残酷でない暗黒街 下
艶めいた黒木の店内は淡い黄色の電灯を五つものせた照明でかざられ、その光に照らされた沢山のパンがならぶ商品棚や会計との間には緩やかなカーブをえがく間仕切りがあり、その落ち着いた雰囲気はキアーロの実体弓野明の心に、安らぎを与えていた。そうここは彼のうまれ育った町でも駅からは大分離れたところにあるパン屋。テレビや雑誌で紹介されるほどの店なのだが、緑のスラックスに黒のセーターを合わせた明はこのまったく私的な時間のためグロートを円に替え、目の前に座る女性にパンをご馳走していたところだ。その白いブラウスを汚さないようにしてコーヒーを飲む人は彼の幼馴染で、名が中里美歌。細身の色白で眉は大きく緩やかに上がり、口紅のひかれた唇は下のみにやや厚みがあり鼻筋が通って美しい顔立ちだが、中でも特長的なのは短く波がかった金色の髪と、妖艶ささえ感じさせる冷熱を併せもったような瞳。だが幼馴染とはいえそんな相手が自分に語りかけているというのに明の思考はお気に入りのパンを一つ食べ終わっただけでガラミールの抗争へと向けられ、いつの間にか目の前にすわる相手はアン・クールアイズに、そしてまるでパンのようにふっくらとした椅子は色が赤であることも相まって、その血へと変わっている。
「あっ…!」
「どうしたの?」
勿論そう訊いたのは美歌。明はアンがそう簡単に死ぬはずはないという想いから現実に帰ってきたようだが、心ここにあらずは見抜かれている。
「せっかくの美味しいパンなのにっ。勿体無いじゃない。またマフィア仲間の事でも考えてたんでしょう?」
「い…いいや」
そう美歌は久しぶりに幼馴染と会ってしかもご馳走になっていたので、その気分を害したくない明はまるで広告を見ているような感覚だったと、嘘を言う。
「広告?」
「ああ、最近ネットワーク依存があるみたいで、きっと君を見て何かの広告を見ているつもりだったんだ。だから美人でも見憶えがあったんだなー。美人といえば広告だし。そういえば普段ワードをメモ代わりにしてるんだけど、仕事で失敗した時にも脳が元に戻すボタンを押そうとしている時があって、怖くなる。困ったものだ」
「…そうですか。でもここのパン本当に美味しいからいいや」
「だろう?値段は二、三倍だが、美味しさは十倍だ」
その明はまるでアバターを現実にしたように端整だが、地元で有名になるほど美人の美歌に比べるとまったく目立たず、唯一騒がれた彼女の幼馴染としての瞬間にも触れ機嫌をとろうとしたのだが当の本人はまったく意に介さず、話題をすぐにガラミールの抗争へと戻す。そう実のところ彼女は明から今迄ガラミールで起きた全てのことを聞いているので、自分なりの意見があって当然だ。
「でも君、本物のマフィアみたいな奴を相手にその道のやり方で戦ってたら、負けちゃうんじゃない?」
「…ああ、だからオレも何とかこっちのやり方に持ち込めないか考えてはいるが、一度騙した相手だからな」
「それもそうだね。でも私が言いたいのはそういう事じゃなくて、もっと表の世界らしく戦えばって事」
「うーん、意見はありがたいが、あのガラミールという地では人殺しさえ認められているから、ロブストを警察に引き渡すのも難しい。そうたとえできても利用規約違反をさせるだなんて、善良なファミリーがしていい事じゃあない」
「それは立派なボスの思考でいいけど…何か君は、巨大ファミリー巨大ファミリーって、そればかりを考えてる気がするんだよね。それだと、ただ敵を過大評価してる事になるでしょう。だからもっと敵を調べないとね。するとそこには、弱点もあるんじゃない?」
「あ…それも一つの手だな!もっと食べてくれ。今は人生で一番金がある」
「ご馳走様です」
そう言って素直に感謝する美歌。明も両親への感謝を表すため服や電化製品などを買う用意はしているが、それを少しでもいい物に変えるにはまず、メーツベルダを守らなければならない。そこで改めて真剣に考える彼。その思考は楽しみをより大きなものに変えるという嬉しい難題に直面している。うーん…確かにレットーラやアバード、それにアロマやデルフィーノなんかも既に顔を知られているし、敵を調べるのは難しいよな。そうなると探偵を雇うのも一つの手だ。きっと彼彼女らならファミリーを有利に導く情報を、つかんでくれるはずだ。そう彼の思考はそこへゆき着いていた。
昼間でも薄暗く青い霧に包まれたような森。その赤い土のうえを走るのは丸みを帯びた白い小型車でそれには持ち主のアレッタと彼女が途中でひろったシモーニが乗っていた。そう他よりほんの少し遅れた二人はバルナの礼拝堂でそれぞれバレンティーノのソルジャーに声をかけられ、会合場所が南にあるダースンコーズの山小屋になったと聞いてそこへ向かっているのだが、森は静かで心細く、世間話をして気を紛らわせていたところであり、アレッタにばかり気を遣わせては悪いので、話題をつくるのはシモーニだ。
『静かなのはいいが、ここには狼も出るらしい。大丈夫か?』
『ああ…私も聞いた事がある。でも人がダメージを受けていても一頭では襲って来ないらしいから、大丈夫だよ。だってシモーニが心配してるのは、私が途中で車をとめて湧き水を飲んだり木の実をあつめたり、釣りをしないかでしょう?この状況でそんなことができるのは、カツミくらいじゃないかな』
『森ではそんなことまで出来るのか…!オレはついさっきハンターに会ってやっと狩りができる事と、その許可を得るハンターズキャビンで手に入れた肉と毛皮を売れる事を知ったんだ。凄いよなぁ』
『ええ抗争に決着がついたら、皆で狩りをしてもいいね』
『ああ、そうだな。だがあんな風にハンターの衣装を着てライフルなんか持ってたら、暗黒街の雰囲気が壊れるんじゃないか?森にいる間だけだから…いいのか』
『フフッ、さすがね。ガラミールには来たばかりでもゲーマー。ハンターズキャビンでは何種類かの釣り竿やライフルやショットガンを借りられるけど、その服や装備を持って行動できる範囲が決まっていて、注意を無視して出ると狩りの許可を失って、普段の服装にもどるの。日に二回までなら獲ったその場で比較的高い経験値を得られる肉を食べる事も可能で、時々ハンターが増えて大猟になると、町で売られる毛皮製品と肉料理の値段も下がるらしいよ。楽しいよね』
聞いて感心するシモーニ。またアレッタいわく湧き水は無料であるのに加えレストランで出されるただの水より経験値が高く、木の実は売ってしまえば安いが比較的高い経験値を得られるという事でシモーニの関心は高まる。
『じゃあ森に来ないのは損だな』
『そうね。でも獲物に逆襲されることだってあるし、獲得できる経験値なら料理店で出されるものか腕のいいプレイヤーがキッチンで作ったものの方が高いから、どうなんだろう。あと稀に毒蛇にかまれて死ぬ人もいるらしいから、やっぱり寄り道はやめようね』
『即効性の毒か?』
『いいえ、大体店で売っている毒と同じで遅効性だから病院へ行くまでもてば助かるらしいけど、前に一人だけ数秒で死んだって人と会ったよ。あっ…着いたかも』
とそこで道が白い砂利へとかわり先の西側に見えたのは、淡い赤の屋根に壁が灰色の小屋。それは東西に長い平屋で南側中央の開け放たれた扉の前にはアバードとシンが立ち、車を降りたばかりの二人に声をかける。
『おお、来た来た。ここへ来るまで誰にも見られなかったろうな?一応EAに友好的なバーンズファミリーの縄張りで、この小屋もそのドンの好意で借りられた訳だが、今は慎重に行動しないと』
『私達もまだ数分前に来たばかりだよ。だってありがたいけどこのロビンソンやバレンティーノの好意そのものが突然で、罠かも知れないってここへ来るまで少し、迷ったんだから』
聞いてハンターに会ったと言うシモーニ。だがアバードは、その男なら自分達も見たと言ってむしろ安心し、今度は彼がアレッタの質問に答える。
『見張りは必要?だって二人も、会合に出ないと』
『ああ、少しでも抑止力があった方がいいという理由で見た目が派手で強そうなシンと体の大きなオレが立っているが、気にするな。しばらくしたら遅れて来るリードかロッコと交代するさ。それに扉は開けてあるから中の声は聞こえてる。だからさぼってはいないぞ』
聞いて納得しながらもその冗談には笑い小屋へと入るアレッタ達。部屋の中心には大きく長い木目をいかしたテーブルが置かれ、その一番入口に近い椅子に座るエルネストは手をあげると西の部屋にはベッドやアイテムを仕舞える棚が、東の部屋にはキッチンがあってその南はシャワー室だと教えた。つまり実世界に用ができた時には西の部屋でセーブしろという意味だと理解し、一見してたくさん空いている西側の席にすわるアレッタ達。よく見ればキッチンへ向かう部屋の前にはその北側にキアーロが立ち、その前にはチャーチ、アロマ、カメーリャ、ギャスマン、それにコーテルが並んでいるので、来たばかりのアレッタにも殺された仲間が励まされているのだと分かり、また五人の中でもキアーロのすぐ前に立つのはチャーチ。彼は死ぬまえと変わらず黒いボーラーハットとロングコートを身に付けているが、今アレッタが見ても恰幅のいい初老の男で、その胸には金の十字架が光り、キアーロはそれを見ながら会話を続ける。
『ああ、友よ。服はまた買い揃えたのか…。大変だったなぁ』
『いいえドン、私達カンパネッラの服は高級でも希少でもないので誰にもとられず、気付いたら着せられていたのです。ご安心下さい』
つまりそれは死んでしばらくゲームを離れた後新たな体を作る時にはそれに初めから着せられていたという事らしく、つづけて死んで送られる人物作成画面でも、その時島で売られている服であればすぐ買いなおせると教えるチャーチ。また特に彼が気に入っているのは、死者から服は奪えてもその見かけに変化は与えない事らしく、それを耳にしたキアーロは実のところ島に来てまだ一度しか殺されていないので大いに驚き、そのことで反対にチャーチも驚かせる。
『ではその一度だけですか。さすが争いを避けるドンだ』
『ああ、という事は…私室に十分なグロートさえあれば、店を回らなくても買いなおせるんだなぁ。とても便利じゃないか。それに、服は奪えてもその見かけに変化は与えないというのも、正解だ。それはいくら敗者に対するものでも、過ぎた侮辱だろう』
そこでキアーロに挨拶をしていないと気付き、立ちあがるアレッタ達。だが丁度その時仲間に対する激励も終わったようでテーブルの北側でも中央のカツミとレットーラの間に座ったキアーロはアレッタとシモーニにも座るように促し、その二人に今夜は暇かと訊ねる。それに時間はあると即答する二人。だがキアーロはその理由を後で教えるとしながらもまず今いない仲間の話を始めた。
『ファルコとペスカーラに、アンとリード、そしてパーティーから顔を出していなかったパメラとデポーターも夜には来れるというし、リカとロッコも今こちらへ向かっているから、安心しろ』
聞いて二人で手のひらを合わせるバイカとデルフィーノに、何度も拳をかかげるキャメロン。またそこでキアーロに指名されたミラーは、素性を隠した自分がレットーラやアバード達の集めたフルムーンを持って心在寡烈を手に入れ、カンパネッラの安泰点を12まで引き上げたと言い、拍手や口笛で賑やかになる室内。カツミとレットーラは立ち上がって握手し、それにアレッタもウィンクを見せながら言う。
『いいねっ。これでかなり危険だった安泰点は12!それにアロマ達は残念だったけど、またこうして来てくれたからには、明るく再開できるよ…!』
よって実直なギャスマンやベティーも安心したようだが、何故かその瞬間からキアーロは頬杖をついてその東にいるレットーラは頭をかかえ、西にいるカツミは肩をすくめといった仕草を見せたので、そんな三人に訊くのはアレッタ。
『えっどうしたの?それは六人もやられたけど、まだ取り返せるじゃない』
答えたのはキアーロ。
『ああそれなんだが実は…この場にいないセイン・スゾーとメイ・カタナそれにインパットの三人は』
だがそこで…バタンッと力いっぱい車のドアをしめてすぐ小屋へ飛び込んできたのは、リカとロッコ。その慌ただしさにカツミやリッキーらは立ちあがって銃を出したが、追手はないと見定めたアバードとシンも入って来たので、リカは叫ぶように言う。
『もう聞いてるかみんな!もう聞いてるかドン!リードが、リードがクーパー共にやられた!』
『何だって?……くそぉ!』
言って思わず立ち上がったがすぐ座りなおすキアーロ。皆も揃ってリカとロッコから事情を聞けば、昨夜同じグループだった二人はカタランの霊園近くまで逃げていたのでここまでも一緒に来たが、途中その車を見かけたリードから電話があり、そのままUターン。だが迎えに行ったそのゲデルにある不動産屋の前には彼とクーパーファミリーのソルジャーが倒れ、その周辺への聞き込みからリードの殺害を知ったというのだ。それでも悲しんでばかりはいられず、まずその行動を称賛するキアーロ。
『だがよくやった。よく調べてきたな二人共』
ロッコはリードがやられたのを肩をすくめて残念がっているので、答えるのはリカだ。
『ああ、やったのは確かにクーパー共だ…!あいつら、メーツベルダに越そうとしていたリードにオレ達がもっといい部屋を紹介してやると言って、墓場へ連れて行こうとしたらしくて、それに怒ったリードを四人がかりで殴ったんだ。それで、たまたま周りにいた何人かが止めようとしたところで逃げたって言うから、きっと計画的だぜっ』
それに口を開くのはリッキーとミラー。二人もリードの人の好さは知っているので、言葉には怒気がこもる。
『はんっ!数だけの野郎どもが!島に来て間もないリード相手にも四人がかりかよ。じゃあリカ達に電話した時から既に、目を付けられていたかもなぁ』
『確かに戦歴には、リードが殺されたとある。まったく次々と…!』
だがそこで戦歴にあるカンパネッラの安泰点11、クーパーの安泰点37という数字に手を止めるミラー。金縛り作戦の時には不意を衝いて三人を殺し、リードが一人を道連れにしたとしてもクーパーの安泰点は49のはずだが、それにはリッキーが答える。
『ああ実は…金縛り作戦があってすぐ、クーパーファミリーにいる昔からの知り合いを訪ねてなぁ、おおー大変な事になったなぁ…なぁんて言ってきたそのカポとソルジャーを一人ずつ殺しておいたのさ』
聞いて喜びの声をあげるカンパネッラ。そしてキアーロより先にリッキーを称賛したのはエルネストだ。
『おいおい、何で言ってくれないんだよリッキー。驚いたぜぇ!』
『ハハハッ!オレの方こそ、何で誰も訊いてくれないのか不思議だったぜ』
それにキアーロがリードならすぐ戻ってくると言ったので一同はやや明るさをとり戻したが、ミラーはまだクーパーが多群剛然を使っていないと指摘し、コーテルはリッキーが嫌いなだけなのか勝手な事をされるのも怖いなどと呟き、アロマも現実的だ。
『それでも11対37。大きく押し返したようだけど私なんて、銃も無いわ』
またそこでリッキーに気にするなと言うのは白いセーターに紺色のスラックスをはき、赤毛の長髪をオールバックにしたウィリアム。彼はパーティーから来ていなかったのでコーテルとリッキーが醸し出していた因縁を知らないが、もしも知っていたとしても人を簡単には嫌わない男だ。
『あんた最高だぜっ。一人で11点も取っちまうんだからなぁ』
『ハハッ!つい数日前までは違っても、今は敵だ。加減はいらねぇ』
またそこで明るくなった仲間を見て安心したリッキーはロッコと共に見張り役のアバードやシンと交代。キアーロは素直にリッキーを称賛したウィリアムを両手で指差すとカツミ達に拍手をうながし、リカとロッコにも今夜は暇かと確認してからアロマが口にした銃の話を持ちだす。
『それで銃なんだが…実はここにメイ・カタナから贈られたリボルバーとピストル、それにスナイパーライフルがある。だからアロマも、好きなものを選んでくれ』
そう言ってキアーロがテーブルの上に三丁をならべたのでアロマはピストルを、ギャスマンとコーテルもそれぞれスナイパーライフルとリボルバーを取ったが、その贈り物という言葉を訝しく思ったのは、アレッタとバイカ。
『嬉しいけど、何で?まさか仕方ないけど、しばらく休むとか…』
『ファミリーを出るのか?』
そのバイカに頷くキアーロ。するとその説明はカツミが引き受けてくれた。
『実はメイの奴、月に4、5万稼げればいいだけなんだが島に顔を出せる時間が他のプレイヤーより限られているらしくて、死んだりその時に何もかもを奪われたりしてしまうと生活が苦しくなるという事情を抱えていたんだ。だからまあ、初めからクーパーなんて大ファミリーと抗争するとは思っていなかっただろうし、許してやってくれ』
それにバイカは細かく頷きながらあまり責めるのも可哀相だと言ってくれたが、他に気になる事があるのはレットーラとデルフィーノだ。
『そういえばだが、その銃はどうやって手に入れたんだ?』
『ああ、いくらファミリーをぬけた人間でも善良さを胸に行動していなかったら、注意すべきだよな。十分な理由なく奪ったものなら…返す必要もあるぜ』
だがそれについても確認していたキアーロ。
『リボルバーは貰ったもので、他死体から奪った銃も仲間が回収しに来そうだったら、取らなかったらしい。しかもメイによると放って置かれた銃は黙っていれば悪人か金目当ての者が持っていくのは明らかだから貰っても大丈夫だと思ったらしいが…二人の道徳観に障るかな?』
聞いて首を振るレットーラとデルフィーノ。よってキアーロはメイに会ったなら銃の礼を言うようにと諭し、その問題は解決。残るはセインとインパットの問題のみとなったが、そこで腕組みをするキアーロ。バイカとデルフィーノはそれを見て何かあったに違いないと察したが、アレッタにはまったく分からず、彼女はカメーリャと内輪話。そこではカメーリャの銃の話をしている。
『じゃあマシンガンでいいなら、私の予備を使って。もしもファミリーを出たくなったらその時に返してくれればいいからさ。無理せずに頑張ってね』
『えっ、あるの?ありがとうー!』
『奪われたとしても代わりを探しましょう。上手くやれば安く手に入るよ』
という事でカメーリャはアレッタの優しさに感動しそこは和やかな雰囲気となっていたが、そこで突然声を張り上げたのはバイカ。アレッタとカメーリャも目が覚めるような思いで見るとその場には、キアーロが状態の通知によって明らかにしたインパットがファミリーを抜けたという報せと、何よりセインからの手紙があり、それが以下だ。
今もカンパネッラに忠誠を誓う馬鹿共。お前らは何で結成したばかりなのにクーパーなんてでかいファミリーと揉めたんだ?正義なんて何の役にも立たねぇってのに…。もしもオレがドンなら詫びを入れて、金も払うね。それがいいと思うぜ。せっかく稼げるかも知れねぇってのにカツミやリッキーなんて力馬鹿の為に死ぬのは御免だねぇ。まあ後でクーパーから炸裂弾がお見舞いされるかも知れないが、怨むなよ。
『襟首つかんで引きずり倒してやるぜ!オレに命令してくれよドン!あの野郎ぉ』
だがそんなバイカに言うキアーロ。
『気持ちは分かる。だが、挑発には乗るな。それがお前やこのファミリーの為だ』
またそれに頷いて言うのはレットーラだ。
『そうだ紹介したオレだって不愉快だが、もしもあいつがクーパーに入っても殺して得られるのは1点だぜ?それが罠だったら、ますます不愉快だ』
『それはそうだがっ、わざわざカツミとリッキーを馬鹿にするなんて!』
そのバイカと同じ気持ちなのはカツミ、リッキー、そしてキャメロンにベティー。セインは自分が殺された事も相まってカンパネッラに逆恨みし怒りを感じているようだが、彼彼女らのそれは倍以上だ。
『さすがに殴ってもいいよなドン?言葉で言い返すのも情けねぇし、ここはガラミールだぜ?』
『ああオレが会ったらむしろ半殺しにして、力馬鹿って言わせてやるさ』
『イェー!クーパーに怖気づいた口だけ野郎を血祭りだー!』
『ドン、本当に放っておくの?なめられちまうよ…』
そこでしばらく考えるキアーロ。数秒後にでた結論は、もしもセインが悪のファミリーに入ったならその場合にかぎり、必ず素性を隠した三人以上で戦う事というものだが、補足するのはレットーラだ。
『うーん…オレも経験値と相談して素性を隠すを覚えるかどうか決めるが、殺しても抗争扱いにはしないようにな。悪いのはあいつ個人だ。それに可能性は低いが、もしも奴が善のファミリーに入ったならその時にはずる賢いオレや、アバードに任せろ。奴がどういう人間か、それとなくそのファミリーにも教えてやるぜ』
それにも声を大にして賛成と叫ぶキャメロン。コーテルさえセインは信用できなかったと罵りはじめたが、キアーロはレットーラの案にさえ許可を出さず、もしもセインが善のファミリーに行った場合にはその改心を信じて何か疑わしい部分が無いかぎり放っておくようにと言って皆を落ち着かせ、残るインパットについては簡単に説明。要するに彼はいつの間にか消えていたのだとやや寂し気に言葉をきり、そこからが仲間を喜ばせるサプライズ。だったのだがまた外からは何故か夜までは来ないはずのファルコの声が聞こえ、それにリッキーとロッコの声も混じったので、一同は黙って耳をそばだてる。
『じゃあここは店じゃねぇのか。占有できねぇのかよ』
『そうさ。だがこういう場所は他にもあるぜ。ハンターズキャビンもそうだろ』
『ああ、大体の山小屋は占有不可能で、つまりは地下鉄の改札や郵便局それに消防署なんかと同じ扱いなんだぜっ。そういえば、公衆電話なんかもそうだな』
『へぇ、ここにも縄張りを手に入れたのかと思ったぜ。じゃあ、金にはならねぇんだなぁ…』
『だがここなら料理は作れるし、シャワーと電話、それにセーブする為のベッドも使える。上等じゃねぇか。占有はできるが縄張りのすぐ南にぽつんとある、バザの案内所の方が使えねぇよ。チップス工場の警備員が使う小屋かと思ったぜ』
『ああ、何言ってんだリッキー。あそこだって色々便利なんだぞっ。占有する個人やファミリーの紹介それに一帯の見どころを掲載したり、日に一度お菓子を貰えたり、従業員には訪ねてきた人物をソルジャーに誘うように言っておけるし、奥にある休憩所をセーブポイントにできるんだ。それにプレイヤーの投資次第ではグレードアップも夢じゃねぇ』
『ハハハッ、ロッコお前意外と物知りだなぁ』
『まったく細かい事ばっかり勉強しやがって。これからはもっと派手にいこうぜっ』
だがそのリッキーに理解を求めるロッコの訴えはつづき、長引きそうだと思ったファルコはついに中へ。キアーロ達に挨拶をしたまではいいが席に着くと突然、無理なことを言い出す。
『なぁ、悪いがオレは子供もいて金が必要なんだ。今すぐもっと稼げる商売をしねぇか?』
『たとえばどんな?』
そうファミリーは危機的状況にあるが、一応訊いたのはカツミ。他も昼間にきた理由を訊きたかったがあるいは単にどうしても金が必要なのかと思い、黙っている。
『そうたとえばオレが考えたのは、EAの勢力圏でクーパー共を締めあげて、身ぐるみをはぐっていうアイディアさ。いい金になる』
『…な、何?お前クーパー達がおいしい実の生る木で、自分達を鳥だとでも思ってるのか?どんなに楽観的に見てもあいつらは狼の大群で、オレ達は虎や猪あるいは狐や鹿かも知れないが、鳥じゃあない。どこにも逃げ場はねぇんだっ。だからもしも奴らが押し寄せてきたら互いに犠牲を出して、少ないオレ達が負ける。それは分かってくれよ。こっちには十分な用心と、何かあっと驚くような、策が必要なんだぜ。それも無いのにお前が言うような真似は…!』
『ハハッ!何でオレ達はみんな鳥じゃねぇんだ?オレは翼があるつもりだぜー』
『おいおい、状況はかなり厳しいぞ。稼ぎたい事もあるがオレ達ゲーマーはこんな面白い場所を離れられないし、仲間や可哀想な奴らを見捨てられないから、島を飛び立てない…!つまりそう簡単に、鳥にはなれないのさ。もっと慎重に考えようぜ』
『だが二人の子供がいるんだ。ほんの…2,000Grほどでいい』
『それぞれ2,000か?ゲデルでクーパーを見つけられなかったら、どうする?』
『ああ、できれば…4,000くらい欲しいな。それにゲデルに居なかったら、もっと奴らの縄張りに近づけばいい』
『おいおい…!だったらやっぱり反対だ。何か深刻な事情でもあるのか?レットーラ達の策が成功してEAがバックになってくれたから、今こうしていられる』
それに言うのはシン。彼女は一応キアーロが邸を建てる際に助言した責任があるのでファルコの案には賛成できない。
『だって抗争が長引くかも知れないから、本棟は慎ましくてもいいけど、防衛棟は強化しておかないと…!クーパー達はこのままじゃあEAのせいで私達を殺せないと思うかも知れない。そうなったらダイドの言うように、バレンティーノを蹴散らせるだけの数で一挙におし寄せて、そのまま私達はやられちゃうかも知れないじゃない。その狙いが邸だったらどうする?』
『まだそんなに危険は無いだろー。バレンティーノを蹴散らしてしまったら他のEAだって本気になる。もっと稼ごうぜドン』
だが肩をすくめて首を振るキアーロ。そのドンを助けるのはアバード、アレッタ、それにギャスマンだ。
『まあ落ち着けよファルコ。何があったかは知らないが、オレだって子持ちだ。そう急がなくても何とかなるさ』
『そうよ。私だって今から夫や子供達の為に、夕飯の支度をするんだから。家族には相談したの?』
『ああ、私にも娘がいる。急いては事を仕損じると言うじゃないか。無理して死んで、仲間や金を失うのは目に見えてるなぁ』
その意見に安心したキアーロだが、このままだとファルコが可哀相にも思えたので一度用を足しに帰るというリッキー、アレッタ、エルネストが居るうちに重大なサプライズを発表する事に…。よって涙ぐましく食い下がるファルコに手のひらを見せた彼は立ちあがるとテーブルに両手を突き、皆に沈黙を求めた。
『ええ…では、これはファルコにとってもいい情報だから、私が皆に今夜は暇かと訊いていた理由を、説明しよう。そう実はまだカツミやレットーラにも言ってなかったが、我々カンパネッラは今夜全員が…レモエリスタで開かれるファンガイのパーティーに出席すると決まった。おめでとう…!』
『おおっ!』
『おお、すげぇじゃねぇかー!』
そう叫んだのは一度帰るために立っていたエルネストとリカ。他も様々に喜びを表現しているが特にエルネストはファルコに同情し、その背中から声をかける。
『よかったじゃねぇか!これでお前の望みも叶うってもんさっ』
『ハハッ…そうだな』
しかもそのファルコに声をかけたのはリッキー。何と彼はファルコにある用心棒の仕事を譲ってくれるらしく、その報酬は500Grだという。
『え…いいのかっ?』
『ああ、いいさ。実はその依頼人が苦手な相手で、それでも悪い奴じゃねぇからどうしようかと思ってたのさ。そうご指名はオレだが、お前でも最低500は出してくれるように、言ってやるぜ。やるか?』
『それは嬉しいぜっ。でもリッキー、オレだってたまにはそういう仕事を貰えるんだぜ?それでもくれるっていうのか』
そう訊いても頷くリッキー。またそれは本土のマフィアとの取引を見守る仕事で、用心棒の役目以外にも助言したり荷を運ぶのを手伝ったりするらしくそれらも含めての500Grらしいが、場所は西部の港なのでクーパーファミリーと関わる必要もなく、ファルコはリッキーと握手。
『恩に着るぜリッキー!』
そう言って立ちあがると調子を一転。キアーロやカツミに明るく挨拶して出口へとむかうファルコ。強く言い過ぎたと思ったのかカツミは彼にかけ寄って軽くその肩をたたき、キアーロはファルコの勇気と行動力を褒めながらも今は無理だと理解を求め、カツミにはいい議論だったと褒めながら、彼がクーパー達にやられたアロマ達を連れて気晴らしに行きたいというので、その許可を出す。
『いい案だっ。楽しんで来い』
だがアロマはファンガイのパーティーに興奮する他を尻目にキアーロとカツミの前まできて、気晴らしには行かないと言い、その訳を訊くキアーロ。
『何故だ?きっと楽しいぞっ。それにカツミ、予定はどうなってる?』
『ああ、ヒーズアウトとフクジンでショッピングして、射撃場にも行く。そしてその後は、ダチカール側にあるっていうホテルを見てこようと思ってる』
聞いて素晴らしいと言うキアーロと、その輪に入ってきたのはレットーラ。
『じゃあ、オレとアバードはシンとデルフィーノそれにベティーも連れて、いい商売と取引がないか探しに行こうっ。当然チャンスがあればクーパーの情報も手に入れるぜ』
『無理はするなよ』
『カツミには悪いけど、それなら私もレットーラと行きたいわ』
だがそんなアロマに言うのはカツミ。
『一体何故?今訊いたらカメーリャも、ギャスマンも行くって言うのに』
『だってやられたままじゃあ…悔しいじゃない。何かファミリーの利益になるか、クーパー共に一泡吹かせてやりたいわ』
それを聞いたレットーラはアロマと他数名に店の売上を回収する役目を頼もうと思ったが、キアーロがまだ要らないというので計画を変える。
『じゃあアロマはこれからアパートを買いに行くドンを助けてやってくれ。どうだ?』
『いいわ。考えてみれば調べものばかりだと、つまらないもの』
それにキアーロとカツミも納得したのでこれからカンパネッラはパーティーまで、三つのグループに分かれて行動すると決まった。そうこれからキアーロが買いに行くアパートとは実のところ霊園で開かれた会合の最後にレットーラが仄めかした一軒。それを念押しで確かめたキアーロは邸のことも思い出したが、その被害の確認を忙しいレットーラ達やクーパー達にやられた仲間のいるカツミ達に任せる訳にはいかないと、同行するリカやバイカにも怒りをおさえるよう頼んでいた。煉瓦壁に囲まれたカンパネッラ邸は古めかしいカーキ色の建物が並ぶメーツベルダでも、一際目立っていた。その前に立つのはレットーラの情報を頼りにパン屋が併設されたアパートを買いにきたキアーロ。携帯電話を片手に話す彼の周りにはリカ、バイカ、アロマ、シモーニ、ロッコ、ミラー、ウィリアムがいてその会話が終わるのを待ってまず邸の被害を確認しようというのだがそれはいっこうに進まず、反対にキアーロと彼に山小屋のお礼を言われたダースンコーズの支配者ドン・チェスターとの会話は弾み、次々と有益な情報が入ってくる。そうまずは…パンゾベルダの騒動について…。これは驚くべき事に、当初はEAが二割ほどの縄張りを押さえられると見込まれていたが、実際には一割にも満たず、その原因は主にドン・ルードが他にくらべ実に十倍からそれ以上の用心棒代をとっていた事と、抗争に巻き込まれるのを心配した店の所有者達がほぼコルボ側についた事であり、当然強く憤ったキアーロはその気持ちをファンガイの友人でもあるチェスターに伝えておこうと、なかなか電話を切らなかったのだ。
『何てことだっ。これでまたファンガイ達の思い描いた平和は遠くなってしまった!』
『ああ、今個人のものになった店もあるが、元々一人で数軒の店を持っていた個人まで、ほとんどコルボ側についたからなぁ…。しかもあのルードは、その貯め込んだ金をビトーリオに会う直前数人の仲間に預けたらしくて、それを奪い合うために元グランの一部が内部抗争を始めたというから、厄介な話さ』
『信じられんっ。あの卑怯者…!死んでからもファミリーの仲間やEAに迷惑をかけるのかっ…。大体、そんなに金が惜しいなら私室の金庫に入れておけばいいだろ。何故預けたんだっ』
『奴め、初回サービスの金庫より少しだけ大きいものを買ったから、それには3万Grまでしか入らなかったのさ』
聞いて言葉を失うキアーロと、彼からその額を聞いてまた怒りを露わにするバイカ達。そう聞くところによるとルードはアメリカ人でプレイヤーがドルと交換する時の相場は1Grが79セントなので、既にその金庫は約2万3,700ドルもの大金が満たしていた事になるが…。
『じゃあそれに入りきらなかった分か』
『ああ、男っていうのは馬鹿な生き物で、自慢したくて隠し事ができない。だから噂ではルードの奴5万Gr近い金を置いて逃げたらしいから、どうしようもねぇよな。後で裏切られたと知って、泣くだろう。ファンガイなんてそのルードの事があるからコルボについた店の所有者達を怒る事もできなかったし、寧ろ人をやってビトーリオに所有権を渡したら殺されるぞっ…て警告を与えてやったんだ。それも不憫だよな』
『同感だ。それにこの事を知ったクーパー共が笑っているだろうと思うとなおさら赦せないっ』
『ハハハッその通りだ。最近はここがケラクダインベルダの隣という事もあって、クーパー共が入ってくる。それも何とかしたいと思っていたのに…。でもまあ、あんたとは知り合えてよかったよ。また何かあったら言ってくれ。ここは田舎だがそれだけにあんたの町には無いものもある』
そこで待ちきれないアロマ達は一言断ってリカとバイカそれにミラーを残し、一足先に邸へ。ただアロマ達と同じ気持ちのキアーロもチェスターの好意はありがたく、バーンズファミリーのことも気遣わざるを得ない。
『あんたらでもクーパーに脅されるのか?』
『いいや会った事はないが…オレの下についていた小さなファミリーがクーパー共にやられて、西側にある二軒をとられた。それからその周辺はオレや側近達がいない時間になるとクーパー共のたまり場になってるのさ』
『なるほど、それは心配だなぁ。そうだ、あんたもファンガイのパーティーに呼ばれたんだろうから、その時もう一度その話を聞かせてくれよ。ファンガイだって相手があんたなら遠慮なんてして欲しくないはずだ。でももしかすれば…狙いはEAに対する挑発でバーンズは直接の標的じゃあないかもな』
『そうか、ありがとう。だがあいつらにもっと余裕があったらきっとその時には、ダースンコーズの奥まで荒らしに来る。今から心配だ』
『ねぇドンッ!ドン・キアーロ!』
だがそんな時、自分達の方こそ大変だと言わんばかりに叫ぶアロマ。彼女は邸の様子を見て強い衝撃を受けたようでそれにはドン・チェスターに別れを告げたキアーロとバイカ達も走る。そうそこでキアーロが目にしたのは、ところどころ欠けた噴水に、真っ二つなって潰れるか足が折れて傾いたベンチと、穴だらけの芝生。車庫のランプは割れ、中へ入ると銀の燭台も倒れ、長いテーブルや壁は元々黒く艶めいていたが今はその幾つかの場所がただ真黒く、焦げてしまっている。
『くそぉ、ふざけやがって!』
そう怒鳴り、両手で宙を鷲づかみにしたようなウィリアム。だが彼はそうしながらもキアーロの前にくると、まるで大好きな親父と言わんばかりに拳をつくって励ます。
『オレは…絶対に許さねぇ!でもドン、気にするな。まだまだやり直せるぜっ』
そんな彼を見て頷きながらも被害を確認するキアーロ。すると画面には…補修費は総額で871Gr21tiになりますが、直しますか?と表示され、はい、いいえ、一部直すの三択となり、迷わず三番目を選ぶ彼。勿論その脳裏には再び邸が襲われた時には補修費が無駄になってしまうとしても、レットーラのすすめに従い今からでも売上を回収すべきかと迷う気持ちもあるが、そんなキアーロに近づいたのはミラー。そう実のところ彼は金縛り作戦の時他がどう動いたのかを聞いていたので、邸の惨状に肩をおとすキアーロを見て、ベティーやアンを助けたのも、ギャスマンを待ったのも間違いだと断言。勿論キアーロだけの責任ではないが自分達の為にもそういった行動は控えてくれと両手を合わせて頼む。
『ああ、それは心配をかけたなっ。…悪かった。だがこれからも率直な意見を聞かせてくれ』
『ああ、ドンがそう言ってくれるなら、オレ達こそ嬉しい…!だがあんたやカツミの盾になろうと特技のかばうを覚えたのは、オレだけじゃあない。分かってくれ。勿論、あんたが簡単に仲間を見捨てないドンだと思ったからこそファミリーに入ったんだが、その辺りはけっこう難しいものなんだ』
また一応だが特技かばうとは以下。
かばう…幾人かの相手を設定しておくと彼彼女らが使用者の居る場所も含めて八マス内にいる時にかばい、代わりにダメージを受けられるようになる特技。ただし対象が同時に攻撃を受けた時のため、優先順位を決める必要あり。必要経験値215 消費気力21 効果補足…かばっても使い直せば死ぬか対象から離れるまで有効。
それからキアーロは主に邸の中を補修して大通りへと出たが、ミラーの他には誰がかばうを習得したのかは、気になるようだ。
『オレが知っているだけでも、バイカとデルフィーノ。それにもしかすればあのリッキーさえドン・キアーロ、あんたを守るように設定しているかも知れないんだ』
『そうか…では友よ、慎まなければならないな。そう私が危うくなると、代わりに仲間が死んでしまうのだから』
そうキアーロに言われ忠誠を新たにするミラー。そうだ貴方はそうして言葉を聞かせてくれ。オレ達だってただ生きることに意味は無いんだ。ミラーは画面を前にそう思ったが、それでも仲間を楽しませたいキアーロは早速皆を連れ、壊された邸を忘れてもらう為にもこれから買う事になるだろうアパートへ。庭の正面からでて東へ行くとすぐ左手にある小道へと入ったがその出だしから明るくなったのは、ロッコとウィリアムだ。
『よし!安くて、経験値が高いパン屋だといいな?』
『それより洒落た店の方がいいぜー。それに店がよくてもアパートがぼろぼろじゃあ困る…!』
『ああそういえば、今オレが住んでるアパートは占有なんてできない、ほとんど景色みたいな建物さ。何でこうも違うんだ?』
『オレのところもそうだぜ。どこへ引っ越しても賃料や見た目それに景色や広さなんかは違うが、高級感や洒落た雰囲気があるのに、占有できないところもある。勿体ねぇよな』
するとそれに答えるアロマ。
『占有できるアパートやマンションは何か中で物を売り買いできるか、サービスを受けられるか、あるいはそういった場所が併設されている建物。それに占有できる工場も確か、条件は同じだわ』
聞いて感心するとまた歩きだす一同。更に行くと右手には淡い青のアパートが現れ、道は北へも延びていたがそちらへは行かず、情報通りその一階は明るいパン屋になっているようなのでキアーロ達はその店の前にある小道へと集まる。またそこで奥が北の小道へ抜けられると確認して面白さを感じるシモーニ。その小道は店の裏を通ってさっきの北へ延びていた道に繋がっているのでアパートは道に囲まれていることとなり、その邸にも近い庶民的な隠れ家のような場所に小さな感動を覚えたシモーニはミラーに賃料を確認する。
『任せろ。うーん…今は月に163Grだな。つまりストレイトファミリーも仲のいい奴らに安く貸してたって事だ。何故なら賃料は決められないが、それを下げたり上げたりする程度であれば、大家に求められるからな。ただそれに応じるかどうかは、大家次第らしいが…』
『じゃあ確か、アパートとマンションは占有するファミリーの人間なら入居と引越しの費用が無料だから、それだけを払えばいいのか。得だな…!』
それに言うのはウィリアムとバイカだ。
『おっ!だったらオレも住むぜっ。これからご近所だな。仲良くやろうぜ』
『オレもそうしたいが、部屋が埋まってないだろうな』
シモーニやミラーもどうせ他のアパートには住めるなどと明るく応じたが、まだ自分達のものになるかどうかは分からず、その話を進める為リカはたった一人店内へ。そこで様々なパンが並んだ奥のカウンターに二人の店員が立っているのは勿論、その近くに置かれたテーブルに座った灰色のスーツ姿の男も見て調べ、その内容をすぐキアーロにも知らせる。
『おい丁度いいぜっ。今フォンターナのソルジャーがパンを食ってるんだけど、誰か交渉してこいよっ』
聞いて揉み手をするのはバイカ。
『いいねいいねぇー。じゃあ、アロマが行くか?』
『いいわ。今は役に立ちたいもの』
『じゃあオレも行こう』
そう言ってシモーニがアロマについて行ったので、しばらくして戻ってきた二人に訊くリカ。
『どうだ、フォンターナの奴だったろ?』
『ええ、ただ譲ってはくれないだろうと言ってたわ。手に入れたばかりだし、もっとじっくり考えたいんじゃない?』
『だが一人のソルジャーとしての意見だ。それにこのアパートを所有しているカポなら北の砂浜にあるオープンカフェにいるらしいから、そこで交渉してみるのもいいな』
という事で相談する一同。そうフォンターナファミリーのドン・ローザといえばこのガラミールにおいて聖人と言ってよく、今ある情報を元にはどう考えても争っていい相手ではないので、肩をすくめるバイカ。
『じゃあどうするっ?』
それになるべくカポを煩わせずに詳しい事情を聞きたいという事で再び交渉すると決めるキアーロ。勿論他は任せろと胸をたたいたがそのソルジャーは既に見当たらず、店の東にも出入口があると思い出したリカが奥へいくとその目には北の小道を東へ走る、青い車が見える。
『ああ、行っちまうっ』
『いいや大丈夫だ。行くぞっ』
そう言って走りだすキアーロに他もついて行くと、青い車が消えた道は先で芝生に白く丸いテーブルと何本かの木があるだけの広い休憩所へと突きあたり、更にそこを北へ行くと右手に道があらわれ、そこもぬけて大通りへ出ると目の前にあったのは、地下鉄の入口。そこは金縛り作戦の時キアーロのグループが逃げてきた場所なのだが捜しているソルジャーの姿は無く、カポがいるというオープンカフェへ行くことにした一同。一度車に乗って大通りをしばらく北へゆくとそこにはところどころに立つヤシの木が愛らしい白い砂浜と水色に輝く海がひろがり、それにアロマは珍しく女らしい声をあげる。
『あら、素敵…!縄張りの北にビーチなんて最高じゃないっ』
だがまずはフォンターナのカポと話したいキアーロ。それを察したバイカが右手の角にある金網のバスケットコート前でトランプをするパーカーの若者達に訊くと、確かに砂浜の西にはオープンカフェがあるという事で、キアーロ達の胸は高鳴る。そして、見慣れたカーキ色の建物と浜辺を見ながらまた西へ行くとそこには確かに海を背にした白木の小屋があり、そのカウンター席に座っていたスーツに中折れ帽子の三人は波の音を聞きながら談笑し誰がどう見てもくつろいでいたが、キアーロ達がずかずかと近づいて来るので立ちあがりそれぞれ…銃を出す。チャ、ガチャチャ!
