、同じくショーン・タンの『ロスト・シング』という絵本も一緒に購入しました。


『内なる町から来た話』
帯にはこう書いてあります。

人間を訴えたクマ。
カエルを救う秘書。
空の魚を釣り上げた兄弟。
25話のセンス・オブ・ワンダー!

『内なる町から来た話』帯より

樹山さんも書かれていますが、動物が出てくるからといって、なんとなく想像してしまうようなほのぼのや感動する話ばかりではありません。

読みながら、「これはどういうことなんだろう」、「何が起きているんだろう」、訳がわからなくなりつつ、本の世界に引き込まれていきます。

この光景を実際に見てみたい、見ればわかるかもしれない。でも現実にはありえない光景で、頭に思い浮かぶのはなかなか思い出せない夢のような光景ばかり。
自分の乏しい想像力にもどかしさを覚えます。

この本にはそんな私の貧しい想像力を補ってくれるような、美しく、幻想的で、不思議な絵がたくさん。
絵も見どころの一つです。

上で、感動系の話ではありませんと書きましたが、
「いぬ」と「ねこ」の話は泣きました。
ねこの話は特に(私がねこ好きだからというのもあります)。

大昔から人間と共に暮らし、昔も今も人間の大切なパートナーである犬。
長い長い人類史の中で、人はあらゆるものを手に入れ、失ってきました。
中でも最も幸運だったことの1つと言えるのは、犬というパートナーを得たことではないでしょうか。
そんな犬と人間の歴史が美しい絵と共に綴られています。


猫の話の挿絵は裏表紙にもなっています。
荒れ狂う海を顔だけ出して泳ぐ大きな大きな猫。
頭の上にはしっかりと抱き合った母と子が乗っています。


その猫は、近所中のいろいろな家を渡り歩いていました。それぞれの家で名前をつけてもらい、どの家でもお気に入りの食べ物やおもちゃ、寝床を用意してもらって可愛がられていたのです。その猫は皆の心の支えとなっていました。そんな1匹の猫と人間たちの物語です。

いやー、ねこの話は泣いちゃいました。
きっとねこ好きの方なら(もちろんねこ好きではなくても)わかってくださると思います。


いぬやねこの他にも、ウマ、フクロウ、肺魚、トラ、ニンゲン、あらゆる生き物が登場します。幻想的で不可解な、まるで夢に出てきそうな物語が続きます。

読んでいるうちに、我が物顔で地球上をのさばっている人間が実はすごく危うい存在であることに気づきます。


本の内容とは関係ないかもしれませんが、
この物語を読んだ時の、「どういうことなのか、よく分からないけど、こういうことなのかなぁ」といううまく消化できない感じ。
私は本を読むと、「この本の内容を分からなければいけない」、と思ってつい躍起になって理解しようとしてしまいます。「分からない」とか「言語化できない」ことが良しとされない人間社会。私もそういう風潮に染まっているようです。

でも実際には他者のこと、動物のこと、自然のこと、本当に分からないことだらけで、自分のことすらあやふやだったり。
それを見えないふりをして、正解を言えることが求められます。

でも物語や芸術の世界は、正解は1つではありません。自分だけの受け止め方が許され、分からないこと、うまく説明できないことをも内包する力を持っています。だからこそ私たちは物語を綴り、芸術を求めるのではないか、そう思いました。




『ロスト・シング』ショーン・タン 著 岸本佐知子 訳  河出書房新社

帯にはこんな言葉が。

やるべきことが他にたくさんある人たちのために

『ロスト・シング』帯より

表紙には何やら赤い物体が描かれています。
よくみると、赤いポット?から生えた柔らかそうな足。ヤドカリの宿がポットになっているような感じ。その足のようなもので動くのか、なんとも不思議な生き物が描かれています。

私はアニメに詳しい訳ではないのですが、好きなアニメの一つに『攻殻機動隊』シリーズがあります(ご存知ない方ごめんなさい)。『攻殻機動隊』に登場するキャラクターの中で、タチコマという人工知能を搭載した歩行戦車が好きで(愛嬌があって、かわいい、そして勇敢)、この赤い生き物を見てなんとなくタチコマを想像し(見た目だいぶ違いますが)、この絵本が読んでみたくなりました。

攻殻機動隊の公式サイト、キャラクター紹介より
クセの強そうなキャラクター達の中にタチコマがいます。


『ロスト・シング』に戻ります。

その赤い生き物、実は迷子で、1人の少年が気にかけ、一緒にその生き物の居場所を探す、という物語です。

2人が歩き回る街は無機質で、そこにいる人間も皆冷たい。その中にいる少年と迷子だけが感情を持ち合わせているように見えます。

こちらの絵本、じっくり見てみると随所に遊び心があり、何度読んでも新しい発見がありそうな本です。

この2人がどうなるのか、気になる方はぜひ読んでみてください。


というわけで、ショーン・タンワールドにハマってしまいました。

だいぶ前(2020年)には、展覧会も開かれていたようです。
また開催してほしいな。

他の作品も必ず読んでみようと思います(『遠い町から来た話』も早速ポチりました)。

樹山さん、素晴らしい本を紹介してくださりありがとうございました!

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