子は三界の首枷(こはさんがいのくびかせ)
三枝(さえ)は、30代半ばのシングルマザーで、5歳になる息子・大輔を育てていた。彼女は、家庭と仕事を両立させるため、昼夜問わず奮闘していたが、ふとした時に心の中で「子は三界の首枷」ということわざを思い出してはため息をついていた。
子どもの存在が縛りになるわけではないが、将来の不安や責任の重さを感じる時、この言葉の意味が身にしみるようだった。友人たちが自由に旅行を楽しんでいるのを聞いたり、仕事に全力で打ち込む同僚たちを見たりするたび、三枝は自分の「自由」が失われているように感じてしまうのだった。
ある日、大輔が熱を出した。いつも通り出勤する予定だったが、彼の熱が下がらず、三枝は急きょ仕事を休むことにした。会社に電話を入れると、上司から嫌味混じりの言葉が返ってきた。「大輔、こんな大事な時にどうして熱なんか…」と心の中で愚痴りつつも、懸命に看病を続けた。
数日後、病み上がりの大輔が元気に走り回る姿を見た三枝は、彼が母親にしか見せない無邪気な笑顔を浮かべて「おかあさん、いつもありがとう!」と言った。三枝の心の奥にあった「首枷」と感じていた重みが、少し軽くなったように感じられた。その瞬間、自由の代わりに得たものの価値が、何にも代えがたいものだと感じられた。
三枝は静かに微笑み、これからも頑張ろうと心に誓った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?