『落ち着け…!』
そう言って仲間をおさえるキアーロ。そうキアーロ達に向けられたのはピストル二丁とショットガン。当然すぐに立ち止まったので撃たれることはなく、その建物の西側の壁に並ぶ黒く丸いテーブルにいて仲間と話していた黒い丸眼鏡に立派な髭をたくわえ短い髪に白いワイシャツを着た男は、まずソルジャー達に銃をしまうように指示すると、何故か笑いだす。
『アーハッハッー!だから言ったろう?モーガンファミリーなんて、ゴミだ!あんな口先ばかりの奴らはたとえあのずる賢い奴ばかりの西部でも生きていけねぇ。分かっていた事さっ』
『ああ、さすがお前だぜっ。奴らの店を奪って、しかもそれを気に入られたくて焦っていたタラントファミリーのソルジャーに高値で売っちまうんだからなぁ』
『ああ、そいつだって同じさ。その内ドン・スタンレーに気に入られるかも知れないが、こっちとしてはただ美味しい思いをしただけだ…!何故ならあのスタンレーでももっともな理由なくオレ達に手を出せばドンだけでなく、ファンガイが赦さねぇ。そうなれば最悪、東部にある全ての善良なファミリーを敵に回すからな』
それに頷いているのは太った体に紺色のトレーナーを着たスキンヘッドの男。彼は話に夢中なようだが、キアーロ達を思いだすとそれを眼鏡と髭の男に教え、それを聞いて立ち上がった彼はソルジャー達が驚かせたことを軽く詫び、続けてボスは誰かと訊いたので応じたキアーロと二人カウンター席に移るとすぐ事情を聞いて、自分がカポのベッタであると告げた。
『ああそれで、オレはイタリア人でなぁ…いいや待て、それはどうでもいいか。だが実は話ならドン・キアーロ、貴方達と会ったあのソルジャーから聞いているんだ。それで、あのメーツベルダのアパートは、売ってもいい』
『…本当か?』
『ああ、いいさ。だってあそこは縄張りから遠いし、一応いくらで買ってくれるかにもよるが…』
だがそこであのスキンヘッドの男がベッタに耳打ちして二人はしばらく話し、その内輪話の結果、同じ善良なファミリーということで1000Grで譲ってもらう事になったキアーロ。勿論喜んだのは実際に金を払った彼だけでなく伝えきいた他も同じだが、中でもバイカなどは一番前にたつ薄紫のスーツを着たソルジャーに言う。
『うちも負けちゃあいねぇが…かっこいいボスだな』
『そいつは嬉しいことを言ってくれるねぇ。ありがとよ…!』
言いながら帽子をとるソルジャーを見てその礼儀を思いだし、真似るキアーロ。実は条件に、フォンターナが悪の組織と抗争した時には味方としての立場は明らかにするというものはあったが、それを帰り道に聞いたリカやアロマはむしろその善良なファミリーとの絆に安心し、ロッコも飛びあがって言う。
『ハッハー!波乱万丈っ。セインていうくそ野郎が裏切ったかと思えば今度は邸の近くに、いいアパートを手に入れたっ』
その上機嫌のキアーロ達はさっきまで東へ行って北の海沿いにある大通りを西へ歩いていたので、実のところオープンカフェまで繋がっていたストーリアへの大通りを歩き、セーブするとしても安全なところがいいと和やかに邸へ帰る途中なのだが、そこで突然目の前に現れたのはアフロヘアに薄青いTシャツを合わせカーキ色のチノクロスパンツをはいた元ルッソの男。怪しんでキアーロの前へでたバイカとウィリアムが事情を聞いたところなんと縄張りで乱暴されている女がいるというので、彼彼女らはそのまま男の話にあった、ボスコを目指す。一方レットーラ達は、ゲデルの南にあって大通りに面した大きな時計屋で情報を集めていた時、素性を隠したレットーラとアバードそれにベティーは店頭に立ち、シンはその東にある路地で友人と話し、その彼女同様まだ素性を隠せないデルフィーノは店内にいて商品棚を見ながら他と会話。それに応じていたのは主に、ベティーだった。
『そう、だから時計にも意味はあるわ。身につけた時の見た目もそうだし、初めからあるデザイン以外で画面に表示するには、新しいものを手に入れるしかないもの。勿論なにかの報酬として要求しても、奪ってもいいけど、クーパー相手に選り好みするのは難しいから』
『ああ、そうか。じゃあ購入も考えないとな。だがここにあるのはお洒落でも見にくいものばかりだから、後でメーツベルダの時計屋にも行こう。…それにしてもシンの奴、よく十分以上も家具や調度品の話ができるな』
『ハハッ、別な話もしてるんでしょうっ。でないなら…こんなに長くは』
するとその二人に両腕を広げるアバードいわく、現代のゲーマーは五種類の組み合わせによって分類される。デルフィーノは知っていたがベティーが訊けばそれは解放、感受、探究、創造、達成の五種類で表されるもので、それぞれのプレイを考えた時、五つある内のどれかが強いか、あるいはその内の多くを求めるほどにゲーマーだと言われるらしく、自身をそう認めるにも他人からそう認められるのにも付き合いや仕事の為だけではない楽しむ心がなければならないのだが、決して優劣を示すものではなく、それぞれの傾向を表すものであり、続けるアバード。
『だからきっとシンは感受探究型だな。そのゲームの興味ある部分を学びながら様々な刺激を求めて楽しむっ。そんな感じだ…!そう邸や手下を作成できるドンやカポにならなくても自分の存在つまり能力や特技、それに私室の家具とその配置や壁紙なんかにこだわるなら実は創造も強いと言えるし、オレも初めはこの俗に言う伍種の必要性を怪しんだが、真面目に考えてみると、自分や好みの作品に様々な発見があって面白い。だからもしもまだなら、やってみるべきだな』
そう分かりやすく言うなら例えばシモーニは実のところ機体を操って敵を撃破していくシューティングが好きで、反射神経やとっさの判断能力そして素早い操作に自信があり、腕を磨いてクリアしていくプレイヤーなので、その自分の腕を見せたい、あるいは敵機を次々と撃破する英雄になりたいという心が解放を、様々な目標に挑戦し好記録を出したいという心が達成を表し、その二つが強い解放達成型であると自覚している。探究が弱いのは主に腕を頼みとし、ステージや敵のデータそれに仕様を分析するのが面倒になるからであり、一般的なシューティングゲームにおいて創造が必要になる場面は戦法や武器の組み合わせ等とあまり多くはないのでゲームそのものに求め難く、彼の面白いところは、ステージの派手な演出や格好いい敵機にあまり興味がなく、上手く切り抜けられればいいと思っているので、感受もそれほどでもないところ。ただ繰り返しとなるが解放と達成は強いのでやはり十分なゲーマーではある。またRPG、アクション、シュミュレーション等が好きなキアーロは達成以外の全てが強く、この中々お目にかかれない彼のようなプレイヤーを解放感受探究創造型と言うのは長いので広く見渡すという意味で大観(たいかん)と呼び、五つ全てを大切にするプレイヤーを総観と呼ぶのだが、たとえば沢山のハードとソフトを所持する超のつくゲーマーも実はよくよく自分のプレイを考えてみれば、解放感受型だったりする。それは何故かと言えば、多くのハードとソフトを買うあまり探究し、創造し、達成する事が難しくなっているからなのだが、それに気付くのもまた一興。買い揃えたり、広く浅くプレイしてみたりするのが楽しいなら、それはそれで羨ましい事である。また続けて、ここぞとばかりドンを持ち上げるレットーラ。
『そうキアーロはこのマフィアズライフの場合正しく強いドンになりたい心を表す解放が強いから情報収集や分析は後からになるが、どんなゲームでも本当に好きになれば一度飽きてもしばらくするとまた、プレイしたくなる程らしい。要するに、あるボスに他プレイヤーが驚くような大ダメージを与えたいとか、早くクリアしたいという願望は小さいが、普段抑えている本当の自分を解放したり、それぞれのゲームにある世界から未知の種族やその物語あるいは独自の摂理などの強い刺激を感じとったり、活躍するために情報収集や分析にも力を入れたり、自分だけの仲間を育成するとか、町や農場をつくる時それにこだわりたい心は強いのさ。だからずっと見てきたがそういう意味でもキアーロが一番、ドンに向いているな』
聞いて面白いと感じ、自分はどういった型なのかで盛りあがるベティー達。またこの伍種はゲーム作品を表す時にもその内容次第で解放ゲーム、感受ゲーム、探究創造ゲーム等と使用され、具体的にゲーマー達が使うのは箱の美しさや宣伝文句に騙されず完成度の高いゲームを選ぶ場合や好みの合うゲーマーを探す場合、あるいは自分が作りたいゲームを正確に把握し足りない部分を補う人材を求める場合や友人との違いを理解しゲームについて楽しく会話する場合などであり、皆がその話題に触れたところにシンが戻って情報をもたらし、それを聞いたレットーラは休憩を提案。誰も反対しないのでその後はまた場所を変えると決まったが、その彼にシンは言う。
『えっ、何で?もの足りない?でもロブストが絨毯集めをやめたのだって、有益な情報じゃないっ』
『あ…ああ、別に無益だとは言わない。だがEAの奴らに訊いてもサンドロが握力勝負に負けた事がないだとか、クーパーの処刑場の一つがケラクダインの海岸にあってそこにいつも死体が転がっているだとかそんなものばかりで、他はどれもペスカーラから聞いたものだったし、このままゲデルで聞き込んでも、限界があると思ってなぁ。それ以外で抗争に使えそうな情報はあったか?』
またそれに言うのはベティーとアバード。
『ただEAに守られているのにクーパーの縄張りへ行くなんて無謀は許されないし、難しいわねぇ』
『だがやはり奴らの情報はもっと深入りしなければ、手に入らない。もう一度作戦会議だっ』
そう実のところ投資については有益な情報を得ていた五人。だがクーパーファミリーについてはEA以外の者にあたっても皆ロブストを恐れて何も話したがらず、まさしくお手上げのポーズで店をでるデルフィーノ。他にシンはバイオレイトの長女ニカルが私室に切りきざんで縫い合わせた小鹿の剥製を飾っているなどの情報を得ていたが、作戦の立てなおしは不可欠だった。またその頃カツミはボスコの射撃場にいてたまに当たる的に大喜びするギャスマンと楽しそうに話していたが、しばらくして隣にある酒と煙草の販売店には艶めく青のスーツと中折れ帽子に身をつつみドレッドヘアを揺らした黒人の男があらわれそれを追ってきた同じく黒人の男達と口論となり、見過ごす訳にはいかなくなっていた。そうその話が聞こえてきた射撃場の入口まで歩くと柱と腰に手をあて、黙ってその様子を見るカツミ。耳に入る情報を整理するとどうやら逃げてきたのはマイケル・ウォルターという男でまだはぐれ者であり、追ってきた灰色のスーツに黒のホンブルグを被った男と緑のセーターに髪を短く刈り上げた男は何とルッソのソルジャー達で、目的は勧誘。よってやや安心したカツミだがマイケルは声を大にしてファミリー入りを断り続け、ルッソの方も笑ってはいたが彼を諦めなかったのでその騒ぎはキャメロンやギャスマンの知るところとなり、二人もカツミの後ろであれこれと想像しながら談笑し、勧誘とそれを断る戦いはどうやら止みそうにない。
『ああーどいつもこいつもみんな、ルッソルッソルッソッ。それにこのオレ様も行ったんじゃあ、つまらねぇだろ。そうあんたらだって楽勝過ぎるだろぉ。どうしてそれが分からねぇんだ?頼むぜぇっ』
『いいね、やっぱり根性がある。今からすぐドン・グランデに会ってくれ。何か不都合があるならその時に言えばいいさ』
『そりゃあオレ達は一応EAだから優しいがはっきり断ったその後にワインを飲んでたくらいだからな。ルッソに会ったら逃げろ。正義の戦いに巻き込まれるぞって、聞かなかったか?』
『聞いた。だがそれが何だって言うんだ。そうか分かった。じゃあもう少し話してやるっ。いいかオレ達黒人は知ってのとおり悪さをしたい奴らはみんなショットガン22かダミルバルサイズにいく。そんでいい奴らはルッソか、ドンが死ぬかその地位を譲ると次はドーニャがそしてそのドーニャが死ぬと今度はドンがファミリーを仕切るのが掟の、クオーレにいく。このパターンしかねぇんだよっ。あんたらだって知ってるだろ?もう飽き飽きなんだっ。ゲーマーの仲間三十四人はみんなそのどこかに入ってファミリー名を嫌というほど聞かされてるし、実はもう一つ困る事がある…!それはそのゲームをやる仲間の内十六人がダミルバルサイズに行って正直もしも興奮してかかって来ても仲間だから殴る訳にもいかないし、とても怖いって事さっ。そんな時オレが善のファミリーであるルッソに?冗談じゃない!いいかつまりなぁ、ルッソに行くとゲーマーとしても楽しめねぇし、実世界の仲間と現実非現実のどちらでも、やり合う事になりかねないっ。そりゃあ、たかがゲームと思うかも知れないがオレは優しい質で、嫌なんだ!そういう嫌な思いをしてその後に結局仲間を殺しちまうなんて!可哀相だろ?実世界でも同じだ。説得に失敗すれば殴って和解するまで気まずい思いをする。そんなのは溜息しか出ないぜっ』
『それでも、ゲームだぜ?それに何人かはオレ達の仲間なんだから、巻き返せて楽しいかも知れねぇだろ』
聞いてため息をついて言うマイケル。
『話聞いてたか?』
そうこのマイケルという男実はオフラインゲームが好きで、対戦をしてもあまりそこに実世界の友人が入りこむと興が冷め、楽しめない。そこまで説明したがルッソ達は彼を諦めず、見かねたカツミはその間に入って名乗るとまず、ルッソの方を向く。
『悪い。本当に悪いが、こいつを自由にしてやってくれないか?頼むっ。そりゃあオレは小さなファミリーの人間だが、ずっと…見てたんだっ』
聞いてしばらくすると肩をすくめるルッソ達。彼らもマイケルがあまりに長く抵抗するのでこれ以上は無理だと思っていたところだ。
『じゃあ仕方ねぇ。ドン・キアーロによろしく。別にオレ達だって少しくらい強引に誘わないと迷っている奴が逃げちまうから、限界まで粘っただけだぜ。誤解しないでくれよ』
『ああ、別に他をあたればいいだけさ。でもお前は…何でカンパネッラを知ってんだ?』
『ほらアクイラ・バレンティーノが言ってたクーパーとやり合う事になったファミリーさ』
『あっ、お前らが?じゃあ仲間だなぁ。敵の敵は味方だ。よろしくなっ』
という事でその二人とは握手して別れるカツミ。そうなると必死に抵抗していたマイケルは礼を言って消えても仕方なかったのだが彼はカツミの前でじっとその言葉を待つ。するとそこで両手を広げ、頭上にwelcomeの文字を出すカツミ。それを見たマイケルはすぐ新たな勧誘だと気付いてカツミから今迄のカンパネッラがどのように活動してきたかを聞き、しばらく考えた後こう返事をしたのだ。
『いいぜ。じゃあよろしくな!カンパネッラファミリーに入るなんて意外性があっていいじゃねぇか。だがショットガン22やダミルバルサイズとは、やり合わないでくれよな。あんたダイドブレインズなんだろ?だったら、もしも抗争になりそうでも止められるよな。別にやり合ってもいいが…その時オレは間違っても、ゲーマー仲間を撃たないからな』
『ああ、そういう事も全部オレがキアーロに伝えるから、安心してくれ』
またそれを聞いて喜ぶキャメロンとギャスマン。まだ射撃に夢中のチャーチ達三人はその様子がただ知り合いを見つけて話しているようにしか見えなかったので真相を知って喜んだが、それからしばらくしてそのボスコの西側にある歩道にはキアーロ達がいた。そう目的は当然乱暴をとめる事だが、二人で立つ男達の北にカンパネッラが現れたと知った女は何も言わず、キアーロに手を出さないように言われたリカ、バイカ、ウィリアムも大人しく、辺りにはまた騒がしい声が響く。
『もう吐いちまいなっ』
そう言ったのは街灯に体をあずけて凄む緑のトレンチコートに逆立てた黒髪の男。
『それが嫌なら家を教えろ。当然特技・状態の通知でな』
またそう言ったのは赤いワイシャツに黒いベストを着て同じ色のボーラーハットを被る男で、彼は煙草に火をつけながら女の反応を待っているが、カンパネッラにも気付いているようで、その言葉はやや穏やかになっている。
『いいか、整理するぜ。こいつもオレもお前のことは知ってるんだ。何故なら仲間が、お前と髪や瞳の色が違うだけの女に、騙されたからなぁ。混乱して、それを忘れてるんじゃあねぇか?』
『もう死んじまいな!きっとお前みたいな奴らはキャラクターに対するこだわりなんてねぇから、その体も単なるデータで』
『まあまあ、待て。ちょっとオレに話させてくれっ』
その時から直接の会話はベストを着た男がひき受けたが、言いかえす長い金髪に白いドレスの女。キアーロ達はこの女が乱暴されていると聞いたはずだが。
『でも私、本当に貴方達のことを知りませんから。それに自分の作ったキャラクターをどう利用しようとプレイヤーの勝手じゃないですかっ』
『じゃあオレがこのキャラクターで詐欺師を殴るのも勝手だろ!』
『…とにかく、貴方達の仲間のことも知りません。一応商人なので…。殴られた事は忘れますので、もう帰して下さい。治療費の請求もしませんから』
『どうやらもう一度殴られたいようだな。オレ達をなめてんのかっ?』
するとそこでキアーロに言うのはバイカ。
『オレが止めても構わないよな?』
『いいや、これはややこしい問題だから、オレがベストを着た方と話す』
『そうか。それが一番いいかも知れねぇが、オレだってこのくらいなら余裕だぜ。疲れてる事だってあるし、大丈夫か?』
『おいおい、心配し過ぎだ』
言うとすぐベストの男に声をかけるキアーロ。相手もその存在には気付いていたので、話は早い。
『いいや、別に大した事じゃあねぇんだ。この縄張りを仕切るカンパネッラだろ?…でも誰が見ても分かるだろぉ?丁度いいところに来たぜぇ』
『いいや、ハハッ。大変そうだなと思って、様子を見に来たんだ。だから一応軽く説明してくれないかな。この女が何をしたのか…』
よって彼に合わせたベストの男は内輪話を使用せずに話し、それによると相手の女はどうやら詐欺師で男の仲間に偽物の服を売ったらしく、問い詰めてもとぼけるだけなので怒鳴っていたという事で、キアーロはその言い分に納得。
『そうか、もしもそれが真実なら酷い話だな』
『だろう?だが…』
そこからベストの男は何故か内輪話に切り替えたがキアーロは気にしない。
『だが、もういいんだ。その騙された仲間とこいつには上手く言っておく。あんたらだって迷惑だろう』
『いいや、それは大丈夫だ。ただ一応はっきりさせる必要がある。それだけさ。そしてそれだけが本当にいい結果をもたらす。オレは今この状況を見てそう思ってるんだ』
そこでバイカ達にも内輪話をしかけ、何事かを告げるキアーロとトレンチコートの仲間を呼ぶベストの男。
『何だよ?お前だって頭にくるだろ!はやくカンパネッラとも話をつけようぜ』
そのトレンチコートの方は激しく怒っているようなので会話は難しいと思われたが、キアーロは彼に対しても穏やかに言う。
『落ち着いてくれ。話なら聞いた。だから』
『だから?!だから何だよじゃあ…じゃあもう帰ってくれよ。それはあんたらの縄張りだが、正しいのはオレ達だぜっ』
『まあ、ちょっと待て。だからこの女の事は忘れないし、今も町の彼方此方にいるバレンティーノのドンには、オレから伝えておく。これでどうだ?そう確かに最大でもほとんどEAの勢力圏だけの話になるが、心強いだろ。今だってオレの仲間達は、この女が逃げないように見てるんだ。当然絶対に逃げられない訳じゃあないがもしもそうなったら…怪しまれるのはどっちだ?オレ達ならあんたらの言い分もちゃんと聞くさ』
聞いてしばらく考えて後、怒鳴り疲れたのかいい考えだと言って頷くトレンチコートの男。それから二人を見送ったキアーロ達の前には女が礼を言いに走る。
『本当にありがとうございました。あいつらは本当に狂暴で…。でももうこんな時間。大事なお客様に渡すはずだったこの帽子どうしよう。時間厳守なのに…。そうだ貴方達の中でどなたか、買って下さいませんか?当然安くします』
『いいや、買わない。今日はもう帰った方がいい』
『まさか、貴方達まで私を疑うんですか?たまにああして絡んでくる連中がいて、もううんざりっ。でもこの仕事は続けたいし…やっぱり貴方達のことも、ただ嫌な思い出にはしたくない。だから安くしますのでどうかこの素敵な帽子を』
『う~ん…自慢じゃあないが、助けたオレ達がどうして嫌な思い出になる?絶対に、大丈夫だ。もう帰った方がいいぞ』
『勿論アロビオには帰ります。けど、どこで帽子を売ろうと自由じゃないですか』
『当然そうだが、今絡まれたばかりじゃないか。このガラミールは広いんだ。何もこのメーツベルダにこだわる必要は無いはずだし、何で教えてくれたのかは謎だがアロビオに住んでいるなら、南で売る手もある』
『いいえ、貴方達に売ってあげたいんです』
『だが本当にいらないんだよなぁ』
『素敵な貴方達にっ』
『いらない』
『どうか助けると思って、買って下さい。200Grにします。一応、交渉次第でもう少し安くも』
『残念だがオレ達は貧しくてなぁ、200でも惜しいのさ。分かってくれ…!』
『分かります。でもこの帽子は普通もっと高いんですよっ。友達に訊いて、本物だとはっきりさせましょう…!』
『もしも偽物なら調べれば分かるしなぁ、その口ぶりだと本物なら至上の喜びが舞い降りるかのようだが、それでもいらない。もう帰るんだ』
『勿体無いっ。これからもそうやって下を向いて生きるんですか?今とても損な選択をしてしまいましたよ…!』
『そうかでは仕方ない。有益な選択をしようじゃあないか。リカッ、バイカッ、ちょっと来てくれ…!』
『おお、出番かよっ』
『まさかあるとは思わなかったが、おい姉ちゃん、オレ達のドンに用か?』
だが二人がキアーロの前まで来ると、ゆっくりと南へ歩きだす女。もういいですと言っているので帰るようだが、ウィリアムの怒りは収まらない。
『ああ、怪しい!怪し過ぎるぜぇ!確かに100%じゃあねぇがこのまま帰していいのかよ!』
そう女はまるで強引にでも騙そうとする詐欺集団の末端で今迄はその態度がむしろ相手に、面倒臭い、可哀想、あるいはこのくらいならいいかという感情を生んでいたのだろうが、キアーロ相手には完敗。そんな商売を邪魔されて怒り無理やり売って逃げようとしているかのような者にもウィリアムは正面から素直に怒り、だが彼を宥めながら電話にでるキアーロ。相手は実のところすぐそばのボスコに居るカツミだったが自分達の位置を言うまえに話はすすみ、その電話ではキャメロンが口の悪さを改めるのを条件にチャーチからTシャツを買ってもらった事、繰り返した射撃の結果カツミが素性を隠せるようになった事などが伝えられ、最後にキアーロはマイケルのことを聞くとそれをウィリアム達にも言って、胸のまえで拳をつくる。そしてその後すぐカツミ達を迎えたキアーロ達。そのそれぞれは、新しく手に入れたアパートやそれを買う時に出された銃の危うさ、あるいは白いドレスの女やキャメロンのTシャツの話をしていたが、キアーロの目には黙っているシモーニやミラーそれにマイケルさえも楽しんでいるように見えていた。そう彼の望みはこの幸福をできるだけ保つこと。だが実のところ辺りにはそれを許さない人間が一人だけいて、今もその男はチップス工場を背に調度品の露店をひらき、キアーロ達を見ていたのだ。
『はーいまた買って下さいねぇ。今度はおまけしますから』
『安くていい店じゃねぇか。どこから仕入れてるんだ?』
『ハハッ、それを言っちまう奴は商売に向きませんよ』
そうこの男はクーパーファミリーのジャック・イビリード。当然灰色のハンチング帽に黒いコートを着て商人風の姿となり、素性は隠し、顔の表情も口をとじてにんまりと笑うものに変えて実は金歯にしている部分を隠していたが、カンパネッラの方でもアロマとミラーだけが彼を怪しみ、その行動を注視していた。するとそこで一応相手のステータスを確認しようとする両者。だがその三人の手は特技・気配を察するを警戒し、ほぼ同時に止まる。よって悔しがるイビリードは心の中で毒づいているがその内容は酷く、とてもカンパネッラの仲間が許せるものではない。くそぉ…!まあいい。若い奴らが多いから楽しめそうだ。そう命を奪うって言っても活きが悪いと、楽しめねぇからな。そして直後、画面を前に笑うとアバターに仕込んでいるしぐさ同様腕を折りまげて笑うイビリード。その声はまるで得体のしれない生き物のように響いていた。
ロープに吊られた電灯は薄紅色に輝き、その光の中芝生のあちこちにあるのは石のような灰色が素朴な八角形のテーブルで、そのうち東の隅にある一つの天板に腕を乗せていたのはキアーロだった。そう彼は同席するペスカーラやファルコに錯覚を指摘され照れ笑いしているが、会場の北には時計塔があるので誰の目にも今は19:28。だがそんなキアーロも、ただ雰囲気を楽しみ時間を忘れていた訳ではない。そうその頭にあるのはペスカーラやファルコの読み通り、初対面の大物ファンガイへの挨拶と、ほぼバレンティーノからではあるがその助力へのお礼、それにクーパーとの抗争。ファンガイについては説明不要だが彼にもバレンティーノの助力に対する礼を言わなければならないのはやはり、元々EAが善良な組織でなければカンパネッラは壊滅していただろうからで、当然のように忘れてはならないクーパーとの抗争さえ実は、このパーティーに呼ばれたきっかけ。つまりキアーロとしてはこれらをよく考えておく必要がある。そしてそんな彼がどうしても物憂げに見えてしまうのはテーブルを一つ挟んだ東側にある席で煉瓦の生け垣を背にした、カツミとアレッタ。バイカとアンそれにチャーチを連れたリッキーはすぐ北の並木道を越えた所で開催されている射撃大会へゆくと断り、その時のキアーロが落ち着いて見えたので上位入賞を誓って会場を後にし、ロッコとアロマは友人を見つけて席を立っているので他に動揺は無いようだが、カツミやアレッタにとって今のキアーロは口数が少なく、やや緊張しているように見える。だがそこで、時計塔の後ろに止まった青いリムジンから会場入りしたのは鼻筋の通った面長に無精ひげを生やし、薄っすらと青いサングラスをかけ、サイドを刈り上げたブロンドの髪を立ち上げて綺麗にまとめ、黒のセーターとスラックスにカーキ色のロングコートを羽織った…ファンガイ。そのステータスを見て確かにテイラー・ロビンソンだと確認したキアーロはすっくと立って拍手を送り、その瞬間、ただでさえ画面を引いても全ては見渡せないほど広い会場の彼方此方からは大勢の男女が押しよせ、人の往来の為に十分スペースが確保されていたはずの中央は、彼彼女らで埋まる。
『ドン・テイラー!あの時はお世話になりましたっ』
『お元気そうでなにより』
『またダチカールで飲みましょう。これは妻です』
『ファンガーイ!』
『握手して下さい!』
『私と写真を撮って下さい!』
『コルボとの抗争について一言だけお願いしますっ』
するとその群衆に両手を挙げるファンガイ。
『ああ、自慢するようで悪いが、人気者は辛い…。よく君達はファンガイファンガイと私ばかりを囲んでいられるなー。こんな事ならチームファンガイにすれば良かったよ。ファミリー全員で君達の相手ができるっ』
そのジョークにどっと沸く会場。その直後、彼の前に進み出たのは黒いホンブルグハットとスーツそれに白いワイシャツに赤いネクタイで揃えた三人。キアーロが確認すると中央に立つ長身の男は、長い黒髪で右の額から頬にかけて傷があるジョーイ・ウォーカー。右に立つのは、眼鏡をかけて人は良さそうだが赤いざんばら髪で筋骨逞しく顎のがっしりとしたステップ・ウォーカーで、そうなると左に立つのはと誰もがそう思った時、ファンガイはあっ…と一声。群衆の注目さえ集めた相手に歩み寄ったファンガイはその顔を両手でつかんでいたのだ。
『お…おお、フェックス!フェックスッー!!本当にお前なのか?!その顔が見たかったんだ!ああーー!!奇跡だっ。おいみんな奇跡が起きたぞ!長い事待たせやがってくそぉー!』
『ハハッ大袈裟だ…』
だがフェックスと会うのは実に彼がクーパーに殺されて以来であり、その彼を抱きしめて離さないファンガイ。群衆やキアーロもその姿に感動し、喜びを分かち合う。
『おいお前ら、あの大物がオレ達のドン・テイラーだ。よく見ておけ…!』
聞いてすぐ後ろのテーブルに居るキャメロンは笑ったが、そこで言ったのはペスカーラとファルコ。
『ああ、よく見える。キアーロの未来だろっ』
『心配しなくてもドンの味方か敵である限りは、誰だってこの目に入ってるよ』
そう言われますます昂ぶりを感じるキアーロ。彼はしばらく大勢の相手をするファンガイを見ていたが、自分は彼のようにできているだろうかと思った時その記憶はさっき話したばかりの、パメラとデポーターに及んでいた。そう二人とはソルジャー募集パーティーから会っていないが印象は変わらず、パメラは長い睫の美しい目に銀の眼鏡をかけた女で微かに赤を帯びた灰色のスカートに茶色のTシャツを入れ、それにヒョウ柄のコートを羽織って黒髪をなびかせ、その恰好の印象通り明るく、たとえるなら街で羽目を外す友人のようであり、キアーロに自分の地元は田舎だなどとプライベートの事まで話し、黙ってそれを聞いていたデポーターは短く整えた黄色い髪に灰色のスーツを着て、白いシャツに黒いネクタイを合わせた男で、キアーロに対しカポになるにはどうしたらいいかと訊いた程であるから、意欲的な人物。よってその時のキアーロは二人に好感を持ったが、その彼彼女らは今リカを挟んで会話を楽しんでいるようなので、それはまずまず。そうなるとキアーロはカツミなどが気になって周囲を見渡し、その彼とアレッタが話しているのがリードだと分かると、すぐ彼の元へと走る。するとそのキアーロに気付き、自分から手を挙げるリード。
『ああっ…ドン!やられちまった。許してくれっ』
『いいや、何を言うんだっ。どんな奴だってやられちまうのがこのガラミールさ。それより、よく帰った』
そう言って握手するキアーロ。そこで既に話を聞いたカツミとアレッタが言うにはどうやら今迄のリードはクーパーの本拠地とも言えるグラムデルの南にある町メロサイズで探りを入れていたらしく、その頑張りに親指を立てるキアーロ。だが当のリードは何の手掛かりもつかめず、恥ずかしいと思っているようだ。
『ああ、それがとても残念だ。クーパーファミリーがこうも用心深いとは…!どうやら奴ら、オレみたいに死んだばかりの雑魚とは話さないように設定しているらしくて、取りつく島もなかったよ。少しは役に立てると思っていたのに』
『いいやいいぞ。よくやった!その気持ちこそが大切だっ』
それに同調するカツミとアレッタ。
『それでも無事に戻って来られただけいいじゃないか。もうオレはお前がいないと、寂しいんだぜぇ』
『ええ、働きはどうあれ普段明るく振舞っている人がいなくなると、雰囲気が暗くなるからね』
『だがこれからは何か手柄を立てるっ。見ててくれよ…!』
そう意気込むリードを頼もしく思うキアーロ達。リードはまだ話し足りないようだったがそんな彼を迎えに来たのは、ギャスマンとコーテルという同じように一度死んだ仲間。二人はリードが好みだと言っていた女がこのパーティーに参加していると半ば強引に彼を連れだし、丁度そこでキアーロの前に来たのがレットーラのグループだ。
『やあ、遅れて悪かった。楽しんでるか?』
『ああ、ドン・テイラーを見たか?とても温かい人物みたいだ…!』
聞いて頷きながらも丁度いいとばかりにロビンソンを称賛するレットーラ。アバードやデルフィーノなどは疲れたのか休ませて欲しいと言って空いた椅子に腰かけているが、彼は今も饒舌だ。
『確かにフェックスを忘れなかった彼は、美しい。だがオレが思うにこのパーティーの素晴らしいところは、日時と場所を人気の射撃大会に合わせた事だ。実に賢い選択じゃないか』
『そんなに楽しいのか?』
『ああ、射撃大会というのは素早さや器用さなんかの基本能力と、特技である熟練の有無、それに操作の速さと正確さがものを言うからリッキーの善戦は間違いないが、出場している他が手強いと…それもどうなるかは分からない。ただそれでも賞品は魅力的で、一位は南の島三日間の旅だぜ…!それには十人までの仲間を連れて行けるし、島には固有の動物がいて、高い経験値を得られる木の実まで落ちてるし、そこでは波と風の音しか聞こえねぇ。二位はガンショップで使える半額券で三位は珍しい短鞭だが、これも非売品だから後で高く売れるかも知れないし、結果が楽しみだよなぁ』
そう言われたのでレットーラの出場を許可するキアーロ。だが許可された彼は笑ってそれを断るとカツミとアレッタにも呼びかけ、そこで内輪話を始める。
『だがオレ達にとって重要なのはやっぱりせっかくの機会だから、このパーティーに参加している大物達を、見ておく事だ。オレはそう思うがこれは、他の仲間にも教えた方がいいかな?』
答えるのはキアーロ。
『いいや状況にもよるが、相手は大物だ…!そうなると返って知らない方が上手くいく事もあるだろうから、オレ達だけで見ておこう。説明してくれ』
その言葉に煙草をくわえるレットーラ。彼が語りだすとカツミやアレッタも黙って聞く。
『そうまずは…今も忙しそうに客の相手をするファンガイから見て南のテーブルに居るのが、ドン・ハルキ。彼はコーダファミリーのドンで見た目は厳ついが、用心棒代の支払いを待ってやる度量もある、優しい男だ。そうそのせいで何度も町のくず共と揉めたらしいが、今まで誰一人として見捨てた事は無いというから、いざという時には頼れる』
そう聞いても後ろ姿だけでは分からないので、ステータスを確認するキアーロ達。すると彼は大柄な体に微かに緑を帯びた黒いスーツを羽織り、短く整えた金髪を七三分けにして薄い眉の下で奥目をぎらつかせているが、その周りでは仲間が手を叩いたり踊ったりしているのでどうやら優しいというのは真実。続けて紹介されたのはそのハルキの西側のテーブルにいて横顔を見せる、胸に薔薇を挿した美男だ。
『そう彼こそが名高きドン・ローザ…!』
『おおっ』
『このパーティーの後はEA入りするだろうと噂されている大物で、聞いての通りそのカポやソルジャーには大勢の老人がいて、活躍している。しかもそのご老人達、頭は老獪で体はゲームのものだからとても手強くて、何度かスピアバレイに頼まれてコルボと抗争した事さえあるって話だ』
そうドン・ローザまで来ているとは思わず、驚くキアーロ達。そのステータスを確認すると彼は白髪を横分けにして口髭を蓄えた痩せがたの紳士で襟が赤い白のタキシードに身を包み、今もワイングラスの横に手を置いているので何とも優雅な雰囲気。ファンガイ達がどれほど騒がしくしてもそこにのみ、静かな曲が流れているかのように見える。また続けるレットーラいわくその北側のテーブルで座ったままファンガイにテープを投げるのが、ドーニャ・レベッカ。彼女は噂通り長い白髪の美女で今は艶めく白いドレスに身を包み、その首には金の首輪を、右手の人差し指と中指にはルビーの指輪を飾り、まるでロビンソンのカポであるかのようにパーティーを盛り上げているのでキアーロやカツミそれにアレッタまで、今の今迄気付かなかったという訳だ。
『そして…会場の北に陣取る、バーンズファミリーを見てくれ。彼彼女らの内東側のテーブルでチェスをしているのが、ドン・チェスターだ』
それにキアーロ達が見ると彼はもう薄くなった赤毛をオールバックにした男で、茶色いスラックスに白いタキシードとシャツを着てそれに薄紫のネクタイを合わせ、丁度キアーロ達に気付くと飲んでいたシャンパンを挙げる。
『やあ、ドン・キアーロッ。こっちでチェスをやらないか?君なら強そうだ』
それを聞いて言うのはチェスの相手。彼は中折れ帽子からスーツまで艶めく黒で統一し立派な髭をたくわえた男なので、まるでカポのようだ。
『付き合わせたら迷惑だろう。ドンの相手ならオレで十分だよ。弱いのに強気なんだから。はい、どうぞ』
『余裕を見せるのもドンの役目だ。はい、どうぞぉ』
『おっ…何だか今日は調子がいいみたいだな。うーん…』
勿論その会話を聞いた者は皆そのドンとまで呼ばれる男の気さくさに笑ってパーティーはますます賑わい、それでも良い時には用心し悪い時には無理をしないキアーロが思い出したのが、ボスコの近くで会ったあの詐欺師と思しき女。よって彼はそこへ南のテントに設置されたカウンターで酒を飲むウィリアムを呼ぶとまずその明るい意気込みを耳にする。
『いいやぁ良い酒もあるし、一気に食事回数を使い果たしちまったぜ。…それで何だ?誰か気に入らない奴でもいたか?そういうのを蹴散らすのがオレ達ソルジャーの役目だっ』
『ハハハッ、違う。あの詐欺女の名は憶えているか?』
そのキアーロの言葉にやや戸惑うウィリアム。
『…ああ確かパール。パール…何とかっていう』
『そうだ。アロビオに住むパール・ジークル』
そう丁度あの場には居なかったカツミ。だがキアーロが説明する前に彼は心配して口をひらき、それにウィリアムも言う。
『ジークル?まさかライケン・ジックラーの知り合いじゃあないだろうな?』
『それでもオレには関係ない。ドンやダイドそれにお前らこそが、つまりファミリーこそがオレの法さ…!』
実に頼もしい。そうウィリアムの言葉を聞いたレットーラは冗談交じりに言ったが、二人を落ち着かせるキアーロ。
『いいや、安心しろ。あの女の狙いはそれだ。ジックラーを想像させる姓にして、少々強引でも詐欺が成功するようにしてたのさ。そうこれはアクイラからの情報だが、彼ならもうずっと前からあの女に目を付けていたようだぞ』
聞いて安心するのはカツミ。
『ああ、良かったぁ。この上ジックラーとも揉めたら、地下に潜るしかない』
だが怒りが収まらないのはウィリアムだ。
『なーんだ。だが…今度見つけたら殺す』
『いいや、それはいかんっ』
キアーロはそう言ってウィリアムを止めながらも、もしも詐欺を止めないと言うのならその時には実力行使しても良いと許可をだし、つづけて時計塔を一瞥。そうファンガイの周りにできた人垣が落ち着いたのも見てそろそろお礼も兼ねた挨拶をと思ったが、そこで言ったのがアレッタ。そう彼女の話によるとその前に心配な事があるらしいが…。
『大物もいるからオレは、自分を戒める為に色々と心配していたが、まだあったのか?』
『ええ、残念ながら。ドーニャ・レベッカの後ろにデルフィーノ達がいるんだけど、そこを見て』
言われたのでカツミ達も見るとそこにはデルフィーノの他シモーニ、ファルコ、シン、それにいつの間にか友人との会話を終えたロッコの五人が立ち、紺色のシルクハットと燕尾服に身を包んだ長い金髪の男をとり囲んでいるようだが、言われてみると心配になったキアーロはすぐ、アレッタに訊く。
『まさか揉めてるのか?』
『いいえ、ただあの紺色の帽子を被った男は信用できないって、聞いた事があるの。ステータスを見れば分かるけど、エジソンっていう名前でしょう?以前彼から安いウィスキーの情報を買った男がいて、喜んでいたら、その酒は元々スマッシャーが小さなファミリーを脅して手に入れたもので、結局は何もかも被害者達に返す羽目になった騒ぎがあったんだけど、その時はロビンソンさえ追及できなかったらしいから』
『無実だったからじゃあないのか?』
『どうだろう。当時の掲示板によると人から買った物やその売上を謝って返す方がおかしいっていう彼の言い分がとおって、それ以上はファンガイさえ、どうにもならなかったようだよ』
『…確かにおかしいな。善良なファミリーにとっては知らなかったでは済まされないはずだが、まあ余りにもそれが行き過ぎて、物を自由に売り買い出来なくなっても困るよなぁ。よし分かった。じゃあ少しだけ話を聞いてみよう』
そう決めながらもカツミ達にはパーティーを楽しむように言い、アレッタと歩くキアーロ。二人がそっとそのエジソン達に近づくと聞こえてきたのはデルフィーノとシン、それにロッコの声だった。
『だがリッキーだって金が欲しいだろうから、安いダイヤモンドがあるなら買うだろ。誰にとっても魅力的な話だ』
『元は誰かを誘う罠として使うものだったか、違うなら今急いで金が欲しいのかもね。他に安く売ってしまいたくなる理由なんてある?』
『ああ、あるさ。稼ごうと思って宝石を買ったが他にいい方法を思いついて処分したくなったとか、敵から奪ったものだとか、報酬として受け取ったものだとか、本人が損をしない理由も色々ねっ』
またそれを聞いてますます心配になるアレッタ。
『不味い。もう話が進んでるんじゃない?』
『いいや、よく見ろ』
そうキアーロが指摘するのはその会話に少し離れた木陰に立つアクイラやギャスマンまで参加している事。二人はデルフィーノ達の軽挙を止めてくれているようでそれを知ったアレッタも安心したようだが、警戒は必要だ。
『だが、よく教えてくれた。オレはこれからドン・テイラーに挨拶をしなければならないが、見ていてくれるか?』
『はい、お任せ下さいドン・キアーロ…!』
よって自分で決めた行動とはいえ緊張するキアーロだがまた歩きかけた彼を呼び止めたのは、カメーリャとキャメロン。二人はキアーロに南のテーブルで仲間達と談笑するある男と話して欲しいらしく、パーティーで羽目を外したいのかやや申し訳なさそうにではあるが揃ってその行動を促し、譲らない。だがその相手とは実のところ、金と黒で王冠模様を表したワイシャツに微かに紫を帯びた黒のスーツを羽織り、長いコーンロウを束ねたグランデ・ルッソ。七、八人の仲間に囲まれた彼はファンガイが忙しいからか自分達だけで会話を楽しんでいるように見えるが、その言わずと知れたルッソファミリーのドンと突然話せと言われたキアーロは驚き、小さくだが続けて抵抗する。
『今か?それはオレだって興味はあるが、まずは主催者に挨拶して礼を言うのが、当たり前だろ?』
だがそれに言うのはキャメロン。
『でも掲示板ではベンダバールに助けられたんだからまず彼らにお礼を言ってもいいじゃない。それに忘れてるけどマイケルの勧誘の時だって、素直に諦めてくれたじゃないの』
…なるほど一理ある。よって礼を言って少し話せばいいのかと訊ねるキアーロに、身の回りに小さな星を輝かせるキャメロンとカメーリャ。素敵な出会いを手に入れた二人はキアーロがゆっくりとドン・グランデのテーブルへ向かうと、期待してそのすぐ後ろを歩き、そんな三人にグランデは先に声をかけてくれた。
『やあ、これはこれはっ。今話題のドン・キアーロとその仲間達じゃないか。まあ…座ってくれ』
『…いいのか?』
そう言って握手しながらも遠慮を示すキアーロに、手のひらで着席を促すグランデ。彼が何事かを口にすると周りには坊主頭にサングラスをかけ黒いTシャツを着た大柄な男と白いスーツの女だけが残り、そんなルッソにキアーロが切り出す。
『まず礼を言う。掲示板ではミスターベンダバールに助けられ、マイケルの勧誘さえその事情を酌んであっさりと引き下がってくれた。本当にありがとう』
『気にするな。同じEAじゃねぇか』
『まだ違うわ』
そう言ったのは、目元に色気が漂う白いスーツの女。長い黒髪は穏やかに波うち一見したキアーロは日本人かと思ったが、よく顔を見ると小麦色の肌に目も鼻もやや大きくふっくらとした唇で、やはりルッソの一員なのだと分かる。
『ああ、こいつはうちのカポで、通称ミーティア』
『よろしくドン・キアーロ』
『何でもはっきり言うから今は黙らせておくが、頼りになる女だ。それでこの黒いTシャツを着た男は』
『オレはいいよ。勝手に楽しんでくれ』
『ハハハッ、照れ屋で無愛想だが根はいい奴だ。これもうちのカポで名はモーリス。まあ、よろしく頼むよ』
『こちらこそよろしく』
そう言って立ち上がると二人とも握手を交わすキアーロ。彼はそのままキャメロンとカメーリャを紹介し落ち着いていたが、やはり二人はまだ若いらしく、遠慮なくグランデに話しかける。
『よろしくっ。EAの中では一番強いんでしょう?誰も警察署に逃げ込んだ事がないって聞いたから』
『カタランとその周辺の町村では、追想体験ができるんでしょう?じゃあバックロールでも起こるかも知れないんだよねっ』
そう追想とは、過去を思い出しまるで当時にいるかのような感覚に陥るあれの事だが、それはそうと二人の馴れ馴れしさには呆れるキアーロ。
『おい相手は初対面だし、ドンだ。それ以上言うなら怒るぞ?』
それから始まったキアーロの説得に対し素直に謝るキャメロン達。だが噂よりはずっと寛大なグランデのお陰もあって、会話は進む。
『まあまあ、いいじゃねぇか。同じ善良なファミリー同士、仲良くやろうぜ』
『本当にすまない。大体にして二人のわがままを聞いて突然お邪魔したっていうのに…』
『いいさ。それよりオレ達が警察署に逃げない理由を、教えてやろう』
そう言われ小さく拍手して見せるキャメロン。キアーロもグランデが優しいので少しは安心できたようだが、そんなカンパネッラにルッソのドンが教えた警察署に逃げ込まない理由とは、以下である。
一、大体にして負けると思っていない。
二、役所と警察署は少ないので、あてにできない。
三、逃げ込んでも銃や火炎瓶など以外で殺される可能性があり、もしも相手が逮捕されたとしてもその懲役が長くなるのは余罪が悪質か、あるいは多い場合のみ。
四、役所や警察署より、邸やたまり場など仲間の居るところへ逃げた方がいい。
五、なめられたらお終い。
よってそれを聞いて微笑するキアーロと感動するキャメロン。
『一と五はガラミールらしくて良い。何とも言えない』
『確かに役所と役場は三ヶ所しかないし、警察署も少ないよね。でも警察署って銃を出したら逮捕されるの?』
それに答えるグランデいわくガラミールに入ってくる銃や火炎瓶などには全て特殊な改造がなされ、持ったまま役所や警察署などの敷地に入ると動かなくなるようにできており、たまになりふり構わない者が誰かを殴打あるいは刺殺しようとするが、銃だけでなくナックルダスターやスタンガンにも敷地内で手に持つとすぐ警察に知らせるセンサーが仕込まれ、そういったものを使った事件が起きた際にも全て数秒で、取り押さえられている。また以前ショットガン22の数人が警察署に入ったバルラムファミリーのソルジャーを追って素手で殴り殺しているが、なるべく他で戦ってもらいたい市にとってそれなら構わないという訳にもいかず、実質二週間の特別警戒期間が設定され、その組織が敷地内に入った時点ですぐに警官がかけつけるようになっていたというのだが、それにも意見するキャメロンとカメーリャ。
『じゃあ逮捕されるんだ。それなのに警察署を使わないのはルッソが自信のあるファミリーだという証しだね』
『どのくらい刑務所に入れられるの?』
『おお、それも教えてやろうっ。聞いて驚け?数分から、一年以上だ』
聞いて期待通り驚くカンパネッラの三人。つまりマフィア同士の殺し合いが認められている島においては市や警察に遠慮しながらであれば好きにしていいのだが、その命令や利用規約に反している場合にはいくらでも刑を重くするらしく、ただでさえクーパーと揉めているのを損と考えているキアーロは話題を明るい方へ持っていきたいと考え、追想体験について訊こうと思ったが、キャメロンの興奮は止まらない。
『それは、そうだよねぇ!噂ではこの島のファミリーにある血の掟には、相手が銃を出したら…から始まるものが多いって言うし、それはルッソにもあるんでしょう?』
『…ああ、鋭いな。確かにうちにも相手が銃を出したらこちらが間違っていない限り決着がつくまで抗争とみなす、っていうのがある。…まあオレが作ったんだが、今のところ悪いようには作用してねぇな』
言いながら葉巻に火をつけるグランデ。そんな彼にキャメロンが他のファミリーの掟も教えてもらうと、たとえばコルボ等は相手が銃を出したら、それが五人以下の小さなファミリーでない限り必ず二十四時間以内にその二人以上を殺さなければならないと定めているらしいが、そろそろ穏やかな話が聞きたいのはキアーロとカメーリャ。
『じゃあ、追想体験の話をしよう。この甘く切ないドン・テイラーのパーティーに合った話題だ』
『きっと素敵な体験なんでしょうねぇ。ルッソの人はもう体験済み?ちょっと悲しい出来事も思い出してしまうのかしら』
『おお、いいね』
言いながらミーティアを座らせるグランデ。彼によるとミーティアは既にその追想体験を味わったらしく、彼女は早速その説明を始める。
『そうねぇ、あれはとても意味深い体験だったわ。私が初めて経験したのは島に来てまだ二ヶ月ほどしか経っていない頃だったけど、何をするのも一緒だった仲間の一人が稼げない事を理由に去った時の事を思い出したの』
『ああ、うちの稼ぎはオレとカポ達で山分けだからな。勿論ルッソの名を使うのは自由だが、そいつ商売が苦手でな』
『ええ。それにその時少し悲しい気持ちになったけど…邸の棚が気になるっていうメッセージが出てきて調べたら、いつもその仲間が胸ポケットから覗かせていたスカーフを手に入れて、その辛い過去を思い出す事によって、一気に1290の経験値を獲得したのよ。だからとても得した気分だったわ』
『ふぅ~いいじゃないっ。それなら私もいい追想体験できそうっ。大勢と決別したから』
そう言ったのはキャメロン。だがキアーロとカメーリャはあえてその話題に触れず、ミーティアは続ける。
『ただ、体験中でも誰かに攻撃されそうだったり、周囲に居る誰かが銃を出したりするだけでも消えてしまうみたいだから、なるべく抗争やもめ事がない時に狙うべきね』
それを聞いたキャメロンは抗争中の今は無理かも知れないと思ったが、ミーティアに反論するのはグランデ。
『いいや、違うねぇ!何気ない時に起きるから素敵なんだろー』
だが言い返すミーティアと笑いながら言うモーリス。
『いいえ、いくら素敵だろうとこれはゲームなんだから、皆狙うのよぉ。グランデはまるで本当のマフィアみたいで、ギルドマスターだっていう自覚に欠けるんだからっ』
『ハハッ…!ゲーマーなんだから狙おうぜぇ?本物だと怪しまれちまう』
『見た目で言えばモーリス、お前の方が怪しいよ。それに熱中し過ぎるのも良くないだろー。オレの知り合いの中にはここで一獲千金を狙って、逆にあり金を全部無くした奴だっているのに』
『何でも狙っていかないとっ。ドンはまだ一度も追想体験できてないじゃない。グロートは皆ユーロに換えるし、銃もノーマルで、邸も最初に建てた時のままっ。このままじゃあなめられるわっ』
『見てくれカンパネッラ。これがオレのドンと、その相棒さ…』
『ああ、実に楽しそうなファミリーだ』
そう言って画面の前でも微笑むキアーロ。キャメロンとカメーリャもしばらく仲良く喧嘩する彼彼女らを見ていたが、そんな三人にグランデは言う。
『だって夢中になり過ぎるのも良くないぞっ。なあ、ドン・キアーロ。そういえばあんた、カードか?』
『いいや、今はかなり安全になっていると聞くが、自制は必要だからな』
『だろー?二人だってそうだろ?』
そう訊かれたので頷くキャメロンとカメーリャ。そうこの時代になると本人以外がキャッシュカードやクレジットカードを持つ事そのものが不可能なシステムが整備され、触ると数秒間一致率を測って判定しその結果が他人の場合、即刻全データを削除してしまう。そうつまりその時には既に機械に入っていようとカードの全データが消えてしまうのだが、たとえ本人のものだとしてもその希望があり依存症と診断されれば、その家族や保護者等が使用できる最大金額を設定する事まで、可能となっているのだ。そう驚いたのはグランデやキアーロの話によって、初めてそれを知ったキャメロン。実のところ実世界の彼女は仕事に就いたばかりなので金が無く、思い切ったことを言う。
『じゃあ私カードにしようかな…!盗まれても、使われないんでしょう?』
だがそれを止めるキアーロとグランデ。
『いいや、今全ての機械は常に相手の姿を撮影して身元を割り出すが、必要なのは自制だ。それは本当のお前にはあるのかも知れないが、誰にでも注意は必要だからな』
『金持ちの真似なんて、止めておけっ…!そう贅沢は実際に金持ちになってからにすべきだ』
またその会話を聞いたミーティアはキアーロ達を友人の結婚式に招待したいと言ったが、さすがにそれを拒む者はない。
『それは…とても嬉しい誘いだ。なるべく大勢で参加させてもらうよ』
『やったー!ドン、私もガラミールで結婚する予定だから、よろしくねー』
またそのキャメロンの言葉を聞いたカメーリャは付添人に志願し、新郎新婦がイタリア人だという事で、キアーロの好物を訊くグランデ。
『いいかパスタ、リゾット、ピザ、ラザニア。この中であんたの好物といえばどれだ?』
