電信柱のある風景。
「この歯医者って、けっこう大きい雑居ビルの1階だったのね」
見えないものが見えるようになる。
実は、駅前という場所は雑居ビルの集積なのだが、ふだんは路面に並ぶ店に目が行くから、その上に続くビルの続きに目がいかないのだ。或いは、雑居ビルと雑居ビルの間のスキマであったり、ひっそりと掲げられているビル名だったり。
そんな雑居ビル散策ができるぐらいに、僕のメンタルには余裕が生まれているらしい。こんな時に見える、普段見えないもの達。電柱の上にあるゴミバケツのような形の柱状変圧器に絡み合うワイヤーの複雑さ。普段通らない道を敢えて通った時に出会う、地主のようなデカい家の勝手口の扉が半開きであること。遠くに見える入道雲と高速道路を走るクルマの対比。雨水を流すマンホールの蓋には、ひらがなで「うすい」と書いてあること。
普段の自分の生活には全く関係ないが、しかし、この世界で起きている色んなこと。この地域にも地主らしい人がいるということ。近くに分家した同じ苗字があったり、その名前が英語になったアパートや駐車場があったり。ロックフィールドって岩と田で、岩田さんなのね、みたいな。線状降水帯みたいな激しい雨が降っても、このマンホールの下に続く下水道網が、ちゃんと水を逃がしてくれるようになっているんだな、とか。
たまたま僕の人生で出会った人、出会った職業。その人たちのことは良く知っているが、そうじゃなくても、僕たちの毎日を支えている人がいて、きっと同じように仕事で悩んだりしている。地主さんだって、きっと親戚づきあいが苦手とか、そのグループの中で上手く自分の場所を見つけきれないで、ふさぎ込んでいる人もいるんだろう。
普段、僕は如何に見えているようで、見えていないんだろうと思ってしまう。結局この世の中は、僕が知っているモノしか見えていないのだ。雑居ビルに興味を持ったのも、仕事で配送に行ったり、不動産屋さんと話すようになってからだ。例えば、僕がバーテンダーであれば、この町は全く違う景色に見えているのだろう。
そうやって考えると、この人間が見ている世界というのは、如何にちっぽけで、自分勝手な妄想によって取りつかれているのだろう。こんな風に書いたけど、でも実際は、暑さによって薄着になった女性達に目を奪われてばかりなのだから・・・。本当に。女性の皆さんが男性脳になってこの世界を見たら本当にあきれ返ると思うな。まあ、そんなこんなで、仕事がひと段落した僕は、割とのんびりと街を歩いている。いい女を見れば、振り返るとウルフルズが歌っていたな、なんて思い出しながら。バンザイ。