好きこそ物の上手なれ(すきこそもののじょうずなれ)
好きこそ物の上手なれ
佐藤健一は、幼い頃から絵を描くのが好きだった。学校の授業中でも、ノートの端に小さなキャラクターや風景を描いてしまう癖があった。特に、自然や動物を描くのが得意で、絵のコンクールに出品するたびに賞をもらっていた。しかし、健一の両親は、絵を仕事にすることにあまり賛成ではなかった。
「絵なんて趣味の範囲でいいんだよ。もっと将来に役立つことを考えなさい」と、父親はよく言った。
健一も一時は父の言葉に従い、大学では経済学を専攻することにした。友人たちと同じように就職活動をして、大手企業への内定も手に入れた。しかし、どこか胸の中にぽっかりとした空洞が残っていた。絵を描く楽しさを心から捨てきれなかったのだ。
ある日、健一は久しぶりにスケッチブックを広げた。何となく手を動かし始めると、自然にペンが走り、いつの間にか一枚の風景画が完成していた。それを見た瞬間、彼の中で何かが弾けた。絵を描くことで得られる充実感を再び強く感じたのだ。
「やっぱり、絵を描くのが好きだ」と健一はつぶやいた。
それから彼は、仕事の傍ら、少しずつ絵を描く時間を増やしていった。夜遅くまでデスクに向かい、休日もスケッチブックを手に持ち、街や自然を歩き回った。描くたびに腕が上がり、次第にSNSで絵を投稿すると多くの人が彼の作品に注目するようになった。
そんなある日、地元のギャラリーから個展の依頼が舞い込んだ。初めての個展だったが、健一は恐れることなく挑戦した。展示された作品は評判を呼び、さらに次の仕事の依頼が舞い込んできた。
健一の両親も、個展を見に来てくれた。父親は少し戸惑いながらも、誇らしげに息子の作品を見つめていた。
「お前、本当に上手になったな」と父親はポツリと言った。
「好きなことだから、続けていられたんだ」と健一は笑って答えた。
それから数年、健一は本業の傍ら、フリーランスのイラストレーターとしても活躍するようになった。多忙な日々ではあったが、絵を描くことが楽しくて仕方がなかった。好きだからこそ、自然に上手になっていったのだ。
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