『そうだなぁ…全部好きだが、強いて言えばラザニアだ。手間がかかるから中々食べられない分恋しくなって、映画に出てくる男が深いお盆のような食器にたっぷりと盛ったのを食べているのを見ると、食べきれないのを分かっていても、羨ましくなる』
またカメーリャの好物はピザらしく、それに言うのはミーティア。
『それに実際に食べたくなっても、安心して。パーティーは20:00予定だから、少し我慢すればそれからは画面の前にピザを置いて、参加できるわ』
だが聞いても意味が分からないキャメロンに、説明するのはキアーロ。
『ああ、実はイタリアのピッツァリアは20:00頃にならないと窯に火を入れないところもある。多分その事を言いたいんだと思う』
ミーティアは彼が日本人だと聞いて驚いたが、カメーリャが訊くとキアーロはそのピッツァリアの事情をドキュメンタリーで知ったというので納得しそこへ来たのが、カツミだった。
『やあっ、良いパーティーだな』
彼はグランデ達に自己紹介を済ませ、続いてそこから離れられないキアーロ達を解放。と同時に主催者への挨拶とお礼が必要というキアーロの記憶を、呼び起こしてくれた。
『おお、友よ…!さすがだっ。お前も行くか?』
そう言われレットーラも呼ぶカツミ。アバードや他はあまりぞろぞろ行ったのでは迷惑だと感じたのか遠慮したが三人はそのまま会場の中央に立ち、そこで聞こえてきたのがやはり誰あろうファンガイの声。
『だから何で過去からっ?普通は未来から来るだろー』
『仕方ねぇだろ。オレが見た映画ではそうだったんだー』
そう実のところ群衆を除いて今もファンガイの周りに座るのはウォーカー三兄弟の長兄ジョーイとドン・ハルキそれにドーニャ・レベッカ。中でもジョーイは実世界で友人と見たある映画のことを楽しそうに話し、他はその奇妙なストーリーに笑い転げていたところ。そうファンガイ達は怪しみ冗談だと思っているが、信じてもらいたいジョーイは続ける。
『いいかタイトルだって、1000年前の過去から来た男だ。だからそういう話なんだよ』
『アハハハッ!いいや、納得できないっ。過去からタイムスリップしてくるなんて。しかもそのタイムスリッパーが実は1000年前の、更に、過去から来た人物なんて、とてもややこしいじゃないかっ。お前のジョークだろ?』
『違うさっ』
『だったらもう1000年前からでいいだろ』
『それじゃあ違う話になっちまう。1000年前の、前から来た男で、それがストーリーに深く関わってくるのさぁ』
『どうでもいいけど未来からにしてくれよっ。誰か過去からタイムスリップしてくるなんて、信じられる奴はいるか?いたら手を挙げてくれっ。普通は未来からだろー。その方が夢もあるじゃないか』
だがそこですっと手を挙げるキアーロに驚く群衆とカツミ達。ファンガイは面白がって指を差しているがカツミとレットーラは慌ててキアーロに内輪話を仕掛ける。
『おい、大丈夫なのか?オレもファンガイの話は普通で、ドン・ジョーイの冗談だと思うぞっ』
『…ま、まあ可愛がられるかも知れないが、あまり変な事を言わないでくれよ』
『おお、お前がクーパーと揉めたあの勇ましいドンか!こっちへ来いよっ』
そう言われたのでファンガイには挨拶とお礼を済ませ、ドン・ジョーイ達や群衆にも帽子をとって挨拶するキアーロ。皆はその勇気と礼儀正しさを気に入ったようだがファンガイの興味は尽きず、映画の話はつづく。
『だが…逃がさないぞっ。何で過去からなんだ?』
『それはぁ…まず、先入観が邪魔をしているだけです』
だがそのキアーロに対し丁寧語を止めるように言うファンガイ。それに加えドン・テイラーなどではなく呼び方もファンガイで良いというので、やや戸惑ったキアーロ達も遠慮なくその申し出を受ける。
『確かに、映画や小説に出てくるのは大体未来からか、現代から未来や過去へ行くタイムスリッパーだが、それは今タイムマシンが無いから常識になってしまっているだけで、それこそが変なんだ』
『だよなぁ。ファンガイ達と真面目な映画は見れないぜ』
そう言ったのは勿論ジョーイだが、微笑し続けるキアーロ。
『だからオレはこう考える。滅んだ文明は数知れず…。それが一体どこまでの技術を持っていたのかも分からず、もしかすれば姿を現さないだけでもうとっくに宇宙人達と宇宙にいて、そこからオレ達を見てきたのかも知れないってねぇ。その可能性だってまったく無い訳じゃあないだろ?』
聞いて考えてみるファンガイだが、結果はあまり変わらない。
『あ、ああそうだな。だが普通に考えれば、槍を持って体に布を巻いていた連中が、タイムマシンというのは変だろ?』
『それも確かに。でも古代人の一部は今のオレ達みたいに忙しくもなく、多様で余計な知恵が必要なかった分、一途に素晴らしい想像や研究もできたと思うんだ』
『…ほぉ、面白くなってきたっ』
『つまり今のオレ達は、服や化粧などの見た目あるいは仕事の効率や医療などにはうるさいが、時を越えたいとは真剣に考えないだろ?だから、滅んだとされる古代文明のうちたった一つでも時を越えることに興味を持って、寿命は50年程度で受け入れ、仕事もそれほど忙しくせず、タイムマシンについて熱心に研究していたら、その完成もあり得たと思ったのさ』
『なるほど。じゃあドン・キアーロは、タイムマシンを造れると思うのか?』
『いいや。無理だと思う』
その結論を意外と思い驚くファンガイ。
『それは…何故だ?よく次元や速さを利用すれば可能だと言う奴もいるし、今を生きる人々は、科学の発展に期待してるっていうのに』
そう初めは彼も映画の話をしていただけだが、今夜はパーティー。何でも好きに思い描き語り合っていいと思っているようで、その気持ちは群衆やキアーロにも伝わっている。
『何故かと言うとそれは、不自然過ぎるからだ。そう誰にも分かりやすく言うが、既に終わった時。だから無い。無いところへは行けない。まだない時。だから無い。無いところへは行けない…という事さ。勿論、映画だから楽しく見ているが、その中でたまに主人公が未来から来た奴に忠告を受けて、自分を殺すはずの相手を殺して、助かるだろ?あれは何で成功するんだ?』
『それは、そういう未来だから』
『いいや、オレはあれもおかしいと思う。そう何故なら、他にも殺す人間がいたり、安心して食べすぎた結果病気になったり、ほんの数秒違いで事故に遭ったりするかも知れないじゃないか。それにまた映画の話になるが、未来へ行ったなら、そこに居たはずのその人物も居なくなった…のだから、未来の自分になんて会えないはずだ。居なくなった時間を並べた先に、未来があるのだから』
『おお、なるほど!』
『だからこういったあまりにも大きな不自然さから、無い方が、造れない方が自然というのがオレの結論なのさ。そう未来というのは、良くも悪くもあらゆる不確定要素の影響を受け、千変万化する。でなければ運命なんてものがあってそのスケジュールみたいなもののほんの一要素でしかないただ一人が、そこを行き来できる事になって、それも変だろ?つまりもしも未来の世界なんてものがあるならそれは、秒刻みでその時、その時、その時の未来の世界がなければ不自然なんだ。なのにタイムマシンだとか、人一人殺したくらいでそれから死ななくなるだとか、それはとてもおかしな話じゃあないかな』
パチパチッ、パチパチッ…!それはドーニャ・レベッカとレットーラの拍手。それを聞いたファンガイやジョーイ、ドン・ハルキや群衆までもが今迄考えた事もなかったので、その思考を面白いと感じてくれたようでキアーロは面目を保ち、カツミやレットーラと共にファンガイと同じテーブルへ。そこでファンガイから改めて歓迎を受ける。
『ハハハハッ!実に、実に愉快だっ。お前は面白い男だドン・キアーロ!』
『いいや…1円にもならない話だ。よくてタイムマシンを造ろうとしていた発明家が、出費を抑えられるくらいさ』
『アハハッ、いいぞー』
そう言いながらキアーロを指差すファンガイ。彼は密談という極近くにいる者だけが聞き取れる会話を選択し、その口からEAへようこそ…という言葉が発せられるとカツミやレットーラも言葉を失い、黙って耳を傾ける。
『それは…オレ達もEAに入ってもいいって事か?』
『当然だ。それは突然で迷惑かも知れないが、前向きに考えてくれ。たとえば今もすぐそこにいるドーニャ・レベッカ。彼女は素晴らしい人物だが、自分達の善良さを貫く為、これからもEAに入る気はない』
『なるほど…』
『つまりオレ達EAを含めてではなく、自分の目で善良さを見つめ、向き合っていきたいというのが、彼女の本音さ。勿論それはそれでとても良い事だと思うが、ドン・イーサンつまりスピアバレイも同じで、オレやウォーカー三兄弟それにアクイラやグランデはいいが、他は信用できないらしい。グランの事があったばかりだから無理もないが、彼もなかなか腰が重いからなぁ』
『だが彼も素晴らしい人物なんだろ?あんたはそう言いたそうだ』
『勿論だ。オレもただ善人が、言いかえれば優しい人間が集まっただけでは本当の正義は行えないと思ってるし、ドン・イーサンも孤高だ。そうもしかすればオレ達はこのままの方が様々な見方ができて、良いのかもな』
『ああ、これからは様々な意見が聞けて、あんたもやりがいがあるってもんだ。どうかクーパーとの抗争に力を貸して欲しい。当然、頼り過ぎないようにはする』
『ああ、頑張れよ。あいつらはしつこいし、質が悪い』
『用心するよ。礼は改めて…』
『いいんだ。気にするな』
だがそこに飛び込んできたのがドーニャ・レベッカの声。
『えっ?!…何、それでっ?!』
彼女は電話である報告を受けているらしく素早く席を立ち、ジョーイやハルキと共にファンガイの周りに集まる。
『何かあったのか?今夜はパーティーだっていうのに…』
そう言ったのはハルキ。だがレベッカは通話を終えると体の周りに花びらを出して応じる。
『ハッハーー!やったわ…!うちの連中がプローバの酒場で、クーパーを二十人ほど殺したって!』
『えっ?でもやったなー!よしっ』
『うちも六人ほどやられたけど、奴らは全滅だって!いい気味よっ』
またファンガイが詳しく聞けばそれはカンパネッラとはまったく無関係に起きた銃撃戦らしく、カツミに両拳を見せるレットーラ。
『よし!美しきドーニャ・レベッカに感謝するぜ!大声では言えないが奴らがこの調子で彼方此方のファミリーと抗争してくれれば、オレ達にも勝機はあるっ』
『おお、いいねぇ。オレはまたお前やアバードが何か仕組んだのかと思ったが…』
するとそのレベッカはキアーロの前にくると赤ワインを出し、彼と乾杯。興奮冷めやらぬ様子で内輪話をする。
『貴方達も頑張ってね。今聞いたように私達は絶対に悪を許さないから』
『ありがとう。とても勇気づけられるよ』
『そう悪こそ私達を恐れるべきだわっ…!』
言いながらワインを飲み干すとファンガイに挨拶をして車へ向かうレベッカ。つまり彼女は何故罪無き者が恐れなければならないのか…という当然と言えば当然の疑問をもっているようで、ファンガイとジョーイはキアーロ達に断ってその抗争について他と話をしに行き、後に残ったハルキには、気を遣ったカツミが話しかける。
『さあ、大変だ。良い事ではあるが、クーパー共も本気になるかも知れないな』
『いいや大した事ないさ。あんたらも何かあったらオレ達に言ってくれ。コンレの町じゃあなくても、加勢するぜ』
『ありがたいねぇ』
またそこで去り際にキアーロと話すハルキ。
『オレの縄張りでは大体いつも住居が空いてるんだが、住みたい奴がいたら、言ってくれよ』
『ありがとう。憶えておくよ』
『そうカンパネッラが集まるならたとえ割高のポセイドン海岸沿いだろうと、そのアパート一つ丸ごと安くするようにも出来るぜ』
そこで会場の北側ではダンスタイムが始まり大いに盛り上がっているが、キアーロが見るとそれに参加しているカンパネッラの者はなく、また元居た東側の一画を見ればそこではアレッタ達が手を振っている。
『早くきてっ。ロッコとかカメーリャが怖がってるからっ』
『怖がる?』
思わずそう言ったカツミが促すまでもなく席に戻る三人。するとそこにはいつの間にか射撃大会へ行った者以外の全員が集まり、死んだ後はどうすればいいのかを話し合い、中でもアレッタに相談しているのはリードだ。
『とりあえず今はまた定常型(ていじょうがた)を選んだが、もしもまた死んだら早熟型にしようかなぁ。でもカンパネッラでは長い人生になりそうだから、晩成型もいいなぁ。迷うよー』
『どういう生き方をしたいかによるね。でも話を聞くかぎりリードは悪い奴とは戦う方だし、早熟型で慣れて、それから死んだ時に晩成型にしたら?』
またそこで不安を吐露するパメラを励ますのはリカ。
『大丈夫だっ。死んで少しくらい顔を出せなくても、誰もお前を忘れないさ』
『まだ死んだ事ないから不安なの』
勿論その様子を見たキアーロ達は大体どういう流れでそうなったのかは理解したが、事情を説明するのはギャスマン。彼もゲームは最近始めたようだが実体もそう若くはないと思われ、落ち着いている。
『ハハッ、何とかしてくれよドン。こいつら、エルダースとクーパーがやり合ったっていう報せがあってから、ずっとこの調子さ』
そうつまり今はカンパネッラの中でも、ゲームが第一の趣味でない者や初心者が自分達と抗争中であるにもかかわらずエルダースとも構えるクーパーに脅威を感じ騒いでいるようだが、その中心に立ち落ち着くように言うキアーロ。
『落ち着け友よっ。詩人重音主曰く、恐怖は知の源にもなるが多くは壁になる…!そうまさか本気じゃあないだろうがそうこうしているうちに本当に怖くなってしまう事もあるから、まずは落ち着くんだ』
それに言うのは眼鏡を支えるパメラ。
『それは私もドンだけは見捨てないって思うけど、あいつら何も恐れていないように見えるでしょう。だからこのまま仲間がやられ続けたらカンパネッラはどうなってしまうのかと思って』
『ああ、心配なのはオレも同じだ。だがあいつらは…馬鹿だっ。オレ達に喧嘩を売ったばかりかEAの存在も無視して暴れ、エルダースとも抗争を再開したんだからな』
『それはそうだけど…普通はどのゲームをやってもこれだけのプレイヤーを敵に回すとその意見をきくようになるでしょう。なのにこのガラミールはっ。あいつらクーパーは、少しも怖がってない。だから死んだ時の事も考えておきたくて』
『それは良い事だ。だから今オレがキャラクターの成長について話そう。どうだ?』
『それはいい考えだね。支持する』
そう言ってマシンガンを仕舞うパメラ。それに気づいたペスカーラは彼女が今まで銃を出していた事にぞっとしたが、キアーロは続ける。
『ではまずパメラ、お前はどういう風に生きたいんだ』
『ドンの役に立つソルジャーになって、仲間として認めてもらいたいです』
『オレは共に生きる今、既にお前を仲間として認めている。だが、仲間の役に立ちたいというのはやる気があっていいなっ。お前の人生も楽しくなりそうだ』
そこでゲームを開始した時点で皆一度は選択しているのだが、キャラクターの成長について説明するキアーロ。そのパメラ達に示された情報は以下だ。
この世界には能力の上がり方があり、それは大きく早熟型、定常型、晩成型に分けられる。
早熟型…初めはどんどん成長するがそれが中期の半ばから徐々に穏やかとなり、何事も極まれば上げ幅が小さくなる節理も相まってそこからの成長が難しくなるタイプ。自画像は全身と腿から顔までの二種類のみであり、ステータスや掲示板などで腹部から上と顔を拡大した画像を使いたければ、三度世を騒がせなければならない。またその人生においての中期か後期のはじめ頃には運気が極端に下がる時があり、それは後期になると頻度強さ共に落ち着くが、他の型に比べるとやや不運。
定常型…若干の波はあるが最後まで一定の成長が期待できるタイプ。自画像の使用は一度でも世を騒がせれば、顔を拡大したものまで可能になる。
晩成型…初めは我慢しなければならないが、中期の後半から徐々に上がりやすくなり、その後も高い成長が期待できるタイプ。自画像は初めから全て使用可能。これを選んだ者に限り運気の波は時に激しくなってしまうが、大幅に落ちる事は少なく全体には好調。
そこで訊いたのはリード。彼はどちらかというと何でものめり込む方らしく、このガラミールでも熱心だ。
『だからオレはこんなに引いた画像しか使えなかったのか…!世を騒がせるにはどうすればいい?やっぱり目立ちたいぜっ』
『ハハハッ、リードらしくて良いなぁ。それはそうだろう。その条件というのは、全て一度限りで同じ事をしても数に入らないが、こういったものだ』
・プレイ後1000Gr以上と現金を交換する。・何か要求しても良いが市に多額の寄付をする。・店から高級な品を買い続ける。・5,000Gr以上を所持し間断無きその合計プレイが二十日に達する。つまり二十日の間5,000Grを所持した状態で、日に最低三時間、顔を出し続ける。・1万Gr以上を所持し間断無きその合計プレイが十日に達する。・5万Gr以上を所持し間断無きその合計プレイが一週間に達する。・10万Gr以上を所持し間断無きその合計プレイが三日に達する。・百人以上が所属するファミリーのドンか、カポになる。ただし、新しいファミリーを作ってその座に就き、それから抗争や仲間割れ以外の不自然な理由で壊滅あるいは解散となった場合等、または、抗争や仲間割れ以外の不自然な理由で数日中にドンかカポの立場を放棄した場合等には、取り消し。・単独で強い相手を殺す。・十人以上所属するファミリーのドンか、カポを殺す。・二十四時更新時までに単独で二つ以上の店を手に入れる。・投稿で百の支持か千の不支持を表明される。・各ウチゲーのランキングで百位以内に入る。・友人登録数を百にするか、既に達している者は二百、三百にする。・強い相手との握力勝負に勝つ。・ガラミール史上に名を残す。
ざっと見て唸るリード。
『う~ん、1万Gr以上を持ったまま、十日間島に居なければならないのか』
『そう金庫に入れても失敗だ。それに自宅や邸以外の場所に合計で三時間以上いて初めてその日顔を出した扱いになるから、もしも二十四時更新時までに二時間しか経っていなければ、またそこから二十日間は数え直しになる。無理ではないが、大人しくして、なるべく大勢といた方がいいな』
そこで言うのはコーテル。リードとキアーロも、もしかすれば否定的な意見かとは思ったが、答える準備をする。
『だが登録を削除されるのは九十五日間顔を出さなかった場合だから、十日間にたった三十時間とちょっと居るだけで、世を騒がせた事になるじゃねぇか。楽勝だぜ』
『そう考えればいいかもな。でも財産は危険に晒されるし、逃げ隠れしてたんじゃあ稼ぐのも難しくなるぞ。ちょっと待てっ。商売や取引は止めた方がいいな。危険過ぎる…!それにゲーマーとして色々な楽しみを我慢する必要もあるだろうから、やっぱり挑戦というのが正しいな』
『勿論オレは楽しみを優先するから、その挑戦はしない。円で言うと100万円を持ったままこんなギャングランドに?冗談だろー』
聞いてまた眼鏡を支えながら言うパメラ。リカも彼女を放っておけないようだ。
『いけるっ。私ならウチゲーで上位を狙える!落ちものパズルとかは得意だし、後は格闘ゲームとかもあればっ…』
『ああ、あるぜぇ。警官や兵士の格闘術の練習に付き合うウチゲー。稼ぎもいいし、狙ってみろよ』
それに頷くキアーロ。
『うんうん、寧ろ楽しく世を騒がせる事に挑戦できそうで何よりっ』
またウィリアムは拳をつかみファルコはファイティングポーズを見せながら意見し、それに答えるのもキアーロだ。
『じゃあオレは強い奴を殺すのに挑戦だっ。だが、どうやって見分ければいい?』
『オレはガラミール史に名を残すことに挑戦するが、それって抗争の歴史の事だよな?』
『見分けるには経験値だ。倍以上あれば強いと判断される。一応言うが、罪無き者は殺すなよ。それにファルコの言うガラミール史も、抗争の歴史で合ってるぞ。そうこの島には歴史と、その中の抗争の歴史があるからな。世を騒がせると難易度に応じた経験値も得られるから楽しいぞ』
だがそこで消極的な意見を言うのは、結婚式を盛大にやるのがお国柄のペスカーラ。その事情はアレッタが聞く。
『高級品を買うっていうのは簡単だが、節約している身としてはちょっとなぁ。実はここだけの話、結婚資金に6万ユーロ近く必要なんだが、高いってどの位の品かな?』
『大丈夫。詳細を覗くと、世を騒がす品かどうか確認できるよ。プレイヤーから買う時だってその人が親切なら、たとえば品がそこに無い状態でも教えてくれるからね』
だがそこで叫ぶのはコーテルとデポーター。
『おいおい晩成型は全体には好調とかいっても死んだらお終いだろー。くそだぜっ』
『やっぱり早く稼げるし早熟型しかねぇよな。それ以外を選ぶ奴はこのゲームを勉強しなおした方がいいっ』
そう彼らからすれば晩成型にいいところは無いらしいが実はそんな事もなく、それもキアーロが説明する。
『そう確かに死んでしまったら一からやり直しだから、なるべく早く戦力になる為にも早熟型を選ぶ者は多いな。そんな奴らは自分達の事を神童型と言う事もあるらしいが、晩成型にもしっかりとした得はある。まず一度も世を騒がせなくても英霊達から恩恵や試練が与えられる事。そう恩恵は経験値や贈り物だが、それには運気向上も含まれるし、試練はそれを越えられると高い経験値を得られたり、その一度で特技を覚えられたりするから、とてもありがたい。つまり英霊達には逸材として認識されるようだからやり込むタイプにおすすめで、実のところこの晩成型はウチゲーによって起こる気力の消耗も抑えられて、無所属の店があればその町へ入っただけで天使が飛び立って教えるし、戦闘時に血や着衣の乱れも目立たないっ。だからオレも実は晩成型だが、他に誰かいるかな?』
それに手を挙げたのはアバードとマイケル。今のところ二人だけのようだが、彼らはむしろ嬉しいようだ。
『ハッハー!ドンと同じとは、光栄だねぇ。そういえばリッキーも晩成型じゃあなかったかな?きっと死なない自信があるんだ』
『オレも苦労人が仕事で疲れにくいのは納得できるし、ダメージが見えにくいのはやっぱり、格好いいよなぁ』
またそこでカメーリャは英霊達から与えられる運気向上とは何かを訊いたので、答えるキアーロ。
『勿論簡単に言えば、運が良くなる事さ。成長の仕方を選ぶとその早熟型や定常型そして晩成型にある運を元に個々の隠しステータスとしての天運と金運も決まって、それに加算されるものの事だな。そう英霊達は主に金運を司るが、見込まれるとたまにこの天運を上げてくれる。するとNPCとの関係や命中率と回避率、それに動物や天候など自然の動きに関係するもので得をしやすくなるんだ』
だがそこで何故か立ち上がると拳をつくるロッコ。
『それだ!オレが悪いのはそれだよぉー。何故か狩りに行っても獲物がとれなかったり、能力値を上げる時の必要経験値が高過ぎる気がしたんだっ。どうすりゃいいっ』
『運と成長の仕方には波があるからな。どの成長の仕方を選んでもずっと運が悪いならそれもそのうち良くなって、最初能力が上がり難いと感じたなら、後の成長に期待できるっ。だから大丈夫だぞ。そう成長の仕方は選べるがそれも大まかに決められるだけで、同じ早熟型でも個人差はあるからな』
またいい機会だからとアレッタやカメーリャそれにキャメロンはこれからの抗争に備え情報を整理しておきたいようで、その話を聞くのもキアーロだ。
『私もまだ死んだ事がないから最初にキャラクターを作った時の事なんて忘れてるけど、体力にも1ずつボーナスを割り振るんだったかな』
『やっぱり顔の拡大画像は初めから使いたい。世を騒がせる自信が無いもの』
『大体にして経験値って、どうやって獲得するんだっけ?知っている方法しか試していない気がする』
聞いてまずアレッタに言うキアーロ。
『だが心配するな。忘れているだろうが体力と気力に限って言えば、初めから25あって、比較的少ない経験値で一度に3から5上げられるようになっている。それにカメーリャは、もう晩成型を選べばいい。同じタイプとして歓迎する。無理して世を騒がせようとして死んでしまう事だってあるし、今言ったみたいに良い事も沢山あるからな。それにキャメロンは、いい事に気が付いたな。慣れてきたなら改めて自分に合った経験値の上げ方を試すべきだ。そう今思いつく限り経験値を上げる方法は、ウチゲーつまり仕事をするか、その中に出てくる敵キャラクターを殺すか、プレイヤーを殺すか、町や邸にあるジムや射撃場を利用するか、適当な武器で岩や木等を攻撃するか、食事するか、英霊達に供え物をするかだが、たとえば岩や木などを攻撃するだけでもそれぞれの武器にある熟練の条件は満たせるから、試してみればいい。ただどれ程憎くたらしくても店やタクシーの運転席にいるNPCは攻撃できないから、それも忘れないようにな。他のファミリーに笑われてしまう』
それに言うのはリード。
『じゃあパーティーが終わったら英霊達に好かれるように酒を飲もうっ。どうせ実世界でも飲むんだ…!ハハハッ』
そのリードはアロマ、ペスカーラ、ロッコと共にいつの間にかテーブルで全変物の儀式をしているが、そこに金を出しながら言うのはアバード。
『そうかアロマとリードはクーパーに殺されているから、早くやり返したいんだな』
『私は…別に』
『いいやオレはアバードの言う通りだっ。素性を隠してはいたが全員じゃあなかったし、一人は目に特徴があったからな。絶対に見つけ出してやるぜ』
『じゃあ次は早熟型で決まりだな』
『私もそのつもりだったけど、今ドンの話を聞いて次は晩成型にする事にしたわ。掲示板でも顔の拡大画像は印象が強いもの。ネクタイを締めるポーズにして、自慢のブレスレットもはっきり見せたいし』
するとその様子を見て安心したレットーラは、キアーロに内輪話を仕掛ける。
『ああ、キアーロの言葉で皆明るくなったっ。実にいい夜だ…!オレやアバードじゃあ知識を披露するばかりで、こう上手くはいかない』
『いいや、そんな事はない。お前達はよく皆を気遣ってくれている』
『まあそう言ってくれると嬉しいが、抗争に役立ちそうな情報は無かった。一応入手した情報は後で教えるが、とても残念だよ…』
聞いて丁度いいとばかりに探偵を雇ってはどうかと相談するキアーロ。レットーラはしばらく考えたが、いい案だと思ったようだ。
『じゃあ知り合いに頼んでみる。なるべく安くしてもらうが、1000くらいは覚悟してくれよ』
『生きるか死ぬかなんだ。そのくらいならいいさ』
『そうか。オレ達も用心しながら、クーパー達を調べよう。そうそう、1000Grといえば…コンレの北側に洒落た車屋があって皆そこが新しくなると信じてるんだが、実はそれが南にある小さなドーナツショップの事だという噂がある。これはとてもいい情報だぜ』
『ああ…悪いがオレにも分かりやすく言ってくれ』
『つまり皆北側にある車屋に投資しているが、実際にはドーナツショップが新しくなるかも知れないんだ。そこで重要になるのが、その店がいつも低評価で、これから一気に良くなれば大儲けできるって事さ。1000出すか?』
『うーん…まさかお前ともあろう者が騙されないだろうから、出そう。だがもしも失敗したらオレと一緒に謝ってくれよ』
『それなら任せておけ。大体儲かるんだから、謝る必要なんてないさ。じゃあ売上を回収してそれから出すって事でいいか?』
『というよりアパートを買ったからファミリーの金は300ほどしかない。だから回収するしかないな』
またそこにはカツミが来たので、探偵と投資の事をうち明けるキアーロ達。カツミは短く分かったと言ったがそれより伝えたい事があるようだ。見れば射撃大会を終えたリッキー達が帰ってきたようだが、そこで思いあたるキアーロ。
『まさか…!』
『ああ、リッキーが二位になったぜ!流石だよなー』
丁度その時トロフィーと半額券をかかげ銃を構えるリッキー。皆は拍手して彼を称え、最後にはチャーチが提案してギャスマンのカメラで記念撮影までした。その不安から一転、幸福に浸るカンパネッラファミリー。またキアーロは驚いたが、キャメロンは図々しくも初対面の優勝者にもしも優勝できたなら南の島へ連れて行くようにと頼んでいたので、より大きな幸福の中にいる。時計塔のなか程に飾られた梟は翼を広げ、その鐘が鳴った。よって今も忙しく仲間達と話すファンガイさえその夜のパーティーは、いつもより楽し気に思えていた。
『そうか…。では、お顔を拝見するとしよう』
そう言ったのは、大きな椅子のひじ掛けも使ってゆったりとくつろぐロブスト。彼が他九人の仲間といるのは薄暗い白壁のガレージだった。その南向きとなった建物の東側にあるのは一台の黒い車と奥に並ぶ格子窓のみで、それを背にするのはロブストの右で腕組みをして立つサンドロ。左手前にも顎に手を当てて立つバイオレイトの長女ニカル・パワーの姿があり、今は皆で誰かを待っている状況。ニカルは赤茶色のボーラーハットとスーツを身につけ中に白いシャツを着たシンプルな格好だが、ブラウンの長い髪をなびかせ、大きな目は鋭く細顎の先に小さな傷があり、外から聞こえた仲間の声にその指が弾かれると、シャッターはゆっくりと引き上げられた。するとそこに入って来たのは長いブロンドの髪に茶色い毛皮のロングコートを合わせた女。手には黒い手袋をしていたようでそれはロブスト達を見た途端、ポケットの外へ飛び出した。そうその女が見たところサンドロの右にも黒いスーツに灰色のニット帽を被った下から覗き込んだような目の小男が立ち、ニカルの左にも、太った体に緑のTシャツを着て髪をオールバックにした小さな目の男と、太く垂らした前髪の青が少しずつ緑に変わる幅広のモヒカンにくまどりまでし、黒革のベストを着た女が立ち、そこはどうにも危うい雰囲気。実はこのブロンドの女、クーパーに借金を帳消しにしてやると言われて来たのだが、それも状況次第でどうなるかは分からないとこの時になってはじめて気付いたのだ。だがその女を連れそのままガレージに入った男女も、いつの間にか皆手に手に銃を出しているので、逃げようがない。よって叫ぶように言うブロンドの女。
『質問に正しく答えるだけで借金を帳消しにするって、本当だよね?!』
するとそれに答えたのはサンドロ。
『ああ、本当さ。まだお前には嘘をついた事ねぇだろ』
『フフフッ!サンドロ面白れぇ!フフフッ!』
太った男はそう言って腹を抱えて笑ったが、モヒカンの女は怒鳴る。
『ありがてぇと思うなら礼くらい言えよ尻軽っ!』
『え…ええ、本当にありがとう。ドン・ロブストに3万Grも借りたのに今まで返せなくて、ごめんなさいっ。色々と忙しかったからつい…忘れて』
『3万5,000Grですわ。お客様…』
そう言って煙草に火をつけるニカル。だが返事が無いので、付け加えたくなったようだ。
『おい、間違えるんじゃねぇ。散々贅沢したんだから清算してもらうぜ!そうだろ?!その為に来たんだろてめぇーは?!』
『え…ええ、そうね。べ、別に誤魔化そうとして言ったんじゃないわ。それは信じてっ』
それでもニカルの手にあるリボルバーは自分に向けられず、一瞬安堵した女だったが、今度はロブストが言う。
『それで今、いくら持ってるんだ?』
『えっ?…でも、帳消しにしてくれるって、そう言ってくれたから私』
『おいおい、いいか質問に正しく答えられたら、借金を帳消しにする。という事は…無理なら借金は無くならないんだから、払ってもらう。当たり前だろ?そういうルールだ。おいボーン、お前確かにこのお客様に、そう伝えたよな?』
『ああ、ドン・ロブスト。間違いのないように、二度もな』
そう答えたのはニット帽の男。彼はロブストが首を傾げたのを見ると女へと近づき突然、殴り、蹴る。ビシッ、ドッ!
『ちょっと待って!本当にっ、本当に待って!確か2,000とちょっとは持ってるわ!それに質問には答えるっ。だから怒らないで!何で殴るの?』
だがそこで言うのはサンドロ。
『誰が殴らねぇって言ったんだ?おいボーン、お前そんな事言ったか?』
『いいやっ』
『じゃあ何で殴られただけで文句言うんだこのくそ女はー。自分の立場分かってんのかぁ?もう期限は二時間も過ぎてるんだぞっ』
『何でだろうな。頭悪いんじゃねぇか?オレ達をなめてるみてぇだし、生まれつきいかれてるのかもな』
『じゃあ教えてやらねぇとな。元の利息は8,000だっ』
『えっ…6,000じゃなかった?』
そう言って必死に思い出す女だが、それは記憶違いだったようだ。
『何だとっ?!本当にいかれてるのかてめぇは?!脳みそ引きずり出してでも思い出せ!!』
『ああ、ごめんなさいっ。そうだったかも知れないけど』
『それに二時間分の遅滞は2万2,000になって、切りよく30,000だ!ありがたいだろっ。つまり合計6万5,000がお前の借金なんだぜっ』
また補足だがクーパー達は女が払えなかった場合にもその知り合いを調べているので彼彼女らにもそれぞれ返済を手伝わせ、しばらくそれを続けても一体いくら返せたのかは分り辛いので搾れるだけ搾るつもりでいるが、そこで何故か突然に女へと近づき、蹴りを入れるニカル。ドカッ!恐ろしくなった女はまるで暗闇に目を凝らすよう確かに相手があの悪名高いバイオレイトのニカルであると確認するためステータスを見たが、その顔は笑っている。
『アハハハハハハハッ!今のは冗談だ。気にするな。それよりドンの質問に答えろ』
『構わないわ…!それで良いんでしょうっ?』
だが太った男は女の背後へと回り、左右からその顔を覗き込むようにして言う。
『フフフッ。怪しいぜ。本当に答えられるのか?フフフッ』
『私にも殴らせろ』
そう言ったモヒカンの女も鎖で巻いた拳を構えたが、それを手で制したのはロブスト。
『待て。死んじまう。じゃあ…質問するぜ?』
よってそこからは主にロブストと女の問答となり、他は黙ってそれを聞く。
『お前は友人に高級ステーキをおごったようだが、それはいつの事で、一枚いくらだった?』
『ああ、あれは…確か…』
『三人共喜んでたらしいじゃねぇか。気前のいいご婦人だ。あの店では一枚310Grくらいだったかな?そうだなボーン』
『ああ、間違いねぇ。帰りには部屋に飾る花まで買ったんだ。さすが金持ちだぜ』
『なるほど分かった。じゃあそれはいつだ?』
『ちょ、ちょっと待って…!310Grもしたかどうか分からないわ。憶えてないものっ。だって……質問に答えるのは私でしょう?』
『その義務を免除してやるんだから生意気な口きくんじゃねぇ!いいかオレ達はお前がどこへ行って誰と生きようが必ず自分達の恐ろしさを分からせる。だから許容できる状況っていうのは、最低でも面子を保つか、より稼げるようになっているかの、どちらかなんだぜっ?どこへ行って誰を頼ろうと必ずその全員に鉛弾をぶち込んでやる!それが嫌なら黙ってオレの質問に答えろこのくそ女!返事しやがれっ!』
『わ…分かったわ。あれは確か、確か四日前よ』
『その時もこのボーンがお前に、羽振りが良さそうだから5,000ほど返してくれと言ったが、2,000くらいしかないと言ったんだって?無かったのか?』
『その2,000っていうのは…口癖みたいなものだわっ。大体それくらいしか持ってないから』
『…無かったのか?』
『無かったはずよ。無かったっ。一応考えたのよ嘘になったら大変だもの…!』
『お前に大金を貸してやったオレ達ファミリーが、少し返してくれと、頼んだ。なのにあったら不味いよな?別に期限前に催促しないなんて言ってねぇ。言い方も、丁寧だった。ボーンなら必ずそうする。とてもいい奴だからなぁ。そうだじゃあせっかくだから今度は……お前がいい奴かどうかを話そう。聞くところによるとお前はその友人達に、どこかのファミリーはどうせ数ばかりで金を返す必要なんてない…と言ったようだが』
『い、言ってない!そいつこそ嘘つきのくず女よ!ただの客だけど一応私とは付き合いがあるじゃないっ。そうだっ…私がそいつを殺す。約束する。一度もプレイヤーを撃った事はないけど銃を持っていない訳じゃあないのよ!タンスにあるんだから、チャンスを頂戴』
『じゃあ答えは、言ってない、でいいんだな?』
『言ってないわ…!』
それを聞いて首を傾げるドン・ロブストを見たサンドロ達は皆一斉に女を囲んで、殴る蹴る。グシャ、ドッ、ビシッ、ガンッ、ベチンッ、ガッ、ガンッ、ゴッ…!とその最後に放たれたサンドロのフックが強過ぎたようで女はそのまま絶命したが、彼は言う。
『いいかお前ら、これで終わりじゃあねぇぞ!分かってるな?徹底的にやるんだっ』
当然だぜ。そう心の中で言ったのはニカル。すると揃って女に唾を吐くのは太った男とモヒカンの女。ボーンは女を足蹴にしてその体から何もかもをはぎ取り、クーパーファミリーの悪辣ぶりここに極まれりといったところだが、忙しいロブストは今携帯電話を片手に誰かと話しているようだ。
『何?…そうか分かった。おいお前ら喜べっ。ストラーノがチャーチをやったぞ。奴め、できれば争いたくはないなんて言って、最後まで銃を出さなかったらしい。本当に馬鹿な奴らだぜっ』
それから数分後のカンパネッラ邸の大広間では、キアーロがチャーチと電話で話していた。
『ああ、くそっ。それでも…戻って来るなら嬉しい。寂しいが一応別人になって新しい人生を歩むのも、各プレイヤーの自由だからな』
『いいえ当然です。カンパネッラはやはり、温かいので。またやられてしまうかも知れませんが、張り切って行きましょうっ』
その言葉に押されているとはいえ小さな喜びを感じるキアーロ。一人奥の暖炉を背に座る彼の左右にはカツミとアレッタがいて、その彼女が座る右側には奥からペスカーラ、コーテル、エルネスト、バイカ、デルフィーノが並び、左のカツミ側にはアン、ウィリアム、アロマ、シモーニ、パメラが並んでそれぞれ話し込んでいるが、その彼彼女らのほとんどが見ている抗争の履歴とは以下だ。
09:31プローバのウーロビーチでキャメロン・アドが殺されました。12:46オンオーズのダンスホールヤーニングの駐車場でジミー・チャーチが殺されました。
よってキアーロはチャーチとの会話を終えても珍しくその結果に怒りを露わにしていたが、そんな彼にも冷めた態度のコーテル。
『まあそれでも、奴が殺されるのはもう二度目だからな。慣れたから、明るかったんじゃあねぇか?ハハッ!弱い奴は放っておいて、楽しくやろうぜ』
『だが二度目だからこそ本当は落ち込んでいるかも知れない。だから明るかったのは、オレ達に心配をかけないようにする為だと思ってな』
『つまり虚勢を張ったのか?じゃあその意気は認めてやろうぜっ。強がるだけましだ』
だがそこで立ち上がって言うキアーロ。詩人重音主曰く、人は相手に何があろうと変わらないから、堪えられる。相手がその事によって深く傷つき変わってしまうから、堪えられないのだ。それでもコーテルは、そのキアーロの言葉さえ当たり前だと切り捨てたのでペスカーラ、エルネスト、それにアンも黙ってはいない。
『酷い態度だ…。お前そんなジョークが言えるほどチャーチと仲が良かったのか?ドンに対しても失礼だしな…!』
『そうだ、いちいち悪ぶって、悩みでもあるのか?だったら今ここで相談しろよ』
『そうよっ。その勇気は認めるわ』
その皮肉に思わず笑ってしまったのはカツミとウィリアム。カツミはキアーロを見習いなるべくどんな仲間にでも優しくするよう心がけているので笑いになったようだが、実のところウィリアムは怒りに堪え、それはバイカも同様。二人や他の仲間が自分の苛立ちと戦っていると察したアレッタはコーテルがキャメロン…と言いかけたのを止め、その彼女から電話を受けたというアロマに説明を促し、受けた彼女の方もなるべく邪魔が入らないよう、素早く立ち上がる。
『そう私がキャメロンから聞いたのは、堂々と素性も隠さず車から降りたストラーノが突然、話しかけてきたという事ね。その時彼女は知り合いと立ち話をしていたようだけど、まるで親しい友人みたいに馴れ馴れしかったから、すぐ追い返したらしいわ』
『それから振り向き様に…か?』
言ったのはウィリアム。だがアロマは首を振って続ける。
『いいえ正確には…そのまま車に戻ってその陰から狙い撃ち。つまり殺し屋の奴はその射撃も侮れないはずなのにしっかりと有利な状況を作って、攻撃してきたのね。だからキャメロンは、その部分だけは仲間に伝えて絶対に復讐して欲しいと、言ってたわ』
聞いて言うのはバイカとウィリアムそれにデルフィーノ。
『どうせストラーノは殺すっ。たとえクーパーが詫びを入れても、ドンが上手く交渉してくれるぜ』
『情報さえあればオレが今すぐにでも行くけどな』
『そういえば、キャメロンが帰って来ると言ったかどうかも気になる』
するとそれにも答えるアロマ。彼女が言うには、古巣がウルバーノで今はクーパーでも殺し屋をやるストラーノを殺すには情報が足りないらしいが、キャメロンなら帰って来るという事で、キアーロはひとまず安心。だがそうなると彼もまたストラーノやクーパーファミリーへの怒りが込みあげ、吐き捨てるように言う。
『一体オレ達が何をしたっ?!乱暴者を退治しただけでそれを逆恨みして、仲間を殺すなんて…!だから悪は赦せん!理不尽だっ。こうなったらやり返してやりたいが、どうしてやろうか。掲示板で挑発して集まって来たら一度逃げて、数が少なくなったところを襲ってやろうか?まだ数軒しかない奴らのダースンコーズの店へ押しかけてやろうか?』
その怒りに声をあげて同調するのはアンとエルネスト。
『それいいじゃない。ダースンコーズの店へ行きましょう!殲滅後はあえてEAの勢力圏外にいて、待ち伏せる手もあるっ』
『面白い計画だ。ああこんな時リッキーとファルコもいればなぁ!』
そこから一同は小勢でどうやってやり返すかで盛り上がったが、それを聞きながらキアーロに内輪話を仕掛けるのはカツミ。勿論彼からもまずはクーパーを皮肉る言葉が出てきたが、それはすぐ改まった態度となった。
『だから闘争心も大切なんだが、オレが気になるのはそれよりコーテルの事だ。キアーロが話してくれないか。そうオレが言っても結局、ただお互いに不愉快な想いをしそうだし、アレッタやペスカーラが言っても、甘やかしてしまいそうだ。それにバイカやウィリアムが言うと喧嘩になるのは、目に見えてるからな』
『ああ、確かに奴は、実世界で嫌な事ばかりあるのかもなぁ。オレはどこでどんな奴と話してもあれくらいの態度は普通と思うようにしているが、後でそれとなく話してみよう』
その間もペスカーラやデルフィーノはクーパーの現状を探る為何人かの知り合いに電話し、アレッタとアンとパメラは死なない為にはどうすればいいか等という備えについて議論していたが、ウィリアムとエルネストはただただ交互にクーパーを罵り、それに腕時計を見ながら加わったのはバイカだ。
『くそ、あいつらめっ。きっと今頃は楽しんでやがる!来るとき小耳にはさんだ情報では、バザの南にあるレストランでパーティーを開いてるらしいぜ!馬鹿にしてるよな?』
だがその彼を指差したのはキアーロ。
『何?…バザと言えば隣町じゃないか。狙えるかも知れないな…!おいデルフィーノ!』
『ああ、任せろドン・キアーロッ。今知り合いに電話して様子を見てもらうよ』
勿論それはペスカーラも手伝ったが、僅か四分後には結果をもたらすデルフィーノ。
『いいぞ…!みんな喜べっ。パーティーは極親しい仲間だけのもので、人数はたったの五人だ』
聞いて気早にも歓声を上げるカンパネッラ。パメラは飛びあがり、カツミは拳をつくって天井を仰ぎまるで半分勝ったかのようだが、デルフィーノは説明を続ける。
『会場は奥で、店の所有者はクーパーに従属しているダラーエリアファミリーだから危険もあるが、他の席からは離れたビップルームのような扱いで、上手くやれば関係のない奴らの巻き添えを防げるし、オープンスペースだ。だから多分、外から様子を覗けるぜ。行ってみる価値はあるな!』
聞いて呆れたように言うバイカ。
『ハハハッ、馬鹿な奴らだ…!当然これこそがガラミールのいいところでもあるが、こんな時にたった五人でパーティーとはなぁ。オレ達を甘く見過ぎだぜ…!』
そうして一挙に明るくなった一同だが、デルフィーノは人差し指を立てるとキアーロとカツミの後ろまで歩き、二人と話す。
『ああ、そういえば知り合いの情報によると、今ならその店に居るダラーエリアも二人だけらしい』
『よし!バイカの情報提供は無意識かも知れないが、後であいつにも少し多めに分け前をやろうっ』
『デルフィーノも行動が速いぜっ』
『ああ、実は自分でも急ぎ過ぎているようで心配なんだが、それよりもう一つ気になる事がある。それは奴らがパーティーを盛り上げるために呼んだ、女達の事さ。これは実世界の常識では大人しくさせればいいが、ここでは無理だ。ほぼ全てのプレイヤーが銃を持っているだろうからなぁ』
『うーん、そうか…!じゃあ上手く言って、引き離さないとな』
『アンやアロマ達に頼めばいい。…きっとどうにでもなる。それよりなるべく味方がやられないように、始末したいよな』
そのカツミの言葉に胸を叩くキアーロ。
『任せろっ。お前の心配はもっともだが、今訊いたところこの心には自分や仲間、それに善良な者を想う心しかない。ハハッ!これならいい計画が立てられるっ』
それから約十四分後…なるべく目立たないよう相乗りしてバザの街へと入り、目標の店から離れたバーガーレストランに居たキアーロ達。そこは路地裏にある白木の壁に赤と黄色で縦縞模様となった屋根が愛らしい店で、右はテイクアウト用の窓で中央はガラスのドアをはめ込んだ入口となり、その左に置かれた白く丸い天板のテーブルは二台あったが、その入口に近い方へデルフィーノとコーテルが座ってパメラとアロマは向かい側の歩道で話し込み、アレッタとペスカーラは訳あって南北に延びる東の大通りへでて少し南に行ったところにある歩道の東西に別れて立ち、他は中でキアーロやカツミと共に連絡を待っている状況。雑貨屋フクジンで安価な紺色のコートを買ったアンは一人、素性を隠し、髪形も結って変え、南にある例のオープンスペースへ近づいていたが、その足は少しずつ速度を落とし、偶然通りかかった体裁を装う準備をしていた。風は強く、どこかのバーゲンセールのチラシが飛んでいく。そうこんな日には風のお陰でグロートや誰かが捨てた服や帽子が飛んでくるか落ちているものだが、今はそれを一々確かめている暇もなく、店の西側にオープンスペースを見つけたアンは立ちどまり、しばらくして電話をかけエルネストに状況を説明。彼女はデルフィーノが教えてくれた状況が少しも変わっていない事と、クーパー達が一部残された地面に木々の立ちならぶ洒落たコンクリートの上にいる事、それに女達が奴らのファミリーに属していない事などを教え、オープンスペースの北にある赤い木の壁まで歩くとそこで、大きな声を上げた。
『ちょっとあんたビモリーでしょうっ?何でパーティーなんかしてるの?!出て来なさいよっ』
そう中で楽しんでいたクーパー達は、女を膝に乗せる者、一人の女と踊ってもう一人を待たせる者、この後どの相手と実世界の電話で話すかを相談する者等があり、黒く丸い天板のテーブルにはウィスキーやワインなどが置かれ、無造作にある灰色の椅子はその一つが倒れと十分に騒ぎ楽しんでいたようだが、アンの存在に気付くと金色の髪に黄色いドレスを着たビモリーと、もう一人の長い黒髪に青いドレスを着た女、それに髪を剃って紫のスーツを着た大柄な男が、北の壁まで歩く。
『何だ姉ちゃん?』
そう言ったのは大柄な男。ビモリーも事情くらいは聞きたいだろうが怖がっているようで、青いドレスの女から離れず、再び怒鳴るアン。
『よくもそんな猫かぶった態度でいられるわねっ。まさかコニーのこと、忘れてないよね?二週間前よっ。二週間!思い出しなさいよっ。パーマをかけた金髪にビモリーっていう名前、絶対貴方だわっ』
『まあまあ、落ち着けよ。彼女も驚いてるじゃないか。話ならオレが聞くぜ?』
『クーパーが何だっていうのよっ。本当に怒ってるんだから!彼女とその彼氏に謝りなさいよっ。…あっ!』
『今度は何だ?』
『聞いて!あんたも聞いてっ。その青いドレスの女も向こうにいる緑のドレスの女も、コニーを泣かせた女だわ…。彼女が言ってた女と名前が同じだものっ』
だが当然憶えがないと言うビモリー達。彼女達は店を出ないと言ったがアンは二人に謝れば何もかも許すと言うので、大柄な男が会話をつづける。
『それより何で素性を隠してるんだ?やっぱりオレ達が怖いのか?』
『ええっ?あんた達みたいなのに名前を憶えられると、しつこく誘って来るからじゃない!』
『ハハハハハハッ!』
そうして女を膝にのせていた男が笑ったので、怪しまれずに済むアン。彼女は全部で五人いる女をできるだけ多く避難させ襲撃をやりやすくするつもりだったものを、現実には大柄な男が付いてくるというので内心小さく舌打ちしたが、キアーロやデルフィーノと相談した時にも何人かのクーパーはついて来ると予想していたので、それも見つけた花に泥がついている程度の事だ。
『じゃあオレも行こうかなー』
『あんたはこれからどの女と楽しむのか相談してなさいよっ。ほんの少し話すだけなのにそれを待てないなんてどうかしてるんじゃないの?』
『ああーはいはいっ。気の強い姉ちゃんだぜぇ』
『ハハハハッ!じゃあオレ達はそうさせてもらうぜ。楽しみを邪魔されたくないからなぁ。おい、ビモリーの気を引くチャンスだな』
『ハハッ!うるせぇなー…』
よって作り話とはいえその騒動には無関係な女も気になって同行する事となり、大柄な男も含め五人が出てきたので、それを店の入口で迎え、北へと歩くアン。彼女はその間も指摘されて内輪話に切り替えはしたが、ビモリーがスタラドかこのバザの大通りでコニーを罵っただの、その内一人は銃を出して脅しただのと喚きながら歩き、一路仲間の待つバーガーレストランへ。途中アンとすれ違ったペスカーラは自然な間隔を空けてゆっくりとその後を追い、気付いて歩きだしたアレッタから連絡を受けて男が付いてきたと知った体力や屈強さに自信のあるバイカはキアーロに断り、念には念を押して外にいる死んで間もないコーテルと交代。100%ではないが計画はまずまずで、大通りから路地へ入った女達と大柄な男は実のところ素性を隠せるパメラとバイカが歩道に立っているのを見てコニーとその恋人だと疑わず、そこで計画通り立ち止まったアンに走るペスカーラ、アレッタ、パメラ、バイカ、デルフィーノ、アロマ。キアーロ達も店からでて歩いたが現場に着く頃には、何もかも決着がついていたのだ。
『だから撃たないで!誤解なら謝ると言ったでしょう?本当にごめんなさい。でもお願いだから、銃はしまってっ』
すると相手の数を見て銃をしまう青いドレスの女。アレッタは女達が邪魔で大柄な男を撃てなかったがその分アン達が至近距離から発砲してほとんど抵抗を受けずに済んだようであり、困惑する女達には必要なら後で説明すると約束し帰るように言うキアーロ。彼はデルフィーノとも相談してその監視役には死んだばかりでしかも頭のいいアロマを付け、自分達は車にのって静かに店へ。どかどかと乗り込んでオープンスペースの入口まで辿り着いた彼彼女らにも薄青いスーツとホンブルグで揃えたダラーエリアの二人組は文句を言いながらついて来たがそれを、私たちは客よ、クーパーの許可なく撃つのは賢くない等と宥めすかしたのは、アレッタとエルネスト。それに加え店の入口辺りでは沢山のテーブルの中心で体を回したデルフィーノが誰も撃たない、誰も死なないと客にとっての真実を伝えたので混乱はなく、手下のフランクとマルメを前にしてオープンスペースに入ったキアーロはすぐ残った女も含めた五人に自分達がやり合うつもりは無い事と、ロブストとサンドロを喜ばせる話があるという事を伝え、相手が落ち着いたのを見てから女を帰し、十二人でクーパー達を囲む。だがそこで声を上げたのは一番奥で店の外を見ていたという真っ白なスーツに金髪を逆立てた男。そこからバーガーレストランは画面を引いても見えないが、アンや女達の背中を見て怪しんでいたのだろう。
『だがお前らは、ストーリアの前で仲間を騙した奴らだろ?』
バイカはその男のすぐ右にいて睨みを利かせているが、答えるのはキアーロだ。
『それはそうだが…落ち着いて考えてみろ。元々自分達は悪くないのに、あの時どうすれば良かった?ただ尻尾を巻いて逃げろっていうのか?そんな事をしたらオレ達は危なかったんだ…!』
聞いた男は数秒考えたが結局は銃を出し、バイカに撃ち殺される。ダンッ、ダァーーン!
