150円の価値
お腹を満たしてさあ美術館だ。とずんずん歩いていると女の子に声をかけられた。「150円くれませんか?」見た感じ小学校1年生くらいだろうか。周りには割と人がいたのになぜ私なんだと思った。もっと気前の良さそうな人がいただろうに。
「何に使うの?」
「あそこのフクレルで遊ぶのにお金が足りひんからくれませんか?」
フクレルは小さな鉄道博物館のような施設だった。私にはそれほど面白そうな場所には見えない。
「お母さんお父さんはいないの?」
「お父さんはいーひん。お母さんは引っ越ししてるからいーひん。」
まずった。あわててはぐらかす。
「その風船で遊んだら?」
あからさまにムッとした顔になる。
「あきちゃった?」
「あきた」
「」
150円渡すのは簡単なことだった。さっきのレストランでちょうど50円のお釣りをもらった。
けれど。それは大人として、この子にとって、正しいことなのだろうか。わからなかった。
結局私は知らない人から物をもらうのはあまり良く無いことだから。と訳のわからない事を彼女に言ってその場を離れた。去り際に木の影でこっちをのぞいているちんちくりんな男の子が3人ほどいたことに気がついた。
何もなく彼女にお金を渡すのは間違いだったと思う。けれど私には彼女から150円の値段をつけて買える物があったのではないか?彼女の勇気でも。左手の膨らんでいない風船でも。なんでも。すっきりしないまま美術館に向かった。