星川まさる

化学系エンジニアを経て、映画・音楽好きが高じ音楽系の出版社に転職。以降、30年近く雑誌編集業務に携わり、新雑誌を立ち上げるなど数誌の編集長・編集人を担当。同時に小説を発表。現在は行政がらみの中間支援センターに勤務中。

星川まさる

化学系エンジニアを経て、映画・音楽好きが高じ音楽系の出版社に転職。以降、30年近く雑誌編集業務に携わり、新雑誌を立ち上げるなど数誌の編集長・編集人を担当。同時に小説を発表。現在は行政がらみの中間支援センターに勤務中。

最近の記事

「てっぺんテンコ! 最終回」

てっぺんテンコ! 最終回  彼女の携帯に何度かけても呼び出し音だけで、つながることはなかった。携帯の番号から住所を知ることは、今ならたやすくできるはずだ。だが、そこまでする気力はすでに失っていた。予想通り、その次の日、次の次の日……と一週間経っても、彼女からは電話はもちろんのこと、メールすら来ることはなかった。  そしてそのまま悶々とした気持ちのまま、仕事が繁忙期に入り、またも二カ月があっという間に過ぎ去った。仕事に没入することで、テンコという頭の中の大きな存在を忘れようと

    • 「てっぺんテンコ! 第6回」

      てっぺんテンコ 第6回    三田の駅にたどり着いたのは十一時十分。約束の時間の二十分も前だった。僕は仕事柄、取材に行く時々に、いろんなところで待ち合わせをするが、三田駅に降りた記憶はほとんどない。というより、降り立ったのは、これで二回目くらいだろう。約束の五番出口に向かう。その出口の先には、ほんとうに素晴らしい青空が天空いっぱいに広がっていた。それを楽しみながら階段を上がり、出口のところでテンコを待つことにした。  眼の前に東京タワーが聳え立っている。初めてここに来たのは中

      • 「てっぺんテンコ! 第5回」

        てっぺんテンコ! 第5回    順次忙しく仕事をこなしていった水曜の夜。ライターとの打ち合わせの後で、二人で食事をした。それから、時間が遅いにもかかわらず、音楽を楽しめるBARで、軽く飲み、ずいぶんいい気分になった。自宅に帰ってきたのは、すでに午前1時近くになっていた。フラフラになりながらも、一応メールをチェックしようとパソコンをつける。ここのところテンコからの返信が来ないのも、さほど気にならなくなっていた。“もう、会えないのかも……”というあきらめの感覚も漂っていた。僕も仕

        • 「てっぺんテンコ! 第4回」

          てっぺんテンコ! 第4回    次の週の頭から週末の間は、忙しくしているにもかかわらず、何となく夢の中といった感覚のまま、日々を暮らした。ちゃんと仕事はしていたというより、普通よりはりきって、嬉々として仕事に取り組んでいたような気もする。すでに多くの取材は終盤に向かい、それを文章化する、あるいはライターから原稿を入手する段階まできていた。だが、それなりにしっかりとやっていたのだろう。  周りからは「菊地さん、はりきっていますね。最近、何かいいことありましたか?」と言われるほど

          「てっぺんテンコ! 第3回」

          てっぺんテンコ! 第3回  僕の朝は、いつも決まっている。一杯のコーヒーとパンを一個食べて出かける。しかし、今日は、休日である。しかもいつもと比べて、結構時間が遅い。そのため、ゆっくりと時を過ごすこともできる。だが、テンコからのメールが気になってしかたがない。昨夜、返信をしてないのだ。そのままじゃ、また、それっきりになってしまうかもしれない、という不安がよぎった。  だが、腹もすいていた。湯を沸かし、ペーパーフィルターで、コーヒー、モカブレンドをペーパーフィルターで落とし、

          「てっぺんテンコ! 第3回」

          「てっぺんテンコ! 第2回」

          てっぺんテンコ! 第2回  それから十カ月後、ある洋酒メーカーの発表会に僕は出席していた。新しいシングルモルトウイスキーの発表を兼ねたテイスティング会だった。この日はカメラマンと二人。いつも僕をこのような場に呼んでくれる、若く精悍な広報のT氏に挨拶をして、彼が先導をして席に案内された。すでにテーブルにはテイスティングシートの上にグラスが五つ並べられ、簡単なスナック類も置かれていた。椅子に座り、いつものように会場をぐるっと見渡すと、二つほど離れた斜めの席にいる外国人のような明