『がはっ!』
そこで素早く銃を出すカンパネッラファミリー。ガチャ、ガチャチャ…!それは計画通りなので誰も互いを責めず、そればかりか皆一斉に銃でクーパー達を攻める。ボンボーン、ドドドッ、ダァーーン!その善良なファミリーの裏切りにオープンスペースとの間にあったガラスは割れ、そこからダラーエリアの一人が入って来たがそれもアンとウィリアムが撃ち殺し、一人は両手をあげ降伏して今日ばかりはカンパネッラの圧勝。すぐに誰という事なくカンパネッラの一同は死んだ四人に赤い×印をつけてこの襲撃ではクーパーの安泰点を5奪取。キアーロが所持金を、アレッタとエルネスト達が戦利品を回収し、だがそこで何故かキアーロだけが声を上げる。
『おおっ』
そして直後、時計を見る彼の思惑と合致する安全な場所への移動をすすめたのはカツミ、バイカそして丁度そこへ帰ってきたアロマだったが、その三人に言われるまでもなく反撃を警戒しそれから約二十秒ほどと急いで相談した一同はそのまま一路ボスコへ。その店先で車を降りたキアーロはまず皆に向かって立ち、ついさっき驚いて見せた理由を説明する。
『ああ、実は…とても嬉しい知らせがある。五人の所持金はそれぞれ二人が0、一人が20Grで、もう一人は少し多めに671Gr11tiも持っていたが…』
聞いて拳をつくるカツミ。
『いいね!戦利品もあるし、かなりの稼ぎだっ』
だが続けるキアーロ。
『最後の一人が1万6,210Grも持っていた。そうこれはオレや、おそらくカツミにとっても今までで一番大きな稼ぎだっ。だから』
だがそこで思わず声を上げたのはカツミ、デルフィーノ、パメラ。
『おいちょっと待て!凄ぇな…!それに戦利品を売った額を加えれば更にすげぇ事になるぜっ』
『おお、神よっ!この日に感謝しますっ』
『お父さん達も喜ぶ!…あ、ちょっと待てよ。ぬか喜びは良くないね。アハハッ…!』
『もういいかな?』
そう訊ねるキアーロに頷く三人。よってキアーロは再び続ける。
『だから血の掟その三には、ファミリーの稼ぎはその時顔を出している仲間で等しく分けあう事…とあるが、今日は私の一存で、今居ない仲間にもいくらか残しておきたいと思うが、どうだろう?勿論お前達さえ許すならだが…』
またその代わり皆が欲しがるような戦利品の一部は売らず、今いる仲間で分けあうという事で、その名案に拍手したのはシモーニとアレッタ。それに他が続いて拍手は徐々に大きくなり、わざわざ収音機能をオフにしたバイカはいい人だ!あんたはいい人だ!と言って画面を指差し、ペスカーラなどはキアーロより高尚でまったく等しく分けると予想していたようだが、よく考えると今ファミリーに顔を出している自分達とそうでない仲間達が同額では不平等になるのではないかと思い、彼もすぐに大きく拍手。だが期待過剰を抑えるのもまた、ドンの仕事だ。
『ただ軍資金にもいくらかはとっておく。ファミリーの為だ。それはいいよな?』
勿論ほとんどは納得したが、一人No way!という文字を頭上に出すのはコーテル。彼に言わせるとせっかく喜んでいたところに水を差されたような気分らしい。
『おいおい勘弁してくれよっ。あんたドンだろう?軍資金にも数千グロートで、働いてもいねぇ奴らにもオレ達の半分?興覚めだぜぇー』
要するに今の彼が優先したいのはドンや仲間の心でなく、ファミリーの存続でもなく、目先の利益。丁度限界がきていたバイカとウィリアムは、興覚めなのはこちらだと言わんばかりにナックルダスターと鉄パイプを出し、デルフィーノは二人を止める為ゆっくりとその後ろへ。キアーロを信頼しているからこそカツミはまだ堪えているがコーテルの前へ出たのはペスカーラで、彼は両腕を広げると頭上にハテナマークを出す。
『おい、ドンの話を聞いてなかったのか?理解不能だっ。大体にしてこのファミリーにおいてもその言葉は誰より重んぜられるべきなのに、そんなドンの気持ちを踏みにじるのかっ。意見なら、失礼のないように言えっ』
『ハハハッ!そう熱くなるなってー。ただオレは同じように思う奴も、いるかと思ってなぁ』
『いいえ、いないわっ』
そう言ったアンはまるでキアーロの味方をするのが当然とでも言うようにそのそばへ行き、それを見たキアーロもこのままでは済まないと思ったのかコーテルに言う。
『そりゃあ誰だって金は欲しいよな。ハハッ!だから不満ならもう少し、詳しく聞かせてくれ』
『だからぁ、軍資金にも働いてねぇ奴らにも沢山持っていくんだろって事さ。オレも他の奴らも、今日はずっとあんたに付き合ってるのによぉ』
『なるほど。だがこの金だってファミリーあってのものだ。だから軍資金も必要だし、こんなに沢山あるんだから今迄一緒に頑張ってきた仲間に残しておいてもいいじゃないか。そう第一、全てにおいて善良さを胸に臨まなければならない。それなのに反対という事は、程度の問題か?じゃあ今いない仲間にやる金が三分の一なら、納得できるのか?』
『ああ、それくらいならいいと思うぜ。…いいや、四分の一かな』
『だが私はそう思わない。そうお前だってレットーラやアバード、それにリッキーの活躍を知っているだろう。ファルコはきっと事情があって金が必要だし、リカだってこのカンパネッラを信じて入ってくれたんだ。それに今やられたチャーチだってそうさ。余裕が必要だ。だからそんな彼彼女らの為にも、ここは譲ってくれ。当然またこれからも、金の分け方に意見があるなら聞くが…』
そこで声を上げたのはカツミ。
『ああ悪いがコーテル、よく聞けよっ。うちのファミリーにある血の掟、あれ初めはその一にある儚い絆を守りつつ、全てにおいて善良さを胸に臨む事っていう、それだけだったんだっ。これで分かってくれよ』
とこのようにドンとダイドブレインズに言われたので両手のひらを示し降伏するしかないコーテル。話し合いに決着がついたところでアレッタとアンを誘ったパメラはフクジンとヒーズアウトへ戦利品を売りに行き、その彼女達が戻って十数分後すぐ計算を始めたのはペスカーラとシモーニ。エルネストとデルフィーノはキアーロやカツミと相談して残した戦利品を確認しているが、それは以下である。
フルムーン×2、小型車センシビリタ、対建物炸裂弾、木箱(リキュール×3)、ウィスキー、ボロネーゼ、ポテト、Tボーンステーキ、マカロニ&チーズ、改造スナイパーライフル損耗倍率向上、マシンガン、絵画・糸杉とビリー、白い小棚、十字柄の大きな布(シャンパン色)、特権・月恵腹喜、茶色のサファイア、ダイアモンド
当然それらに集まった一同は品定めに忙しく、そこでも一言断るのはキアーロ。
『勿論欲しい者がいれば事情を聞いた上でやるが、一応ファミリーの為にフルムーンだけは今回、私が預かろうと思う。そしてダイアモンドは今回の情報を提供してくれたバイカにやろうと思うが、どうかな?』
それにGood thinking!の文字を示しながら茶色のサファイアを貰うパメラ。他も賛成と言いながらそれぞれ一つか二つずつ欲しい物をキアーロやカツミ達から貰ったが、恐縮したバイカは帽子に手を当てて礼を言い、それに答えるのもキアーロだ。
『ありがてぇなぁ。でも本当に良いのか?売る時期と店にもよるがこれだけで大きな稼ぎになるぜ』
『皆が納得したんだ。貰ってくれっ』
またその間も一同は戦利品について色々と話しているが、中でも喜んでいるのはデルフィーノ、アロマ、ウィリアム。
『悪いけど誰も取らないならオレは、特権の月恵腹喜を貰おう。だってこれはフルムーンが六つあってやっと手に入るものなんだから、少なくともそのフルムーン三つか四つと交換できるだろうし、無理でも知り合いに高値で売れそうだ』
『流石に色々考えてるじゃない。あっ…センシビリタはペスカーラが取ったの?車はあるけどお金は無いのよねぇ。売りたかったのに』
『ハハッ!庶民なんて皆似たようなもんだろ。オレはボロネーゼとマカロニ&チーズでいいぜ』
そして改造スナイパーライフル損耗倍率向上を手にしたアンに質問するのはエルネストとシモーニ。
『確か損耗倍率って、撃っててどれほど耐久性を失うかを示す値だよな?じゃあ低い方がいいんだよな?オレいつも間違うんだよ』
『もしかしてアンは、銃ばかり集めてるのか?』
『ええ、二人共その通りよ。だからこれは、損耗倍率に関しての向上がなされているのね。それにもしもファミリーに銃が無くなったらこれも使ってもらうんだから、集めがいがあるわ。そうこの銃もやや使い込んでるけど…まだまだ未修理でいけるわねぇ』
そこでますますアンを頼もしいと思ったエルネストだが、今度はシモーニに訊けば、彼は白い小棚と十字柄の大きな布を取ったらしく、それは小棚の上に布をひろげ組み合わせて部屋に飾るようで、その未知のシステムには感心し、丁度その時分け前を配って歩いたのはキアーロ、カツミ、ペスカーラ。その手からそれぞれに渡されたのが821Grだったのでデルフィーノはアロマとハイタッチした後すぐ、バイカにもかけ寄る。
『円だと7万近くにはなるぜ!何を買うか迷うよなぁ~?』
『いいやオレはファミリーに上納する』
聞いて愕然とするデルフィーノとアロマ。バイカはその言葉通り渡された金を上納しに行ってそれを受取ったドン・キアーロさえ困惑させ、他は彼の忠誠心を称賛。そこで戦利品の取り合いなどもなく、今居ない仲間にも500Gr近く残されている事に安心したアレッタは皆に分け前を何に使うか訊ねるとそれには、様々な声が返ってきた。そうそれは、久しぶりに子供とデパートへ行く、家族旅行に行く、疎遠になっている友人に贈り物をする、いい酒を買う、ホテルのレストランへ行く回数を増やす、住んでいる町に寄付する、金に困った知り合いにやる、額を見ているだけでもため息が出るので光熱費や通信料を払ってしまう等であり、中でもウィリアムは金に困った知り合いにやるという、家族でさえない人物への譲渡を口にしたのでそれを褒めるのはエルネストとパメラだ。
『いいねー。お前とは絶対仲良くしておくぜっ。改めてよろしくな』
『そうしてあげたい友達がいる事も幸運だね』
聞いてその通りさと言い、人差し指でパメラを撃つウィリアム。ただそこで彼が、実はさっき大きなダメージを受けていたと教えると、キアーロとカツミは心配して言う。
『じゃあすぐ病院に行かないとなっ。天使のような友を死なせる訳にはいかない。そうだあの襲撃で、クーパーが動き出しているかも知れないから、誰かつけよう』
『車で送るぜ。後はアレッタかエルネストがついて行けば大丈夫だろう。奴らに出くわしたら逃げればいいさ』
そのカツミにも気を付けろよと言うキアーロだが、ウィリアムは気恥ずかしいと思ったようでそれを断り、代わりにボスコの北にある地下鉄から病院へいくと一言。聞いたシモーニは改札まではついて行くと申し出たが、ウィリアムは後ろ歩きしながらそんな事しやがったら殺すと言って笑いながら去り、そこにぽたぽたと降りだした雨。それを見て地下鉄の入口前でギャスマンが殺されたのを思い出したキアーロはまた微かに不安になったが、ドンである自分が行くわけにも、また急に誰かをやるわけにもいかず、そんな彼に声をかけたのはバイカとデルフィーノ。バイカは帽子の雨を落とし、デルフィーノは襟をつかんで言う。
『じゃあドン、あまり雨に当たっていると冷える。つづきは邸で話そうぜ』
『ああ、雨の中で相談するなんてこの辺りを仕切るファミリーとして格好悪いからなー』
聞いて笑い出すキアーロとカツミ。そうして二人が笑ったので一同は邸へと走り、一挙に玄関の扉の前まで。だが何故かそこでアレッタが叫ぶ。
『待って!!実は私、特技の毒に気付くを習得してるのっ。だから全員動かないで!どこにも触れないで!』
そう言われたので画面を前に腕をくむキアーロ。彼は黒く艶めく扉の前に立ち尽くし、他もまだ完全に修復されていない噴水やベンチの様子を見たり、冷えを避けるため車庫へ駈け込んだりするところだったが、彼女の鶴の一声で動けず、そこで庭に来たのがチャーチとキャメロンそれにシン。三人は状況がのみ込めず不安気に言う。
『おお神よ、この善良な集いをお救い下さい』
『一体どうしたのっ?まさか…不具合とか?』
『ええっ、邸ってこんなに荒らされてたの?夢の邸なのにっ!』
そこで主にキャメロンへ向けて言うのはカツミ。
『まあ、落ち着け。今アレッタが毒を嗅ぎつけたらしいから、しばらくは大人しくしてようぜ。また死にたいのか?』
『冗談じゃないわっ。今は新しいサングラスを買うのにちょっと大目にお金を持ってきたんだから』
そこで分け前があると教えるカツミに、事情を聞いて飛びあがるキャメロン。
『やったぁ!じゃあ高いの買おうかなぁ』
『アハハッ。そうだろ?だから…ほんの少しの辛抱だ』
そうして数秒後、キアーロの前にくると扉から離れるように言うアレッタ。その話によるとどうやら毒は扉の取っ手に塗ってあるらしく、それを除去した彼女は何故か悔しそうに続ける。
『ああ、秘密にしておいて、後で活躍するつもりだったのに』
聞いたカツミは呆れたように笑ったが、そんなアレッタを慰めるのはキアーロとペスカーラだ。
『いいや友よ、お前は私にとって命の恩人なのだから、十分な働きだっ。そうこの事はずっと憶えておくぞ…!』
『そうだキアーロが忘れる訳ねぇ。レットーラさえいなければ、スターソルジャーにしてもいいぜ。だって除去できたって事は、毒を扱うも習得してるんだろ。凄いじゃないか』
そこでキアーロは丁度いいと思ったのかレットーラをスターソルジャーにしたと発表し、代わりにアレッタには、カポの地位はどうかと訊ねる。
『そ…それはぁ』
『どうだ?ドンはオレで、ダイドブレインズはカツミ。そしてリッキーはコンシリエーレで、レットーラはスターソルジャーだ。だがそうなると、まだカツミが誰かをスターソルジャーにするだろうが、これだけ女達が活躍しているのに、とても不自然だ』
『でも…本当に良いのかな?カツミやリッキー達は皆、最初からファミリーに所属していた仲間だし』
よってその消極的なアレッタを横切ると皆に両腕を広げ、拍手を促すキアーロ。その拍手はすぐに大きくなったのでアレッタは承知したが、そこで申し訳なさそうに手を挙げたのはシン。彼女はエルネストやバイカなどが言えよ言えよと言うので、思いきって話す。
『じゃあ突然だけど私、毒にやられて死んだの。来る途中食べたパスタに毒を盛られたみたいでさ。すぐ近くにいた人が教えてくれたんだけど、間に合わなかったの』
『何だと?』
そう言ったカツミも彼女を責めるつもりはないが、アレッタがカポの地位を受けたばかりであるだけに、やや残念そうに続ける。
『くそっ!次々仲間がやられちまう。だがシンも、落ち込むなよっ』
『私が落ち込むわけないじゃなーい』
バイカはそれを聞いてシンよりカツミが落ち込んでいるようだと笑ったが、それに釣られて笑う仲間達を抑えたのはキアーロ。彼は毒の事件が続いたので病院へ向かうウィリアムの身を案じ、待ち伏せも警戒すべきだとすぐ携帯電話をとり出して目の前にアンとペスカーラを呼ぶ。
『いいか二人共、扉に毒があって、シンも毒にやられた。という事はクーパー共の狙いは、毒殺なのかも知れないから、知るかぎりの闇医を教えてくれ。今丁度ウィリアムに繋がった』
そうつまりキアーロが言うにはクーパーファミリーの狙いが毒殺なら病院の近くで待ち伏せ、時間によって死ぬか、銃弾によって死ぬかという恐ろしい追い込みが予想されるというので、アンとペスカーラは慌てて記憶を引きずり出し、その様子を見て感心するのはデルフィーノとアロマだ。
『すげぇな。オレも毒殺がつづく可能性については気付いていたが、病院前で待ち伏せねぇ…』
『つまりドンの純粋に仲間を思う気持ちが、賢い思考を促したのね』
またそこでベティーからの電話に声を上げるのはカツミ。
『おいキアーロッ。お前さすがだな…!今ベティーから聞いた話ではついさっきまでプローバやゲデルの病院辺りにクーパー達が居たらしくて、あのEAさえ騒いでるみたいだぞ。きっとお前の読み通りだっ』
よってウィリアムにはアンの知る西の闇医を紹介し、電話をきるキアーロ。そこで彼は次にシンを呼び、その話を聞く。
『ええ、確かにドンの言うとおり。私も料理の毒に気付いてからすぐ病院へ行こうとしたんだけど、その途中にある道を塞がれて、撃ち合っている間に死んだの。相手は三人もいたんだよっ』
『やっぱりな。だがオレ達が気付いた事によってクーパー達も、諦めてくれるかも知れない』
『やられちゃってごめん。私毒に気付くを持ってないし、記憶は得意だけど、ドンみたいな頭の使い方はちょっと』
だがそれに言うのはカツミ。
『いいや気にするなっ。誰もキアーロのように純粋にはなれないさ』
聞いて頷く一同。だがそこで一般的な意味で純粋なキャメロンとパメラは毒を扱うや毒に気付くという特技それに闇医についても聞きたいと言い、それにはアレッタとアンが応えてくれた。よってその二人が提供した情報とは以下。
毒を扱う…口に含むものなら酒、煙草、ジュース、食事、触れるものなら椅子、ドア、テレビ等に毒を仕込む特技。ミニゲームに失敗すると自分が毒に触れてしまうが、島においては無難な殺法。必要経験値3890 消費気力70 効果補足…防衛棟では使用できず、その毒殺を抗争扱いにしたければ相手の死後×印を付ける必要があり、遅効性なのですぐには死なない。
毒に気付く…仕込まれた毒に気付くようになる特技。自分の足下も含め六マス内にある毒に気付くようになり、これにより植物も含め毒をもった生物を見分け、その接近にも気付くようになる。必要経験値1920 消費気力19 効果補足…気力が19無い時には発動しない。
闇医…見た目には分からない場所に住んでいる無免許の医者。治療は可能だが自分勝手な個人なので、留守にしているかいつの間にか店を畳んでいる可能性があり、運良く居てもたまに高額の請求があったり、それと共に完全には回復していなかったりするが、中には優秀な者もいる。
『何これ随分いい加減ねぇ!』
そう言ったのはキャメロン。キアーロやカツミはベティーが合流できると言ったので彼女を待つ間いい楽しみができたと思っているが、デルフィーノとアロマはこんな時にも真面目だ。
『だから、闇医だろ?金も取るだけ取って毒が治っていない事もあるんじゃないか』
『フフフッ。それは酷いわね。でもそうなるとウィリアムが心配だわ。大丈夫?』
それに答えるアン。
『大丈夫よ。そのじじい失敗はするけどすぐやり直すから、よほど危険な状態じゃないと患者が死ぬ事もないの。だから後はどのくらいの時間がかかるかそして、居るかどうかだけど』
それにペスカーラが自分の教えた別な闇医もいると言ったので、邸へと入る一同。中まで侵入されると流石に扉が壊れていたり窓ガラスが割れていたりするのでそういった様子がない今騒ぐ者もないが、バイカは防犯カメラが無いのが不満らしい。
『だからドン、一台くらい何とかならないか?また今日みたいな事があったらその時はオレとウィリアムがそいつらを殺すぜ』
『ああ、もっともだ。だが一応カツミ達と話し合って決めよう。他は談笑でもしていればいい。カツミ、アレッタ、それにシンも来てくれ』
そう呼ばれてキアーロの左右に座る三人。言い出したバイカも呼ばれたが彼は三人の英断を信じているらしく、これからどうやって抗争を生き抜くかを話し合うデルフィーノ達の元へ。そのテーブルの南側にはキアーロにとって意外にも自分とアレッタ達以外の全員が揃い、まず口を開いたのはエルネストだ。
『オレは、どうにかしてやり返したいっ。それはこのまま守り続けてチャンスが来たらバレンティーノなんかの力も借りて一気に攻め込む手もあるが、他の目もあるんだ。自分達の意地を見せておきたいぜ…!』
聞いて賛意を表すのはバイカとデルフィーノ。
『オレも同じだっ。常識では勝てない喧嘩だが、もしもこのまま負けちまったら全力でやり合った結果じゃあない』
『そうだ。今から負ける事を考えるようじゃあ情けねぇ。だから何とかロブストを、暗殺できないものかな?』
聞いてそれが出来たら苦労はないと言うキャメロンに、その弱気な発言を許容できないエルネストとバイカ。
『当然私も考えるけど、無理なんじゃない?奴らは大勢の仲間に囲まれて、手下もいるんだし』
『だがたとえばオレだってここだけの話、特技の隠れるを使えるんだぜ。難しいが、ドンの許可が欲しいくらいさ…!』
『実はオレが考えているのは、何人かで隠れるを習得して、ロブストを暗殺する計画だ。だから訊くが、オレ達以外で特技・隠れるを使える者がいたら教えてくれ』
だがいつまで待っても誰も手を挙げないので頭を抱えるデルフィーノ。
『ああー、じゃあ他はリッキーと、もしかすればレットーラが使えるくらいか。それでも無理じゃあないが』
聞いてそんなデルフィーノを笑うキャメロンと、慰めるエルネスト。
『だから言ったじゃない。もっと現実的でこうなんて言うの…不意を衝いて、襲撃するのよっ!』
『いいや、大体にして今から覚える計画だ。落ち込む事はねぇ』
『ああ、そうだな。でもキャメロンの場合は、だからといって具体的な計画は無いんだろ?』
それに笑って親指を立てるキャメロンを見て頭の後ろで手をくむデルフィーノ。呆れたのはバイカも同じだがエルネストは諦めきれず、皆に特技・隠れるの情報を提供する。よってそれは以下。
隠れる…木、岩、川、茂み、海、柱、車、橋、看板、ベンチなどで使えば他のプレイヤーから姿を隠せる特技。発動時に気力四十を消費しそれからも七秒毎に気力一を消費するが、いつでも連続の使用と解除が可能であり、逃走や襲撃に使える。ただし乗り物に乗っての使用は不可能で、周囲に隠れる場所が多い場合には物陰から物陰へと移動し調べる者から遠ざかればいいが少ない場合には一度姿を現すか、見つかっても誤魔化す等の手段が必要となる。また発動中に三秒以上誰かのいるマスも含めて二マス内に居た場合にも解除されてしまうので、殺し屋として背後をとってもその瞬間に相手を殺す事だ。必要経験値6470 消費気力使用時に40 発動中は7秒毎に1 効果補足…効果は、建物への出入り、射撃、食事など姿を現さなければならない行動を実行するか、島を出るか、解除するまで。ただし携帯電話の使用や隠れている者同士の内輪話と密談、それに会話は可能。
それを見てエルネストに質問するのは、パメラとシモーニ。
『こんな特技使われたら、もう負けちゃうじゃない。隠れている相手に弾は当たるの?』
『同感だ。後気力は高い方が回復も速いらしいが、それが上回っていたらいつまでも使い続けられるのか?それはどうなる?RPGは詳しくない』
『ああ、弾は当たる。だから隠しアイテムや、どこかに設置された時限式火炎瓶を探すときにも必要な調べる…という行為を選択しなくても、適当に撃って倒せる事もあるが、死なないと姿は隠れたままだ。そう知っているかも知れないが自分のいるマスも含めて二マス目までを一度に調べる事もできるが、広い分時間がかかるし、その間にも敵は撃ってくるか、逃げるだろうからな。だが、安心しろ。隠れた奴から見ても相手が屈強さの高い奴だったり、反応の速い奴だったり、いい銃を持っている奴だったりすれば、先手必勝だけを頼みにはできない。そしてシモーニの指摘だが、特技・隠れるの場合消費より回復が上回るのは、気力が90に達した時だ。だからかなり慣れた奴じゃないと隠れつづける事はできない。他に質問は?じゃあ……アロマとコーテル』
『隠れた者同士だとどうなるの?互いに周囲を調べるしかないのかしら』
『クレイメッドと一緒に使えるのか?つまり、隠れた状態から』
『隠れた状態からクレイメッドは使えない。何故なら、突然近くに現れて撃ちまくる訳だから必要ないという判断だろうな。それに隠れた者同士だった場合だが、これは面白いっ。昼夜、遮蔽物の有無等の状況にもよるが、一定の距離まで近づくとしばらくして互いの影が見えるようになるんだ。だからそうなると相手構わずの悪い奴でも、森の中で一対一の状況でないかぎり標的以外や他組織と揉めるのが怖くてなかなか撃てないし、善人は無関係な人を巻き込む可能性があるから、更に冷静な判断が必要になるな。でもそのスリルがいいんだよ』
聞いて拍手するパメラ、シモーニ、アロマ。だがアロマはその話を面白いと思いながらも、計画には賛成できない。
『だって必要経験値が6470じゃあねぇ。それならまず皆でクレイメッドを覚えた方がいいじゃない』
『う、うーん…まあそれは確かにそうだが…』
『それに貴方やデルフィーノはいいけど、他は上手く使いこなせなくて、失敗しそうだわ。そうなるとただ無駄に経験値と時間を使うだけじゃない。可哀相だわ。もっと分かりやすくて簡単な作戦がいいわね』
『じゃあ殺されそうになったら一度ファミリーをぬけるっていうのはどうだ?』
そう言ったのはコーテル。つまり、ソルジャーはいつでもその意思によってファミリーの一員でなくなるという摂理を利用し、安泰点を守る裏技だがそれにはペスカーラが答える。
『ずる賢いなお前。だがそれは無理だ。意思の決定を示せば後は時間の問題だが、どこかと抗争中ファミリーをぬけるには、24時間かかるからな。それにカポの地位も一緒だ。それを抗争中にはく奪して誰かに与えなおす事はできない』
『なんだよ面白くねぇなー。くっそ!』
『いいや、だから面白いんだよ。別に24時間かかって困る事なんてないだろ?別に入りたいファミリーがあっても、一日待つだけさ』
『まあ、出来て楽しいかって言われると…楽しくねぇけど』
だがわざわざ歩いて行きそんなコーテルの肩を叩いたのはエルネスト。
『でも見直したぜコーテルッ。大体もしもそれが可能でも次回作では出来ないようにするんだ。可能な間は利用してでも勝たねぇとな』
そうエルネストとしてはコーテルにもっと仲間と上手くやって欲しかったのだが、そのゲーマーとしての軽さを見たアロマは汚名返上の機会を与える為にもデルフィーノに相談し、彼に特技・偽物を作るの説明を求める。
『何でっ?今は…他の話をしてるんだ』
だがその正当性を主張するアロマとそれに味方するデルフィーノ。
『だってそれこそクーパーを叩くのに使えるかも知れないじゃない。ここには味方しかいないんだし、いい機会だわ』
『見せ場だろ。教えてくれよー』
『おいおい簡単に言うんじゃない。この特技を使う善良なプレイヤーは少なくて、オレだけの持ち味だと思ってるんだ。そう簡単に、じゃあ教えてと言われてもなぁ。そうだ、偉大なるカポのアレッタならこの気持ちを分かってくれる。彼女に訊いてみろ』
『だが、オレも聞きたい』
『私もー』
そう言ったのはバイカとキャメロン。それに続いてアンも復習になるからと強くその公開を願い、好奇心旺盛なパメラも見たい見たいと言い出したものだから、断り切れなくなったエルネスト。彼はついに他言無用を条件に情報を提供する事になってしまい、その結果示されたものが以下だ。
偽物を作る…銃、車、服、家具、調度品、設備、システム、金銀、宝石など…グロートとティラなどを除いたものの偽物を作る特技。ただし何の偽物を作るかにもよるがその費用が発生し、どんな状況でも店では売れず、完成してもそれは使えないかしばらくすると壊れるかなので露見する前に売るか、見せびらかすだけにするか、あるいはそれを餌に何かをさせる等に使うべき。必要経験値4050 消費気力51 効果補足いつまでも消えて無くならないが、二十四時更新が来ると名称は偽物の~となり、他人の手に渡って調べられると露見するのでそれまで。
『絶対、誰にも言うなよっ。そりゃあ忘れた頃にまた騙せるけど、あの金縛り作戦の時に居なかったクーパーの奴らにも使えるんだからな』
丁度その時防犯カメラの設置を終えたキアーロ達。それは正面と裏口の二ヶ所に設置されたようでバイカは指を鳴らして喜び、補足するのはシンだ。
『合計で1,300Gr20ti。そうたとえば、この大広間にも設置しないとこの中でいつ誰が何をしたかまでは分からないけど、そこまでする必要は無いと思ったから…。集音能力は低いけど、前科も表示されるものにしたよ』
聞いて喜ぶペスカーラ、バイカ、アン。
『よし!良い事にこっちの世界の動画は偽造できないからなっ。これで今度の侵入者にはお仕置きできるぜ。楽しみだ…!』
『随分高性能じゃねぇか!期待以上だっ』
『一番安いものの倍以上するんだもの。そのくらいできないと』
またその三人を抑えて言うのはカツミ。どうやら防犯カメラについての話し合いでは、別なことも決まったらしい。
『ああそれと、喜んでくれっ。後で邸を広げる事にしたぞ。そう大金をかけるつもりはないが、ちょっと寂しいだろ?土地なら心配ない。ゲームだからいくらでも買い取って広げられる。そう西にはまだ余裕があるからなぁ。それにシンが言うには北と東にある小道さえ市に多額の工事費を支払う事さえできたなら作り直させて、庭園のある豪邸にもできる…!夢はどんどん膨らむぜっ?』
聞いて大きく拍手する一同。中でもパメラはいつから持っていたのかクラッカーを鳴らし、それから大広間はついに射撃場を造れるだとか、私室も造れるなどという声に溢れたが、それを止めたのが突然扉を開けたベティー。バタンッ!彼女は皆に挨拶を返す間もなく声を大にして言う。
『みんな早く来てっ!今ストーリアにクーパー達がいるのっ。何か企んでるのかも知れない!』
『あ…ああ、分かった。行くぞみんなっ』
その驚くカツミに言われるまでもなく立ち上がるカンパネッラファミリー。邸を出るとそこにはウィリアムから今迄の経緯を聞くマイケルとカメーリャの姿もあったが、二人もキアーロから短く説明を受ける。
『ストーリアにクーパーがいるらしい!くそっあいつら…。オレ達の縄張りだぞ!』
『じゃあ誰も手を出すなよっ。オレがチャーチ達のかたきを討つ!』
『だからベティーはあんなに急いでいたのね』
だが丁度その時、先頭のバイカがT字路に達するとその目の前を南へと走りさる車。キキーー、キュルルッ!
『ハッハー!弱小ファミリーは大変だぜっ。こんな時だーれも教えてくれねぇんだからなー』
『プレゼントを楽しみなぁ!』
そうクーパー達は窓から身を乗りだして威嚇射撃し、あるいは首を切る仕草を見せ、その黒塗りの一台は金縛り作戦の時アバード達が逃げた小道を通ってあっという間に見えなくなり、後には叫ぶバイカと悔しがるベティーだけが残る。
『くそぉ!たった三人なら袋叩きにしてやったのに!』
『後もう少し早ければ!でも私ひとりじゃあ苦戦しただろうし』
だがその後ろから来て言うキアーロ。
『いいや、ベティーそれでいいっ。よく自重して、そしてよくこれを報せてくれた。これから皆でストーリアへ行こう。毒が仕掛けられたかも知れない』
だが駐車場が見えると皆を止めるベティー。彼女が言うにはプレゼントという毒にしては派手な表現が気になるらしいが、どうしても逸る気持ちを抑えきれず前へゆくコーテルとバイカを止めるのはアン。カツミも邸での事を知らないウィリアムが受付の扉を開けるのを止めたがそこに大きな音が響く。ゴゴォーーーン、ボンッ、ボボッ!その窓から吹きだした炎とたちまち立ち昇る黒煙に声もないキアーロ達。いくつかの部屋からは客が出てきて大通りへと逃げ、黙っている訳にもいかないアレッタは水はどこかと叫び、バイカはすぐ駐車場の西側にある蛇口へ走って、そのホースでストーリアに水をかける。
『おいっ、他には何もできないのか?!』
それに答えるペスカーラとアン。
『店主が中で消火活動をしているはずだっ』
『普通はカウンターの奥にあるバケツやホースで手伝うけど、今中に入っていいかどうか分からないっ』
聞いて中に入ろうとするウィリアムやシモーニを止めるキアーロ。北から走ってきた二人のバレンティーノにはカツミがペスカーラを説明に走らせ、だがその時何故か客室へと入ってゆくデルフィーノとアロマ。何と二人はそれぞれの部屋に備え付けられた消火器を手に戻ってパメラやシモーニにも渡し、バイカと共にその中身を放出。シューー、シュッ、シュッ!数秒後駐車場に着いた一台の消防車も放水を開始したので実際の騒ぎは二分と経たずに幕を下ろしていた。よって皆に断り中の様子を見にゆくウィリアムとバイカ。消火が済んで安心したのか、ついさっきまで道路に居たカウボーイハットに白いTシャツの中年はキアーロの前にきて、何故か突然詫びる。
『まさかこんな事になるなんてっ。オレは全然思いもしなかった!奴らがクーパーだって事も、今気づいたんだっ』
見ればどうやら彼もバレンティーノのソルジャーらしいが、キアーロも落ち着いて言う。
『いいさ悪いのは奴らだ。大体、いつも守ってもらってるのにこんな時に責めるなんて、ガキの証拠さっ。もしもアクイラに何か言われたら、オレに電話してくれ』
『ああ…悪いな。それはほんの少しだけ、奴らはクーパーかもって…思ったさ。でもこんなところまで来るかっ?あいつら正気じゃねぇぜ』
『ああ…それは分かってる』
『中を見ないのか?』
そうカツミに言われ首を振るキアーロ。見るとしても彼は綺麗に修繕が終わった後にしたいようだが、カツミは続ける。
『だが大きな被害を被らずに済んだようだぞ。ベティーのお陰だな』
『えっ本当か?オレはもう、二週間ほどは使えないだろうと思っていたが』
『ハハハッ、クーパー共ざまあみやがれぇ!営業再開までたった四日だ』
『ああ、それでも四日か』
『何を言うんだ、元気出せっ。本当はもっとかかったかも知れないんだ』
『そうだな。デルフィーノとアロマにも感謝しないと。真っ先にホースを手にしたバイカにもな』
その二人の前に並ぶ仲間達。彼彼女らの後ろにある受付の扉には営業再開まで立ち入り禁止と書かれた張り紙が現れどうやら皆追い出されるように建物を出てきたようだが、キアーロに頼まれたペスカーラとエルネストは野次馬達を帰らせに行き、バイカとコーテルそれにウィリアムは内輪話で復讐についての相談を始めそこでクーパーと殺すという言葉を延々と繰り返しているので、その影響もあってかキアーロとカツミそれにアレッタという首脳達の前で怒りを口にするのは、デルフィーノとアンだ。
『礼なんていらねぇ。ファミリーの為だ。だがそんな事より、次あいつらを殺すチャンスがあればそれは、オレにも回してくれ。頼むからっ』
『今に見てなさい!白昼に撃ち殺して、踏みつけてやるんだからっ』
その二人の肩に手をやり、必ずかりは返すとつぶやくキアーロ。またそこへ来て言ったのはアロマだ。
『それで、修繕費は出すの?出せば二日で元通りにできるらしいけど』
だがそれに反対するカツミ。
『いいや、他にも店はあるんだっ。それより軍資金はクーパー共を叩くのに使わねぇとウィリアムあたりが暴走しそうだ。ハハッ!』
その後何人かのバレンティーノやルッソが来て互いに助けあうと約束して帰り、その頃になると野次馬も居なくなったので、話があるというマイケル。よってキアーロが皆を呼び集めるとその彼が口をひらく。
『まず…皆はもう知っているかも知れないが、これが時限式火炎瓶の詳細だ』
時限式火炎瓶 1万1,000Gr~ 効果対象・店などの占有可能な建物、邸、地面等効果範囲・割れた直後は中心となるマスを含め半径六マス~十二マス 威力・仕掛けた場所から一気に燃え広がり、様々な物を焼く。解除方法・割れる前に調べて発見し、解除する。使用可能回数一 補足・一分から二十四時間までの設定が可能。主に建物に対して使うが誘導作戦の為屋外で使う事も可能であり、様々な状況に対応可能な奥の手と言える。
『広さは器用さ依存。だから中の状況を見るかぎり犯人はそんなに器用な奴じゃあなかったようだが、威力はあった。これは他で火炎瓶が投げられたところを見たオレが保証しよう。つまり改造された時限式火炎瓶だったみたいだがそれだと更に、高額になる。この意味は分かるか?』
答えるキアーロ。
『ああ、もしかすれば…それだけクーパーが本気だって事か?』
『そうだ』
『そんな事はオレだって分かるぜー』
そう言ったのはコーテル。だが彼はカツミに止められたので、マイケルは続ける。
『話を盛り上げてくれてありがとう!お前は本当に愉快な男だ。それで…オレが聞いた話では、エルダースの状況も思わしくない』
『あのエルダースが押されてるって言うのか?』
『ああ、ダースンコーズの何軒かがクーパーのものになったのは知ってるだろ。エルダースはそれを取り返す手助けをしてやろうとしたが、そこにジャック・イビリードの奴が出てきて炸裂弾を投げまくったらしいっ。ボンッ!ホーンッ!勿論エルダースにも炸裂弾はゼロじゃあなかった。だが、第三者の巻きぞえを恐れる善良なファミリーとそれを意に返さない悪のファミリーとでは、その結果に大きな差があったのさ』
『なるほど。だがその場限りの事だろう?』
『いいや、それからもエルダースのダイドブレインズが姿を消して、流石のドーニャ・レベッカも怒り狂ってるって話だ。当然ただ連絡がつかないだけって可能性もあるが噂では…金で寝返ったとか』
『そりゃあ今の放火にも1万Gr以上だすファミリーだ。ドーニャ・レベッカには悪いが、あり得るな』
『そうさ。それでEAの中でも少数のレイドファミリー、これも苦戦してるって話だし、ルッソもその縄張りであるはずのバックロールでコーヒーを飲んでいた時、突然バルラムを名乗る奴らに襲撃されてる。だが全員、素性を隠してたっていうんだから、分かるだろ?つまりそれだけ今の状況が悪いって事さ。救いは、奴らが馬鹿でっ、オレ達善良なファミリーを心の底から怒らせてるって事だっ』
聞いてマイケルに感心しクーパーに呆れて言うのはバイカとデルフィーノ。
『ハハハッ!だが奴らにとってもうちに知り合いの多いマイケルが居て、様々なファミリーの情報が入ってくるのは計算外だろう。それに彼方此方とやり合って馬鹿みてぇだぜっ』
『ああ、だが開島初期から湧いた大量のいかれ野郎共だ。クギーチやダラーエリアなんて従属してるファミリーもあるし、手強いぞ。そろそろ多群剛然も使うだろうし』
だがマイケルはそれにOh yeahという文字を示しながら明るく言う。
『そう確かに奴らは馬鹿だが…今迄そうやって他を黙らせてきた。自分達とやり合うと痛い目に遭う。だから、手を出すなってなぁ…!でも実は今オレが話した内容の中に、抗争に勝つ鍵があるのさっ。さあ、頭の良いお前達はそれを、探せるかな~?』
そう言われ考えるしかないバイカ。
『何っ?じゃあ…探してやろうじゃねぇか』
『よーし、じゃあ探そうー!』
そうしてパメラもやや明るさを取り戻したようだが、真面目に言うキアーロ。
『それはバイカも仄めかしたが、奴らが沢山のファミリーを相手にしている事だろう』
『おおっ、さすがドンだな…!正解だ。奴らにも隙はあるっ。そして、オレが調べたところ対カンパネッラ抗争の役目はどうやら実質ナンバー2のサンドロにジャック・イビリード、それに最近ファミリー入りしたストラーノっていう殺し屋に与えられたようだ。だから今これを知った事に関してのみ言えば少し有利になった訳だし、オレに言わせればカンパネッラはクーパーファミリーを無視しながら、こいつら三人とその仲間だけを狙っていけばいいと思うが、反対する奴はいるか?』
『いねぇよ。もうそれでいこうぜ』
そう言ったのはデルフィーノ。
だがアロマはその三人を少しは知っているようで、皆強敵だと言う。
『噂によるとイビリードはロブストやサンドロ以外本当に、誰も怖がらない。だからエルダースも苦戦したでしょうね。いくらでも炸裂弾を投げてくるものっ。それにストラーノっていうのも殺しに失敗した事が無いっていうし…』
それに両手を挙げるデルフィーノ。アロマに質問するのはシモーニだ。
『じゃあサンドロはお飾りか?』
『いいえ、囲まれてから色々調べたんだけど、度々敵の縄張りに乗り込んで死んでしまうという理由でダイドブレインズの地位にはないとはいえ…サンドロはファミリーにとって、ほとんどロブストと同じだけの存在。噂によるとほとんど同等の権限を持っているはずよ。そう丁度キアーロにとってのカツミやリッキーみたいなものね。そういう意味ではバイオレイトも同じだけど、私は寧ろ、何でそんなに私達に対して本気なのかが疑問だわ。やっぱりレットーラのせいかしら…』
聞いて笑い出すペスカーラにアレッタ。だがそこでカメーリャも伝えておきたい事があると言い、キアーロを驚かせる。
『…多分、嫌な事だろう』
『そう、ごめんね。実はここへ来る前に私ラドロの南側で行われた、レストランの料理に実世界の無料食事券が付いてくる催しに参加してたんだけど、それが終わった直後近くにいたコーダの何人かがクーパーに撃たれたから、友達と助けに入ったの。結局劣勢で逃げて来たけど、その時も今名前の挙がった奴は誰一人いなかったのよ。この怖さが分かる?』
『ああ、分かるさ。うちにはそれだけ恐ろしい奴らを差し向けたって事だ。そういえばマイケル、対レイド抗争を任されたのは、誰だ?バイオレイトか?』
『いいや…誰っていう事もないな。クーパーはでかくて名の通った悪党ならいくらでもいるはずだが、聞かねぇ。これはきっとアロマやカメーリャの心配が当たってるな』
『じゃあこの事は、後でオレがドン・アクイラやドン・グランデとも相談して、どうするか決めようと思うが、まずは西にあるホテルを確保しに行くぞ』
『何で?やり返すんじゃねぇのか?』
そう言ったのはコーテルだが、またカツミが止める。
『それは今からドンが説明する。ちょっと黙っててくれ』
『ああ、実はオレもやり返したいが今は策士のレットーラや一番のタフガイであるリッキーがいない。アバードとリカ、それにファルコもだ。そう皆には悪いがもう少し時期を待ちたいね。だからそれより今話したアクイラやグランデとその側近や護衛を泊める為の施設を確保したいが、コーテルは納得できないか?』
『邸に入るのを許可しておけばいいだろ。それにゲデルとかオンオーズのホテルやレストランでだって、会合は開けるんだぜ』
『なるほど、まあ分かるが…アクイラやグランデは良いとして側近や護衛はどうする?許可しても会合が終わってから取り消さなければ、よく知りもしない複数の相手が出入り自由になったままになるし、取り消せば失礼になる。第一信用できないなら一時でも邸の中を見せるべきじゃあないだろう。それにもしもロビンソンに呼ばれてゲデルのレストランで会合を開く事になれば何もかもファンガイに任せればいいが、それじゃあ彼に迷惑をかけるも同じだ。そのロビンソンが所有する店が襲撃される危険もあるし、カツミやお前達と行って何事もなく帰って来るのも、大変になるんじゃあないかなぁ…』
『面倒臭ぇ…!』
聞いてすぐにコーテルを囲むのはバイカ、ウィリアム、マイケル。ペスカーラもその態度にもう限界が近づいているようで操作によりいつでもコーテルを撃てるように準備しているが、そのバイカ達三人に手のひらを見せるキアーロ。彼は、予定は変えない…とつぶやく。
『だから少し待ってくれ。今はホテルの確保だ。経営者は善良だろうから驚かせないようにな。ハハッ。それでコーテル、ちょっとこっちへ来てくれ』
そう言ってコーテルと二人駐車場の南側へ歩くキアーロ。つまり彼はたまに仲間に対してきつい態度のコーテルとじっくり話すつもりなのだが、一度画面を前に深呼吸するとこう切り出していた。
『なぁ、前にエルネストも言ったが、何か悩みでもあるのか?』
『…いいや、別にオレは』
『それはお前にとってオレはただのギルドマスターかも知れない。だがここで会ったのも何かの縁だ。解決なんてできないだろうが、その糸口くらいにはなるかも知れないじゃないか。話してみろ』
『何となく納得できなかっただけさ。別にゲームだし、そんなに命を大事にしなくても、と思ってな』
『そうだ…が、オレ達は、いいやお前も含めたオレ達は、ゲームが好きだろ。そういう仲間じゃないか。こう言って笑う奴らは所詮ゲームを馬鹿にした奴らだから、気にするな。相手にするな。ベースボールもゲーム、チェスもゲーム、この真実が見えない浅はかな奴らだ。だからそれよりも、オレとお前の事だっ。金でも女でも何でもいい。今言いづらくても悩みがあるなら言えよ。いいな?』
『ああ、分かったよ』
そう言うと仲間の方へ戻るコーテル。それを見たキアーロも彼の改心に期待してカツミの車へと乗りこみ、一同はそのまま北へ。白い砂浜に出ると近くにはベッタに会ったオープンカフェもあったがそこへは寄らず西へ。続いてアンの車に乗ったバイカは右手にバーガーショップミートラバーを見つけるといつかそこも自分達のものにすると豪語するなど、意気揚々。そのまま行くと、北へむかう車一台が通れるほどの小道の東に大きな白いホテルを見つけたカンパネッラの一同は、一斉にその東側にある駐車場で車を降り、赤い制服を着たホテルマンにチップをやるキアーロ。彼は皆の前で両腕を広げるとまず落ち着くように言う。
『よし、ここだっ。じゃあ入るが、本当に大人しくしてくれよ。うちも使わせてもらうと断りに来ただけなんだ』
そこで訊いたのはバイカ。
『それより何でホテルマンにチップをやる?勿論オレが日本人だから分からないだけなのかも知れないが』
『やらないと吝嗇家だという噂を立てられる。お前も気をつけろ。ああ、それよりっ、大人しくな…!』
『何を今更。任せろよっ』
その会話を聞いて笑うアンとベティー。そう確かにバイカはカツミ以上に大人しくするのが苦手だろうが、彼も手を出さないという意味なのかポケットに手を入れて中へ。すると思わず声を上げたのはデルフィーノとエルネスト。
『おお、すげぇ…!』
『これは、断られる可能性もあるなぁ』
そう二人はまず目の前にある黒く四角い柱の艶を見て目を細め、先の右手にある赤木で造られた大きな受付の前には客が外側を見て座るよう円を象った白い椅子もあったがそれには高級さというより敷居の高さを感じ、まだ後ろがつっかえているにもかかわらず立ち止まってしまい、だがそれは彼らの前にいて腕をくむキアーロも同様。そのロビーは淡い光で照らされ、シューベルトの三つの軍隊行進曲が流れている事にも、驚いてしまったようだ。
『ああ、これはいい…!だが、どうしようかなぁ。これならファンガイやアクイラに薦めても失礼にはならないが、宿泊費を負担するのは無理だ』
それに言うのはカツミとアレッタ。
『いいや、絶対大丈夫だってっ。レットーラがいればきっと何とかするって言うぜ。見栄を張らなければ十分に使える。いい感じだっ』
『広いねぇ!ここで会合を開いてもいいくらいじゃない』
そう見れば西側の奥には赤い絨毯の上にいくつもの黒いテーブルがあり、そことカウンターとの間にあるのが先で二つに別れた大きな階段。客はキアーロ達と同じように中折れ帽子をかぶった悪そうな奴らから燕尾服を着た紳士、それに恋人を連れたアロハシャツの観光客までいて、純朴なチャーチは当然として、キャメロンまでやや緊張しているようだ。
『歩けばすぐダチカールですからねぇ。これから友人を招待してファミリー自慢をすると思えば、胸が弾みます』
『ええ、どうしようー!メーツベルダにもこんな所があったんだぁー』
そうして感激するキアーロ達の前に現れたのが、ジーンズに黒い長袖のワイシャツを着て髪を横分けにした男。長身で渋い灰色の髪に合わせた顎髭を生やしているが、目は優しく、相手をもてなす準備ができている。
『ようこそキーボスへ。ええ…と、お泊りですか?ご休憩でもゆっくりとどうぞ』
話すのは勿論キアーロ。
『いいや実はまだ聞いていないだろうが、ここから南にあるストーリアっていうモーテルが、火事に遭ってねぇ。元々大事な客をそのモーテルに招待する訳にもいかないから、そんな時ここを使わせてもらえればと思っていたところなんだ』
『さようでございますか』
『ああ、だから…良いかな?EAの人間だから、下品なのは少ないはずなんだが』
聞いて当然のようにその申し出を受ける男。彼はスピロ・サーブラと名乗り、キアーロが友人のように接してほしいと言うので、その言葉に甘える。
『…そうかじゃあ、気軽に使ってくれ。別にEAと敵対するファミリーが仕切ってるホテルじゃあない。勿論あんたらが、キッキーニだと困るが』
『アハハッ、それは良かった。では遠慮なく使わせてもらおう。いいホテルだな』
『実は屋上が庭園になっていて宿泊客がそこを自由に使えるのも売りなんだが、もしもファンガイなんて大物を呼ぶなら、気を付けろ…!そう特にあそこにいる奴らにはな』
そう言って後ろに親指を向けるスピロ。その手はすぐに下ろされたが、彼は続ける。
『そうあいつらはラムアンス辺りから来たごろつきで、この店の所有権をたった100Grで売れなんてほざいた、どうしようもない奴らさ。当然この辺りにも強い奴はいて助けてくれたが、いつも大勢でいるから質が悪くてねぇ』
そう言われたのでキアーロ達も見れば赤い絨毯のその南側には全員革のジャンパーを着た十人程の男女が陣取り、銃を出す、テーブルに乗って踊る、北のテーブルに座るアロハシャツを着た男女にウィスキーボトルを投げるなど、やりたい放題。
『キャハハハ!やり返してみろよおっさーん!』
『どうしたオレ達が怖いのかー。揉めてもこのガラミールの警察は止めてくれねぇぞ』
スピロも今日はついさっき来たばかりなのでまだ注意はしていないらしいが、頭をかいて見せ、そんな彼にはキアーロとバイカそれにペスカーラまでもが言う。
『あんな事は許せない。子供でも許せないのに、大人が集まってっ。なんて恥ずかしいんだ…!』
『行こうぜドン。数だってこっちが上だっ。負けそうになったらオレが一人で引きつける』
『一応注意した方がいい。とは思うが、耳を貸さないだろうな。大体あそこまでやってるんだ。望み通り懲らしめてやろうぜっ』
『じゃあ注意してもいいかな?』
そうスピロに断ると歩きだすキアーロ達。だが不良達の方もカンパネッラが倍近くもいるので警戒していたらしく皆一斉に立って走り、キアーロの前には白と紺でストライプ柄のスーツを着て金髪をオールバックにした、眉のない男が立つ。
『まさか文句でもあるのか?ラムアンスに行けばもっと大勢の仲間がいるんだぜ。やめておいた方がいいなぁー』
『何を?オレ達こそ、その迷惑行為を止めてもらいたいだけだ。ただしこれから…永遠にな』
『あ、何だとっ?一体どこが迷惑なんだっ?皆楽しんでるじゃねぇか!なあっ?』
『ああ、最高だぜー!特にこのアロハシャツを着たおっさんが笑える。ハハハハッ!』
そう言って坊主頭の一人がアロハシャツの男が座る椅子を蹴ったので、バイカを呼ぶキアーロ。そのカンパネッラの後ろにはスピロとその仲間もかけつけバイカはもうやる気だが、一応キアーロに訊く。
『どうする?』
『ああ、考えたんだが…オレ達も真似して、その楽しみを分かち合おうと思うっ。その足元にあるものを使ってくれ』
『おお、これだなっ』
言ってすぐ足元に落ちているウィスキーボトルを手にとり坊主頭に喰らわすバイカ。バリンッ!
