伊藤若冲「白象群獣図」格子画

佐藤康宏氏著『絵は語り始めるだろうか 日本美術史を創る』
驚いたのは、プライスコレクション「鳥獣花木図」が伊藤若冲作ではないこと。え~~っ、NHKで散々若冲作と喧伝され、被災地へ貸し出し美談まで報道されていたのに。
「白象群獣図」が真作、「樹下鳥獣図」が工房作、「鳥獣花木図」は作者不明模倣作と。
ところで本書表紙にはその真作「白象群獣図」(部分)が印刷されている。実物は方眼の1辺が9mmということだが、印刷では5mmなので約56%に縮小されている。
この900頁以上の大部を読む間つらつら眺めるに、この下地である「枡目」とは一体何であろうか疑問が湧いていた。
文章で説明すると長いが「まず淡墨で縦横九ミリメートル間隔に直線を引いて方眼を作り、その上から全体に薄く胡粉を塗る。そしてできた総数約一万個の方眼の内側をひとつひとつ淡い灰色に彩る。さらにそうやってできた灰色の正方形のすべてについて、その内側左上に寄せて、灰色の正方形の四分の一よりもやや大きいくらいの面積の正方形を、もっと濃い灰色によって塗り分ける。」
https://paradjanov.biz/jakuchu/colored/masume-gaki/302/
上記リンクの画像はやや不鮮明だが、本書表紙では最初に引かれた淡墨の方眼の罫線もはっきり認識できる。
と、TVをぼーっと見ていたら、天橋立にある寺院が紹介されていて、そこにちらっと寺院正面の右下から撮影された格子窓が映っていた。あっ、これはまさに若冲の「枡目」、いえ、「格子」ではないのか。
漫然と見ていたのでどこの寺院か聞いてなかった。
天橋立の寺院といえば、智恩寺か成相寺。画像検索するとどうも智恩寺文殊堂であったようだ。

この絵よりもっと寄った映像で格子が立体的に見えていた。
似た画像を捜すと、

これは「神社の物品庫の格子戸」(Bとする)である。「白象群獣図」(Aとする)と比べると、Bは正面から撮影されているがAは左上から見たように描かれている。背景がBは白っぽくAは濃い灰色。格子の見込み(奥行き)がAは見付け(正面の幅)より長く描かれているがBは左上からの影として現れている(見込みはAのほうが深い)。といった違いはあるが、「枡目」とは「格子」ではないのか。
そもそも「枡目描き」は、若冲より前例がなく、若冲自身が「枡目描き」と称したわけでもない。
伊藤若冲は青物問屋「桝屋」、通称「桝源」の出。ここから若冲本人や後世の人が枡をモチーフとする乃至したであろうと思っても不思議ではない。
だが、枡を目一杯下地にするとはどういうことなのか。紋様なのか。「升目紋」というのがあるらしい。東アジアの伝統紋様をモチーフにしたという。それを若冲が見た?
佐藤氏は「枡目描きが織物の質感を絵画で再現することに面白さを見出しているのだとしたら」と仮定ではありながら織物の質感を地とした可能性を指摘する。織物と関連付けられる根拠となった西陣織下図「正絵」とは方眼の大きさが共通するらしい(9mm≒3厘か)。
しかし、これが織物だろうか。こんなスカスカな。かつ糸感が全くない。むしろだから枡のように木材を組み合わせたと見たほうが素直である。

若冲は相国寺に30幅に及ぶ「動植綵絵」を寄進した。
ここからは妄想になる。若冲は、寺社に奉納するのに天井画・襖絵とは別の形はないのか考えていたところ、ふっ、と相国寺のファサード(正面)を見ると格子戸がある。この格子戸にプロジェクションマッピング(ゆうとうさんくさいさかい格子戸への壁画、つづめて格子画)を描いてみたらどないやろか。せやけどこの穴だらけで後ろが真っ暗、描きにくい木の上では思うように描けへん。せやさかい紙の上に、下地として格子を書き、ゆうても相国寺はんの格子まんまの大きさでは大きすぎるな、せや、西陣の正絵の目ぇくらいがちょうどよろしおすやろ。格子は紙本と同じゅうなるよう胡粉を塗る。その上にセロハン、当代はセロハンがまだおへんな。透明の膜や。格子の上に透明の膜を貼ってな、そこに透明絵具で(グワッシュでは折角の格子が隠れてもうてよろしない)白象、鹿の角だけ、麒麟、栗鼠、二匹の手長猿、月の輪熊、鼬(いたち)、方解石状の岩と水、ゆるかわに描いてみよか。印章だけ、膜に捺すのはしんどいやろ。別の紙に捺して貼っとこ。

ここで、セロハンを格子に貼ってから描いたという体になっているのであって、セロハンに描いてから格子に貼ったのではない。「下地の正方形の形が上に描かれる画の輪郭に影響している箇所はひとつもない」(佐藤氏)のであるが、方解石状の岩の縦の縁についてはすべて格子の縦見付け上に描かれており、格子を地として図が描かれたことが明らかである。
ゆるかわなので当初、表紙を見ている間、手長猿はマリモの妖怪、月の輪熊は貂(てん)か何かに見えていた。

これを書いている最中に、その費用ゆえに排除アートであるところの小池ファース都庁「電通、次の知事選もよろしくね」プロジェクションマッピングが凶行されていた。都庁の灯り窓が丁度格子のようにも見える。その前から、若冲プロジェクションマッピング仮説を妄想していたのであったが先を越された。

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