          「てっぺんテンコ! 第2回」

          「てっぺんテンコ! 第1回(全7回)」

          あらすじ「てっぺんテンコ! 第1回」しばらくして僕は、本当にテンコが死んだことを知った。 あの時、僕が自分の気持ちに正直になっていれば…… 彼女は生きて、行き続けて僕と一緒にいたのかもしれない。 そして、後悔と同時にもう一通の手紙が自宅に届いた――    *  目の前の木製のテーブルには、最後に会った時にテンコがプレゼントしてくれた小さな金属製の東京タワーと、ややくすんだ薄いピンク色の封筒が置いてある。封筒を手に取りゆっくりとひっくり返すと、「石沼典子」と名前が細い丸字で

          「てっぺんテンコ! 第1回(全7回)」

          小説「宇宙犬マチ」 最終話

          十八 最終 マチ 僕には、おかあさんとおとうさんという家族ができた。おとうさんも、僕の存在をより大切に思ってくれいているみたい。しばらく、打ちひしがれて、落ち込んでいたおとうさんは、悲しみを胸に持ちつつ、なんとか体調を整えて動き出した。おかあさんの分まで……。 僕はその後も地球と人類の動向を調査し、その成果を宇宙司令に報告を続けた。研究は確実に良い方向に動いていた。世界中の人たちは、手を取り合ってウイルス対策に挑み、共存を図れる体制を構築し、つまらない諍いもなくなっていった。

          小説「宇宙犬マチ」 最終話

          小説「宇宙犬マチ」 第5話

          十四 改革 マチ 一年が経った。 二十九人の仲間は英知を絞り、力を合わせて人間の改革法に挑んだ。共通の思いは地球上の人と生き物と自然を愛しているということ。手法は見つかりつつあった。 しかし、いきなり大変な事が起きた。世界中に強力な新型ウイルスが、蔓延し人が死に始めた。歴史的にみれば、各国がそろって行動し、新型ウイルスに立ち向かうはずなのに、各国のトップが利権を競い合い、その発生原因をなすり付けるという、醜い争いに発展していった。 ますます国と国、人と人、人種間に不信と諍いが

          小説「宇宙犬マチ」 第5話

          小説「宇宙犬マチ」 第4話

          十二 思い出 マチ 宇宙犬となって地球に来た僕。これまで八年間のことが頭に浮かんでは消え、それが繰り返された。 本当にいろんな所に行くことができた。一番の思い出は、車に乗って一時間半くらいの所にある犬連れのためのリゾートホテルだ。そこには暑い時期に二回訪れた。 寝室が二つある広い部屋。大きなソファーがあって、広いバルコニーもあり、室内から見ることができるのは緑あふれる林。温泉の出る風呂もあって、外が眺められる。もちろん僕は入られない。濡れるのはちょっと苦手なんだ。 そして、ど

          小説「宇宙犬マチ」 第4話

          小説「宇宙犬マチ」 第3話

          七 結論 マチ 最終の宇宙司令への報告まであと三日。 地球上にいる三十人もの仲間からの報告は全て届いてきている。 その結果は、誰が見ても明らかだった。 でも、でも…… みんなの報告には注釈が付いている。全てにね。 その多くは、彼らが詳細に調べた国のトップや権力者たちには、利己主義が蔓延していて、 このままいくと地球は近いうちにもっと大きな戦争を起こし、破滅に進む。 そして間違いなく宇宙も巻き込んでいく、というもの。 しかし優しく、愛情が深く、平和を求めている一般の人たちがほと

          小説「宇宙犬マチ」 第3話

          小説「宇宙犬マチ」 第2話

           四 情報 マチ 僕たちはどうして犬に宿ったのだろう? 人間になってしまえば、もっと楽に地球のことがわかったのではないか? でも犬であれば、人間を客観的に見ることができる。 それに感情に支配もされないし、 短い間にいなくなっても不自然じゃない。 きっと、いなくなったら、おとうさんとおかあさんは悲しんでしまうだろうけど。 ハッピー兄さんの時みたいに……。 それを思うと辛い気持になる。初めての感情だ。   おとうさんは僕を連れて、いろんな所に行ってくれる。 車に乗ったり、自転車の

          小説「宇宙犬マチ」 第2話

          小説「宇宙犬マチ」 あらすじ~第1回

          【あらすじ】 宇宙全体に悪影響を与える可能性が出てきた地球。その実態を調査するべく宇宙指令から地球に派遣されたリサーチャーたちは、世界中の犬の中に入り込み地球の調査を開始した。日本ではヨークシャーテリアのマチという宇宙犬が調査にあたることになった。人間によって引き起こされる戦争や自然・環境破壊など多くの問題が蔓延する地球は、明らかに宇宙に悪影響を及ぼす存在であることが判明していくが、マチの飼い主ヒロキなど、各国の飼い主たちのあまりに優しい対応に悩む日々が続く。宇宙指令への報

          小説「宇宙犬マチ」 あらすじ~第1回