『アハハハハハッ!本当だぜ!!結構楽しいなーー!何かすっきりするぜぇ』
『野郎っ!』
『殺してやる!』
『おめぇらにできるのかよ』
瞬間そこはカンパネッラとスピロ達ホテル側対不良集団の喧嘩の場となり、逃げていく客達。
『殺せぇ!』
『やってみやがれ…!』
そう言ったのは叫ぶ不良達に手招きするエルネスト。ウィリアムは足をかけて目の前の男を倒すとそこに椅子を振り上げて落とし、バイカは片側の髪を剃った女に殴られながらも別な男の頭をつかんでそれをテーブルに打ちつけ、気迫で圧倒し、次々と目の前の男女を殴っていくのはベティー。
『歩くごみなんて迷惑なだけだわ!』
『このババア!!』
叫びながらそのベティーに飛び蹴りを放った不良だが、それはひらりとかわされ、そのまま後頭部に蹴りを受け絶命。キアーロも眉なし男が殴ってきたので、左右で殴った後前足で蹴りすぐ反対の足で、膝蹴りを見舞う。ドンッ…!
『恋人連れの善良な人を攻撃するとは、許せん…!』
『うるせぇ!お前らもやっちまえ!』
とそこからも、不良の胸ぐらをつかんで張りてを見舞うスピロ。ナイフを出すと距離をとられたので銃で撃つエルネスト。一発殴らせてから反撃のボディブローを入れ構えると相手に逃げられるカツミ。ペスカーラと左右から一人を殴り続けるデルフィーノと、喧嘩は白熱。不良達の中でもナイフの女はアレッタがバトンで威嚇し対峙していたがその後ろから飛び出したパメラとキャメロンが鉄パイプで殴り、襟をつかまれたアンはその腕をひねってと大いに善戦したので、一人、また一人と逃げてゆく不良達。
『やってられるかー!』
『金をとられちまうっ』
ほとんど最後まで残っていた眉なし男もキアーロとスピロがほぼ同時に殴るとさすがに命が危ないと思ったのか捨て台詞もなく西の出口から逃げてゆき、そこにはやっと平穏が訪れた。
『もう来るんじゃねぇぞー!』
叫び、その声を店の外までとどけ、再発防止に努めるカツミ。客達も階段をおりて来たり東の入口から帰って来たりしたのでスピロは上機嫌でカンパネッラを見送り、暴れた割には気持ちよくホテルを出るキアーロ。
『ハハハッ!本当に酷い奴らだったが、だからこそ最高の気分だっ』
そこへレットーラから着信があったので彼はカツミ達を待たせ、すぐ携帯電話を手にする。
『ああ、オレだ。今例のホテルを使わせてもらう許可を取って、丁度そこで暴れていたティオズキャッスルなんていう悪ガキのグループを追い出したところなんだ。お前にも見せたかったぜ』
『おお、そうかっ…!それは残念だ。喧嘩は得意じゃあないがそんな話を聞くのは好きだし、戦利品も沢山あるんだろうなぁ』
『いいや、それは店の修理もあるから、スピロ達に渡してきた』
『ああ、なるほど。さすがキアーロだ。だが驚くなよ。オレも実は…伝えたい事がある』
『何だ?まさかクーパー達に捕まったなんて言うなよ。ハハハッ』
『ハハハッ…!だが実は捕まった。警察にな』
『…何?』
よってその事実をキアーロから聞くと騒ぎ出すカツミとデルフィーノ。
『た…逮捕されたって?あのレットーラが!?』
『何でまたこんな時に…!一体何をやらかしたんだっ?』
だがキアーロが詳しい事情を聞けば何と、クーパーファミリーの情報を得る為わざと刑務所に入ったというレットーラ。それを伝え聞いたカツミ達は納得できたが、キアーロは納得できない。
『だが一体どうやって?そしてこれからどうする?すぐ出て来れるんだろうなぁ』
『心配するな。一緒にグラムデルで情報収集していたリードに説明して、警察署で殴らせてもらったのさ。刑期も、今日の21:00まで。だがその前に同じ房にいる奴らにそれとなくクーパーの事を訊くさ。そう実は、素性を隠してグラムデルの町へ入ったはいいが、正体を見破られそうになってなぁ。リードと逃げてきた直後に思いついたんだ。まあ、期待しててくれよ』
『…それよりお前とファミリーが心配になってきた』
『ハハハッ。だがその心配はすぐどこかへ消えるだろうぜ。仲間にもよろしくな』
そう伝えると受話器を置くレットーラ。彼は今、西から東へ三つ、それが南北に二列となった灰色の簡素なテーブルが中央にあるだけの、コンクリートがむき出しになった大部屋へと入れられ、その北東の隅にあるたった一台の公衆電話から南側の一辺を埋める鉄格子の所まで歩いているが、その東西の壁には板のような椅子が備え付けられ、それに腰かけていた何人かのうち東側にいて長く赤い髪にまた同じように赤い長袖のワイシャツを着て黒いスラックスをはいた男は、おーいおーいと叫び誰かを呼ぶなど、いかにも危険で怪しい雰囲気。まだ暴れだす者は無いがいつそうなっても不思議ではなく、鉄格子の反対側に立つ刑務官に顔をだすレットーラ。その手には100Gr札があった。よってそれを静かにむしり取ると口をひらく刑務官。
『おお、美味しそうなクッキーだ。それで、何が望みだ?』
『ああ、別に大したものじゃあない。そうあんたらは金次第で囚人同士が喧嘩した時にも鍵を落としたり、急に臆病になったりするんだろ?今はその逆をやってもらいたいのさ』
『そうか、守って欲しいんだな。うーん…本当はもう100貰ってもいいが、お前はいい奴そうだ。助けてやろう』
『ああ、頼む。これからオレはある目的の為に色々な奴と話すが、もしも相手が機嫌を損ねて襲いかかって来たら…その時には』
『おーいオレを忘れたのかっ。ピュロスだよ。ピュロスッ』
『…ちっ!誰だてめぇ?うるせぇ野郎だな。ちょっと待ってろ!』
そうさっきの赤い長髪の男が呼んでいたのはレットーラで、彼の方も実は相手を憶えていてそのまま内輪話を仕掛けたが、今カンパネッラファミリーの人間だと知られる訳にはいかない。
『そう騒ぐな。勿論お前の事は憶えてるさ』
『だと思ったぜー。久しぶりだなぁ。今ちょっと落ち込んでて、話し相手が欲しかったんだ』
『だがオレの名を呼ばなくて正解だったな。今ファミリーの為に素性を隠してクーパーに入りたい若い奴のふりをしてるところなんだ。だから、協力しろよ』
『へぇ…また面白い事を始めたもんだなぁ』
『ハハハッ!だろう?』
そう男はまだレットーラがキアーロ達を知らずほとんど一人で行動していた頃、西部で一緒に服を売る仲だったピュロス。その話によると今の彼はイリオーズを縄張りに所属数三百を誇るマナークファミリーのカポで、だとすれば順風満帆なのかと言えばそうでもなく、つい数日前にもドン・ハニからフルムーンを三つ集めて欲しいと頼まれ快く受けたはいいが、残り二つがどうしても手に入らないらしく、肩をすくめて見せる。だがそれを見て笑うレットーラ。そう彼の記憶が正しければマナークファミリーとは、スタンレー・タラントが恐れるほど結束が強く、戦意高く、数以上の影響力を持ち、反タラントさえ誘いの手を伸ばしているらしく、ドン・ハニ個人にあってはあのライケン・ジックラーとも親しいと噂であり、最近では強硬なスタンレーに嫌気が差したドン・ハニの方がドン・ライケンを慕って南部へ越すのではないかと囁かれるほど…。勿論ピュロスの方は笑われたのを酷いと感じたのか抗議したが、レットーラは言う。
『フルムーンの売買をしている円月(まるつき)を知らない訳じゃあないだろ。新参の持つ初回サービスの品を売買するのが昇日。フルムーンを売買するのが円月』
『ああーおい、ちょっと待て…!円月なら知ってるさ。だがそんな事より期限は丁度ここを出てすぐの、明日の朝08:00だ。そうハニ・マナークは慈悲深い男だが、規則に厳しくてねぇ。多分オレはカポの地位を失うだろう』
『いいや、そうはならないと思うぜ』
『なるさ。もう終わりだ』
『ならねぇよ。元気出せっ。それよりお前何か、クーパーファミリーの情報を知らないか?あるなら今言った円月との取引をセッティングしてやるぜ。まあ、無くてもしてやるんだが、できれば…』
だがしばらく首を捻るピュロス。その間レットーラが、このジェイルでは誰もが可能な相手の刑期と罪状の確認を行うと、ピュロスのそれも判明。それは以下だ。
刑期…明日08:00まで 罪状…操作を他人に委ねた罪
『お前何やってんだ?一体いつからライトゲーマーになった?』
『オレは不味いと言ったが、友人の一人がフルムーンならオレに任せろとしつこくてなぁ。後悔してるよ』
だが考えてみれば刑期は明日の朝までなので、話題を戻すレットーラ。自信の無いピュロスだったが古い友人の気持ちには、応えなければならない。
『ああそれなら…オレが持ってる情報なんて、奴らのカポでレガルブートっていう名の男があるカジノに出入りする常連の女と仲良くなって、最近よく会ってる事くらいだな。だがこれは、イリオーズに住んでる奴なら誰でも知ってるんじゃあないか』
『いいや初めて聞いた。カジノがあるのは西部か?カポの住処は?なんて名の女だ?』
『まあまあ落ち着けよ』
そうは言いながらもそのカポの泊まっているホテルから、カジノと女の名、それに会う時間までもしっかりと説明するピュロス。彼は話しながらレットーラの熱心さを見て少し希望が湧いてきたようだが、まだカポの地位は失うだろうと思っている。
『だが円月なんて。そりゃあ見つかればいいが…』
『オレの知り合いに一人円月をやってる女がいるんだ。知らなかったか?ここを出たらすぐ電話して、お前にも売るように言っておこう』
聞くとレットーラのどうだ…という言葉を待たず喜びの声を上げるピュロス。どうやらハニ・マナークはピュロスが捕まったことを考慮し待ち合わせの場所をジェイルの正面にしてくれたようだが、その時に間に合わないと思っていたようだ。
『じゃあ取引の場所をガビネールに、つまりこのジェイルの正面にしてくれるのか?』
『ああ、勿論さ。だったら間に合うだろ。そうか…ここはガビネールだったのか』
『ハハハッ!署内で友人を殴ったって…?入るのは初めてだろ。ここはガビネールでも徒歩で帰ると危険なほど山奥にあるから、刑期を終えたらまず、バスを待つんだな』
勿論その忠告には感謝するレットーラ。彼も一度今得た情報をキアーロ達に知らせようと思ったが、裏がとれず、またレガルブートの暗殺が成功するかどうかも分からず、再び情報収集を始め、まずその目にとまったのはピュロスとは反対の北側に座る男。素性を隠していないので名はジョーと分かったが、レットーラはここで初めて一人小声でつぶやく。
『いいや、あいつだけは不味いよなぁ』
そう男は通称ビック・ジョー。西側では有名な男で、黒いTシャツに薄紫のスーツを着てそこに押し込められた手足は長く、その大柄な体に乗る面長な顔はすでに後ろへ流した白髪も相まって初老の風格だが、目はぎょろりとして威圧感があり、鼻筋は通って上品なようだが口も大きく、それがよじれ何だとてめぇと言い放った時、周囲には睨まれた者以外居なくなってしまう程のタフガイ。刑期は明日の10:00までだが、あまりに大勢と喧嘩していたので仲裁してくれたはずの警官も殴ってしまったというから知性派のレットーラには恐ろしい話で、その騒ぎの他にも数々の武勇伝を知る彼はやはり尻込みし、その眼はすぐ刑務官を見る。
『大丈夫だっ。ビック・ジョーだろう?今は、機嫌良いぜ』
『そうか』
『何だ小僧、オレとも話したいのかぁ?!ハハハッー!!』
そうビック・ジョーに言われたので諦めるレットーラ。冷静な彼は危険だと噂の相手を無視する訳にもいかずビック・ジョーの元へと歩き、だが事情を説明するとすぐ、意外にも暖かく、力強い言葉が返ってきた。
『ほうっ、あのクーパーファミリーにねぇ!ハハッ、悪い奴だなー!だがお前ラッキーだぜっ。今日このジェイルには中々面白い奴らがぶちこまれてるからなー』
『そうか、じゃあまずはそいつらと話してこようかな。あんたに迷惑はかけられねぇ。だが、手柄を立てるまではオレがクーパーに入りたがってる事自体秘密だから、その辺りは頼むぜっ』
『ああ、別にかまわねぇが、何でも思い切ってやれよっ。喧嘩する時も、酒をおごる時にもなぁ!』
それに両手のひらを見せるとすぐ次の相手を探すレットーラ。ビック・ジョーはどうしてもとなれば話せない相手ではなさそうだが西部に住む彼がクーパーの事を詳しくは知らないだろうと、視線をテーブルにやる。するとそのテーブルの中でもすぐ近くに座っていたのは黒いスーツの腕をまくる金色のざんばら髪の女。刑期は今日の23:30までで、罪状は掲示板でずっとああああああああと言っていた事だが、その名がギャソリーンである事に気づくと彼は、すぐ次の相手を探す。
『馬鹿々々しい。あんな奴にかまっていられるかっ』
その上、西北の隅に立つ緑のダウンコートに真っ青な髪をアフロヘアにした男は、同じ女ばかりを狙って卑猥な言葉を浴びせつづけ、断続的にだがそれが一ヶ月に達したので警察の接近禁止命令を受けたもののそれを無視したらしく、レットーラもその男を無視。
『刑期、今から一週間?罰金5000Gr。そうかおめでとう』
しかもこういった事件が起きた場合ガラミールの警察は、罪人が得た被害者の情報を全てクリップフォーンやPCから削除し、どうしても不安だと言うプレイヤーには改名する機会まで与え、加害者の罰金はどんな状況でもグロートを手にした瞬間に支払われる仕組みで、元々その額を持っていなかった時にはそれが完済されるまで…マイナスのまま。刑罰そのものも罪を重ねるほど厳しくなるのでそれを知るレットーラに不満はなく、再び相手をさがした彼が奥にある南側のテーブルに居て波がかった赤い髪にオレンジのメッシュを入れ、白い毛皮のコートを着た女が気になったのでその近くまで行けば、何と相手の方から話しかけてきた。そうその刑期は裁判もあって今から約三日。罪状は、相手を脅して自分の5$を5000Grと交換しようとした疑いらしいが…。
『何か用?見世物じゃないわ…!』
横を向くと色白細面の美人ではあるが、黒く太いアイシャドウが目立つ。
『…いいや、ちょっと訊きたい事があったんだが、他へ行くよ』
『ええ、それが良いわね!あたしがどこの誰だか知ったらあんた、縮み上がるよ?キャハハハハハッ!』
『そうかハハハッ…』
そうそのステータスを見れば女はGMCの一つゾンビのドーニャ・ラランダ。つまり噂通りであれば悪とも付き合う資産家のドンとドーニャが集まったギルドマスターコミッションの中心人物の一人なので、その女との面倒な喧嘩を避けるレットーラ。
『知るか。一体何様なのか知らねぇが、何かあっても助けてやらねぇからな。だがそうなると、後この房で話せそうなのは…』
そう言いながらまた中央にある二つのテーブルの内もっとも北側の席に座り思考するレットーラ。見回せば後話を聞けそうな相手と言えばやはりあのビック・ジョーと、たった今公衆電話の受話器を置き両腕を振り上げて叫ぶ目と鼻だけが形作られた怪しい鉄仮面の男だけであり、その被り物は頭を隠す部分が黒い布で首までも隠しているので髪形さえ分からず、その筋肉質の体は黒いTシャツを圧迫し、ぶかぶかな灰色のカーゴパンツは大きな黒いブーツに押し込まれ、少しずつその異様な存在は彼のいる中央に迫る。
『ああ、気が進まない。そういえばああいう種類の犯罪者もいるよなぁ』
そうはっきり言ってこのガラミールにおいての正統派マフィアである彼は話しかけ辛いのだが、それでも思い切ってステータスを確認。だがそこでレットーラは大いに驚く。
『嘘だろ…!ビック・ジョーの他にラランダがいるだけでも驚きなのにっ』
そう実のところこの男こそヒレンノーリを支配するネクロマンサーのドン、ゲグルック・バラダン。刑期は今日の18:45までとレットーラより早く出るようだが、その罪状は曲事団と揉み合いになった直後相手の中にいたある男がいかに実世界でも酷い奴かを掲示板で曝したからで、用いられた出身校の学生証やその目線の入った写真が問題となり厳重注意の末、ここへ入れられてしまったようだ。よってそれを話題にして彼の話も聞こうかと迷うレットーラ。だがその噂、見た目、行いの全てが彼に危険だと教えている。
『だがこれはちょっと大物過ぎるなぁ。ビック・ジョーと同じだ。大体にしてオレの目的はクーパーの情報なのに…!それを訊く相手が強い奴とか、どっかのドンである必要はない。……いいや待てよ。そういえばこの男が住むヒレンノーリはグラムデルの先隣りじゃねぇか。良し!覚悟が決まったぜっ』
そう意を決するとすぐ悠然と西へ歩くバラダンの後ろへ飛び出しそこから声をかけるレットーラ。
『なぁあんた、あのゲグルック・バラダンだろっ?丁度良かったぜぇ!ちょっとこの島にきて間もない可哀相な男と話してくれよっ。後で礼はするからさー』
するとぴたりと足を止め、またゆっくりとレットーラの方へ歩いてくる彼。レットーラは少し態度が軽過ぎたかと思ったが、時すでに遅し。何も分からない新参者を演じるのは難しいものだ。
『あの…ちょっと不味かったかなぁ。でもあんた有名なのに素性も隠してないから、チャンスは今しかないと思って…』
『別にいい。気にするな』
言うと腕をくみ仁王立ちのゲグルック。続けて用は何だと訊くのでレットーラが事情を説明すると彼は顎を見せて笑い、幸運にもどうやら興味を示してくれたようだ。
『クーパーに入りたいって?あの悪党の巣窟と言われるクーパーにっ?ハハッ!そりゃあ内輪話するしかねぇよなー。だが面白い奴だ。気に入った』
『ほ、本当か?それはありがてぇ』
『じゃあオレが教える事は一つ。それはこれさ…!』
そう言ってゲグルックが示した情報は以下だ。
ダークアリーナ…読んで字のごとく、東部一危険な町。それを示すようここでは、怒り狂ったドンがその仲間を皆殺しにした十六人の悲劇、愛し合う二人があるファミリーに引き裂かれ実世界でも離婚してしまった本当の別れ事件、友情を誓い合った者同士が町に入ってたったの四日間で互いに疑心暗鬼となり一度ずつ殺し合って消息不明となった四日間騒動などがあり、ただ町を訪れるだけの事を度胸試しと言うほど。そして最近も、ある南部から移り住んだ男がしばらくして後全財産約190万円をグロートに換え、それを夜道で強奪される事件が起き、やはり犯人は不明のまま時は流れるのである…。しかも今は大きなファミリーが三分の二を支配しているとはいえ、残り三分の一はその比較的大きなファミリーも含めた計六つのファミリーで取り合っており、安全なのは話し合いの結果緩衝地帯となっている北側の一部、酒場ショータイムのある一角のみ。
そうレットーラもダークアリーナといえば、東部でもメーツベルダからはずっと南にある町で不幸をよぶ理由は荒んだ街並みや夜の暗さである等と噂は聞いているが、ただそれが一体どうクーパーに関わっているのか分からず、新参らしくおそるおそる訊ねる。
『確かに不幸な事件が多いって聞いた…気がするなぁ。昨日だったかな?でもそれがグラムデルのクーパーとどう関係があるんだ?』
『ハハッ…!そりゃあ来島したばかりじゃあ分からねぇよなぁ。いいか結論から言うとこれからドン・ロブストには、よくない事が起こる。何故なら今教えたダークアリーナの概要に出てくる大きなファミリーっていうのが、プローバが縄張りの若い奴らの集まりヘビーレインで、ロブストはそいつらがダークアリーナで勢力を拡大するのに肩入れしてるからなぁ。必ず災いが降りかかる。これは賭けてもいい…!そう普通どこの組織も縁起の悪い場所は避けて、もしも三分の二なんて大半を大きなファミリーがとったなら、そいつらと交渉して店を売っちまうか、媚びて守ってもらうかだが、あそこじゃあ特に今言ったヘビーレインやクレイジーバット、それにナイトフォッグファミリーなんていう若い奴らが皆憑りつかれたように延々とやり合ってる…!それだけでも気味が悪いっ。取り合う組織は五つになったり六つになったりして諦めたと思ったベスティアの奴らが戻って来たりもしているが、不気味な事件が続くのにまるでその怪しい魅力に…惹きつけられるかのようになぁ』
『なるほど…。じゃあ、その不幸に巻き込まれるように、ドン・ロブストにも何かあるって事だな』
『ああ、そうさ』
そしてそのチャンスを逃さないレットーラ。
『でもドン・ロブストといえば確か開島当初からいる悪名高いドンで、弱点なんて無いじゃないかっ。いいやまさか、あるのか?』
『いいや、無い。だが強いて言えばあいつは、自信過剰だという噂だ。自分や味方があまりに立派に見えるもんだから、周りがよく見えてねぇってな。それはEAや周辺に縄張りをもつ組織との関係それに内部の事情についても同じで……』
とそれからしばらく聞くとレットーラは有益な情報を得るのは難しいと判断。それでもこの大物相手にすぐ消えたのでは嫌な奴と思われ、後で困るかも知れないとその口からは安全に会話を終える為の言葉が出てくる。
『そりゃああんたとは違うさ。そうあんたは、一度死んだ人間に光を与えるネクロマンサーのドンだ…!憧れのドン・ロブストだが、きっと冷静さを欠いてるんだなぁ。握手してくれ。話せてよかったよ』
『オレに100Grはくれねぇのか?』
『ハハッ!おいおい盗み聞きしてたのかよ?あんたにとっては小遣いにもならねぇ金じゃねーか』
『ハハハッ、まあな。だがロブストには気を付けろよ。いかれた悪党を気取ってるがあれで中々切れる…!この話は餞別だ。とっておきな』
そして何もかも偽り探りを入れているので本心は逆だが、自分の事を忘れないで欲しいと言いながら愛想笑いして、レットーラは公衆電話の前へ。そこでゲグルックが追って来ないのを確認して、やっと安心のため息をつく。
『ああー…どうなるかと思ったぜ。ああいう危険人物はどこで機嫌を損ねるか分からねぇからなぁ。それにしても、ロブストには気を付けろ…ときたか。まあ…まあいい。ただ単にクーパーに入るなら上手くやれっていう意味かも知れないからな。それにダークアリーナの事も、貴重な情報には違いねぇ。そうかプローバのヘビーレインにクーパーが肩入れしてるのか。何とかそれを利用してあいつらを、壊滅させられるかも知れないが…』
だがしばらく考え、欲が出てきたレットーラ。そうキアーロやカツミあるいはアバードならここで情報収集をきり上げる可能性もあったが、彼は期待されたスターソルジャーのレットーラ。気付けばゲグルックとも話し自信をつけた彼は再びビック・ジョーの前に立ち、こう切り出していた。
『なぁ…あんたなら、どこのファミリーに入っても頼りにされるだろうが、オレがクーパーなんてでかいところに行っても、最悪ただのソルジャーで終わるよな?』
聞いて笑いをこらえ、それでもはっきりと言うジョー。
『ああ、そうかもな。ハッハッ!だがさっきも言っただろう。何でも思い切ってやれ。後悔するからな』
『じゃあ訊くが、ドン・ロブストやサンドロ、それに有名なところではジャック・イビリードなんて恐ろしい奴らに、欠けてるものなんてあるか?あるなら、オレがそれを補う。そして、出世する。いい考えだと思うんだが…』
『おお、若い奴はそうじゃねぇとなー。そうだなオレなら、イビリードの変装が不味いって事をそれとなく伝えて、どうしたらいいかアドバイスしてやるねぇ。そう自分でも二通りくらい考えて、上手く別人を作ってやるのさ。まあ気に入られるのが一番だが、それで上手くいくと思うなら、やってみな』
『な、なるほど。ジャックの変装はそんなに不味いのか』
『ああ、だから誰かが見破るだろうと思って、黙ってたのさっ。二度ほど話した事はあるが、嫌いなんだよなー。一人でいる時には弱いくせに、仲間といる時には強ぇから。…まあそれはオレ相手じゃあ仕方ねぇとは思うが、ああいう陰湿なのはすっきりしねぇんだ』
そしてイビリードお得意の変装が、灰色のハンチング帽に黒いコートを着た商人風の姿だという事と、顔の表情も悪人面が少しはましに見えるよう笑うものに変えて、金歯を隠していると教えるジョー。つまり、少しはイビリードを知っているジョーにとってその変装はどうしてもわざとらしく、笑顔を作っても不気味にしか思えないようで、レットーラはそれとなくそれらを書き留め、会話に気を良くしたジョーはレットーラが既にシンから聞いているロブストの絨毯集めの噂にも触れる。そう彼が言うにはロブストが絨毯集めを止めたのはそこに甲虫の模様を見つけたからだというが、それを聞いても特に動物や虫が嫌いでもないレットーラは理解できず、先をうながす。
『嘘だろ?オレは知り合いから聞いたが、集めた絨毯を敷く専用の部屋まであるらしいじゃねぇか。スターソルジャーになったら見せてもらおうと思ってたのに』
『ああ、だがオレも気持ち悪い虫は嫌いだから、理解できるぜ。猛獣シリーズまでは上機嫌だったらしいから、単に嫌になったんじゃあねぇか』
『甲虫も苦手なのか?変わってるな』
だがそこにけたたましいベルの音が響き突然、西へと歩きだす囚人達。無視する者も、話していた相手を呼び止める者もいたが、そこでジョーも椅子から立つと何故かレットーラの前で拳を鳴らす。ボキボキ、ボキボキッ!そうその上背はレットーラから見て頭二つ分ほども高く、彼もすぐイビリードの気持ちを知ったが、その頭脳は素早く、静かに回転する。
『おいおいなんだよっ。オレ、何か言ったか?』
『うんっ?ハハハー!…違う。運動の時間だ。庭へ行くぞ。オレがベンチプレスのやり方を教えてやるぜ。日光浴するなら、どの椅子に座ればいいかもなぁ』
その言葉に刑務所とはいえ再び安心してため息をつくレットーラ。だがその思考は今得たクーパーの情報で、溢れていた。
スタラドの掲示板からやや西へ行った所にある道路は色とりどりの花と、人で埋め尽くされ、その中心にあるのは沢山の小さなサンフラワーとその上に白薔薇が飾られた大きなアーチだった。そしてその奥である北に立つのはたった今結婚したばかりで、青いスーツの中に白いシャツを着て黒いネクタイを合わせた新郎と、薄桃色のウェディングドレスを着た新婦。二人の右手には手を叩くドン・グランデやその前に身を乗りだして何事かを新婦にささやくミーティアがいてそこに参加者達が南へ長い列をなし、またそれを囲んだ大勢がアコーディオンの演奏に合わせて踊ったり、腕相撲の勝敗を予想してそれに賭けたりと大いに楽しみ、予定より参加者が増えたので開始時刻は早まったようだが、既に盛況そのもの。ここは普段交差点なのだが近くにある料理店リメイニングサンのお陰つまり式場設営サービスで今はルッソファミリーとその仲間達のものとなり、アーチの周囲にも所々に茶色い柵や腿まである白い花壇があって、様々な色のつる薔薇が咲き乱れているという訳だ。
ただそれでも、新郎新婦というよりグランデ・ルッソに呼ばれただけのカンパネッラに与えられたのは、ずっと南にあるテーブル。その三つある白いテーブルはどれも丸く、縁に棘のある茎のような金の模様があるので白薔薇に合わせたのかも知れないが、その美しさが目を引いた時も過ぎ去り、談笑するキアーロ達はもう新郎新婦に挨拶するのは諦め、彼方此方から様々な声が入ってくるので聞こえる範囲も狭めて流されるまま、自分達なりに式を楽しもうとしていたところだ。そう参加しているカンパネッラは今のところ全部で十九人。忙しいアレッタと結婚式が苦手なアロマ以外の女は皆参加し、やはり彼女達にとってのこういった場は憧れのようだが、そんな時も島の情勢を知ることやファミリーの活動に熱心なミラーとリードは掲示板を見にゆき、マイケルは何人かの友人に囲まれ、笑いながらもその会話に付きあわざるを得なくなっていて、否が応にもカンパネッラの周りさえ賑やかになっている。するとそこでキアーロに近づいたのは久しぶりに会うグレイトマン。ファルコや既にキアーロから話を聞いているカツミ達も快く迎えたので、彼にも遠慮はない。
『やあ、調子はどうだドン・キアーロッ。相変わらず稼いでるか?』
『ハハハッ。まずまずだが、オレ達庶民にとっては一円にもならなかった楽しみに数万円が付いてきたんだ。それで十分さっ』
『ああ、それはとてもいい事だ。だが何かいい商売や取引があるなら、オレも誘ってくれよ。年に数回だった外食は十回をこえる予定だ…!だが向上心は持たねぇとなぁ』
聞いて言うのはファルコとアバード。
『いいぞ!せっかくロビンソンに行ったんだ。そのくらいの望みは当然だぜっ』
『同感だ。ドンをコルボとの抗争ではなく幸福へと導くなら、いつでも味方する』
聞いてポケットに手を突っ込みながら笑うグレイトマン。しかも折よくカツミにはいい商売の話があるようで、そこから彼は皆を誘って内輪話を始めた。
『いいかこれは、メレデニで煙草を造って売りさばいていたリッキーの知り合いオーガネイの話なんだが、奴は最近強盗に遭ってもう止めたいと言ってるらしいんだなぁ。だからその品や商売道具をオレ達で買い取ったらどうだ?渡りに船じゃねぇか』
聞いて話を思い出したリッキー。
『おお、上手いこと言うな。取引の場所は大体港かその周辺だ。ハハッ…!奴だってせっかく製造器まで買ったんだ。勿体無いと思ってるはずさ。そうドンさえ許すなら、このグレイトマンも話に乗るだろうしなぁ』
『そいつは嬉しいねぇ…!』
そう言ったのは勿論グレイトマンだが、ファルコはまだ車のローンもあるからとやる気になり、同じように興味を持ったレットーラ、アン、ロッコ、それにギャスマンもそれぞれのテーブルから立ってキアーロの周りへと集まる。そこで口を開いたのはキアーロの正面に座っていたリカ。
『いいけど…何を作ってるんだ?売るのが難しい煙草もあるぜ』
聞いて指を弾くのはリッキー。
『さすがリカ。よく訊いてくれたぜ…!セイントだ』
『ああ、あの吸ったとき先が薄っすらと黄金に光るっていう。綺麗らしいなぁ。オレは今迄一度も吸ったことねぇが』
またそのリカに言うのはレットーラ。彼も今まで吸った事は無いらしいが、セイントは最近になって何度も噂を聞くようになった、人気の銘柄だ。
『確かに今のセイントは特に本土の連中が欲しがるから、ここで買っても高くつくんだよな。単に光見たさに買う奴もいるが、最近ではそれを吸っていると生前縁のあった人間の墓がまっすぐ立ちのぼる細い光で分かるようになって、そこへ行けばそれぞれたった一度だけだが二十四時が過ぎてそれから日が沈むまでの間、気力が35%も上がりやすくなるという噂が流れてなぁ、真偽を確かめる為に買う奴も多いんだ』
『そうそう。でもそれ嘘なんだろ。前に吸ってた奴が結局なにも起きなくて、余計に買った分は高く売れたのが救いだって言ってたぜ』
『いいや、嘘じゃあないな。多分そいつは島に来たばかりで誰も知り合いが死んでいなかったか、あるいは…墓に触れなかっただけだろう』
『…あ、そういえばそいつ、行ってみたけど何も起きなかったって言ってたな!あの馬鹿っ。ゲーマーなら光るものには触っておけよー。オレなんて単に演出で艶めいてるだけじゃねぇかとは思っても、一応触れてみるのによぉ』
『ああ、完全なライトゲーマーだろうし、レッスンが必要だな。ゲーマーの前に付いてるものだけじゃあなく、その光も与えてやれ』
またそこでレットーラのジョークに笑いながら言ったのはアン。
『実はまだはっきりとはしないけど、そのセイントの特別な力はおそらくある程度強くなるまでの間らしいから、それも教えておいた方がいいわね。そう前に初雪が降るまでなんて素敵な話もあったけど、結局誰かがそれを調べたら好きな女を口説いてただけだったし、噂に惑わされないようにしないと』
『なるほど。流石アンだ』
そう言ったのはカツミ。彼はますます興味が湧いたようでリッキーと二人で言う。
『じゃあそんなご利益があるなら今から皆でセイントを吸ってやろうか?ハハハッ!ただし、少しだけな』
『いいや、今の話を聞いただろ。オレやお前が吸っても意味ねぇ。それより商売だっ。人気が高いうちに始めようぜっ…!』
『じゃあもう決まり…だな?』
言ったのはロッコ。だがキアーロは彼に少し待つように言う。
『何で?だって皆セイントも、金も欲しいって言ってるぜ』
『ああ、だが…そのオーガネイという人物が、本当は一人で売りたくて、そうする為の知恵や助けを求めていただけだとしたら、申し訳ない』
『そんなぁ…!やろうぜキアーロー』
『おい嘘だろー?』
そう嘆いたのはカツミとリッキー。二人はその話を聞いた時から絶対にファミリーの皆が喜ぶと思っていたので、キアーロを説得するしかない。
『だってこのリッキーは製造器を売る相手を探すようにも頼まれてるし、代わりにその時オーガネイにはうちのファミリー以外に売らないようにも言っちまったんだ。頼むぜぇ』
『ああ、カツミの言うとおりだドン。奴は製造器だけじゃなく原料も余ってもしも商売を止めるならそれも売るしかないらしいんだ。あまり待たせると、可哀相じゃねぇか?』
『そうなのか?だが一応、本人に確かめるぞ。食い違いもあるし、幸福を横取りするような真似はできないんだ』
『それは…用心深くていい。さすがキアーロだ』
『問題ねぇ…!』
という事で早速オーガネイに電話するリッキー。その間ファルコとロッコそれにグレイトマンはゴーゴーと言いながら拳を振りあげ、オーガネイが皆の期待したとおり快くその申し出を受けたので、上機嫌で補足するリッキー。それによると次の取引もおそらく、シェヌーダというエジプト人が十万ドルで店名を自分の名にした事で有名な美術品店の奥で行われるようで、心配するキアーロ達にリッキーは続ける。
『その取引の場所だって元の売り手であるオーガネイが交渉して変えないようにできるし、取引する物やその数とかの条件もそのままにしてくれるように頼める。相手が受けるかどうかは分からないがな…。そうドンはオーガネイが心配みたいだが、奴だって前に強盗に襲われた時オレが教えた裏口のお陰で助かったのさ。任せてくれ』
そう言われたので訊ねるキアーロ。
『なるほど引き継げるのか。それはいいが、裏口?別に疑う訳じゃあないがそれなら、強盗も追って来たんじゃあないのか?』
だがリッキーいわくその店の奥には銀の杖を手にして赤い衣をまとった老人の立つ絵があり、その裏にある隠し扉が裏口となっているようで、その鍵は信用された常連客にしか与えられない。
『ああ友よ、思い出したぞ。そういえばそういう所もあるんだよなぁ。良い事をしたじゃないか』
『だろう?オーガネイだってこの取引が終わったら、神とオレ達に感謝するさ。それにもっと面白いのはその絵のタイトルで、神は鎮座するというらしい。つまりいつまでもその絵の中にいる神が、そこから逃げたい奴を守ってくれるのさ。ついでにオレ達の…取引もなぁ』
聞いて笑いだすキアーロ。だが彼の代わりに心配してリッキーと話すのは、アンだ。
『でもその強盗だって上手く店主にとり入って鍵を手にしないとも限らない。なるべく大勢で行った方がいいんじゃない?』
『ああ…その通りだ。店主は善人しか信用しないし、オーガネイが襲われた時には三人組だったらしいが、次は前以上の数でくるかも知れねぇからな』
その用心に頷く一同。直後ロッコとキャメロンはその好条件の取引に嬉しくてたまらずハイタッチし、他も様々な想像をして談笑をはじめたが、今になっても新郎新婦の前にならぶ列は縮まるどころか長くなるばかりなので、キアーロはそばにいたカツミやシモーニそれに、チャーチを掲示板へと誘う。
『挨拶はできないが、まだまだ催しは続く。ちょっと掲示板でも見よう』
またその四人を追うのはロッコとパメラ。つまり六人はミラーとリードも居るだろう掲示板へと向かい、まずキアーロが目にした投稿が以下だ。
タイトル 100Gr開始オークション掘り出し物全10品!売るのは惜しいが、良いものが余ってしまった! 投稿837年×月×日05:00 投稿者ガルー・マフロン 投稿者の評判70 読者数2771 支持140 不支持168 コメント可 内容表示…無料
01開島当時のみ売られた七分袖のTシャツ・柄は赤と黒の雷模様。実際に画像を見てくれれば、格好いいと分かるはずだ。
02砂との摩擦音を鳴らせる革靴・映画のようにあいつを懲らしめる前に鳴らせば最高だ。そう売ってくれた人物によると、純白の色と薄っすらと見える網目がポイントらしい。一時流行ったのを憶えているだろうが、今でも欲しい貴方にはおすすめ。
03高級ケーキ・食べれば経験値も入るのに売れ残ったのを不思議がっている貴方は、もう少し想像力を働かせてくれ。そう売ってくれた人物はキャラクターを作り直したくて(自殺とは言わない)、とにかく何でも売って新しい自分の服や車を買い揃えたくなったのさ。なるほどと思ったろ?じゃあ買いかな…?
04改造ショットガン耐久力向上・これこそ何で売った?と思った貴方!これは貴方の為にこそある!目の前まで来たらこれで殴って、少しでも離れたらぶっ放す!タフガイの銃だ。
05ルビーのネックレス・鎖部分はシルバー。ルビーは少し小さめだが、それが100Grからだよ。
06住地選楽・知っての通り二度目まではお得で、三度目も通常料金で引越せる特権。フルムーンが安かったあの瞬間は一体いつの事だろう。来島したばかりの人達も聞いてくれ。フルムーンを自慢するコメントが多いのは誰にでも手に入るからじゃあない。むしろ貴重だからさ。
07木目のタンス・とにかく見てくれ。オレが欲しいくらいだが、今最高にいい感じの部屋の雰囲気を変えたくない。それにこのオークションの成功こそが、オレの幸せなのさ。
08希少な象のぬいぐるみ・人に売る理由は上の品と同じ。おっと忘れるところだった。色は白の方だよ。これをプレゼントする彼女にオークションでの頑張りを報告しようっ。
09ガビネールの射撃場・つまり今回は特別に所有権が売られる事になった!これは凄いっ。オレもこの事実を思いだす度に驚いている。来島したばかりの貴方、知り合いに訊いてみるといい。所有権がどれほど大事で、ガビネールがどれほど有名な町か!
10復讐の権利・元リザードマンの数人による限定サービス品!名は明かせないらしいがそろそろ殺し屋稼業を始めたい奴らが楽しみも兼ねて、売ってくれた。当然訓練でもあるから失敗してもすぐ次の計画を実行するという、安心の保証付き。酷いあいつに使って、ガラミールを満喫してくれ。きっとすっきりするぜ!
そしてこのオークションははじめ順調に進んでいたのだが、ある部分からこの投稿者が実はワグナーファミリーのソルジャーでしかも盗品を買ってしまったのではないかという疑惑が生じ少々の騒ぎになるので、以下に並ぶ今キアーロが見ているコメントはその辺りだ。
ジェット 嘘言うんじゃねぇ!良いものは余らねぇよ。
プラスワン Tシャツ320Grで売ってくれ。
モズロ・セリーク できれば住地選楽を譲ってくれ。落札されたのは知ってるが欲しかったものだ。フルムーンは買わないけどな。それが無理なら高級ケーキを400、いいや550Grで買いたい。さっきの奴いきなり525Grで入札したから、忘れてたぜ。
マキ・トーノ ショットガンは今どれくらい耐久性が残ってるの?まさか今投稿者の人居ないの?欲しいのに。
ルイス・ギルバート Tシャツを370Grで買いましょう。プラスワンさんには悪いけどここは、譲ってもらう。
バール・パレンチ じゃあ競ってみようか。ネックレスを1160Grで買う。
イン・シュナイダー ショットガンの耐久性、半分しか残ってないって。それでも十分に使えるけどやっぱり完全に修理したくなるのがゲーマーだよな。
マキ・トーノ それは誰からの情報ですか?
イン・シュナイダー 投稿者のガルー。今怒鳴ってるみたいだけど、こっそり電話してきてオレだけに言うのも、どうかな?オレが真面目過ぎるのかなぁ。確かにその残った分で大勢の敵を殺せれば、いいんだけどさ…。ああーこれはもしかすれば書かなかったのは確信犯だなぁ。せっかくかばってるのに、見てないのかなー。まだ怒鳴ってるよー。
ガルー・マフロン じゃあTシャツにこれ以上の入札が無いなら、ギルバートさんの落札決定でっ。おめでとうございます。
リード・ウッズ コメント欄で怒ってる奴らはちょっと落ち着こう。オレはだが、そんなに悪意は感じねぇ。
マキ・トーノ ガルーさん居るじゃない。ショットガン今2000Gr超えてるけど、2100で私に売れば?
ガルー・マフロン それはちょっと…。改造ショットガンともなると結構値が張るんだよなぁ。お客さん欲しいのは分かるけど、もう少しオークションを楽しもうよ。
ハンナ・ビョリ ぬいぐるみに270でお願いします。
ルーカス・ホープ 何もオークションを止めろとは言っていない。ただ盗品が含まれているのかどうか、訊いているんだ。善良な者にとっては当然だし、そのくらい答えてくれてもいいだろ。
プローダ・ビュアン ネックレスを1500Grで買う。今投稿者のガルーが居るなら、もうこれで決まりだろ。
イン・シュナイダー ルーカスが正しい。オレだって商売なんだから売りたいのは分かるが、ガルーの説明を聞きたがっている客が大勢いる。大体にしてショットガンは、それで殴ってたらすぐ耐久性0になるんじゃないか。
プラスワン もう欲しいものは無いけど、もう少しいる事にした。気になる事があるから。
ガルー・マフロン 聞きたがっているお客様が大勢ではないという判断です。ご理解下さい。またショットガンについては、すぐに、耐久性が0になる事はありません。殴る回数にもよりますが、最低でも七、八人は余裕で殺せる計算です。
ガルー・マフロン 上手くやり合えばもっと殴れますので、買って、試してはいかがでしょう。また名前を見ればいずれどこに住むどんな方かが判明するので、それもご了承下さい。
リード・ウッズ これはガルーが正しいぜ。大体にして銃で殴れるがそれは補助的な攻撃だから、やっぱり撃って殺すのがいいんじゃないか。それを考えて欲しい。改造ショットガンというだけで、他よりは手に入りにくくて、金をかけて修理すれば元通りなんだから、その辺りもな。
ジェット リード・ウッズが言っているのは分かる。だがオレ達が一番問題にしているのは、盗品があるかどうかだ。そう今迄ずっと質問しているのに無視されてきたんだ。謝罪の要求は続けようぜ。
プローダ・ビュアン ネックレス、オレが買っていいの?それはそうとジェットもなぁ、ちょっと客側の視点だけになってる気がするぞ。
ジェット そりゃあ客なんだから、その視点だけでいいだろ。何言ってんだ。消えろっ。
ルーカス・ホープ ジェット落ち着け。それじゃあ人と人との関係を軽視した事になるんじゃないか。しっかりやろうぜ。
プラスワン 消えろって言い方はねぇよな。
タイレス・ラフ ごめんなさい。当たり前かも知れないけど友達が高くなり過ぎれば損だって言うんだけど、どうなのかな。返事は投稿者の人がくれてもいいんだけどさ。
ガルー・マフロン ネックレス1500Gr出ましたが、他はありませんか?
スーザン・スミス じゃあ木目のタンス90Grで買う。ハッピーさんの言う100でも高過ぎるっていう意見はもっともなんだし、その人以上の額を出すんだから良いでしょう?
ロッコ・ウルバーノ ちょっと質問だが04のショットガンの代金はいつ払うんだ?数十分くらいなら待ってくれるのか?
ガルー・マフロン ではハンナ・ビョリさん落札おめでとうございます!ぬいぐるみ、大切にしてあげて下さい。実はオレの恋人も欲しがっていましたが、新しい飼い主が貴方なら喜ぶでしょう。
ルイス・ギルバート ガビネールの射撃場というのは多分山の西側にあって中にガンショップがあるあそこだろうと思うが、どうなんだ。
バール・パレンチ 確かに平凡なガンショップがあってもと…話題になったあそこなら要らねぇかもな。皆が銃を持ってるガラミールだ。
ルイス・ギルバート そうだなぁ。一応値が上がる可能性もあってそこで別な商売をする事もできるし、景色も素朴で美しいから890でも欲しい人は欲しいが…。どこか分からずに買ったならちょっと高い気もするんだよなぁ。そろそろ落札でいいんじゃないかミスターマフロン。
ガルー・マフロン ロッコさん、少しくらいは待ちますよ。当然じゃないですかー。
モズロ・セリーク タイレスのコメントはくそだぜっ!そういうのは他人に訊くんじゃねぇ。少しは気を遣って自分で調べろ。面倒でみんなうざがってるの気付けよなー。
キアーロ・カンパネッラ 島に来たばかりの人間が気を引いて友人をつくるのも、誰かにものを訊くのも、当たり前じゃあないか。言うからにはお前が気を遣え。
ガルー・マフロン スーザンさんには負けました。他に入札者は居ないようなので90で売りましょう。おめでとうございますっ。
ロバート・ユッサ 予備も欲しいからショットガンを2400で買うぜ。ガルーとは仲良くできそうだ。ファミリーはあまり好きじゃあないがな。オレに売れよ?ハハハッ!
デュエル・メイソン 02の靴、また手に入ったらよろしくな。可能ならオレに直接売ってくれ。
テリボルペイン さすがユッサさんだ。そういえば今ショットガンの画像が見れねぇとか言ってくる奴に別な投稿のコメント欄で絡まれてるんですけど、ちょっと来てくれませんか?そいつ眠れなくてイライラしてるみたいなんで…。大体にして改造ショットガンって画像見る必要あります?こっちがイライラしますよっ。ファミリー名も無いし、きっと新参だってみんな言ってます。
ロバート・ユッサ じゃあお前らだけでやれるだろ?何ていう投稿だ?
テリボルペイン ガルーのオークションで得しよう…っていう投稿で、ユッサさんなら居るだけで成功失敗に関係なく300用意します。困った事にどうやら犬の方みたいなんで…。一応敵対していますが太った男にも目を付けられる可能性はありますし、オレ達そんなに数いませんから。でも安心して下さい。ほぼ全部オレ達がやりますし、迷惑はかけませんから。
当然キアーロはモズロが何か言ってくるようであれば返すつもりで、それでも着信があったのですぐ電話に出たが、その相手がはじめて聞く名だったので驚く。
『アレクシア・ハイタワー?悪いが、本当に悪いとは思うがオレも彼方此方で色々な奴と話すから、その名を憶えてはいない。いいやそれより、待ってくれ…!あんた今、ワグナーファミリーって言ったのか?冗談ならやめてくれ。忙しいんだ』
『いいや、そう謙遜しなくてもいい。ちょっと知らせたかっただけなんだ。今からガルーが盗品かも知れない品を取り下げるから、許してやってくれ。じゃあな』
『わざわざそれを伝える為だけに電話をくれたのか?』
『そうだ。オークションを楽しんでくれ』
その言葉通りガルーが盗品と思しき高級ケーキを取り下げ、迷惑をかけて悪かったと謝罪したのを見て一応、ロッコに電話するキアーロ。出るとロッコはまずモズロが黙っているので良かったと言ったが、キアーロはワグナーのカポから電話があった事とその内容を伝え、彼も驚かせる。
『それは…すげぇな!まあ、オレ達もクーパー相手にやり合ってるし、ワグナーも気を遣ったのかもなぁ。いいファミリーじゃねぇか』
『ハハッ!そうだな。大体にしてこの島にも一応利用規約や常識などの秩序があって、しかもどういった掟にするかは、ファミリーの自由なんだ。それなのにカポ自らが客の言い分に耳を貸し、オレみたいな小さなファミリーのドンにまで、電話をくれた。噂よりしっかりした組織なのかも知れないな。それより、まだリードも居るのか?もしも話せるならあいつにも、オークションを楽しんでいいと伝えてくれ』
その後楽しいオークションになったのを確認したので満足のキアーロ。だがモズロ・セリークの、くそだぜという言葉からはコーテルを思いだし、やや寂しい気持ちになっていた。そう実はあのストーリアでの会話を最後にいつの間にかコーテルはファミリーをぬける意思を固め、よく見ると触発されたのかデポーター・ビジーも同様だったのだが、二人がファミリーをぬける事を知った時のカンパネッラの反応は一様。知らねぇよ。帰って来なくていい。よく分からない奴らだったとそんなところだが、どの心の奥底にもゲーマーらしくやり直せばいいのにという想いはある。当然本人達はやり直すつもりだからこそ出ると決めたのかも知れないが、特別カンパネッラなら居ながらにしてそれが可能だと信じるキアーロはまたロッコとリードをそれぞれ電話で呼びだし、そんな彼らと共に掲示板を出るとそこにはカツミ、パメラ、ミラーも居たので、彼彼女らにも声をかける。
『じゃあシモーニとチャーチは、まだ中か』
『ハハハッ。まるで喫茶店で一服した後みたいだなぁ』
そう言ったのはカツミ。彼はついさっきチャーチやシモーニと話したようで、チャーチは心の内を語る会という投稿に参加し、シモーニは東部の催しを調べているのでもうしばらくかかるだろうという事で、それに納得したキアーロも続ける。
『ああ、丁度ダイドブレインズもいるから、聞いてくれ。あの二人、目立ってはいないかも知れないが毎日ファミリーに顔を出して、力を貸してくれる。その目立とうともせず仲間として命を懸ける姿は美しく、心強く、今とてもありがたいと思っていたんだ。これからも色々あるだろうが、そのファミリーの温かさを忘れるなよ』
だがそこで手を挙げて発言するリード。
『でもどうせなら、全員の前で言った方がいいんじゃないか。ファンガイならそうする。そうやって…ファンガイを超えようぜ。ドン・キアーロならできるさっ』
『おお、ありがとう。でも驚いたなー。心臓が飛びでるかと思ったっ。だがやっぱりファンガイを意識し過ぎるのはよくない。そう上手くやるには目標を変えず、欲や変なこだわりを捨てるべきだ。オレ達なら上手くやれるさ。だからまたパーティーへ出て、楽しむぞっ。ドン・グランデにいい印象をもってもらわないとな』
言うとすぐ歩きだすキアーロと仲間達。その目には昔馴染みと煙草を吸いながら談笑するリカや、レットーラとギャスマンが何人かのルッソとボードゲームをする姿が映り、二人は勝っているのか肩元でがっちりと手を組む。
『ホーホォーー!新郎の友人でも手加減なしだっ。速く次を振れぇ!』
『そうだゲームだけは負けないカンパネッラだぜぇー!』
その楽し気な仲間達を見て画面を前に微笑むキアーロ。彼は一人でウィスキーを飲むアバードの隣に座った。
『やっぱり幸せそうな仲間を見るのはいいものだ。だがだからこそオレはこれを味わえない人を、哀れに思うんだ』
『…そうか。でもまあ、あまり気にしない事だなぁ。ドンはよくやってるよ。せっかくの時間じゃあないか。一緒に楽しまないと。そう人の世は不思議にも往々にして心優しい人に権力を与えない。それは確かに、優し過ぎると色々と滞って何でも中途半端になってしまうのかも知れないが、それでもオレは心優しく、孤独な人の素朴さや、慎ましいところが好きだねぇ。彼彼女らは他の人間にはない何かを保てているのさ。それでいいじゃないか』
『そうだな。だがたまに実世界で自分と同じようにどこか浮かない顔をした人達を見ると、世の中を恨みたくもなるのさ』
『うーんそうだな。ドンはもっと上を目指しても、目指さなくてもいい。どっちだろうと補佐は任せろ。どうせドンくらいになると、どっちでもいいんだろ?』
『どうだろうなぁ。それにしてもこのルッソファミリーが集めた人を見ろ。新郎新婦の評判もあるだろうが、凄い数だなぁ』
そうさっきよりは落ち着いたようだがそれでもまだぽつりぽつりと会場入りする参加者達。そんな時またルッソの数人が北を見て騒いだので、カツミは声をあげる。
『おい見ろっ。あれファンガイじゃねぇか?!』
それにキアーロ達も遠く北を見るとそこには急いでこの式場を目指す大きな青い車があり、また騒ぎ出すルッソファミリー。
『いいやあれはきっと、ブラウンの奴らだ。また遅刻かよっ』
『おーいっ、先約があるなら言っておけよー』
『ハハッ、何だあいつらか』
マイケルもそう言って席を立ったがその目には一番北に立つカツミの前に横付けした車から、サンドロ達が降りる姿がうつる。突然のことに声が出ないキアーロ。だが彼はすぐに叫ぶ。
『お前ら銃だ!走れ!!北にある、青い車だっ!!カツミッ』
ズドォーーン…!その一発に倒れるカツミの前を横切った参加者。ダァーン、ダァーーン…!バンッ、バンバンッ、ボーン!運転席や助手席のほか車の後ろ等からも発砲するクーパー達。彼方此方にいるルッソも、気付いた順に撃ち返す。
『クーパー共の相手はオレ達ルッソだ!!客はどこでもいい逃げろっ!』
『ハハハハハハ!』
そう狂ったように笑うサンドロはフロントピラーに太い腕を乗せ、マシンガンを乱射。南へ走ったカツミは逃げ惑う参加者達を避けながら一つのテーブルの前で撃ち返し、更にその後ろへまわって花壇の陰から撃ち返し、その彼を狙ったのもサンドロ達かと思えばそれは、そんな彼彼女らのいる場所からやや北にとめた白い車に乗っていた男達で、その他にも一台。その真紅の車から降りた男女には主に西側のルッソ達が応戦し、リカ、アン、リッキー、ファルコ、ロッコ等のカンパネッラも撃ちながら少しずつ北へ。丁度掲示板の方から自転車に乗ってきた灰色のハンチング帽に黒いコートを着た男は迷惑にも式場の中央にあるアーチの前から西へ通り抜けようとしていたので、それを見咎めたレットーラは叫ぶ。
『おいお前危ないぞ!何してやがんだっ?!…いいや、待てこいつっ!かっ…解除!解除だぁ!!』
そうその男はジャック・イビリードであり、レットーラの言葉よりほんの少し前に四方八方へと放たれた…炸裂弾。当然抗争になれたドン・グランデ達は言われなくても何発かを解除し、カンパネッラでも東にいてテーブルを立てて撃ち返していたキアーロ、カツミのすぐ後ろまで近づいていたアバード、その二人に迫るロッコ、アン、ファルコもそれぞれ何発かを解除したがむしろ車に乗りかえて逃げたイビリードを狙い撃って解除する暇がなかった者も多く、何発かが炸裂。バチバチッ、ギィーーン、バチバチッ!
『ああ、オレの銃が!くっそぉ!!誰か代わりをくれぇ!』
『憶えてやがれクーパー共!!』
叫ぶルッソファミリーのソルジャー達。相手が少数なので襲撃が十秒程度で終わると思っていたルッソ達はそれを機にじわじわと包囲を狭めたが、ゆっくりと後退するサンドロ達とは別に、銃弾の雨さえお構いなしの黒い中折れ帽子とスーツで揃えたクーパーの二人組はそこでショットガンを手にカツミへ接近。ボンッ、ボンボンッ、ボーンッ!
『く、そぉ!』
その数発を受けるカツミ。直前の彼は花壇の陰から出て東側にいるリカやアン達の元へ走ろうとしていたのでそれが災いしたのだが、ルッソの数人やリードそれにパメラなどが二人のうち一人を倒したのも束の間。生き残ったクーパーの一人とカツミの間に飛び出したアバードは至近距離から撃たれ、右手を投げだした格好で地に伏して絶命。
『アバード!』
そのキアーロの叫びを嘲笑うアバードを殺したばかりの男。
『ヘヘヘッ!へッ、あああ、くそぉ…!』
そうその男もアンやロッコ達の銃撃を受け絶命。アバードを殺した時点でサンドロは逃走を命じ、三つのグループはそれぞれ銃撃でぼろぼろになった車を捨て新しい車に乗りかえていたが、実は東側の街路樹の陰からスナイパーライフルを構えていたクラゲはやはりカツミの命も頂こうと、更に一撃。ズドォーーンッ!その一撃はミラーのライフルがけん制していたお陰で的を外し、鼻を鳴らしたクラゲのみは仲間の車には乗らずに隠れ、そのまま逃走。式場はやっと静けさを取りもどした。よってカンパネッラの一同はすぐカツミとアバードの元へ。だがそこに響いたのは何とアバードの言葉だった。
『心配するなっ。すぐ帰って来るさ…!』
『ああ、待ってるぞっ』
そう亡骸に返したキアーロに訊ねるパメラ。勿論他にもリードやカメーリャなどあまりゲームそのものやこのマフィアズライフに詳しくない仲間は疑問をもったが、何故死んだはずのアバードは話せたのだろう。
『それは彼が、特技・最後の言葉を設定していたからさ…。アバードらしい台詞じゃないか。だが、悔しいっ。彼のお陰でカツミが死なずにすんだからこそ、尚更な』
聞いて納得したパメラ達。辺りには避難していた者も帰って来たのでそうなるとアーチの前に立つドン・グランデ達がこれにどう対処するのかに、注目が集まる。そこで愛用のピストルを出して左右を見渡すドン・グランデ。彼はそれからすぐ手にしたピストルを掲げ、それを小さく振りながら言った。
『おいお前ら、これを見ろっ!クーパーの悪党共はこの銃が打ちのめした…!もうここへは来ないっ。幸い新郎新婦に怪我は無いんだっ。式を続けるぞっ!』
それを聞いて巻き起こる拍手。勿論キアーロ達も手を叩いてその強さと優しさを歓迎したが、ドン・グランデはゆっくりと北へ歩きだし、自分が殺した敵に血の×印を付け、クーパーとの抗争を宣言。参加者の中にはより強く拍手する者もあったが、僅かに囁く者もある。
『…だがどうする?相手はあのクーパーだぞっ…』
『…いいや、ルッソにしてみれば今回は何もしてねぇのに仲間の式を邪魔されたんだっ。仕方ないさ…』
『ああ、ドン・グランデ!本当になんて言えばいいのかっ』
そうキアーロは、自分達の抗争相手による襲撃なので初めからもう少し離れた所に座るか交代で見張るべきだったのではないかと思いそう言ったが、首を振るグランデ。
『いいやあいつらは元々、オレ達EAの敵だ。それに今だって見ろよ。お前らは南に居たのに、奴らは北から来たじゃないかっ』
『まあ…そうなんだが』
『気にするな。オレ達善良なファミリーが気に入らないだけの奴らさ。そう正式に休戦した訳でもないからな、いずれはこうなった…。それより仲間を気遣ってやれ』
『ありがたい。だが必ずこの借りは返す』
言うとすぐ東へ歩きながら仲間をよび集めるキアーロ。レットーラはクーパー達の動きを予想し、そろそろ多群剛然を使って安泰点を増やすだろう等と言ったが、自分達にとってもEAの動向は注視すべきなのでその話をするのはリカとリッキーだ。
『ドン・グランデの宣言…。EAのルールは知らねぇが、あれは多分あとでファンガイに知らせるんだろう?そういう時の彼はEAの代表として、どういう判断を下すんだろうなぁ』
『とりあえずはルッソの面子を立てて、抗争を認めるだろうさ。その後は状況によって休戦もあり得るが…たとえそうなってもファンガイがオレ達カンパネッラを見捨てるとも思えねぇ。じゃあ助かったかな』
『オレはファンガイも戦うと思うぜ。彼は平和主義者で善人だがドンらしく、損得もしっかり考えてるようだからなぁ。そうこのままじゃあ完全にではないが、こっちが押されてねぇか?そんな時に和解するのかよっ』
『確かにオレ達にかぎっては押されてるが、ファンガイが考えるのはまず東部の安定だ。だからそれにオレ達の怒りが妨げになると思えば、宥めすかしにくる可能性もあるぜ』
またそんな時にも腕を組んで聞くキアーロの前で熱弁するレットーラ。彼は全員に一人で行動するのはEAの勢力圏か自分達の縄張りに限るよう求め、たとえば邸で仲間を待ち三人、四人になっても、厳しい状況に陥った場合には全滅の危険もあるので自分だけでも逃げなければならないと続け、その注意喚起の最期をキアーロに譲る。
『…ああ、さすが我が友レットーラ。安泰点はしっかりと守った方がいい。だがさっきのアバードも言ったように、すぐ戻って来れるんだ。その場の情に流されずたとえ殺されても、ガラミールにしがみつけよっ。ファミリーは誰も見捨てない…!』
聞いて言うのはファルコ。
『だが、なるべくなら逃げずに、一緒に戦った方がいいんだろ?』
『その通りだ。だがいざ逃げるというその急場に仲間の言葉が耳に入らない事もあるだろうから、レットーラの言葉も、胸に刻んでくれ。厳しい戦いを強いるようで悪いが、皆で勝利をつかむ為だっ』
それに納得したファルコ達が席に戻ったので、今度はカツミと話すキアーロ。カツミもアバードが死んだのは自分のせいとまでは思っていないが、油断したかとは思い頭をかいている。
『おいおい、オレもドン・グランデに言われたが、気にするな』
『ああ、だがオレがもう少し警戒していたら、アバードは死なずに済んだんじゃあないかと…思ってな』
『いいや重音主曰く、悪人は大きな罪さえ忘れ、善人は小さな罪さえ想像する。だからこの場合はカツミ、お前には何の罪も無いんだから、帰ってきたアバードに礼を言えばいいだけさ』
『……そうだな』
『ああ、そうさっ』
『じゃあ気を取りなおして、そうだなぁ…。ああ、そういえば、あの探偵の件はどうなった?おい、レットーラッ』
そう呼ばれたので走ってきたレットーラは事情を聞くとすぐ、頷きながら言う。
『オレもアバードがやられたのを見てそろそろ探偵にどこまで調べたのか、訊くべきだと思っていた。今夜にでも話を聞けるようにするが、それでいいかキアーロ?』
それに頷き、これ以上EAに迷惑はかけられないと言うキアーロ。彼もカツミも他の仲間もジェイルで得られた情報は聞いていたがそれにはクーパーの恐ろしさを伝えるものも多く、そうなると希望が欲しくなるのが自然であり、皆も不安だろうから勇気づけなければと考えたキアーロの足はいつの間にか、会場の東にあるテーブルでルッソのソルジャー達と話すアンとリカ、それにミラーへと向いていた。そうそこでは一人椅子に座ったアンがどうやらクーパーからの戦利品をルッソ達と交換しているようで、立ち聞きするリカとミラーの支援を受けながらショットガンはやれないだとか、だったら帽子も付けてくれ等とかなりねばり強く交渉し、その逞しさにキアーロは唖然。心配が過ぎた自分に苦笑いした彼だが、走ってきたチャーチとシモーニにも、詳しい事情を説明しなければならない。ああアバード、本当に早く帰って来てくれよ。驚く二人の不安を受けとめた彼はそう思っていた。
強化されたカンパネッラ邸の大広間はエントランスとなり、西の壁には二人掛けの黒い革のソファが二つ。その後ろの壁には車庫への扉が新設され、中央よりやや北側には窮屈でないよう間隔をあけられた白く角ばった柱が二つならび、東の壁には手前にダーツの的、奥には紫のポーカーテーブルが置かれ、暖炉の右手から北へ延びる廊下をまっすぐ行くと突きあたりは元々裏口だったが、その左手には新たな大広間が作られていた。そうルッソの結婚式のあと解散したカンパネッラだが夜になるともう一度集まり、この増改築を行ったのはキアーロとシン。その間アバードとアレッタそれにデルフィーノを迎えたファルコとロッコは五人でボールを芝生に落とさないようにするゲームをしていたが、その彼彼女らも僅かながらに防衛棟が強化され邸が新しくなったのを見ると、大喜び。心配なのは、今邸にいる仲間が少ない事だけだった。
するとそこへやって来たのが、紺色のスーツと黒いボーラーハットに灰色のシャツには水玉のネクタイを合わせたスキンヘッドの探偵と、今戻ったばかりのキャメロン。出迎えたアレッタは、横を向く探偵の口元に白くなった髭を見つけステータス画像も確認してその威厳のある顔立ちに安心し、中にいたキアーロも気付いて大広間へ来るように言ったので、その黒木のテーブルに集まる一同。キアーロは一人、今は東西へと向きを変えたそのテーブルでも西の壁を背にして立ち、すぐ目の前にある北側の一席を探偵に与え、その隣に座ったのは西から順にアレッタ、アバード、ロッコ、シン。南側には同じく西から順にデルフィーノ、ファルコ、キャメロンが座り、早速始まった調査結果の報告の場でまず探偵は、ジム・スピアマンと名乗った。
『初めまして。東部に限らずガラミールにおける全ての問題に対処する為どこへも定住しませんが、お見知りおき下さい』
するとその彼に、明るく様々な歓迎の言葉を口にしながら拍手するキアーロ達。そこでジムはペンを振りながら四つの情報を提供。一つ目はクーパーファミリーの防衛棟が約40万Grもかけて強化されている事で、二つ目は二十人程もいるその組織のカポ全員が一発ずつ炸裂弾を持っている事、三つ目は以前取引に失敗したクギーチがクーパーのソルジャーにさえ何をされても文句を言えず、そのせいで数を減らしている事であり、最後は例の絨毯集めについての事だったが、実のところレットーラから特別有力な情報を得た場合には追加報酬を出す、と言われていたジムはそこで咳ばらいを一つ。その事を主にキアーロへ向けて訴えたが彼には知らないと言われ、そこで立ち上がったのがファルコだった。
『…ああ悪いが、その追加報酬を支払うかどうかはどんな情報かを聞いてから、判断させてくれないか』
またそこで座ったままではあるが、ファルコに同調したのはシン。
『まず大体にして、レットーラが本当に約束したかどうか分からないじゃない。ドンは知らないって言うんだし』
『それは…困りましたなぁ』
『まあ、待て』
そう言ってファルコ達を抑えたのはキアーロ。彼は実世界の店で不良品を買ってしまい返品となった場合にも何の落ち度もない客ばかりが無償で手間と時間をかけなければならない事に触れ、情報は聞くが、レットーラに確認を取った後、追加報酬にそれが遅れた分も上乗せして支払うならどうかと訊ね、ジムの返事を待つ。
『いいでしょう。さすがミスターホーリーの見込んだドンだっ』
『気にしないでくれ。何でも考えてしまうのがくせなんだ』
『今は少なくなっていますが、私もあれには納得がいきませんでした。店側の説明した内容に間違いがあっても、商品を試せなくても、返品の為にまた店舗まで持って行くのは客。家まで取りに来てくれたとしても、それを使えると思って試していた時間はどうしてくれるんですっ。そう貴方はお客様でございます。であるのに私の時間的損失を、考えて下さいました。ありがとうございます。では……』
その直後、決して自分の名と今から話す内容をファミリー外へ漏らさないようにと前置きし、ロブスト・クーパーの弱点を口にするジム。そうそれはロブスト自身の虫に関連した心的外傷と神経質な部分だと言うが、先を聞く前にファルコは頭上にクエスチョンマークを見せて意見し、シンも黙ってはいない。
『あ、あ、ちょっと待ってくれ…!神経質っていうのは初めて聞くが、虫嫌いの事はもうレットーラから聞いた情報だぜ』
『ええ、それに彼は…ロブストがそんな事を気にするはずがないって言ったけど、大丈夫?』
だがそれにまたペンを振りながら言うジム。
『はい確かに。確かにっ。ですが皆様期待のミスターホーリーも、探偵ではありません。状況はよく存じておりますがまずは聞いて下さい。そう私達探偵はどんな小さな事もしっかりと調べます。よって私はロブスト・クーパーの知人から話を聞いたのですが、それによると…』
そうそれによると名家の出であるロブストの両親は昔からいずれも異常に劣等感が強く、息子である彼が優秀でないならそれは家族の恥だと考えていたようで、特にロブストに対し精神的な強さを求め、日常から些細な違反や悪戯に対して行われた体罰さえ含むその躾は虐めのようだったらしく、たとえばまだ幼かったロブストが友人の飼っている兎を見にゆく許可を求めた時父親は、こう言ったというのだ。
『そうか、では行って来なさい。でも、ただ兎を見ても勉強にならないから、お前に面白い遊びを教えてやろう。友達も喜ぶぞ』
それに頷いていたのはまだトレーナーの柄も親に選んでもらっていたロブスト。たとえ躾は虐めのようであってもそれをはっきりと認識にするにはある程度大人になる必要があるので、前日に叩かれ泣いていてもそれは忘れている。
『うん。でも…どんな?』
『ウサギに餌をやる時の遊びだ。いいねお父さんとお母さんの言いつけに、逆らってはいけないよ』
そしてその後、詳しい手順を教えられ、友人宅の庭まで来るとそこで草を手にしていたロブスト。図らずも友人は既にその辺りにある草を兎に食べさせていたが、ロブストはまた別なものを見ていた。そうそれこそが彼の肩で羽を休める蜻蛉。彼は父親から兎が草を食べている時口に蜻蛉を近づけると、くしゃみをするから、それを友達にも教えてあげなさいと言われその通りにしただけなのだが、結果はやはり幼い少年にとっては残酷で、兎はむしゃむしゃと蜻蛉を食べ、残った羽を手にしたロブストは絶叫。一緒に逃げたはずの友人もすぐ何が面白いだと言ったきり二度と口をきいてくれなかったというのだが、親の酷さはそれだけにとどまらない。そう予想に反しぐずぐずと泣いて帰ったロブストに母親は失望のため息をつき、父親はすぐ夕飯にするからその前に近所で蜻蛉を捕まえてくるようにと言って彼を家の外へ出し、玄関を施錠。今度は自分が食べさせられるのかと想像し泣きながら蜻蛉を追うロブストを煩いと怒鳴った近所の男に父親は愛想笑いして謝り、彼を家に入れるとその頬に平手打ちし、母親もその折檻の最中お父さんのように強くなりなさいと言うばかりでそれからの怒声と嘲笑という精神への攻撃は夜が更けるまでつづき、そういった行為はロブストが大人になるまで、度々繰り返されたというのだ。するとそこまで聞いて突然ジムに謝るファルコ。
『そうなのか…。悪かったなジム。オレはきっとあんたが報酬の事でごねるつもりで、出し惜しみしているのかと思って…』
『いいえ、お構いなく。誰でも初対面の人間くらいは、疑いますよ。とても悲しい話をして申し訳ない。ですがこれこそが調査の結果です』
そこで酷い酷いと言うのはアレッタ。アバードも最低の親だと言ってそれに続いたので、どうやら二人も温かい家庭で育ったらしい。
『陰湿だね!無闇に生き物を傷つけてしかも小さな我が子を泣かせるなんて…!』
『オレも小さい頃、悪戯をして仁王立ちの父親から叱られる事はあったが、それは三十分も続かなかったし、そんな気持ち悪い躾は無かったな。だから感謝すべきなのか、既に子を持つ親としてその態度は当たり前に思えるからそこだけはしなくていいのか、迷うねぇ』
信じられない。思わずそうつぶやいたキアーロにジムはこの情報を提供してくれた人物も、最近のロブストがこの世界で悪に手を染め幅を利かせていると知って心配していたと教え、補足をつづける。
『ええ実は、結構な情報量になっているはずのロブストのブログを見ても、虫の名や話題は一つもありません。そう蜻蛉嫌いが全ての虫を恐怖の対象にしてしまったのでしょうが、神経質な奴らしいですね。嫌になった絨毯の売値も安く、最後にはいいから持って行けと何人かには無料で配ったとか…』
『あんたもよく調べたな』
そう言ったのはアバード。彼は続けてキアーロに蜻蛉の絨毯を手に入れると約束し、それからそれをどう使おうかと皆に意見を求めたが、立ち上がったジムはやや遅れてだが入口へと歩きながら、アバードの称賛に応える。
『いくらでも調べられますよ。そう調べて、調べ尽くしてそして…ビン、ゴー!アハハッ!これが止められないのですっ。貴方達も探偵になれば分かります』
そう言って出ていくジムに礼を言うカンパネッラ。やはり彼彼女らはそのまま絨毯をどう使うかの相談を始め、まず言ったのはキアーロ。その話によると悪夢が事実でも人を傷つけていい理由にならないのは当然なので、どうにでも使っていいらしく、それを真に受けたキャメロンは店に頼んでロブストの心を追い詰める長文が縫われた絨毯を用意し、撃ち合いの最中どうにかしてそれを見せ、動揺させる策を提案。実行が容易だろうと思われたのでそこまでは皆賛成したが、その長文が余りに酷くロブストを追い詰めるもので、長過ぎた事もあり、アレッタとファルコがそれとなくその無理を指摘し、結局その絨毯に縫わせるのはキャメロンの口から出たまるで炎のように辛辣な言葉を締めくくるすぐ話したい。父より愛を込めて…という部分にとどめる事となった。だがそれでも最後まで反対したのはデルフィーノ。よって彼はキアーロに内輪話を仕掛けて言う。
『でも、本当に大丈夫か?確かに今のロブストは酷い奴だろうが、一応オレ達は善良なファミリーなんだし』
『ああ、大丈夫だ。もしも誰かにやり過ぎだと非難されても、これは私の責任なのだから』
『じゃあ…大丈夫じゃねぇだろ。それに皆の責任だろ?』
『いいや、幸いお前達はドンである私の判断に、従ってくれた。だがだからこそ、それだけ信用された私には明らかに…大きな責任があるんだ。安心しろ友よ。私はお前達が思っているより強い』
『そこまで言うなら…ドンを信じるよ』
そこで内輪話をやめ立ち上がるデルフィーノ。
『よし、じゃあそれでいこうぜっ。でもその絨毯だけで勝てる相手とも思えない。何か…オレ達なりの戦い方が欲しいな』
『いいねぇ』
言いながらデルフィーノを指差すアバード。皆も賛成したのでキアーロはその事については今居ない仲間の意見も聞きながら考えると決め、続けて彼はボスコで食事でもしようと言ったが、それはアレッタが止める。
『わざわざボスコへ行かなくてもちゃんと人数分のホットドックを作ってありますよ。どうぞっ。その戦い方についても食べながら話しましょうよ。どうせ食べ終えるには三分かかるし…』
『ありがたい!』
『じゃあ遠慮なくっ』
そう言ったのはロッコとファルコ。勿論その小さな幸福に感謝したキアーロやアバードだが、キャメロンは食事に三分かかるのを意外に思い、それは真実かとアレッタに質問。どうやらキャメロンは食事の時アイテムのデータを見たり、実世界の用事を済ませたりしていたので気付かなかったらしいが、三分は真実。だがアレッタが言うにはだからといってキャメロンが行動を変える必要は無いらしく、それも全てはプレイヤーの為だという。そうつまり、楽しめるなら良いが単に数値的目標に縛られず、食事の穏やかさを味わってもらう為なのだが、ゲーマーではあってもまだガラミールをよく知らないデルフィーノは今一つその意味が分からないようで、彼もアレッタに訊く。
『一応その運営のこだわりは理解できたが、オレは解放達成タイプでねぇ。そんなオレにはやっぱり三分は長いから、短くする特技はないか?確か自分で見たかぎりでは、無かったが…』
『そういえば無いね。でもよく考えてみて。二十四時更新までに一度たった三分かけて食べるだけで、経験値は減らないんだよ。しかも時間がかかる分店は混んで賑やかになるし、話したい相手もテイクアウトにしない限り食事をしてる間はテーブルにいてくれて、それは殺したい相手も同じ。これだってとても重要な事でしょう?』
『ああ、なるほどっ。まあ確かにそこまで聞くと分かってくるな』
またそこで話に加わるのはキアーロ。
『おい、誤解するなよ。アレッタは頭のいいお前ならすぐに理解できると思って言ったんだ』
『そうそうっ』
『そう何をどう楽しむかはプレイヤーの自由で当然デルフィーノのような達成型も尊重されるべきだが、雰囲気を楽しむ感受型も、同じように尊重しないとな。確かにゲーマーは面倒臭がりが多いのかも知れないが、どうせ料理があるならそれをなるべく楽しめる、面白いものにしないと、その概念を取り入れた意味が無くなってしまう』
そうキアーロの言葉を補足するならただただプレイヤーの手間や時間を省いて、手軽に、速く、強くできるようにした、ほぼ結果を出す事だけが目的のRPGというものが突き進んだ先にある姿は、食事や武器それに車等の何もかもを人物作成画面で決定し、その経験値や、攻撃力、移動力をほとんどプレイヤーキャラクターの肉体の一部として能力に加えプレイするだけのものであり、そうなると食事や武器それに車である意味さえ無いのだが、やや難しい話になったと感じたキアーロは立ち上がり、目の前にある茶色いラジオをつけ、そこから流れる曲を聞きながら続ける。
『だからこのガラミールにおいてもとにかく急いで成長したい奴は、高くても経験値がたっぷり入った食事を買いだめして、それをまとめて自宅で食べる九分間、キャメロンみたいに過ごすんだ。それでいいじゃないか。そうだな九分もあれば食器を洗って、洗濯機を回せる』
その言葉に人差し指を立てるデルフィーノ。
『オレは安くてもなるべく経験値が高いものを選ぶし、恋人ができた時食事を作っておいた演出をするなら、飾れる時間が長いのがいい。それに邸で食事するよ。みんなに会える』
『おお友よ…!明るい話をありがとう。私や皆まで楽しくなってくるな。ハハハッ』
その和やかな会話の中アバードやアレッタもラジオから聞こえる曲に体を揺らしているが、そこで口を開いたのはシン。彼女は踊っているアバードとアレッタなら知っているかと思い訊いたのだが、二人だけでなく、誰もこれが何という題でどういった時に流れている曲なのかを知らず、それに言うのもキアーロだ。
『だがよく聴くと、いい曲じゃないか』
『そうだけど、私も全然憶えてない。つまり印象に残ってないんだ。やっぱりゲーム作りって難しいね』
『いいや、勿論印象に残る曲も必要だが、これはこれでいいんだ。主役のゲームを邪魔していないし、控えめで楽し気な曲だ』
『そうか…!私もまだ若いのかな。そんな風にも思えるよね』
だがそこで言ったのはファルコ。
『そうむしろ邪魔になるのは、蜻蛉だぜっ。今回は味方としてだがなぁ』
そう抗争の話をしたい彼は何気なく言ったが、聞いた実は虫嫌いのシン、デルフィーノ、ロッコ、キャメロンはせっかく忘れていたのにと、拳をつくってブーング。たまらずファルコはキアーロに助けを求める。
『おい、どうにかしてくれよ。ロブストだけじゃなくこいつらも神経質だぜ』
『ハハッ。…じゃあ四人の中で一番の虫嫌いは誰だ?詩人重音主の道徳によってそれを克服させよう』
『そんなの無理だよ』
そう言ったのはキャメロン。キアーロが訊けば彼女は蜻蛉などは平気らしいが、結局その話になると少しずつ蜘蛛や百足等を思い出すようで、頭をかきむしって見せる。
『じゃあキャメロン、お前の虫嫌いを克服させようと思うが、どうかな?』
『無理だってぇ。平気そうなら聞くから、まずシンにやってみてよっ』
だがシンやロッコも遠慮したので仕方なく手を挙げるデルフィーノ。彼はできれば克服したいらしいが程度はキャメロンと同等でも、効果には懐疑的だ。
『きっとまったく効果は無い。別にキアーロや重音主さんを信じない訳じゃあないが、オレは小さな蜘蛛さえ触れないからな』
それに頷くとまず立ち上がって言うキアーロ。
『そう虫達はたまに、毒をもっていたり噛みつく力が強かったりするから、よく知らないのに触るのはよくないが…たとえば有事に嫌な虫がいるからといって、そこで眠れなくても困る。だから無理強いはよくないができればこれを機会に、克服してもらおう。食後といっても実世界じゃあないから許してくれよ。善良なファミリーの一員としても、なるべく苦手は無い方がいいからな』
その言葉に拍手する一同。アバードが口に人差し指を当てて見せてくれたので、キアーロはデルフィーノと話すのみとなった。
『ではもしも私が正しくないと思ったなら、遠慮なくそう言ってくれ。いいな?』
『えっ…そうなのか。ああ、それならいいよ。何か一方的に考えを植え付けられるのかと思ったが…。そう何て言うか、暗示みたいにさ』
『そんな事はしない。ではまず言うが、虫とは罪なき生き物だ。これは正しいか?』
『それは……それは正しいさ。だがオレ達にとってはあの見た目や動きが不気味なんだ。これはどうしようもないぜ』
『噛まれたとか、嫌な思い出があるのか?』
『いいや、それはない』
『そう確かに虫を可愛がったり、愛したりする必要は無い。何故ならその虫の方が人間を、ほとんど何とも思っていないからな。たとえ考えていてもそれは生きる為に必要だからで、日々無数にいる虫を生かそうとしても彼彼女らは命がけでもやりたい事が沢山あって、寧ろ迷惑に感じるだけだ。だから人が何かをしてやる必要や義理はないさ。だが、小さきものだ。指先でどうにでもなるのに、見た目や動きだけで恐れるなんて、変じゃあないか』
『ああ…まあ、そうだな。いいや、だって気持ち悪いものは仕方ないじゃないか。幽霊を見ただけで逃げるのと同じさ』
『いいや、残念ながら違う。お前は賢いが、幽霊は人を追い込み、あるいは呪い殺す。だが性格が大人しくて毒も無く体も大きくない蜘蛛や百足それにただ触角をくるくる回して歩くダンゴ虫なんかはお前が生活圏に入っても、襲ってこない。集まっていようと言わばそこは彼彼女らの町だ。幼虫は言わば赤ん坊で、まだ這い這いもできないかも知れないし、勢いよく動いて元気があるなら、それは喜ばしい事じゃあないか。その生命力に微笑む日が来る。そんな彼彼女らが集まっているならそこは新生児室だ。それなのに何故必要以上に避けたり、殺したりする必要がある。人と色や形が違うと言うのなら、それは皆が大好きな犬や猫それに他の哺乳類なんかも同じで、むしろ彼彼女らの方が爪や牙それに筋力があって、危険なくらいだ。そうこういった事実があるのに高い殺虫剤を買い漁ったり、眠れなかったり、昨日まで尊敬していた人を虫好きだからと軽蔑したりするなんて、人生がもったいない。だからよく観察して慣れた方がいいと思うぞ』
『じゃあ分かった。観察はしてみる。これは本当に約束しようっ。だが強いて言うなら、不潔じゃないか?そうだ。これを忘れていた』
『いいや、それなら蝶や飛蝗も、どこに居たか分からない。猫もそうだ。だからやはり、もっと強く優しい心を養えるはずのお前が罪なき虫を差別するなんて、悲しい。彼彼女らも人間の事を少しも想いはしないからその虫差別はどうでもいいとしても、人種差別にも繋がってしまうじゃないか。これは理解できるはずだ』
『そうだな。何となく、何となくもう克服できそうな気はしてきたが、心的外傷はどうする?オレは幸い、そういったものは無いが…』
『うんだが感覚は…感覚で、私が今まで言った事は全て正しく、克服できない方が不自然だ。怖がる理由が、無いのだから。そう私なら、たとえば蜘蛛が目の前に垂れ下がって驚いた記憶のある虫嫌いの少年少女には、こう言うだろう。それは過去の記憶が、君達の体に不快感を与えているだけだよと…。つまり重音主さんの教えによると目をそむけるから、逃げるから、余計に怖くなるのさ。きっとデルフィーノなら大丈夫だ。克服できる…!』
そうキアーロとしては重音主の言葉を伝えただけだが、デルフィーノの素直さも手伝って成り立ったその場面を見せられた一同は拍手。どちらかというと勉強は得意なデルフィーノもキアーロに指摘されてみるといくつかの盲点があり、整理するといい事を聞いたと納得。しかもどうやらロッコとシンも納得した様子だ。
『おお、なるほどー。これを忘れなければ一、二年後には平気になってるかもな』
『そういえば平気な人がいるのに、そうでない人は、ずっと損をするよねぇ。私も頑張ろうかな』
『くそぉ誰だ?!』
だが突然怒鳴るファルコ。その瞬間彼とアレッタそれにロッコはそれぞれ銃を入口へと向け、キアーロも手下を出していたがそこに立っていたのは、グレイトマンだ。
『おいおい落ち着けっ。レットーラが開けてくれたんだよ』
聞いてかるく詫び銃をしまうファルコ達と、グレイトマンの陰から現れたのはレットーラにリッキー。三人は早速オーガネイから例の煙草を仕入れてきたらしく、中でもグレイトマンは突然の取引をキアーロに詫びながらその説明を始める。
『勿論、都合が悪ければ言ってくれ。でもレットーラやリッキーは今夜でいいと言うし、売るのは取引を中止してもそんなに困らない相手だ』
その相手というのは前話したオーガネイの常連客だろうと思いながら訊くと首を振るグレイトマン。そう相手は通称ドゥノーイットという黒いワンピースに同じ色のベールをした女で、初めの内はどうしても少量の取引にしか応じず信用を得るのは大変だが、島に慣れたグレイトマンが会うのはもう六度目。実のところ売り手に同行者を一人しか許さないドゥノーイットを選んだ理由は、オーガネイが売っていた相手よりほんの少し高く買ってくれるからで、そこまで説明したグレイトマンは胸に手をあてながら言う。
『大丈夫だドン…!もしも話が違ったら中止して、別な奴に売ろう。オレだって損をしちまうんだ。それに小遣い程度だが護衛役でもある同行者には、オレが追加報酬を支払う。つまり自分の分け前の一部を譲る考えだ。これで文句無しだろ?』
『そうか。レットーラとリッキーがいいと言ったからには、反対しない。
一ついくらで、何箱買ったんだ?』
『181Grで20だ。ハッハー!善は急げ。儲けをオレ達で山分けだぜっ』
また取引の時間は20:35、場所はプローバの西海岸にあるダンスホールマッドネスの前で、セイントの売値は267Gr。実際に取引に行くのは勿論ドゥノーイットから信用のあるグレイトマンだというが、今迄の会話にあったように同行者が必要なので、そこで声を上げたのはファルコ。彼は子供の誕生日も近く取引の勉強にもなると熱心に皆を説得し、しばらくしてキアーロはそれに許可を出す。
『いいだろう。お前は元々このグレイトマンと同じでドン・アクイラの友人だ。それにオレ達だって、近くまでは行けるんだろ?』
それに答えるグレイトマン。
『ああだが、できればそれは内海にかかる橋の入口辺りにして欲しい。つまり東海岸側だな。そうドゥノは用心深い女で自分はいつも五、六人の仲間を連れてくるくせに、こっちの同行者は一人だっ。それでもこれまで一度も裏切った話は聞かないから我慢してるが…微妙な場所だと誰かが近くで買い物したくなったとかで、ドゥノの警戒エリアに入っちまう可能性がある』
そうグレイトマンもできればもう少し仲間を連れて行きたいようで、それを聞いたキアーロもどうにかならないものかと話し込み、その間ファルコと話すのはデルフィーノ。彼もどちらかというと稼ぐのに積極的だ。
『埋め合わせはするからその役、オレに譲ってくれないかなぁ。知ってのとおりオレも島に来たばかりで、まだ一度も取引した事が無いんだ』
『うーんっだが…それはちょっと無理だ。勘弁してくれ』
『…そうか、じゃあ諦めよう。言ってみただけだ。まあ、次があるよな』
『悪い。実は前回のクリスマスには、サンタさんが来なくてな。今回だけはどうしても欲しい物を買ってやりたいんだ』
『それは可哀相だっ。聞かなかった事にしてくれ』
という事で、プローバの橋まで移動したカンパネッラファミリー。既にグレイトマン達の車は西へと走り去り、橋にはぽつりぽつりと街灯もあるが辺りは暗く、そこには波の音だけが響く。だがそれでも楽し気な一同。着いてすぐシンは西の岩山に隠れた町が恋しいと言ったが、東のダイオンからくる車の色当てゲームを始めたのはロッコ、レットーラ、それにキャメロン。
『ほーら言ったろー。この辺りは派手な車が多いんだっ』
『嘘だろ!赤だって?!じゃあもう一度だっ』
『今度は10Grずつ賭けようよっ。私自信ある!』
他はキアーロの周りに集まって話し込み、今の話題は丁度レットーラがジムに約束したという追加報酬について。話しているのはキアーロだ。
『つまり間違いないが、ほんの150Grだ。それだけで巨大な敵の弱点が分かったんだから、良いじゃないか』
聞いて言うのはアレッタ。彼女は否定的な意見で言いにくいと前置きした上でだが、敵のというよりロブスト個人の弱点である事と、まだジムを信用できないという現実に触れ、キアーロを喜ばせる。
『いいぞ…!それでこそうちのカポだ。ハハッ!確かにレットーラの知り合いで好印象とはいえ、奴もこの巨大暗黒街の住人。しかも逃げられればオレ達みたいな小さなファミリーが捜すのは困難だからな。そう可能性は低いが、この東部の彼方此方で小さなファミリーを騙して、南部辺りでほくそ笑んでいる事だってあり得る』
『そう。だからジムの事については、確認したのかなと思って』
『勿論、確認済みだ。彼は主に西部と東部で活動する探偵で、どうやらバックはウォーカー三兄弟。もう二、三ヶ月も前に初めてレットーラが会った時には、趣味である自転車集めの為にこの島へ来ているようなものだと言ったらしい。ハハッ、まったく!貧しい者も多いのに、正直な人だ。それにロブストが絨毯集めをやめた話ならまずシンが聞いているから、多分心配しなくていいぞ』
『そういえばそうだねっ。でもそれじゃあ、カポが全員炸裂弾を持ってるって話も本当かぁ。狙われるのは邸、店、銃、車。死より破産が怖いよっ』
聞いて笑うキアーロ。そこで言ったのはアバードとリッキーだ。
『そう素性も隠せるし、ステータスを見ない限りどいつがカポなのかは分からない。しかもその操作をしている間に投げてくるかも知れないから、注意しないとな』
『それより腹が立つのは、防衛棟の強化に40万Grもかけてる事だぜ。悪党のくせに!知ったばかりだから、余計腹が立つっ』
またそこで腹が立つといえば、悪のファミリーではあるがクギーチの扱いも酷いと言うシンに、その同情を無用だと切り捨てるデルフィーノ。二人は特に喧嘩しそうでもなかったが、キアーロは言う。
『ああ、二人の気持ちは分かる。シンのように罪ある者を哀れと思う気持ちも大切だが、実は優しいデルフィーノのように、自分の甘さと戦う気持ちも大切だ。でもそれより今は、イエローサファイアの話をしよう。そうさっきレットーラから聞いたんだが、値上がりするかも知れないんだ。誰か買ってるか?』
するとそれにアバードただ一人が手を挙げたので、口をひらくアレッタとシン。
『あっ、ずるい!レットーラと相談して、二人だけで買ったんでしょう?』
『何でファミリーに報告しないの?古参なのに…』
『たった二つだけだっ』
そう言って笑いながら続けるアバード。それによると値上がりの噂もある程度は事実かどうか確かめなければぬか喜びさせる事になるというので、二人は一応納得。アバードはその事で得られる金も僅かだと弁解を始めたので、やぶ蛇にならないように気を遣ったのはリッキーとデルフィーノだ。
『でも稼げるんだからいいじゃねぇか。早速オレ達も買って帰ろうぜ』
『オレも昨日のニュースで見たぜ。だがそれから何度テレビを点けても、そのニュースは見られなかった。これは本国の誰かが意図的にそのニュースを封じ込めたと見るべきだから、アバードじゃあなくそいつらにこそ怒るべきだな』
『ありがとうデルフィーノ…!』
アバードはそう言って笑ったが、今度はデルフィーノを疑うアレッタ達。しかも話し込む彼彼女らの後ろではゲームを続けるロッコ、レットーラ、キャメロンも盛り上がっていたので、微笑ましくそれを見るキアーロ。その三人の内レットーラとキャメロンは、今東から来たばかりの角ばった長い銀色の車を見て叫ぶ。
『イェー!10Gr貰ったぁ』
『ごめんね、ありがとうー!』
だがそこでキアーロ達に聞こえたのは鋭いクラクションの音。プァンプァンッ!ロッコは予想を外した事より、自分達が道を塞いでいた訳でもないのに邪魔だと言われているようで違和感を覚え、キアーロに言う。
『おいドン、あの車に見憶えは?』
『いいや、無いな。だが…おいお前らっ』
その声に東を見るカンパネッラの一同。キアーロは車道に寄るデルフィーノやリッキーそれにシンが相手と争わないよう歩道に誘導したが、銀の車から降りたのは黒いストライプの入ったネイビーブルーのスーツに、白く短い髪の前を立てた男。どうやら男はクーパーのソルジャーだったらしく、声を荒げる。
『邪魔なんだよ、くそ共がっ!黙ってファンガイママの所へ帰りなっ!』
『うるせぇなっ。お前こそさっさと行けよ!誰が停まれって頼んだー!』
そう返したのはデルフィーノ。聞いた男は言い返されたのをやや意外に感じたのか数秒黙ったが、その後ろには同乗していた金髪に赤いアロハシャツを着た男と、坊主頭で太った体を揺らした紫のスーツ姿の男も現れ、また白髪の男から始まって三人でキアーロ達を罵る。
『弱小ファミリーが…。いい気になってんじゃねぇ!消えないなら殺して通るぞっ』
『さっさと行けってその馬鹿面した仲間にでも言ったのか?ハハハハッ!』
『綺麗な顔に傷がついちまうぜ、デルフィーノちゃーんっ!』
『あのくず共っ…!』
『待てっ…!』
だがデルフィーノにそう言ったのはキアーロではなくリッキー。彼はキアーロの考えを察してやや東へ歩くと、大声で言う。
『別に構える気はねぇ!さっさと行きなっ』
だがその彼も見れば坊主頭の男は既にその手にピストルを出し、それを見たキャメロンもマシンガンを出し、叫ぶリッキー。
『くそぉ、車を出して盾にしろ!急げっ!』
パンパン、パンッ、ドドドドッ、ドドドッ!ドドドドドドッ!
『撃ち返していいんでしょう?!』
そう声を上げたキャメロンはアバードが出した一番前にある車のボンネットから撃ち、返すのはキアーロ。
『撃たなければ近づいてくるから、仕方ない!だが、何とかして止めるぞ!』
ズドォーーン、ドドドッ、パンッ、パンパンパンッ、ダァーーンッ!とその一撃で紫のスーツを着た男を仕留めるリッキー。だがキアーロとレットーラは叫ぶ。
『一体何を考えてんだお前ら!ただ話してただけだろ!目を覚ませっ。このままじゃあこっちも銃をしまう訳にはいかないっ』
『そうだこっちは大勢でリッキーもいるんだ!どこへでも消えやがれっ』
バーン、バンバーーン!だがそこで実は一番敵へと近づき街灯の陰から撃っていたシンは、金髪の男を射殺。
『……ぐふっ!』
『やったぁ!ナーイスッ』
『ハハッ、良いぞシンッ!また安泰点を貰っちまったぜー!』
そのロッコの声に少しずつ後ろへさがっていた白髪の男も苦し紛れに車の陰から広範囲にマシンガンを撃ったが中々弾は当たらず、こうなってしまったからには殺した方が早いと叫ぶレットーラ。だがその目には、銀の車のすぐ後ろにまた白と緑の車が停まって中からクーパーのソルジャーが出て来るのがうつり、それを見たシンも傷を負っているのか少しずつ仲間の方へ後退。リッキーも何発か撃たれてアバードの車からその後ろにあったアレッタの車へと移動し、しかもクーパーの北側に居るのは今日も灰色のニット帽を被ったボーン。その手には携帯電話がある。
『ああ、カンパネッラだっ。このまま潰せそうだが念の為お前らも来てくれ!』
『やられてたまるもんですかっ!』
言いながら広範囲射撃をやり返すキャメロン。ドドドドドッ!パーンッ、ボンボンボーンッ!とそれを見たカンパネッラもキャメロンに合わせて撃ったが銃声は止まず、クーパー側には更にライフルを手にしたソルジャー二人が到着。バンバンバンッ!バンッ、ダァーーン、ダンダァーン、ドドドッ!ダァーン、バァンッ、ズドォーーン、ダァーーン!そのクーパー達による銃撃は少しずつ強まる雨のように激しさを増す一方で、危うく野次馬になりそうだった東からきた数台の車も相手がクーパーファミリーだと分かると、急いで西へ。キアーロはもくもくと黒煙を上げるアバードの車からすぐロッコの車へと走りそれに続いたのはレットーラ。彼はそこでキアーロに叫ぶ。
『まだ数は互角だが、どうするっ?!』
『もうどうにもならない!逃げるぞ!!』
そう仲間に犠牲がでる前に逃げると決めたキアーロ。レットーラも挟み撃ちを警戒し、仲間にはとにかくどの車でもいいからと急いで乗り込むように言い、二秒後カンパネッラの去った橋で爆発するアバードのライトアイ。ドォーーーン!その爆風や破片に一瞬怯んだクーパー達だが追手となるのも速く、キアーロは車内でグレイトマン達に電話しながら、邸へと向かったのである。その後とんで来たファルコやグレイトマンに事情を説明しながらそれぞれ156Grという儲けを受取ったキアーロ達。アバードも車の事を言わなかったので悲観は少なかったが抗争が落ち着くはずもなく、翌日の朝、邸のエントランスで仲間に声を張り上げていたのはカツミ。その前にはレットーラ、アレッタ、ペスカーラの他、デルフィーノ、バイカ、アロマ、シモーニ、ミラー、シン、ベティー、ギャスマン、チャーチ、ウィリアム、エルネスト、カメーリャ、マイケルという合計十七人が立ち、カツミの話を聞いている。
『という事で、全縄張りからの回収は終わった…!その売上が店主の報告した通りだったのは当然だが、ここは何と言っても裏切りの多い暗黒街だからな。正直ほっとしてるぜ』
そのカツミの言葉に拍手する一同。実はレットーラ達から橋での撃ち合いを聞いたカツミは自分達の軍資金を守る為ついさっき皆とも相談し、縄張りの売上を回収すると決定。一人か二人で店や建物から売上を回収し、その後をアレッタと彼女に指名されたミラーとカメーリャが追って誰がいくら持って行ったかを確認。誰も売上を誤魔化さなかったので皆拍手してその正直さを喜んだという訳だ。だがそこでバイカに言うのはエルネスト。
『いいぜ。いいんだが、ここまでするか?それは絶対に裏切りが無いようにして皆を安心させたかったのかも知れないが、仮にオレがドンなら、少しくらい誤魔化されても許すね。てめぇさっさと返しやがれっ!とか言いながら、笑えるぜ?』
『ハハッ!聞かなかった事にしてやる』
『だが誤解するなよ。その自分の意思とは反対にドンやダイドがそいつを殺せと言えば、殺すさ…!すぐになっ』
『お前怖い奴だな』
そこでカツミのそばまで歩くと口をひらくレットーラ。彼は悲報としてレイドファミリーの壊滅を告げたがその暴挙を行った憎い相手はやはりクーパーファミリーで、はじめて知った者は皆あ然。しかもデルフィーノとカメーリャにはそれを補足する情報があるようなので、二人もレットーラの横で話す。
『ああそれで、レイドの壊滅を知ったドン・アクイラがダースンコーズの町で会ったクーパー共に、憶えておけと怒鳴ったらしくて、直後撃ち合いになって両者二人ずつを、失ったらしい』
『ええ、結果としてクーパーは逃げたからバレンティーノが勝ったんだけど、EAとクーパーの抗争も本格的に再燃したみたい。それで皆気になっているだろうけど、噂ではクーパーも私達のような小さなファミリーに甘く見られたままでは不味いと思ったらしくて、そのせいでEAともやり合うようになったようね。エルダースとやり合うようになった理由も、同じだろうけど…』
『なるほどっ。確かに言われてみればマフィアらしい考えだ…!』
思わずそう言ったのはバイカで、話を引き継いだのはカツミ。彼が言うには昨夜居たキアーロ、リッキー、アレッタ、レットーラの四人はドン・ロブストを和解の為とした会合へ呼び出し、そこで叩く策を考えたらしいが自分もそれに賛成だと言い、話をつづける。
『つまり詳しく言えば、EAやその一翼を担うファミリーのバレンティーノと協力してロブストをおびき出すつもりなんだが、オレ達善良なファミリーの要求っていうのは、たとえば敵対する悪のファミリー以外には手を出すなとか、カンパネッラに求めた補償金を諦めろとか当然のものだとしても、それをあいつらが受けるとは思えない。和解する為にはそれら当然の要求を全て、受け入れなければならないからな。そこで必要になるのが、これさ…!』
言いながらショットガンを見せるカツミ。彼が補足するにはしばらく撃ち合ってロブストが退いた後もその本人かカポ達を襲撃する計画だが、その詳細は情報がもれる可能性もあるので今はここまでとし、他はそれで納得したがまだ質問があるのは、ギャスマンだ。
『勿論奴らが要求を受け入れたら…だが、抗争は終わるんだろ?』
『そりゃあそうさ。それこそオレ達がガキじゃあない証しだ。ハハッ!それに万一要求を受け入れたら、もう正義の勝ちだ…!つまり戦う理由もねぇよ。安心しな』
またそこで手を挙げたのはミラー。彼は策に納得しながらも両者共かなりの犠牲が出ると予想したようでその訳も説明する。
『確かに三千の馬鹿共…だが、本当の馬鹿じゃあない。ずる賢い奴も、余計に器用な奴も大勢いる。ドン・ロブストだって、どんなに上手く騙したつもりでも和解の為と言われて、それを鵜呑みにするとは思えない。第一邸へはきっと大勢を引き連れてくるだろうし、いざとなればおそらく…少なくとも千近いソルジャーを動かせるようには、しておくだろう』
『へぇ…。でも、どうやって?』
仲間達にとって意外にも言ったのは慎重なベティー。ミラーはベティーが自分を試しているように感じたので、真面目に答える。
『まずさすがに身を隠せる奴は少ないが、素性を隠せる奴は多いし、そのグループとなって彼方此方に配置された中にダラーエリアやクギーチそれにその知り合いなんかが居れば、ステータスにある目元だけの画像や細かな服装の特徴を見ても、奴らの仲間だとは分からない。EAが目を付けてやり合ってきたのは、主にクーパーだからな。そう余りに数がいるからクーパーの特徴をおさえる事さえ困難なんだ。そこに二つのファミリーとその知り合いが大勢紛れ込んでしまえば、集団を見つけても、クーパーやその仲間だと断定できない。素性を隠していなかったとしても車番やよく使う特技なんて情報からは、そいつがクーパーの仲間かどうかは、分からないだろうからなぁ』
『ああ、なるほど。そういうタイプの新手もあり得るか』
『それに気を付けなければならないのはドン・ロブストの方が寧ろ、やり合うつもりで来るパターンだ。そうその場合は、驚くような数になるかも知れない』
『ああ、そうねぇ。しかもどんな策を引っさげて来るか、分からない。EAやカンパネッラのような善良な組織が、和解の為、相手を呼び出して、その上会合を中止にする訳にもいかないからねぇ』
『そうつまりこちらは逃げられず、万一逃げたなら大恥だ。だからその会合は、十日後なんかにすべきじゃあない。奴らが所属する全ての仲間に呼びかけてその日大勢が島へ来られるようにしてしまうからなぁ。当然EAからの応援の数にもよるが…』
更にベティーは大通りは車で、小道は特技によって塞がれ分断される可能性もあると唸ったが、笑うのはデルフィーノ。
『アハハハッ!心配し過ぎだぜ二人共っ。奴らにお前らほどの脳みそは無い。断言してもいいね』
勿論そう言われてもミラー達は釈然としなかったが、そこで言うのはレットーラ。
『オレもデルフィーノの言うとおりで、奴らはもっと力任せの、単純な手段で攻めてくると思うなぁ。だが…ドン・ロブストが噂通り頭の切れる男なら、ミラーとベティーが心配するような事態に陥るかも知れない。一応警戒しておこうぜ』
聞いて頷く一同。ではその誘きだす役を誰がやるのかと言えばレットーラいわく、それはファンガイ。彼の見立てではキアーロは当然としてアクイラさえまだロブストを呼びつける程の実力は無いのだが、そうなるとロビンソンへの使者が必要なので志願者が求められ、それに手を挙げたのはチャーチ、カメーリャ、ペスカーラ。カツミはレットーラやアレッタとも相談して言葉が丁寧で物腰穏やかなチャーチに決め、命令を受けた彼は早速ゲデルへと向かい、そこで声を上げたのはマイケル。彼にはいい報せがあるようだ。
『そういえばみんな、ファンガイがクーパーに手紙を書いていたのは、知ってるか?それにはオレ達カンパネッラに負けてやれと書いてあったらしいぜ。しかも無条件でなぁ。ハハハッ。彼ならきっとこの計画に力を貸してくれる』
それに気を良くしてマイケルを指差したカツミがすぐ他の意見や情報を求めたので、再び口をひらくレットーラ。彼はメーツベルダにある他のファミリーの縄張りも調べておきたいらしくそれに同行する仲間を選ぼうとしたが、そこでエルネストはやや申し訳なさそうに挙手。皆も興味を持って聞けば、コンレの町で新居を探していた彼はその時タツカ・サイジョーという名の女に声をかけられファミリー入りするのに口を利くよう頼まれたらしく、それに言うのはアロマ。彼女は警戒しているようでそれは、ペスカーラも同じだ。
『それは誰?貴方を疑う訳じゃあないけど、信用できるかどうか確かめたの?』
『そうドンも言うだろうが入ってしまったなら、なるべく上手くやらないといけないだろうし、特にドンがいない時に仲間を入れるのは、気を付けないとなぁ』
続けてエルネストはタツカをファルコの恩人と紹介し説明したが、できれば嫌な奴はやめて欲しいと言うバイカ、ウィリアム。二人も実は当然のように内部抗争などを避けたいらしくエルネストに慎重さをうながし、そこでミラーに内輪話を仕掛けたのはデルフィーノだ。
『まさかトロイの木馬じゃあないだろうな』
『うーん…だがおそらく、あの時のクーパーはオレ達が歯向かうとさえ考えていなかったようだし、大丈夫だろう』
『一度クーパーの扱いに腹を立てたからこそ裏切って、扱いを変えるのを条件に仕掛けてきた可能性もあるぜ』
『おっ…想像力があるな。それとも会社なんかで似たような経験があるのか?オレは自衛隊員だから色々考えてしまうが、そういう発想は無かった』
『日本人なのかっ?』
『そうだ。だがアメリカやイタリアも好きだから、よろしく』
だが勿論賛成する者もあり、それはカツミやレットーラそれにアレッタなど。三人は特に疑う必要もないと言い、それにエルネストが続ける。
『そう実は今、丁度そのタツカがバザの南にあるカジノでブラックジャックを楽しんでいる時間で、都合のいい日に話す約束をしてるんだが、皆が反対するならそれとなく断ろうと思う。どうする?』
そう言われたので悩むアロマ、ペスカーラ、バイカ。ウィリアムは既にカツミ等の中心が歓迎する意思を表したので考えを変えたが、バザがEAの勢力圏でない事を理由に不安がるギャスマンには、ミラーが言う。
『だがクーパーの勢力圏でもないはずだが、どうだったかな?』
『オレもあの辺りに奴らの縄張りを見た事はないが、詳しくは知らない。でもだからこそ…ちょっと不安だろう?』
『ねぇでも、どっちの縄張りも無いなら行ってみましょう?』
そう言ったベティーが続けてその辺りに炸裂弾を隠していると教え皆を勇気づけたので、パンッと手を叩くカツミ。
『よしじゃあ決まりだ!でも何かあったらすぐ引きあげて来ようぜっ。キアーロに怒られちまう』
という事で、休憩をはさんだ五分後バザのカジノへ向かうと決めたカンパネッラ。カツミがレットーラに同行の意思を確かめると、彼も一緒に行くという。
『来て大丈夫か?』
『いいさ。他の縄張りの偵察はキアーロの命令でもない。つまり今回はそうした方がいいと思っただけだ。なるべくまとまっていた方が、いいだろう』
『ああ、他の縄張りも気になるが、エルネストがメーツベルダに住まない事も気になるな』
『ハハハッ。勿論最近知ったが、奴は自由人だからな。それにメーツベルダにある他の縄張りについてはトレダーノファミリーとかベルドゥーゴファミリーとか、アガトンファミリーとか色々なファミリーの名を耳にしたが、その一帯を詳しくは調べてないんだ。だから丁度いいかと思ったが、急ぎ過ぎるのも良くないよな』
そうして十数分後…カツミ達が辿り着いたのは、真っ白な石畳の美しい集落のような場所。そこはヤシの森に囲まれ自然を残しながらも、北にある薄っすらと黄色い屋根に白壁が明るい印象のカジノを中心とした一画で、その東西にカジノと同じ配色の建物が一軒ずつあり、エルネスト等と一緒にまるで水しぶきのようにコインの踊る飾りが高揚を誘う、ゴールドウェーブという看板を潜った仲間以外のカツミを中心とした数名の前に置かれているのは、東西に二つ並んだカーキ色のベンチ。その西側に一人座ったカツミは時々聞こえる様々な鳥の声に、耳を傾けていた。また店の前で立ち話をするのはアレッタ、アロマ、シモーニ、カメーリャ。四人はミラーやシンそれにベティーが森の先にある住居や店を調べるのを待ち、気を揉んでいるところだ。だがそこで、徐々に鳥の声が小さくなるのを感じるカツミ。彼は画面に目を凝らし、その視界も徐々に白を帯びてゆくと一言。
『一体何だ?』
だがその声がアレッタ達に届くころ彼は既に、追想体験の中にいた。そうそこは、縦長の半円に象られた大窓のあるバレンティーノ邸の入口。南で横顔を見せるキアーロにカツミは憶えのある台詞を口にしているので、これは彼がアクイラに用心棒の仕事をすすめ断られた時。つまりカツミが初めてキアーロに会った場面だ。
『お前ドン・アクイラを助けたんだって?やるじゃねぇか』
『ああ、それよりお前は彼と商売がしたいのか。だが、止めた方がいいな』
『何故だ?』
『だってお前は多分ドン・アクイラが信望のある強いドンで、仲間も多いから必ず成功するって、思うんだろう?だがそれならまずバレンティーノのソルジャーになって、信用を得て、少しずつ味方を増やしてからドンを説得するしかないだろうな』
『でも誰だって…あんたなら成功するってすすめられると、嬉しいだろ?』
『ハハハッ、それはそうだ。だから一度か二度なら良いとは思うが、これ以上は迷惑だと思うぜ』
そうオレはこの忠告があったからこそ、無理に乗り気じゃないアクイラを担いで商売で失敗する事もなかったし、今こうしてファミリーのダイドブレインズとしてあるんだ。クーパーの勢いを凌ぎ切れなくても、キアーロや仲間だけは守るぞ。そうあらためて心に決めるカツミ。だがその清らかな時もすぐ、アレッタの声がかき消す。
『ねぇ悪いけど、起きてっ。ちょっと困った事になって』
『どうした?』
そのカツミが辺りを見回すと北に居るのはアロマ、シモーニ、カメーリャの他、既に帰っていたミラー、シン、ベティー。ペスカーラも店から出ていたようだが、その東側で腕組みをして立つ黒いスーツに薄くなったブラウンの髪をオールバックにした髭の男は、怒りを露わにしている。
『だからタツカが居るならさっさと連れて来なぁ!遊びじゃねぇんだっ』
『お前達の掟なんて知らないよ!何で私達が守らなきゃあならないんだよっ?』
返したのはベティー。カツミももしかすればと思いステータスを見ると、男はクーパーのソルジャー。その北にも灰色のトレーナーを着て黒いスラックスをはいた長髪の一人が立ち、その長身の男とは対照的に背が低く金の髪をツインテールにして黒革のベストを着た女はベティーを横から怒鳴り、数はカンパネッラが倍以上のはずだが、怯む様子はない。
『うっせぇんだよババア!そのしわくちゃの正直な外見で生きる自分を誇りにでもして、静かに余生を過ごしてな!気持ち悪いんだよー!』
『どちらかというとお前の方が気持ち悪いけどねぇ』
『こんなに可愛い私のどこが気持ち悪いの!馬鹿じゃない?』
『いつの時代も老人は沢山いたから、中身がどろどろのお前の方が気持ち悪いんだよ。分かった?』
そこで言ったのはカツミ。
『ああ、寧ろベティーの言葉を聞いて、気分がいいぜっ。晴れやかだねぇ』
彼は既に他と並んでベティーのすぐ後ろにいて、ペスカーラと相談。裏切りの疑惑があるタツカを怪しんで来た相手は三人なので、皆でベティーを助けてカンパネッラの面子を保ち、適当なところで引き上げるつもりだが、シンは私にも言わせてと怒り、店からバイカとウィリアムが出てきたところでオールバックの男のまえに立ったのはカツミ。彼はとりあえず、ご機嫌はいかがでしょうと声をかけたので、相手も言い返す。
『いいように見えるか?』
『ああっ』
『ふんっ、そうか!素性も隠さずによくこの辺りをうろうろできたなっ』
『それをする必要があるのはお前らだ。オレ達は善良だからなっ。いいかちゃんと布で頭を覆って、鼻の下で結ぶんだぞ』
『アーーハッハッ!面白ぇじゃねーか。さすが死ぬしか芸の無い男だ。気に入った!クギーチに入りなっ。たっぷり可愛がってやるぜ!』
『そうそうあいつらも可哀相になぁ。お前みたいな下っ端にも敬意を払えとか軍曹みたいな事言われるんだろ?オレなら自殺するねぇ』
『ふーんそうか』
『ああ、ちょっと他より怒鳴るのが上手いとかそんなもんでまるで軍の上官気取りだもんな。お前もよくやるぜぇー。鏡にマフィアと書いてあるなら、それは消しなっ。単なるできそこないだぜお前らは!』
そう言って相手を指差すカツミに頼もしさを感じ笑うバイカとウィリアム。シンは金髪の女に礼儀知らずと言って今にも掴みかからんばかりだったので寧ろペスカーラにそれとなく止められているが、ツインテールを相手にするベティーも止まらない。
『お前らこそさっさと帰りな。タツカはもう私達の連れだ。これ以上煩いと大ファミリーでもひっくり返すよっ!』
『そのぼろぼろの体にそんな余裕は無いでしょう?小さな私にも一生懸命だもんねぇ』
そこで相手の肩を押しながら言うシン。
『おい礼儀知らずっ。お前みたいな女がいるから私達にまで薄汚いイメージがつくんだ!女は信用できない女は信用できないって言われるのは、そのせいなんだよ!少しは罪の意識をもってよねぇ!』
『いいや、それはあんたら個性的過ぎる女のせいでしょう。フフッ…!』
『ええっ?分かりやすく非行少女ならいいわけ?』
またそこで一応シモーニからカツミの命令を聞いているバイカとウィリアムは何とか上手く収めようと長髪の男の前に立ち、他を大人しくさせるように頼んだが、そこにも火花が飛ぶ。
『雑魚は黙ってな…!』
『…何?それはオレ達に言ったのか?今すぐ取り消した方が良いっ。天国のご先祖様がそう言ってないか?!まだこっちへ来るのは早いってなっ』
『アーハーハー!分かったきっとこいつ口下手だぜ。上手く話せないもんだから渋くきめてるだけなんだ。そうだろ?そうですって言ってみなぁ。許してやるからっ』
『ああ、うるせぇなぁ雑魚共はー!口が上手い奴は何でもそれで解決するからこんな風になっちまうんだよなー』
『頭が悪いのを誤魔化すんじゃねぇ…!』
『悪いがオレ達は雑魚じゃなく、人類だからなぁ。お前にとっては人と会話する能力があり過ぎたか?』
『数が多いからっていい気になってんじゃねぇよ。この後どうなるか知ってるか?うんっ?どうだぁ?カンパネッラファミリーは無くなってお前らは彼方此方で虐められるのさっ。その時の情けねぇ顔が目に浮かぶぜ…!』
『万一そうなってもオレはごみや蜘蛛の巣の陰からでも、お前を狙いつづける。その時お前は仲間から見捨てられるんだよっ。このバイカ様に刺されたくないからってなぁ!一回刺されたくらいで済むと思うな!くそ野郎の体は尊くなんかねぇ!オレはお前の母親にも悪いのは息子さんの方でしたって、言えるんだぜぇ?!』
それを聞いたウィリアムは画面を前に煙草を吸いながら笑っているが、この瞬間バイカを本物のマフィアではないかと疑った長髪の男はそれ以上口を利けず運営に通報しようか迷い、まずこの程度であれば誰もバイカを本物のマフィアとは思わないのだが、それでもオールバックの男や金髪の女が黙らないので、口喧嘩は白熱。エルネスト達を連れて戻ってきたカメーリャが静かに言ってやっと少し落ち着いたが、そこでクーパー達にはやり合っても数で負けることを理由に今は退くようにと説得するアレッタ。振り向いた彼女はカツミにも後でクーパーの言い分も聞くようにと言ったが直後その背中から聞こえたのは銃声。バァーーン…!アレッタはそのオールバックの男が放ったクレイメッドに振り向き、そのままうつ伏せに倒れる。
『ああくそぉ!アレッタッ』
言いながらすぐ銃を出すカツミ達。クーパーの三人はそれぞれ別方向へ逃走。当然カツミ達も追ったが途中でヤシの木々が邪魔して弾が当たらなくなり、数秒後には諦めてアレッタの持ち物を回収して、邸へと帰ったのである。その帰り道、今一つ冷静になれなかった事を悔いるカツミ。だが、ただ逃げれば仲間やタツカは助けられてもファミリーの威信は傷つき、少々難しい局面ではあった。そしてそれからまた数日後…ロブストをおびき出す策は半ば成就し、カンパネッラ邸の庭にはその北側にバレンティーノ三十九人、南側にクーパー六十四人がならんで睨み合い、まだ14:00を過ぎたばかりだというのに空もいつの間にか灰色の雲に覆われ、辺りは少しずつ薄暗くなっていた。
そこへ最後に登場したのはバレンティーノの中でも大勢の仲間のまえに立つライアン・ロスと、二人のカポ。その前には膝までの高さはある白い長方形の花壇が西から東に四つ。これはキアーロが新設したものだが、そこへ植えられているのは色とりどりのガーベラ。その花のようにバレンティーノのカポもそれぞれ個性的でライアンの左に立つ女は、黒いスラックスにゆったりとした白のブラウスを入れ絹のような金色の髪を伸ばしてソバージュをかけたシーマイン・スミス。背は他の女と同じくそう高くはないが大胆にもガムを噛みながら大きなサングラスをかけ、それはライアンの右に立つ男も同様。サングラスをかけているがそれは角ばって小さく、それがよく似合う面長にみじかく整えた白髪で長身にはこげ茶色のスーツと黒いワイシャツを合わせ、名をサンバール・ブランという彼はその装いどおり落ち着いてライアンやシーマインと雑談しているようだが、その様子を窺うクーパー達は実のところ、戦々恐々。それは彼彼女らの先頭に立つイビリードとあのガレージでの取り立てにも参加していたモヒカン女の台詞からも分かり、周囲でそれを聞くソルジャー達も緊張を隠せない。するとそこでまたイビリードに言うのはモヒカンの女、通称ハウンド。今日もそのくまどりは不気味で、黒革のベストには二丁のピストルを隠しているが、彼女は敗北をこそ恐れている。
『いいや、確かに二人ほど居ない。つまり隠れたんだよ。邸に入ったとか、裏道へ出ていった訳じゃない』
『ハハハッ!心配し過ぎだぜぇ。馬鹿面したバレンティーノ共は気付いてねぇが、実は数じゃあこっちが倍以上いるんだぜっ。おめぇもまず初めにどいつをぶっ殺すのかを考えていればいいのさ』
『でも一応銃の準備はさせるよっ』
聞いて北を睨むと自分も炸裂弾を確認するイビリード。対してブランはそんな敵の思考を無視するかのように話をつづける。
『うちが仲介役を引き受けたのはいい…が、今回のロブストはまた随分と数を集めたようだなぁ』
聞いて言うのは勿論ライアンとシーマインだ。
『ああ、ファンガイがロブストとの電話の最後に、怖いのか?って訊いたからな。だがもしもそれが無かったら、誘いに乗ってないかもな』
『この緊張感たまらないねぇ…!だって偶然を装うだろうけど善良な私達からの要求は悪の組織であるクーパー共が受け入れられるものじゃない。という事は、絶対撃ち合いになるじゃない…!うぅ~!わくわくするねぇー』
『声が大きいなぁ。そりゃあこの庭も1,270かけて広げたらしいから向こうまで聞こえるとは思えないが、慎重に頼むよ。大広間までは届かないだろうが、エントランスには聞こえているかも知れない』
『安心しろっ。シーマインにも大声を出すなと言ってあるからこれも、ただの会話だろう?だからロブストやサンドロは今頃オレ達の要求を聞きながら、少しずつ苛立ってる頃だろうぜ。ヘヘッ!』
『そうそう私は大丈夫よブラン。でも大広間に居るドン・キアーロとその仲間達は心配ね。急いだかも知れないし、安い壁や床を使ってないかしら』
そう三人の言うとおりキアーロはこの庭やエントランスそれに大広間まで内装や家具はそのままに拡大し、それなら大丈夫かと言えば元の強度がそれほど高くもないので、撃ち合いの時には隠れていた柱の耐久力が0となって消えてしまったり、床が抜けてダメージを受けたりする危険があり、他にもロブストが来ると決まってから大急ぎで様々な準備をしたのだが、お陰で大広間の西には南北それぞれの壁際にオリーブが植えられた大鉢が二つずつ。それから更に部屋の奥側には例の蜻蛉柄の絨毯が敷かれその模様を隠すため上に立つのは…リカ、ペスカーラ、ロッコ、シモーニ、パメラ、カメーリャ、キャメロン、シンの八人。中でも既に一度やられているカメーリャ、キャメロン、シンはこれから死んでもクーパーから安泰点を奪われず、失うものも少ないので他をかばう為に前に立ち、その彼彼女らが見詰める部屋の東側には今長い黒木のテーブルの代わりに色は同じでもその半分ほどの大きさしかない別なテーブルが南北に横たわっているので、カンパネッラとクーパーはその白いクロスの上にある銀の燭台を挟んで対峙している。そうそのテーブルの西側に座るのは北からドン・キアーロ、コンシリエーレのリッキー、ダイドブレインズのカツミ、そしてスターソルジャーのレットーラ。一人北に座るアクイラ・バレンティーノを挟んで東側に座るのはその北にドン・ロブスト南にサンドロで、その後ろにもクラゲの他ソルジャー六人が並び…既に十数分。だが要求が真っ当過ぎることと、クレイメッドを警戒したそれぞれが電話や休憩それに相談などを理由に時々席を立ったことで会合はなかなか進まず、ロブストは徐々に苛立ちを募らせていた。
『おいてめぇら!一体、何言ってやがる?』
言ったのはロブスト。キアーロは応えようとしたが、それを手で抑え口をひらいたのはドン・アクイラだ。
『何が?』
『何がだと?さっきから黙って聞いていればてめぇらぁ!万人の前で謝罪?イビリードの始末?タロストンとケラクダインベルダの放棄だと?!全部こっちが絶対に呑めない要求、ばかりだろうが!全員この場で死ぬかぁ?!くそ共め…!』
『だから、さっきも言っただろう。一応こちらの要求はそういったものだが、話し合いの場だ。そちらの言い分も聞く。怒らせたい訳じゃあないさ』
だがサンドロへの内輪話で言うのはクラゲ。
『それが信用できねぇ』
彼は来るまえにも反対し、ここへ来てからも適当に撃ちあって帰るよう助言していたのだが、葉巻をくわえたサンドロは余裕を見せ煙を吐きながら言う。
『フゥーーー。まあ、いいじゃねぇか。おもしれぇ…!お前の言うとおりロブストの挑発が狙いだとしても、それ自体が同じ悪の組織からの理解や、支持に繋がる。銃でも磨いておけ。もしも不利になったらお前から忠告があったと、ロブストに話してやる。心配すんな』
『彼方此方に立たせている奴らも入れると、数じゃあ勝ってる。だが何かあってからグラムデルまで帰るのは面倒だぜ』
またそこで怒鳴るロブスト。
『謝罪なんて、あり得ねぇ!そうお前らは、このガラミールそのものがやり合っていい場所なのに、他を無理やり抑えてきただけだろうが!それこそ横暴なんだよっ!』
『だからそれもまずはファンガイに電話して、確認する決まりなんだ。オレが全権を委ねられている訳じゃあないっ』
『じゃあさっさと電話しろ!謝罪は絶対に無いとなぁ!居ないならこの会合の意味なんてねぇんだよ!』
言いながら人差し指でテーブルを突くロブスト。だがアクイラも強過ぎず弱過ぎず、彼を抑えるように言う。
『ファンガイが居ない時にはカーロ・ミトーと話せるようになってるさっ。少しは不気味に睨みっぱなしの仲間を見習って落ち着いたらどうだ?』
それに効果線まで出して笑うのはカツミ。だが彼も、死んだアレッタの事を思い出したのか、キアーロに言う。
『ハハッ!思わず笑っちまったが、アレッタのことは本当に悪かった。あのくらいは…と思ったんだが』
『まあ、気にするな。話を聞くかぎりお前は悪くない。ほんの少し帰って来るのが遅かっただけさ。それにアレッタにはこの会合が終わってから、レッドサンカポにすると約束してある』
その彼女は今アバードと二人エントランスから大広間の外に立っているクーパー達と睨み合うバイカとアンを見ているが、そのアレッタの周囲に立つのは他チャーチ、ウィリアム、エルネスト、タツカ。彼彼女らの南にも十数人のクーパーが控え、そんな中ウィリアムは一人車庫への扉の前でラジオを聞き、ボクシングの試合結果に絶叫。I don,t get itの文字を示し、カンパネッラだけでなくクーパーまで驚かせる。
『何でそこで打ち合うんだ!お前は足を使うボクサーだろ!!ふざけんじゃねぇ!手数も足りねぇんだよ…!』
そうアバードやチャーチ等はその胆力に呆れているが、聞いて苦笑いしながらも彼を慰めるのはエルネスト。
『そうか。だが元気出せっ。大体、自宅のテレビでそれを見て大勝ちしてる奴だって、金は手に入るが、寂しいもんだぜ…。お前にはこんなに仲間がいるんだっ』
『…ああ。だが敵も多いな』
またそこで言うのは今日も黒いワイシャツとスカートに灰色のコートを合わせ、長い黒髪を結ったタツカ。彼女はファルコのお陰でその悪を憎む心を歓迎され、既にとけ込んでいる。
『でもドンは今日の戦利品をなるべく私達への報酬に回すって言ったらしいね。その分け前に期待しましょう…!別にお金の為じゃあないのに…申し訳ないけど』
聞いて頷くウィリアム達。そこへデルフィーノやギャスマン、それに少し遅れてアロマ、ベティー、ミラーも到着し策は順調に進んでいるかに思われたが、再び怒鳴り声を響かせるロブストとサンドロ。その声の種類は叫びだったようでエントランスどころか、邸の外まで響く。
『じゃあ決裂だ!!まったく、時間の無駄だったぜっ。このオレに…謝れだって?実世界なら殺してるところだ!』
『弱ぇくせに都合がいいんだよお前らはっ!せめて大人しくする代わりに100万Grくれぇは用意してくれねぇとなぁ!うちの狼共が、飢えちまうっ。ハハハッ!』
だがそれに言うのはカツミ。
『じゃあ共食いでもしろよ。たまには不味いもん喰って、吐くのもいいぜ』
それに対し小僧は黙ってろと言って立ちあがるサンドロ。そこでキアーロは、そろそろロブスト達が銃を出すだろうと周りにいる仲間に伝言。聞いたアクイラ、リッキー、レットーラはまたそれぞれ携帯電話を出しライアンやファンガイそれにウォーカー兄弟やアレッタ達にも今の状況を伝えたが、サンドロはロブストやクラゲに抑えられて座り、そんな時部屋に入って来たマイケルもキアーロのすぐ近くまで歩くと、内輪話で言う。
『悪いっ。少し遅れたな。だがドン、本当に大丈夫か…?オレの知り合いの話じゃあ今東部の町の彼方此方には素性を隠したダラーエリアやクギーチの奴らが大勢いるらしいぞ。ミラーが言ったとおりになったぜ。そうそいつらは東部でも北側に集中してるから間違いねぇよ…!』
『ああ、だが心配なのはクーパーも同じ。蜻蛉の絨毯がどの程度効果があるかは分からないがその後の行動では、お前にもグループを率いてもらう。やれるな?』
『それは…光栄だねぇ。だが思った以上の数だ。一歩間違えばオレ達だけじゃなく、EAも危ない。そうなれば善でも悪でもない奴らは東部が荒れたのをオレ達のせいにするかも知れないんだ。大体策の中身は聞いてるが、他のグループは誰に任せるつもりなんだ?』
『リッキー、カツミ、リカ、アン、バイカだ。それにお前とその仲間も入れた六つのグループで、とどめを刺す!それはソルジャーを借りる約束をしたバレンティーノやロビンソンにも知らせてあるから、後はその時を…引き寄せるだけだっ』
『クーパーが要求を突っぱねて、ただ、帰ったらどうする?』
『その時にはリッキーやカツミが銃を出すことになってる』
『なるほど。絨毯を見せるのは敵が銃を出した後ドンが合図してからで、良かったか?』
それに頷きながらもロブストに腕を広げて見せたキアーロはアクイラが電話する度に怒鳴り散らすのを止めるよう言ったが、相手が応じるはずもない。
『黙れ狐野郎っ…!雄叫びが怖くてもその震えは自分でどうにかするんだなー』
『怖いなんて言ってない。お前は煩い蠅のようだと言ってる』
言いながらキアーロが煙草に火をつけると再び立ちあがるサンドロ。だがそれを手で制したアクイラは慌てて言う。
『おい落ち着けっ。ファンガイも今、謝罪は要らないと言ってきた…!だが…メーツベルダやEAの勢力圏での抗争それに商売と取引、これはさすがに認められないし、カンパネッラはニキアスに対して補償金なんて払わないっ。結局今まで通りで大人しくできないならこっちも黙ってはいられないさっ。当たり前じゃないか』
それに素早く立ちあがって言うのはドン・ロブスト。
『じゃあ怯えて暮らすんだなぁ!オレ達を甘く見ると後悔するぜ?』
『いいや、まだ話は終わっていない。互いの為にもっとしっかり話し合うべきだっ』
『いいやお前らが守れるのはせいぜい自分達くらいだ!それを欲張って謝罪だ、抗争や取引の制限だと言いやがるからこうなったのさ!』
『まだほんの20分くらいだろ。落ち着けよ。お前の仲間だっていがみ合いにうんざりしてるはずだぞ』
だがそこで言ったのはサンドロ。
『ハハハッ。別にっ…!』
クラゲも画面を前に口角を上げたが、ロブストが帰ってしまいそうだと読んだリッキーはレットーラに内輪話を仕掛け、それを聞いた彼はこの会合が始まって以来、初めて口をひらく。
『あっあーードン・ロブスト、お前ともあろう者が敵地深くまで来て、手ぶらで帰るのかっ?』
『フンッ!…ああ、そうさせてもらうぜ…!』
そう言ってサンドロやクラゲにも意見を求めるロブスト。実のところクーパーがこの会合に応じたのは最近のEAの勢力圏がどうなっているのかを調べる為でもあったが、ロブストはその偵察も十分と判断。背中を見せ、だがそこでまた声をあげたのは、レットーラだ。
『おいおい本当に手ぶらで帰る気かよっ?じゃあ結局なんにも良いところねぇじゃねーか!ハハハハッ!おい見ろよお前ら、良いとこなしのドンだぜ!これからはそう呼んでやろうぜっ。だったら初めからグラムデルでお山の大将気取ってろよ!仲間もいい迷惑だぜっ!』
『…何ぃ?ハハハッ!よく聞こえなかったなぁ』
そう言って画面を前に目を鋭くするロブスト。彼は銃を準備したが、その代わりに凄むのはサンドロとソルジャー達だ。
『何様のつもりか知らねぇがせいぜい出番を楽しめっ。お前らにとって最後の晴れ舞台だ!』
『小さなところはいつも必死だぜー』
『今じゃなく後で死ねるんだから、感謝しなっ!』
だが背もたれに腕を回したリッキーや腕組みをするカツミそれに後ろに立つリカやキャメロンも、黙ってはいない。
『じゃあやっぱり狼じゃなく、ただの犬だったか。リボンでもつけろよ』
『ああ、腰抜けブルドックに用はねぇなー』
『ぞろぞろ出てきてその辺のガキみたいに怒鳴っただけかよっ』
『こっちの安泰点は後たった6なのに、馬鹿で助かったねー』
強引過ぎる…!アクイラはリッキー達の挑発にそう思ったが彼もキアーロに呼ばれるままテーブルから離れ、リカ達の元へ。と同時にロブストはクラゲに言って仲間をテーブルの前にならべると、ついに発砲。ドドッ、ドドドドドドッ!
『上等だてめぇら!後悔させてやるぜぇっ!!』
それを合図とばかりにサンドロ達やリッキー達も次々と発砲。バンッ、ボンボーーンッ、ズドーーンッ!!カツミとレットーラはオリーブの鉢に隠れサンドロのスナイパーライフルをけん制しながらロブストを狙い、リッキーは一人ロブストが撃つ直前自分の座っていた椅子を引きずって絨毯の前までくるとその陰から迎撃。そのやや後ろではキアーロとアクイラもフランクやマルメに守られ、カメーリャとキャメロンそれにシンと共に撃っていたが、そんな時しゃがみ撃ちしながら叫んだのは、ペスカーラ。彼は十分な距離をとっているとはいえ丈夫で大きなテーブルの陰から撃つクーパーの有利を知っているので、やや慌てて言う。
『おいドン!もういいのか?!どうだっ?!銃撃戦になったぞ!』
聞いて撃ちながら叫ぶキアーロ。
『ああ、いいぞ!今だっ!』
そう絨毯を見せるなら銃撃戦が始まった今の方がロブストも、退くか攻めるか、どうやって退くかと迷いあるいは焦るはずなので計画通り一斉に退き、それでもまた撃ち続けるペスカーラ達。バンバーン、ボボーーンッ!そこでロブストの前に現れたのは黒く大きな蜻蛉の模様。それは真っ赤な絨毯の上で北を向き、羽の部分には一時でも忘れたい実父からのメッセージがあり、突然のことによく状況がのみ込めないロブストは小さく動揺。彼は蜻蛉への嫌悪感に堪えながらそのメッセージを繰り返し読むばかりで銃を撃つこともやめ、対してキアーロ達も皆散々に言っておきながら今は祈るようにその様子を見詰める。そこでロブストに訊くサンドロ。
『おい、どうしたロブストッ?まさかニカル達が苦戦してるって報せでもあったのか?!そんな訳ねぇよなっ。ハハハハッ!』
『あ…ああ、何でもねぇっ。そうだお前、キアーロを殺せ!奴を殺せば4点だ!速くいけ!!』
『え…でもっ』
そう口ごもるクーパーのソルジャー。突然キアーロを殺せと言われても位置を見ればまずカツミやレットーラそれにリッキー等を殺すのが自然なので彼はしばらく抵抗したが、いつもとは少々違う狂気を帯びたロブストに銃床で殴られ、渋々前進。サンドロやクラゲも末端の一人がされている事なのでロブストがいつもの癇癪を起していると大して気にはしなかったが、やはりそのソルジャーはリッキーのリボルバーに倒れ、あろう事かその愚行は、また繰り返されてしまいそうだ。そうというのもロブストがまた別なソルジャーに前進を命じたからだが、それに叫ぶのはサンドロとクラゲ。
『おいどうしたロブスト!焦り過ぎだ!!まず手下を出せよっ!』
『興奮するのは分かるが、賢くいこうぜっ!サンドロもそうだ!目立つからスナイパーライフルは別な奴に任せようぜ!』
だがその声が届かないロブスト。彼の思考は今徐々に恐怖に苛まれ、混乱し、戦略的な部分がまるで働いていない。
『ドンッ!ドン・ロブスト!』
そう叫んだのはリッキーの狙い撃ちがきつく、反撃できないソルジャー。だがカンパネッラも手を休めず、ロブストは久しぶりに、自問自答しているようだ。奴らはどうやってこの事を知った?それでどうするつもりだ?仲間に言うつもりなのか?まさか、あの親父が…あの親父がこのマフィアズライフでの稼ぎを知って、怒ってんのか?家に金を入れてるんだから何で稼ごうとオレの勝手だろ!くそぉ!
『くそぉ!!一体どうなってやがる…!お前らも何ぐずぐずしてんだ!あいつはあんなに前にいて、誰も殺せねぇのかよ!!キアーロを撃たせろ!!』
『ああ、分かったが、どいつの事を言ってる?!皆横一列だぜ?!』
そうサンドロに言われやっと我に返るロブスト。何と彼が仲間だと思い込んだのはリッキーだったが誤魔化そうにも上手い言葉が出てこず、それを拭いさる為今度は一番北で撃つソルジャーと場所を代わり自らカツミを狙ったが、距離があるので中々弾は当たらず、やっと命中しても掠るのみ。
『ああ、くそくそくそぉ!!』
そう叫びながらテーブルに足をのせて撃つロブストを宥め下におろすクラゲ。それを見たレットーラはキアーロに、また別な許可を求める。
『アーハッハッハッハッ!あれ見ろよキアーロー。そろそろいいんじゃねぇかっ?オレも大分ダメージがきつくなってきたぜ!』
『よしお前ら、まずはオレから行くぞっ!』
叫ぶように言うと天井に威嚇射撃するキアーロ。それからは彼を初めとして、カツミ、レットーラ、キャメロンなどが、次々とロブストに罵声を浴びせる。
『おいロブストッ!家では親父、外では虫じゃあ大変だな!蜻蛉なんてどこにでもいるのにそれが怖いんだもんなぁー!』
『ああ、いかれ親父に育てられたのは哀れだが、その痛みを自分より弱い奴にぶつけるんじゃあ、ハイスクールレベルだぜぇ!!』
『大人になれよロブストー!小さな虫ちゃんが怖いならワルをやめるしかねぇなぁー!』
『近所にぺこぺこ!息子には絶対の父なんて、恥ずかしいよね!親子で教会に行って懺悔しなさいよー!』
だがサンドロはロブストの悩みなど知らず、ご苦労なことだと一蹴。クラゲやクーパーのソルジャー達もロブストの苦手を意外に思ったくらいで首を振って撃ち合いに専念したが、ロブスト本人はといえばそうはいかない。
『うるせぇ…!うるせぇんだよてめぇらー!!この弱小ファミリーがぁ!!おいお前、外の奴らも呼んでこい!こうなりゃあ皆殺しだ!』
『わ、分かったよ!そう急かすなってっ』
だがそのソルジャーが外で見たものは扉の前で全滅する味方。またすぐ自分にはバイカやアンの弾が飛んできたので大広間へ戻ると今度は、激しい銃声とロブストの怒声が響く。パパンッパンッ、ダァーーン!!バンッ、バンバンッ!!
『おい、何してんだぁ!速くあいつらを呼んで来い!!』
『それよりここは逃げた方がいい!エントランスにいる仲間もやられるかも知れない!そうなったら』
だが怒るロブストを尻目にそのソルジャーを呼んだサンドロは、黙って撃てと一言。そこで今迄は後ろから撃っていたロッコがチャンスと見てカツミやリッキーのそばまで前進。
『よし!そろそろ手柄を立てるぜっ』
だが彼はサンドロの手にかかる。ダァーーン!!
『うっ!』
その一撃に倒れ動かなくなるロッコと、彼の所持品を回収しようと走るパメラ。
『いいや危ない!回収は後にしろ!』
そのキアーロの声も虚しくパメラはクラゲに撃たれふらふらと戻り、更にその背中を撃たれ死亡。当然他は彼女を援護していたが、サンドロとクラゲは銃口をあげて笑う。
『アーハハハハッ!おい見たかロブストッ?二匹も仕留めたぜぇ!』
『ほらどんどん出てこいよ!その鉢も限界なんじゃねぇかー?!』
そう鉢だろうとテーブルだろうと耐久力が0になれば消えて無くなるのだが、クラゲに言い返しながらあえてテーブルに連射するカツミ。ボーン、ボンボンッ、ボーーンッ!!
『残念ながらこの鉢は、鉄製だっ!大ファミリーがたった2点に狂喜してんじゃねぇよ!』
『アハハハハ!負け惜しみだぜっ。楽しいじゃねぇか!』
その上機嫌のサンドロに悔しくなるキアーロ。
『くそ…!やはりこれ以上は…』
だがいつの間にかそのすぐ後ろに居たマイケルは東部各地で起こる銃撃戦について報告。それによると予定通り決裂の報せがあった直後ゲデルからスタラドを通って邸へと向かっていたロビンソン、ウォーカー、コーダ、ベルウッドの総勢311人は途中バイオレイトの率いる約600人と遭遇。これと交戦中であり、たまたまダチカールの酒場で決裂を知ったルッソも、直前まで素性を隠し潜んでいた倍近い敵から襲撃を受け苦戦。ストラーノの目撃情報があっても彼彼女らは応援が来てから押し返しつつあるらしいが、メレデニから助けにくると噂だったスピアバレイさえ、ほぼ同数の300近いボーン達に道を阻まれここへ辿り着くのは難しいらしく、どうやらこの一部には予定通りだった大抗争は少しずつ互いの戦力を削りながらも膠着。だがそれを聞いたキアーロはむしろ、明るい声をあげる。
『ああ、皆必死だ…!ハハハッ!それなのにオレ達が諦めてどうする!よしマイケル、屈強さに自信は?』
『あるっ』
『じゃあカツミと代わってくれ!勿論鉢が消えて無くなりそうだったら奴と一緒に後ろへ行ってくれればいいっ』
『分かった!』
『そしてレットーラはシモーニと代わって後ろへ行け!ペスカーラとリカは無理せずそのままの位置でスナイパーライフルをけん制して、他はロブストに攻撃を集中させるんだっ。もう一度奴の心を攻めるぞ?!』
聞いてその頼もしさに画面の前で微笑するアクイラ。彼は直後、対車両炸裂弾をクーパー達へ投げ一つはクラゲに解除されてしまったが、もう一発はロブストが解除に失敗し、炸裂。ギーーン、バチッ、バチバチッ!
『うわぁ!オ、オレの2万がっ!!』
『おい誰か解除しろよ!泣きたい気分だぜぇ!』
それを指差して笑うアクイラをむしろ指差しながら微笑みを返すキアーロ。ロブストは密かに不甲斐ない自分に憤ったが、そこでサンドロはキアーロの命令に反し少しずつ前へ出ていた、フランクに一撃。ダァーーーンッ!
『ぐぅっ…!』
それを受けたフランクは撃つことも逃げることもできず、最後にサンドロに銃を向けたが、すぐ別な敵からの弾を受け絶命。叫ぶキアーロだが、リッキーにすぐ病院へ連れて行けばいいと言われ、何とか落ち着きをとり戻した。そうそのライフルによる射撃は実のところ今迄紹介したピストルやリボルバーの両手持ち、マシンガンの広範囲射撃と同じく、その武器固有のもの。気力75を消費した一撃でそれには強い衝撃で数秒敵の動きを封じる効果があり、威力も若干だが最大値に近づくというものだが、撃ち合いを得意とする者が少なくしかも新参の多いカンパネッラはまだ上手く使えなくて当然。その特殊な撃ち方を成功させたサンドロはロブストを勇気付けたくもあり、叫ぶように言う。
『勝てる!勝てるぜロブストー!逃げる必要なんてねぇ!そのうち仲間が来たらこいつらは終わりだ!!ハハハハッ!』
『ああ、どんどん殺すぞ!このテーブル意外と頑丈だなっ。助かってるぜ~』
だがそのクラゲさえも無視してロブストへ叫び続けるキアーロ、カツミ、キャメロン。
『おいロブストッ!この父より愛を込めてってどういう意味だと思うー?考えた方が良いなぁー!』
『おいクーパー共っ、ドンになりたいなら、虫を集めろ!泣きながらその座を譲ってくれるだろうぜぇ!』
『親と虫が怖いってあんた子供?!格好悪いわねぇ!自立しなさいよー!』
『くそ共が…!』
そうロブストにとっては色々と腹立たしく恐ろしいが、彼が最も気になったのは実のところキアーロの一言。つまり世間体を気にする名家出の親がマフィアズライフとそのプレイについて怒っているかも知れないという事だが、それが気になって仕方ないロブストは、サンドロやクラゲに言う。
『それにしても…随分粘りやがるなぁ。もういい帰るぞっ。こんな奴ら、いつでも潰せるぜ…!』
『おい嘘だろ!後たった4点だぜ?』
『そうさっ。ニカル達も一部をこっちへ回したらしいから、すぐ応援が来る。ここはやり合うべきだぜっ』
だがロブストは首を振ると、ただ護衛しろと一言。それでもサンドロとクラゲは何としても踏み止まるべきと主張したが、不調を感じ失敗を連発する彼の考えは変わらず、しばらくしてクーパー達は次々背をむけ逃走。後ろに敵を見たバイカ達はすぐに気づいて罵りながら撃ち、裏口から出た先の庭でもバレンティーノのソルジャー達がロブスト達を攻撃したが、逃げると決めたその一団が庭から出るのは早く、それはそのまま東へ。リッキーやリカそれにバイカはその背中に銃弾を浴びせたがそこに現れたのがクラゲの配下。灰色のハンチング帽に白いTシャツあるいは黒いTシャツにジーンズ等で装いさっきまで路地の西で立ち話をしていた彼ら三人はリッキー達に次々とライフルを撃ち、それに振り向いて怒鳴るリカ。
『てめぇらもクーパーか?!だったらこいつをお見舞いしてやるぜ!!』
ババンッ、バーン、バーン!だがその時ライフルの一発がリカに命中したので、リッキー達はその場での迎撃をバレンティーノに任せすぐ邸へ。
『く、くそ!あのガキ共めっ!』
そのリカを宥めたリッキー達がエントランスを見るとそこに生きた者は無く、そのまま大広間へ行くとそこではテーブルの奥に立ったキアーロとカツミが目の前にレットーラ達をならべ、例の策についての説明を始めている。
『じゃあカツミの安泰点を守る為に代わりはギャスマンに任せる!』
『リッキーとリカはどこだ?あいつらにも説明しないとっ』
『それならお前の後ろにいるっ。こっちだリッキー、リカッ』
『おおっ、今アロマが庭にいるクーパー共にもうロブストは居ないと教えに行ったところだっ。チャンスだぜぇ!』
するとそこへ飛び込んできたのはそのアロマ。
『やったわ!クーパーが逃げて行く…!もう邸にクーパー共はいないのよっ』
それが小気味よく、手のひらを合わせるキアーロ。
『良しっ!じゃあ突然で悪いがリッキーとリカの二人には、待機してもらう。予定とは違うがなっ』
聞いて内心ほっとするリッキー。実のところ彼は疲れを感じそれを言おうか言うまいか迷い、深手を負ったリカも覚悟していてその決定に異存は無かったが、分からないのはアン、バイカ、マイケルまで策から除外された事であり、まず質問したのはそのバイカだ。
『おい任せてくれよ!一体何が気に入らないっ?そりゃあ確かに…ウィリアムもやられたがっ』
『ええっ?!ウィリアムやられちゃったの?!』
叫んだのはキャメロン。そうウィリアムはエントランスでの銃撃戦で車庫にいた敵とも棚から顔を出して撃ち合いその無理が祟って死亡しており、ただでさえ危ういカンパネッラの安泰点は3。それを憂慮したデルフィーノの言うもっと手堅い考えを容れ、既に死んでいるアロマ、ギャスマン、キャメロン、シン、チャーチを使おうと言うのだが、最近顔を出せなかったアンは詳しい事情が分からず、なお食い下がる。
『でも一体何をするかでしょう?!だから一刻の猶予も無いのは分かるけど、それ次第では私も参加したい!私なら死なないよ!絶対生きて戻る!さあ、早く誰が行くか決めようっ。チャンスが消えてしまうじゃない!』
だが首を振るキアーロ。よく事情を知らない他も彼に聞けばその策とは、それぞれグループに分かれ車三台に乗り込んだカンパネッラの一人とバレンティーノ十数人が、彼方此方から集められた情報を頼りにクーパーのカポを襲撃するというものなのだが、好材料として、あと一歩で逃げたロブストへの不信や逃走時の混乱などがあり、早速カツミの命令を受けたアロマ達は庭にいるアクイラの元へ。だがキアーロが続けるにはそこでの戦法も重要だという。
『いいか、まず十人ほどが乗り込んだ二台は、カポから少し離れたところに停車して様子を見る。その後アロマ達の乗り込んだもう一台が反対方向の遠くから仕掛けて、機を見て挟撃するんだっ。当然仲間の数が少ない敵を狙う!無理をするなとも言ってあるし、安心しろっ』
そこでキアーロを指差しながら言うアン。
『なるほど、じゃあクーパー共は驚くよね…!突然の襲撃に頭が追いつかなくて、カンパネッラがバレンティーノを巻き込んで破れかぶれの反撃に出たようにしか、思わないかも知れないっ』
『ああ、上手くいけばそうなるっ。敵は少数で面子の為だけに攻撃を仕掛けて来たかと思うかもしれないし、期待しよう…!』
そこで、ざっと降りかかる窓の雨に不安を感じるアバード。彼は先程から携帯電話を片手に情報を集めていた、ミラーとマイケルに訊ねる。
『さあ、どんなもんだろうなぁ。そう簡単にカポ達が見つかるとも思えないが、逆に皆が皆、警戒しているとも思えない。今までのEAは善良さを意識して好戦的にはなれなかったし、オレ達は追い詰められているからなぁ』
『ああ、だがみんな期待していいっ。クーパーの一部はロブストが怖くて逃げたと思っているらしくて、カポ同士でこそこそと内密の話をしている奴までいるようだ。この機会を活かせればっ…!』
『残念ながらこっちのは悲報だ。クーパーを深追いしたサンバール・ブランが死んだらしい。でも仕方ねぇよな。オレだってチャンスと思えば行くぜ』
言いながら煙草をだすマイケル。それから十数分後、そのチャンスに賭けたアロマは、短い黒髪に白いスーツを着た男と固太りした体に赤い長袖のTシャツを着たスキンヘッドの男と共に、ある倉庫のそばにいた。そのロットミルでもダイオン側にある赤茶色の倉庫の西は糸杉の林となり、そこから更に西は雑貨屋の駐車場となって北にはその白い店舗があり、その更に先の南西にあるワインレッドの酒場の手前で二人のソルジャーと立ち話する相手こそ、あのハウンド。北で頷くソルジャーはいずれも黒いスーツを着て左には緑色の長髪にカチューシャを付けた女が、右には坊主頭の男がいてカポのハウンドが指をさすとやはり彼彼女らもすぐに、銃を出す。
『おいお前ら、何してやがる?あ……てめぇ確か、カンパネッラだなっ』
言うと手下を出すハウンド。そのブラウンの髪をオールバックにして太った体に紫のスーツを着た男はリボルバーを構え、何か口汚く罵ったが、遠く二十マス以上も離れた木々の後ろにいるアロマ達も冷静。それはつまり計画通りの状況を作り出したからだ。
『そうよ。善良なファミリーから手をさしのべたのに、銃を撃って逃げるなんて最低ねっ。その憂さを晴らしにきたわ』
『何ぃー?!あれはEAの挑発だぜ?そんな事も分からねぇのかよ!ハハハハッ』
そう残念ながら分かった上でマシンガンを撃つアロマ。ドドドドドドッ!ハウンド達も皆一斉に反撃し、アロマの味方である黒髪の男はピストルを、スキンヘッドの男はショットガンを撃ち、だが遠い事もあって互いの弾は中々当たらず当たっても掠る状況がつづき、それに苛立ちを覚えたハウンドは手下を脇に退けながら叫ぶ。
『くそ、あいつらっ!一体何がしたいんだ?!これじゃあ私達の仲間が来るのも時間の問題だよなぁ?』
だがそうソルジャー達に言ってすぐ、来るのは相手の仲間だと気付くハウンド。
『あっ…!』
彼女は早速二人のソルジャーをやや北へ、手下を南に立たせると周囲を警戒するように言い、何と自分では二丁のリボルバーを手にアロマ達へ発砲。そして直進。バーン、バンバンバーンッ!
『なめた真似してんじゃねぇ雑魚が!!他に仲間がいるのが見え見えなんだよ!これでも喰らいやがれっ!!』
『う…うう、くそぉ!』
その予期せぬ攻勢に深手を負いすぐ車へと逃げる短い黒髪の男。だがそうこうしている間にクーパーのソルジャー達は西から来て急停止した車からの銃撃に倒れ、南の手下も四人のバレンティーノに囲まれ、一斉に殴られ、蹴られ、ハウンドはそれを予想したからこそせめて何人かを道連れにとアロマ達へと向かったのだが、短い黒髪の男を退け気をよくした彼女はスキンヘッドの男が上手く木に隠れながら撃つので今度は、アロマを狙う。バンバーンッ!
『一発だ!一発だぜぇ?!てめぇが顔を出した瞬間私の弾はそれを撃ちぬくんだよぉ!!』
『そんなに自信があるなら無駄口は叩かない事ね!』
そしてそんなアロマに対し、そろそろいいぞとハウンドを指さすスキンヘッドの男。つまり流血や服の乱れと汚れ等からハウンドの残り体力が少ないと教えたのだが、アロマとしてはもしも自分が死にカンパネッラがとどめを刺せなければ策は失敗となるので、できればもっと手堅く勝利したい。
『ハハハッ!どうしたどうしたー!?思ったより苦戦してるんじゃねぇかー?!』
『今その熱烈な歓迎にお礼を用意していたところよ!』
そう言って火炎瓶を投げつけるアロマ。当然それは狂喜するハウンドに解除されてしまったが、それを見て駆けつけるバレンティーノの七人。実はその火炎瓶を合図にすると示し合わせていた彼彼女らはハウンドを囲むと四方八方からその足元に威嚇射撃し、それに思わず反撃するハウンド。アロマはその隙に木陰から出てハウンドに急接近し、やっととどめを刺す事ができたのである。ドド、ドドドッ!
『ぐぅ!…ううっ』
そう声を漏らすと銃を捨て、アロマに縋りつくように倒れるハウンド。勝ったはずのアロマは執念にやや寒気を覚えたが、それから数分後のアロビオにあるホテルでも実は逃げ回ったギャスマンが最後の一撃をバレンティーノから譲りうけ、見事ここでも11の安泰点を奪取。大きくクーパーを押し返していたのである。よってクーパーファミリーの安泰点、残り15。カンパネッラの安泰点は僅か3とはいえ、既にロブストはおらず、代わりに報せを聞いたサンドロ、ニキアス、クラゲ等がしばらく言葉を失ったのも当然だった。
『珍しく早いな』
そう言って西にある扉から歩いて来たのはニカル・パワー。そしてそれを迎えたのは、手すりに片腕を乗せながら黒い石ばかりの上を北から南へと流れる川を見たロブストだった。ここはグラムデルにあるクーパー邸の屋上。北には焦げ茶色の住宅街の西側に酒場があってその前にも十数人のクーパーが屯し、ある男は話しながら仲間の頭を叩き、ある女は通りを歩く猫を面白半分に撃ち、そんな彼彼女らにとっては日常の殺伐とした雰囲気の中、2Ⅾ画面という事もあり振り向く必要もないロブストは手にしたナイフを拭いた布を川へと投げ、それが流れてゆくのを見ながら一言。
『たまにはいいと思ってな』
その行為をニカルが、ロブストの戦意が衰えていると見たので、話は早かった。
『だがそれよりあの銃撃戦では、何故退いた…?!妹達も心配してるぜ。今日辺り適当な奴を締め上げないとなめられるんじゃあ…ねぇかってな』
『だがまだおとといの事だぜ。悪いとは思うが面倒になってなぁ』
『まあ、それはあるだろうが、あと一歩というところで切り上げてその後襲撃されてたんじゃあ、格好がつかねぇ…!散々悪さした仲だがお前はドンで、友人だ。悩みがあるなら言ってみろよ』
『ハハッ、そんなもの無いさ。心配し過ぎだなぁ。そう誰かを殺して満足するなら早速街へ行くぞ。生意気な奴がいる』
言いながら扉へと向かうロブスト。よってニカルは深い事情があると自分を納得させ、そこでは詳しく聞かない事にした。一方その日のカンパネッラは料理店ボスコに集まり、会合を開いていた。今日も店は大賑わい。正面から入って奥にあるのは二階席へと続く螺旋階段。そのすぐ右手は東西に延びる長いカウンター席で先の切れ目には北の壁に従業員用の出入口があるだけで、広い一階は全てやや黒ずんで味わい深い丸い天板のテーブルで埋め尽くされ、それは階段を上がっても同様。沢山の椅子やテーブルはあるが、北西でも西側の壁にはダーツの的があり、反対の北東に置かれているのはたった一つのジュークボックス。ファルコ、カメーリャ、ペスカーラはその前で踊り、エルネストとマイケルは南にあるバルコニーにいて外を眺め、他は中央にある幾つかのテーブルに陣取って手に入りそうな縄張りや他のファミリーについて話している最中。だがそこで叫ぶように言うのは一昨日惜しくもカポに逃げられたキャメロンで、クーパーはそれがきっかけで強く警戒し、シンのグループは襲撃を断念。キャメロンはその言い訳をしているのだが、それにも穏やかに答えるのは皆の中心にいて背中を見せたキアーロ。抗争に一応の区切りがついたのでそんな二人を他も微笑ましく見ていたところだ。
『だってあれはバレンティーノのソルジャーが悪いじゃない。クーパーの持っているのが粗末な銃だって言うんだもんっ。楽勝じゃない!』
『ハハハハッ!面白い話だが友よ、その相手はお前を勇気づける為に言っただけで、たとえクーパーのカポが持っているのが粗末な銃でも、油断はできない。だから次は頼むぞ』
『そういう情報かと思ったんだってっ』
『一応分かるが、次も何かあればお前に任せるかも知れないという事だ。そのチャンスを活かせ…!』
聞いて腕を広げ自分にもチャンスが欲しいと言うのはアン。キアーロは勿論と言って頷いたが、そこでギャスマンは自分やファミリーの仲間の為と前置きし、やや慎重な意見を口にする。
『まあ、キャメロンは残念だったが、オレ達はよくやったよ。こんな小さなファミリーで…。オレなんて皆がいたから頑張れたようなもので、これ以上クーパーとやり合えば、馬鹿と言われるかも知れない。だから…何とか休戦できないものかなぁ』
だがそれにゆっくりと首を振るのはベティーで、発言するのはアレッタ。
『そんな…信じられないっ。どうしたのギャスマン?』
『いいや、だから…別にやり合ってもいいが一つの意見として』
それに賛成するのはロッコとパメラ。二人はアレッタをあえてカポと呼び、それでも率直に言う。
『一応選択肢としては必要だ。憶えておこう。大切なのはファミリーだ。だろう?』
『うん、だってあいつら色々邪魔になるじゃない。もっとみんなで遠出したいんだけど、間違ってるかなぁ』
『勿論それはいいけど、たとえこちらから仕掛けなくても戦う意思くらいは見せておかないとっ。そうでしょうドン?』
『ああ、まったくだ。ギャスマン達の言葉は憶えておくが、今のところ決着がついたとは思っていない』
だがそこで席に戻ったファルコは、ギャスマンの慎重さを支持。彼にはロッコも改めて同調し、二人は他がそれぞれあり得ないという意味の言葉を発するのを、抑えながら言う。
『オレは皆で稼げれば、それが一番いいと思っているからな。普通はここまで出来ない。ファンガイに頼んで、奴らと話をつけてもらおうぜ』
『今はクーパー共も警戒してカポは十人以上も仲間を連れてるんだっ。いいところでやめた方がいいんじゃねぇか?』
またそこでチャーチも仲間が死ぬのは見たくないと言ったが、そんな彼彼女らを励ますのはリッキーとアレッタ、それにリード。三人はキアーロの言った無責任ではないかという言葉に頷いて言う。
『いいか兄弟達っ、ここが踏ん張りどころだ…!奴らがガラミールから出てゆくか、改心するまで、諦める訳にはいかねぇ』
『そうよっ。ロブストやサンドロ、それにニキアス達の振舞いを思い出してっ。酷い事ばっかりしてきたのにここで私達が戦いをやめたら、EA以外の人達だって失望するよっ』
『ああ、アレッタの言うとおりだ。奴らが頭を下げてもう悪い事はしませんって誓うまで、徹底してやるぞ!』
言いながらテーブルを人差し指で突くリードに、もしもまた近い内にやり合うとすればその時も主導権を握りたいと言うのはアン。そこでカメーリャと共に席へ戻ったペスカーラは、笑いながら言う。
『いいねぇ。あんな悪党共とは、やり合うべきだ。だがその為には慎重さも必要だ。オレはあのロブストを呼んだ会合の後スワイデルで開かれた友人のパーティーで、殺されそうになったからなぁ』
聞いて吐き捨てるように言うリード。
『くそクーパー共め!だがよく助かったな』
『相手は六人だったが、友人が大勢いたからな』
そこで注意を促すのはバイカでその話に興味を持ったのはシン。
『実はオレもあの後、ゲームは久しぶりで30分程も北の浜辺で色々操作の確認をしてたんだが、その時怪しい四人組に声をかけられたぜ。丁度バレンティーノが通りかかったから良かったが、きっとあれもクーパーだっ』
『じゃあよく狙われるの?』
そう彼女は一度殺されしかもカポを殺せなかった事が悔しいようでバイカと居ればクーパーと戦えると思ったようだが、ウィリアムは止める。
『止めといた方がいいんじゃねぇか』
『どうしてよ。ちゃんと策を練ってバイカを餌におびき出すんだから』
『ハハハッ!それならいい』
『良くねぇよ』
そう言って笑うバイカ。だがその時少し前バルコニーに行ったはずのシモーニは突然階段へと走り、降りるでなくその前で動かなくなったかと思えば、振り向いて言う。
『おい大変だっ。みんな銃を用意した方がいい…!』
その言葉に立ちあがるリッキーやバイカそれにファルコやアン。カツミは偶然いないが、バルコニーから戻ったエルネストとマイケルも、驚くべき事実を告げる。
『やべぇ、ロブスト達がきた!』
『サンドロやクラゲ、それにボーンなんていう小物も一緒だっ。バレンティーノやルッソの奴らもいるが、一体どうしたってんだ?』
そう聞いてもキアーロは自分が動揺を見せる訳にはいかないので、ただ落ち着くように言い、実は両手をクリップフォーンの空中ディスプレイの前で浮かせ、構えているのはシモーニ。だが階段をのぼって来たロブスト達七人は丁度彼の前で止まり、それを追ってきたバレンティーノ、ルッソ、ウォーカー等のソルジャーも黙って彼彼女らを囲んだので、その隙にリッキーは声をあげる。
『気を付けろシモーニ…!油断するなよっ』
『ああ、任せろ』
そしてついに言葉を発するロブスト。だがその手はナイフを出さず、代わりに帽子をつかんでいた。
『別にやり合いにきた訳じゃあねぇ。この人数じゃあ馬鹿みたいだろ』
だがそれに言い返すキアーロ。
『だがこっちの安泰点は、後3だ。要件があるなら、早く言ってくれ』
『そうだなじゃあ簡単に言うが、しばらくお前らやEAそれにスピアバレイとは…やり合いたくねぇんだ。和解してくれねぇかなぁ…』
『おおっ!』
と思わず口にしたのはギャスマン、リード、ロッコ。他ロブスト達を囲んだバレンティーノ等もどうやらメーツベルダに来た訳を訊きながら警戒の為に付いてきたようで驚きの声をあげているが、キアーロは冷静だ。
『それは随分と勝手だな。それにしばらくとは、どのくらいだ』
『そうだなぁ…じゃあ一年だ。一年間お前らとはやり合わない。これでどうだ?その証しに特権の返上和解を使おうぜ』
『いいや、だったらとりあえず一年間は、罪無き者達に手をだすなっ。そのくらいでなければ、休戦や和解は難しい』
『…まあ、言っちまえばお前達は、罪無き者達かぁ。返上和解はこっちで用意する。確かに伝えたぜっ』
そう言い残すとすぐ階段を下りてゆくロブスト。サンドロ達はその後を追い、リッキー達は様々に意外で口籠ってしまったが、ロブストを追ったキアーロは階段の半ばから、声をかける。
『違う罪無き者達とは、言葉どおりだっ!EAやオレ達だけではなく、他のファミリーや町で商売をするだけの奴らも含めて、罪無き者全員とやり合わないようにしろ!』
だが立ち止まったものの振り向きもしないロブストに、続けるキアーロ。
『じゃあなるべく…罪無き者達とはやり合わないようにしろ!一年間っ。それでいいならオレからファンガイ達に話すっ』
それにやっと振り向くロブスト。
『お前らだけじゃあなく、エルダースやフォンターナともやり合わないようにするさっ。善良な者達ともなぁ』
『何かあって相手が正しかったら、オレ達はすぐに出てゆくからなっ』
『我慢するさ。だが、降りかかる火の粉は払うぜ。その罪無き者達にも、よく言っておけよ』
そうロブストが言うとすぐ店をでて車を出し、南へと走り去るクーパー達。キアーロはやっと階段を上がってテーブルに戻ったがそこで待ち受けていたのは歓声を上げる仲間達と、リキュールの瓶を傾けるリッキー。彼は天井を見ながら叫ぶ。
『やったぜ!ざまぁ見やがれぇー!アーハハハッ!』
驚いたキアーロはアレッタに内輪話を仕掛け正義の戦いなのだから当然の結果だと伝えたが、立ちあがった彼女も彼の肩を両手でつかみ揺さぶると、今日は飲もうと言い、踊るファルコやエルネストの元へ。アン、バイカ、ベティー、ウィリアムは少しでも遠ざかるクーパー達を見ようと既にバルコニーに出ていたようで、EAのソルジャー達もロブストが大人しくすると誓った事を泣きを入れたのも同じとしてカンパネッラとEAの勝利を叫び、そんな彼彼女らは揃ってキアーロ達に祝いの言葉を述べるとすぐ、街へ出てゆく。
『最高だぜカンパネッラー!イースタンアライアンスも最高だー!』
『すぐ他の奴らにも知らせるぞっ!』
『ついに東部の巨悪が膝を突いたぜぇ!フゥ~!』
そんなボスコや店先ではクラッカーが弾け、祝砲が鳴り、笑い声が響きわたり、その歓喜の渦に微笑するキアーロ。その心残りといえばここにカツミ達がいない事だけだったが、込み上げる喜びに笑いの止まらないリッキーやロッコそしてパメラの言う蜻蛉が効いたのだろうという見方は、少し違っている。何故ならロブストが和解を決めたのはあと一人でもカポを殺され、他数人がやられただけで壊滅してしまうからであり、あくまで蜻蛉恐怖症はあの会合に呼び出された日の敗因。そうこれから彼自身が銃を手にする必要はなく、たとえば全配下に厳命して徹底的に組織を守り、後はストラーノやクラゲ以外にも大勢いる殺し屋達を使えば良かったのだが、そのやり方さえ完璧ではなく、カンパネッラファミリーの見せた予想外の知勇に様々な不安を覚え慎重になったというのが現実だ。
ただそれはそうと、多くの仲間とは反対にサンドロやイビリード等と共に最後まで抗争を続けるべきと主張したクラゲは、それからほんの小一時間後、今日の敗北を苦々しく思いながら…小雨の降る空を見あげていた。場所はカリオメロの中心街から少し南へ行ったところにある真っ青な壁が印象的な劇場。怒りのままに車を走らせグラムデルから対岸のこの町まできたクラゲは大通りから南の路地へ入ってしばらく、その突き当りを西へ歩き、北にある劇場の駐車場前の道で横顔を見せながら、つぶやいていた。
『くそっ…!そりゃあ今迄にも何度か不満に思うことはあったが、こんなに頭にきたのは、初めてだぜっ!』
その後また歩きだしたクラゲ。だが目の前に懐かしい顔を見つけ、再び立ちどまる。そう黒く大きさも不揃いの石畳の先にいたのはナイト・ミラー。丁度駐車場が切れた辺りに立っていたのでまさかとは思ったがミラーは特技によって道を塞いでいたのだ。
『勘違いかも知れねぇが、オレに用か?』
『そうだ。心配しなくてもお前から目が離せない奴は大勢いる』
『アー、ハー、ハーー!』
『だがだからこそ今日を境に、心を改めるんだ。別にどこでもいいから善良なファミリーに、入るんだな。そうゲームの世界でもあるから、誰もがお前を赦すだろう』
実はミラーにとってクラゲは、来島初日に話した中の一人。その頃のクラゲはまだ悪人ではなくガラミールの雰囲気と戦いが自分に合っているからと腕自慢する場所を探していただけだったのでミラーはこれをいい機会と思ったようだが、その人らしい言葉には質問が返ってくる。
『銃がいいかっ?それとも、ナイフがいいか…?』
『落ち着け。間違ったことは言っていない。そろそろ悪にも飽きた頃だろう』
『自分を楽しませるのに飽きる奴なんかいねぇよ』
『そうか。ではあえて言うが…どうせどこへ行っても悪の芽は尽きない。それを摘む役をやればいいと、言っている』
『そうかじゃあオレも、あえて言ってやる。カンパネッラにいるチャーチ、あいつ二度もやられたんだって?多分手が震えてたんだろ。つまり迷った挙句また最後まで優しい人という称号にしがみついたのさ。アハハハハハハッ!それで?だから?あいつらが頭に来るのはなぁ、何も悪い事をしていないというだけで英雄のような面をして歩いてる事さ!物を盗まなくても家で子供に八つ当たりして、自由と平穏を奪ってきたろ!人を殴らなくても陰で嘘をまき散らして、罪の無い奴らを陥れてきたろ!そんな奴らに説教されたくないね!誰が世話になったファミリーを出るかよっ』
その言葉に失望しうな垂れるミラー。だが仲間への侮辱には怒りを覚え画面を見直すと、既にクラゲの姿はなく、すぐに彼も特技・隠れるを使用。そうしながらも銃を出して言う。
『何だ時間差か?様子見しても、帰ったなんて思わない。馬鹿よりは臆病と言われた方が、ましだからな』
それに言い返すクラゲ。
『馬鹿の方がましだろ』
『いいや比べれば臆病さは未来に勝機を、馬鹿は多くの危険を残すのさ』
『いいや、違うだろ。尻尾を巻いたら終わり。後には何も残らねぇ。それに仲間も臆病よりは馬鹿の方がいい。邪魔になれば、いつでも消せるからな』
『名言だなぁ。どうせなら大声で言ってくれないか。位置を特定できる』
そう繰り返しとなるが、大声を出してしまえば姿が露見するので会話にとどめるクラゲ。ただ辺りで広い場所と言えば劇場の駐車場のみであり、ピストルを手にしたミラーはその花壇にある大きな看板や車の陰に隠れながら中央にある建物の入口まで走るとその手前に駐められた黄色い車の西にしゃがんでクラゲの位置を予想し、彼方此方に視線を走らせる。オレのすぐ後ろにある照明柱の辺りか。東側で少し遠いが、ごみ箱の辺りか。比較的近い場所なら南にある灰色の車辺りも怪しいが…どこか調べてみるか。だが数秒後、四マス先の南西に現れたのは南を見てしゃがんだ恰好の人影。それは銃を出しているようで、罪の無い相手を撃つ訳にはいかないミラーにもクラゲかその仲間や手下としか思えず、節理上隠れてはいても両者が接近したからこそ互いの気配を察しているので撃ってこないそれは囮としか思えず、すぐには動けない。そこで叫ぶ人影。
『ボス、北東に4だっ!』
よってその白いTシャツに金のドレッドヘアという姿は露見したが、そこからも思考するミラー。いいや、接近しているならクラゲの影も見えるはずだから、この手下を撃っても、オレが殺される事はない。しかも黙っていれば手下に位置を教えられたクラゲも撃ってくると思われ、姿が露見するとは知りながらも先に撃つミラー。パンパンッ、パンッ…!だがこの時すでにクラゲはミラーの真後ろでリボルバーを連射。バンバンッ、バーーン…!振り向きながらもその最後の一発にミラーは倒れ、劇場からでて騒いだ数人も相手がクラゲであると知って中へともどり、辺りには再び静けさが漂う。そうつまりクラゲは自身が隠れてからも、大体ミラーの道筋を予想して手下を寄こしたのであり、撃ち合いになるその瞬間まで読んで接近していたとはミラーにさえ考えられない事だった。手下が先に撃たなかったのを補足すると隠れた者がいても先には撃つなという、余計な敵を作るのを防ぐ為の設定であり、それを考えながらも人物作成画面を前に、唇をかむミラー。
「一度もやり合った事の無いオレの思考を読んで、敵影を発見してから撃つまでの、その間隙をぬった?馬鹿な…!」
また丁度その頃彼の見ていない劇場前には、その最後の言葉が響く。
『だが抗争扱いにはしない方がいい。オレ達も困るが、ドン・ロブストの意思に反するからな』
『そんなに馬鹿じゃあねぇさ』
言いながら両手をポケットに入れるクラゲ。その身を撃ったのは大降りとなった雨だった。
探してやっと屋根の間に小さな雲を見つけられるほどよく晴れた日。ショッピングモールの南側にある広場ではコスチュームプレイの大会が開かれ、その大勢の見物客の中には弓野明とその友人達の姿もあった。そう会場の東側にしゃがむ明達は時々舞台を見上げ、そこに立つブロンドの髪から尖った耳を覗かせ金の冠をつけた女性や、緑の長髪に白いジャケットの大きな襟を立てた男性が羨望の眼差しを受けるのを楽しんでいたが、会話は主にゲームについて。よって本当の意味でそれを楽しんでいたのは眼鏡に黒いパーカーを着てカメラを抱え、舞台のすぐそばで微笑む友人。オリーブ色のカーゴパンツに灰色のトレーナーを着た明は会話に一段落つくときょろきょろとしながらその賑わいや非日常を楽しみ、その友人である真田は、大柄な体に薄っすらとしたピンク色で暖かい季節を思わせる長袖のシャツを着て長い前髪をかき分けると、もう一人の友人を指差し、自分もあんな風になりたいとつぶやいていた。だが突然そう言われたので、何気なく返すだけの明。
『じゃあ真田もコスプレをしてみればいい。いいや、撮る方か?』
『ああ、違う違う。そういう意味じゃあない。…何かを心から楽しみたいって事さっ』
『ああ、そういう意味か。じゃあ仕方ないっ。私のファミリーに入れ…!真田にはもっとまっとうな道があると思ったが、生きる意味を見出す為だ』
『嫌だよマフィアなんて…!それよりまた面白いゲームがあったら教えてくれよ。今だってやっと町へでて来たけど、智輝はオレ達を放って撮影三昧だ』
『ハハハッ。でもその真田が求める面白いゲームこそが、マフィアズライフだ。悪ぶるのは古いが、うちは正義のファミリーだから安心しろ』
『…いいや、遠慮しておく。既に大勢いる明の手下が怖いし、オレが悪ぶるのは似合わないだろう?』
『まあそう言わず、ガラミールに来てみろよ。今真田は手下と言ったがそれはNPCのことで、カポになれば誰もが奴らを連れて歩くだけでボスと呼ばれるし、悪い奴らに遠慮はいらないから、楽しいぞ』
『じゃあまず、ちょっと歳は離れてるけど、琢磨さんを誘ってみろよ。面倒見がよさそうで、頼れるだろ?』
『いいやあの人は家庭があるし、若い時不良だったらしいからな』
『だったら尚更いいだろ』
『飽きてると思うんだよなぁ。だからあの人よりは、大屋さんか、中さん、後は三浦さんとか米田さん辺りをファミリーに誘うのが良いかな』
『じゃあその四人で決まりだろ』
『でもみんな真面目だから、きっと愛想笑いして断るよ。勿論、一生懸命頼めば断らないかも知れないけど、オレはあの世界で自分と仲間を幸福にすると誓ったから、むりやり連れて行きたくはないんだよなぁ』
『じゃあ何でオレは誘うんだよ』
『同い年だからだ』
『いいや、対戦ゲームに熱くなったアメリカ人と口喧嘩した方がましだ』
『その方が怖い気もするけどな』
するとそこへ智輝がきて、写真を撮った相手から貰ったという大福を食べる三人。人気アニメの明るい曲が流れると、白と黒のざんばら髪の横に大きな剣を担いだ男性はぎこちないながらもキャラクターの雰囲気を壊さないように話し、薄紫のショートヘアに黒いノースリーブを着て猫の手を模した手袋をした女性は知り合いを見つけてさも楽し気に声をかけ、明はその何故か切なく微かにときめく時間に、大きな期待を膨らませる。ああ、やはりゲームやアニメ、それに音楽や映画などの娯楽こそが、人を救う。勿論仕事を娯楽のように楽しめるならそれでいいが、衣食住のみに感謝できるならそれでいいが、ほとんどの人はそうなれずに苦しむか、悲しむか、寂しがるじゃないか。何故こうも納得のできない世の中で部品のように働き続けなければならない。生きる為に仕方の無いことだが今はどこへ行っても大抵、体が壊れるまで休ませてはくれない。そして使い捨てだ。しかもそうして生きられるのは長くてもたった二万か、三万日。だからまずは生きる…なら良いが、生きる為に生きてはいけないんだ。そう重音主曰く、人は遊ぶだけでも、働くだけでも虚しい。そうなると実世界でも意義のある事がしたいな。そんな明の頭には実のところ、真面目に話せることが条件のゲーム会議という集まりの着想も浮かび、彼はそれにも真田を誘うと決めていたのだ。
ほんの数十メートル先は西部というクナイマの船着き場。その東西の境で南へせり出した幅広の桟橋に立って話し込んでいたのはキアーロとカツミで、その後ろにはミラーやバイカ達の姿もあった。背景となる北に建ち並ぶのは一面窓のビル。そこには夕日が差し、辺りには薄っすらとした赤い光が触れている。そう今日の彼彼女らはここで待ち合わせしたのだが、まだ少し早いからか集まったのは四人の他、ロッコとカメーリャのみ。ただそんな中でもキアーロとカツミがもたらしたのは、とても刺激的な情報だった。
『もうお前らは聞いたか?あのニカル・パワーがストラーノを使って、ジャック・イビリードを殺したらしい』
『つまり内部抗争だな。丁度今それを話していたところだがミラー達だって、知り合いから聞いてるんじゃないか?』
『い、いいや。それは…今初めて耳にした事だっ』
そう言って口をつぐむミラー。彼に顔を向けられたバイカ、ロッコ、カメーリャもそれぞれに言う。
『オレはバックロールを通って来たが、どうりでクーパー同士がやり合ってる訳だっ。いいやそういえば片方は…パワーファミリーだったか?!ああ、そうだった!もっと見てくれば良かったぜ!悪対悪の醜い戦いだったのにー』
『一体どうなってんだ?当然クーパー同士が揉めるのは嬉しいが…何があった?』
『もっと詳しく聞かせてっ。その状況によってはこっちにも飛び火するでしょう』
それに頷くキアーロによると、あの後のニカルは再びロブストの悩みをきく機会に恵まれ、しばらくは真剣に相槌を打っていた彼女だが、話が蜻蛉の部分に及ぶと困惑。そして嚇怒。その情けなさを罵る彼女とどうしてもと言われたからこそ打ち明けたロブストは激しい口論となり、その場はサンドロとクラゲが来たので収まったようだがそれからのニカルの行動こそが、とても恐ろしいと言うのだ。よって思わず訊くカメーリャ。
『どう恐ろしいの?突然ロブストを撃ったとか?あっ、分かった!ストラーノを使ってロブストを狙ったけど、イビリードがかばったのね?』
『いいや…それはまだ後だ。奴はまずロブストに謝罪して和解後、これからはもっと自分達バイオレイトが先頭に立って弱いファミリーを潰して縄張りを広げるからと言って、タロストンにあるほぼ全ての縄張りを自分に譲渡させ、それからすぐ、ファミリーを出たのさっ。だからサンドロ達も止める暇がなかったらしい』
そう手のひらを合わせながら説明するキアーロに言うのはミラー。
『つまり一度縄張りを個人所有にさせて、それからファミリーを出たんだな?』
『ああ、そうだ』
『だが数がいないと、これから始末されるだけじゃあないのか?』
だがキアーロいわくニカルに付いてファミリーを出たのは他、百数十人。ミラー達にとってそれは少なく思えたが、ロブストの側が彼彼女らを除名処分にするのは考え難いのでそれはおそらく、カポやソルジャー達それぞれの意思によって起きた離脱であり、失望したのは今まさにガラミールに来て意欲的に活動している中の、百数十人。その反意の総数には死んだばかりとはいえあのハウンドもいてしかも、味方はそれだけではないらしく、そこで訊くのはカメーリャ。ロッコは悪逆のクーパーが慌てる様を想像し楽しんでいるようだが、彼女は事態の把握に熱心だ。
『まさか、パボーネじゃないよね。クーパーにとっては結構面倒な相手だよ。北はニカルのものになって、東にはEAに友好的なバーンズ、南にはパボーネだもの』
『いいや、奴らを忌み嫌うオレ達にとっては理想的だが、ニカルが味方に付けたのは元々タロストンの西でクーパーと上手くやって来た、幾つかの小さなファミリーさ』
『ああ、なるほど…!でもニカルにはますます要注意だね』
『そうだ友よ。あの女はそのそれぞれのドンやカポを味方につけるのに、素早く動いたって訳だ。まったく油断できない奴だっ』
またイビリードが殺されたのはファミリーを割って初めに切り込んでくるのはまずこの男だと思われたからであり、元からニカル達とそりが合わなかったのも原因らしいが、そこでクラゲに敗れたミラーを勇気づけるカツミ。だが彼はロブストに比べれば何でもないと微笑し、キアーロを安心させる。
『良し!その意気だっ。実はこれからワグナーファミリーの奴らと会って協定を結ぶつもりなんだが、反対なら言ってくれ。勿論会ってから印象が変わるだろうからその時改めて意見は聞くが、既に思うところがあれば言って欲しい。どうだ?』
そこで自分は賛成したと教えるカツミ。キアーロとしてはやはりケレンケンにはタラントではなく、一度不和になったとはいえEAとこそ親しくしてもらいたいようで、その事に関しての意思も確認するというので突然の話に驚いたミラー達にも異存は無く、道に横付けしたアバードの車にはアレッタやリカも乗っていたので、一同はそのままワグナーの邸がある、セメアクレイの町へ。その料理店で時間調整をしていた時電話してきたデルフィーノ達を待ったのでやや遅れたが、まだ夜と言うには早い時間ワグナー邸を訪れたキアーロ達は、深緑の小さな葉で形作られた高い垣根を左手に門前の白い石畳に立つサキ・ミヤというカポの歓迎を受け、その両脇の黒い門柱にある薄っすらと赤い電灯の光にときめきさえ覚えながら邸へと足をふみ入れる瞬間を待ち、そこでリードに言ったのはギャスマン。彼は嬉しさと不安の両方を口にする。
『ああ、緊張するぜぇ。敵の邸なら覚悟を決めればいいけど、気を遣うからなー』
『大丈夫だっ。もしもコルボやクーパーが来ても一緒に撃退できれば、協定はほぼ成ったようなもんだし、きっと良い事がある…!』
そうサキは上下白のスーツの中に淡い紫のシャツを着てそれよりやや濃い目の紫のネクタイを締め、外巻きになった髪は淡いピンク色。色白で目の大きな美人だが、対応は上品だ。
『ようこそ私共の邸へ。中でドーニャ・ケレンケンがお待ちです』
『では遠慮無く』
言うとゆっくりと歩きだすキアーロ。
『お連れの方々は物足りないでしょうが、プールの方へどうぞ。勿論テーブルの上には飲み物が用意してあります』
よってドン・キアーロに続いて、ダイドブレインズのカツミ、カポのアレッタは何人かのワグナーの前を通りすぎ、奥の左手から邸の中へ。その手前にある垣根の間からプールへ行けるのだがまずそこへ入ったペスカーラは勢いづくファミリーの夜に歓声を上げながら、奥に一つだけある青いハンモックへ。そこへ寝そべりながら見上げれば、三階建ての白い邸の各階にはガラスのベランダがあり、垣根をぬけた瞬間から南側全体に広がるサファイアのように煌く大きなプールのそばには、白いテーブルと椅子の他、象牙色のビーチベッドも並び、その内奥にある二つを選び上半身裸になって横になったのは、ギャスマンとチャーチ。バイカは足を組んでペスカーラの前にある一席に座り、デルフィーノもその正面を選んで腰かけ、何かあった時にとあえて入口近くのテーブルに着いたのは、シモーニとウィリアム。中央のテーブルを選んだマイケルは遅れてきた事もありそこでアバードやカメーリャに、この協定についての疑問を口にする。
『それはドーニャ・ケレンケンが立派なのは聞いてるが、他はどうだぁ?何も無理して協定を結ばなくてもいいと思うが…』
それに答えるアバードとカメーリャ。
『ドンはドーニャ・ケレンケンを、惜しんでるのさ。当然、一緒に商売ができればとも言っているが、有能な人間が愚かな奴らに足を引っ張られているのを、見ていられないんだろう』
『私もそう思う。うちにも居たでしょう。コーテルとか、デポーターとか。ああいう奴らは勝手だから本能のままに、ドーニャ・ケレンケンみたいな魅力的なボスを選ぶの。ワグナーは数が多いから、その比率も高くなるんじゃない?』
『そうかだがオレは個人的に、もう少し後でもいいと思うなぁ。せっかくクーパーに勝ったんだっ。その気になれば、もっと安全なファミリーと組めるぜ』
『同感だ。だから後でそれとなくドンに言っておくが、もしも今日の会合で協定がまとまったら、どうにもならない。用心して付き合っていくしかないぞ』
『ドンによるとアレクシア・ハイタワーもいい人らしいけど、このファミリーには心配なところもあるよねぇ』
『ああ、だが…これまでにしよう』
そう言ってマイケルがワグナーのソルジャーが来たことを教えたので、入口を見る一同。そこには長い白髪をオールバックにして髭を蓄え、赤紫のスーツを着た男が睨みつけたような目で立ち、よく見ればしわが深く初老のリーダー格らしいその後ろにも六人居たので、バイカはそのステータスを確認しながら言う。
『悪い。完全にくつろいじまってるが、何かあるなら言ってくれ。席を譲ろうか?どうせオレ達は、待ってるだけだ』
するとそれに返したのはやはり初老の男。
『いいや、構わんさ。ゆっくりしてくれ。だが一応ここはオレ達の邸だからどんな相手が来たのか、気になってな』
『それはそうだろう。だがオレ達は善良なファミリーだから、下品だったり乱暴だったりはしないぜ。大人しいもんだ。あのベッドでくつろぐギャスマンを見てくれ。あれが基本だ』
『ハハハハッ…!』
そう笑うギャスマンを見て同じように笑う、カンパネッラとワグナーのソルジャー達。それからバイカ達の見えない三階にある一室ではまず互いの仲を深める為、実のところケレンケンがハイドラの死によって西へ移ると決めた事やそれをすすめたのがカポ達である事などが明かされ、互いの町で安価な品を買い占めそれを交換して売るという商売の話にもなったが、プールでは新しい友人を迎えたリカが、気をよくして話す。
『まあ、不安なのは同じだぜ。こっちでトランプでもするか?どうせなら全員でトランプ大会だ…!』
それに賛成の声を上げるワグナーのソルジャー達。それはペスカーラやデルフィーノも同じだ。
『おお、いいねぇ!オレは両方にアドバイスするが、それでもいいかな?』
『悪いがトランプならオレのアドバイスこそ必要だ。だからペスカーラは、ワグナー側に付いてくれ』
『あっ、言いやがったな。ぜったい後悔するぜ。ワグナーが勝っても裏切者とか言うなよ』
よってその場はトランプ大会となったが困ったことに誰もカードを持っておらず、初老の男はすぐそばに居る黒いショートパンツにオレンジのTシャツを着た金髪の男に言う。
『おい、確か…邸にあったろ。持って来てくれ』
『無かったらどうすんだよ?自分で行けよ』
『無かったら買って来い。金なら100でも300でも、オレが出す。金を出すのは嫌だろう?』
『トランプなんてやる必要あるのか?今日いきなり邸に現れた奴らだ』
だがそんな男を指差す初老の男。つまり早く行けという事だが、その間ミラーは知り合いから聞き捨てならない一報を受け、それをチャーチに話している。
『なあ、ロブストがショットガン22の何人かを、皆殺しにしたらしい。町でニカルの裏切りを笑われたのが原因だろうと言われている。くそっ…少しは落ち着くと思ったが、物騒になったなぁ』
『…それは、悲しい事です。彼の心も苦しんでいるのかも知れませんが、せっかくこうして私達が、交流の輪を広げているというのに…』
その数分後、中央のテーブルへ集まった二つのファミリーは和やかにポーカー大会を始めたが、カードを持ってくるよう言われた男は不満なのかせめて気になったリカの情報を聞き出そうと、ウィリアムに質問。だが彼の方も、勝手に彼女のことを教える訳にはいかず、上手く断る。
『ああ、悪いがそういう部屋やいきつけの店なんかは、彼女に直接訊いてくれ。オレが責められちまうだろ』
『けちけちせず教えろよっ。どうせお前の女でもないし、これからも望みはゼロだろ?』
『アハハッ…!そう気負わず、堂々と訊け。そんなに意地の悪い女じゃないし、断るとしてもきっと丁寧だぞ』
『お前が教えてくれるだけでいいだろ。オレを下っ端だと思って甘く見てるのか?そうなのかっ?』
『思ってない。チャンスを窺って訊いてみろ』
『おいおい言っておくが、いつものオレはお前みたいな奴とは、話さないっ。仲良くしてやるってんだから女の情報くらい寄こせよっ。あんな女どうにでもなるっ。だからこれは社交辞令みたいなもんだぜ。分かったかぁ?』
『分かったが、消えな。もうオレには話しかけるなよ』
聞いてそこへ歩いて来たのはデルフィーノ。二人の会話はこのゲームの分類上も、ただの会話であり、十五マス以内にいる者には聞こえるので、彼もウィリアム同様怒っていた。
『お前一々不愉快な言い方するなぁ。しかも人にものを頼むのに…!』
『ものを頼む時だけ腰が低い奴もいるぜ。イルカちゃんっ』
その言葉に立ち上がるウィリアム。バイカとリードも止めようと近くまで来たが、それに手のひらを見せて金髪の男に話すのは、さっきの初老の男だ。
『おい、いい加減にしろよ。一体何が気に入らないっ。この場を任されたオレの身にもなれってんだ』
『フンッ!弱小ファミリーのくせにっ。オレの頼み一つ聞かないこいつらが悪いだろ』
またそこでトランプを置いて立ち上がるロッコ。
『てめぇ!流石にその言い方はねぇだろ!謝ってもらおうかっ。オレ達だって問題児だらけのお前らと組む破目になるんだぜっ』
『あ、あ…ちょっと待て。何だと?』
思わずそう言ったのは何と初老の男。彼はその後すぐ互いにもっと冷静になろうと言ったが、金髪の男は収まらない。
『おいてめぇウィリアムっていうのか?おめぇがオレに謝れっ。けちけちして申し訳ございませんってなぁ!格好つけて口を割らなかったつもりか?!どの面して言ってやがる』
『ああ、何かうるせぇなぁ!音源を叩き潰したくなってきたぜっ!』
だがその時ドンッ…とウィリアムの肩を押したのは、金髪の方。瞬間ウィリアムは相手の襟をつかみバイカはその横で金髪の男に向かってお前が謝れと言い、勿論ペスカーラやシモーニそれにチャーチ等はそれを止めようとしたが、そこでベランダに出てきたのは黒い中折れ帽子と赤い革のロングコートを身にまとい、ブロンドをなびかせたケレンケン・ワグナー。元から吊り目がちの彼女だが今はそれを鋭くし、声を大にして言う。
『おい、ラージソリ!黙ってマッシモの命令に従え!途中から全部聞いてたぞ!!』
『い、いいや違うんだ。全部こいつらが悪いっ。ちょっとした頼みを、聞いてくれねぇんだ』
『ちょっとした事なら自分でやれ!客人に対して…頼み事だと?いい子に出来ないならおりて行ってお前の尻を、蹴り上げるからなぁ!!』
『本当に、本当にちょっとした事なんだよっ』
『おりて行っていいのかー?!』
そこでやっと黙るラージソリ。ウィリアムはとうに彼の襟から手を放しバイカやデルフィーノなども落ち着いていたが、この騒動がきっかけで両者の協定は実現せず、その残念なキアーロ達が帰ってしばらくして後ワグナー邸の前で一人のソルジャーからその顛末を聞いたのは、タラントファミリーのカポ達の中でも特別に価値ある友と呼ばれる地位にまでなった、デビット・バロン。長身で青い瞳の端整な顔を持つその男は短い赤毛を後ろへと流し、黒のロングコートを羽織り、その内ポケットから携帯電話を取り出すとすぐ、ドン・スタンレーに発信。電話が繋がると簡潔に言った。
『実はワグナーとカンパネッラの協定が失敗したようで、その報告です』
『それはどうでもいい事だ。だが、意図せず面倒が片付いたのだから、いい知らせではあるな。ご苦労』
ではそのスタンレー・タラントが今どこで何をしているかというと…彼はちょうど邸の一室で熱帯魚に餌をやり、価値ある友ではないとしても四人ものカポ達と会合を開いていたところだ。部屋は木造で黒く艶めき、その壁にはいくつも絵がかかって備えつけの棚には白や薄緑の花瓶が置かれ、ドン・スタンレーの白い後ろ髪のかかる薄っすらと青いスーツの背中には、南北に長い赤木のテーブルが横たわり、北に立つ彼から見て一番手前の東側の席では、大柄な体に茶色のスーツを着てみどりの髪をオールバックにしたカポのポーリーが熱弁をふるい、その奥にも二人。そして向かいにも一人がいて、じっと耳を傾けていた。
『…という事でコスタの襲撃に失敗したカステラーノからは、負けた罰として財産の全てを奪い、その時オレが奴を殺します。大体、財産をよこせと言えばそれを罰と思って、殺されはしないと油断するでしょう』
『お前が負けたら?』
『…いいや、負けませんよ。こっちに油断はありませんし、取り巻きもいるでしょうが、オレを撃てるとも思えませんから。それにもしも撃ってきたら一緒に殺してしまえばいいだけでは?』
『うん…』
と言って振り向きテーブルに両手をおくドン・スタンレー。その顔は白く面長で端整だが、既にしわ深く、眼光は鋭く、まるで千年は生きた悪魔のような迫力。実のところこの会合は、ちょうど熱帯魚に餌をやろうとしていた彼がこの四人のカポに乞われて開かれたものだが、時計を見るとポーリーの話は思ったより長くもう、11分経過している。だがそこで立ち上がったのは、一人西側にいた男。彼は小太りの体に灰色のスーツを着て同じ色の中折れ帽子をかぶり、鼻の下に髭まで生やしているがとり乱し、叫ぶように言う。
『ま、まさか…ドン!今時計を見ていませんでしたか?!いいですか、落ち着いて聞いて下さいっ』
だがそのドン・スタンレーはベルトからリボルバーを抜くとほとんどその位置からポーリーに、クレイメッド。ババン、バァーン!!
『あっ!』
ゴッ……!やはり奇跡はなく彼はテーブルに倒れ、部屋には静寂が流れる。そして口をひらくドン・スタンレー。
『今話題になったカステラーノ、あれはお前達が思っているより用心深い男でな、財産を奪っても油断しない。何が計画通りだ!この私に、まるでやってやると言わんばかりにぺらぺらと…!』
『でもこんなやり方は…!』
『…黙れ。一応言っておくがカステラーノなら、しばらく休ませる。そう大体にして奴に罰を与えないのが甘いという声があるなら、ソルジャー達には代わりにこの無能な者が死んだと教えてやればいいっ。有能なら、死んでからも使ってやるとな…!』
そう実はカステラーノの縄張りを継ぎたかったポーリー。彼も特技でクレイメッドを防げたが、冷酷なスタンレーが敗北者を赦すはずがないと思ったのかそれは準備されていなかったようだ。
まるでエメラルドを解き放ったように鮮やかな森には愛らしい鳥の声と風によそぐ枝葉の音だけが響き、その静かな場所でピクニックを楽しんでいたのは、カンパネッラファミリーだった。白い布の上にあるのは大きなバスケット。中にはまだワインが残っていたが、敷物の上にはサンドイッチやクッキー、それにハムやバナナ、イチゴの入った瓶などが置かれ、そこはいつか英霊の墓を探すカメーリャにファルコが教えたダースンコーズの森深くで、キアーロはその二人の為にも今日の会合をここで開くと決めていたのだが、来てみれば大きく拓けたとても美しい場所でアレッタとパメラの言ったピクニックの案に、誰も反対しなかったという訳だ。その敷物の西で切り株の上にあるラジオから流れるのは軽快な音楽。東でブラックジャックをするリッキー達はケーブルドラムを囲み、それぞれ自然を満喫したので楽しさはいつの間にか時を奪い、既に二時間。アンはくる途中見たという青い花を摘みたいと言ってキアーロから許可をもらったアレッタを連れ、それにはパメラもついて行き、偵察後西から帰ったシモーニが曲事団らしき五人組を見たというのでリッキーやカツミそれにレットーラやエルネストは皆そろってその事実を確認しにゆき、近くにハンターズキャビンがあると聞いたデルフィーノとタツカはベティー、アロマ、キャメロン、ギャスマンを連れて東へ。現実にも酒を飲んでいたファルコはその酔いに浸りたい事もあって皆の帰りを待つつもりだったが、キアーロから残った三人でオンカリオの墓を見つけ遅れてくるカメーリャを驚かそうと言われたので、まるで童心に返ったように喜ぶ。
『おお、いいじゃねぇかっ。カメーリャを驚かせてやろうぜ。アバードは見つからないと言ったが、大体この島にいるのは馬鹿ばっかりじゃねぇか。オレ達なら見つけられるぜっ』
『じゃあ決まりだな。行くぞチャーチ』
『それは…申し訳ない。少し待ってくれませんか。お祈りの時間なので』
『いいや気にする事はねぇ。ドンと二人きりはバレンティーノのパーティー以来だ。たまにはそれもいいもんだし、必ず何か見つけてくるっ』
『ああ、すぐ戻る。その小川と塚は、そう遠くないんだろ?』
それに頷きキアーロに続いて南へと歩きだすファルコ。二人は思いがけず発見した柵を越えしばらく歩き、小さな沢を過ぎて更に奥へ。彼方此方見ながらまたしばらく歩きやっと小川に辿り着いたのでキアーロは振り向いて言う。
『おい、ここか?随分綺麗だなぁー』
そうそこにあったのは淡い赤や青それに黄色などの石が透けて見える清らかな川。しかもそれは浅く、訪れた者を少しのあいだ無償の安らぎへと誘う。
『ああ、多分ここだっ。おお、やっぱり近いじゃねぇか!ハッハッー!』
言いながら川に入ると今度は岩陰を見つけ釣りができそうだとはしゃぐファルコ。渡ったキアーロは周囲を見渡し塚を探したがまだそれらしきものは無く、おもむろに言う。
『…ああ、曲事団やグレイトマンなら寄ってくるのに、良いものには中々出会えない。そう人生なんて…こんなものだよなぁ』
『えっ、グレイトマン?』
そのファルコにキアーロが言うには、グレイトマンは裏切者。
『え……ええっ?!』
混乱するファルコが聞けばそれはバレンティーノでは既に有名であり、彼に商売を頼んだ者が分け前が足りないと詰め寄ったのも実は、つい最近の出来事。もはや疑いの余地は無いらしく、続けるキアーロ。
『これはまだ噂だが、ドン・アクイラの情報でもある。オレ達とセイントを売った時の分け前も怪しかったから、後であいつもこういう誰もいない場所で、消されるだろう』
カチャ…!だがそこで、キアーロにライフルを構えるファルコ。
『どうした。蛇でもいたか?』
『いいや…いたのは人の好い狼さ。でも今は、オレを殺すつもりなんだろ?チェンチも一発だったらしいからな』
『何?』
そう言って振り向くキアーロに叫ぶファルコ。
『近づくな!どうせオレも殺すつもりなんだろ?そうなんだろ!そりゃあお前には手下がいるもんなっ』
『おい、馬鹿を言うなっ。もしもお前を撃つつもりなら、二人きりでこんなところまで来ない。よく考えろっ』
『どうせオレは足りねぇよ!』
『そういう意味じゃあない。一体どうしたっ』
だが酔いもあって興奮し、話を聞かないファルコ。聞けばどうやら彼はグレイトマンにそそのかされ裏切っていたようで、こうなったからにはキアーロにも片棒を担いでもらうしかない等と言ったが、そんな申し出を受ける彼ではない。
『ああ、友よ何てことだ…!しかも片棒を担げだなんて無理だ。それより上手くとりなすから、今すぐ皆に謝るんだ。今はそれしか、思い浮かばない』
『いいや、それこそ無理だなぁ!たった数百グロートの為に死にたいのか?』
『違うっ。ゆっくり考えろ。あのセイントの取引を任せた時既に、裏切っていたのか?』
『ああ、そうさ…!あの時グレイトマンが誘ってくれたんだっ。何度も稼ごうと言ってその度にお預けを喰らったオレをなぁ』
『商売なら、待ってくれと言ったはずだっ』
『返済は待ってくれねぇんだよ!』
『まずその話を知らないっ。知ってたら…違ったさっ』
そう実はあのセイントの取引があった日も現実にはオーガネイが145Grで売ってくれたものをそれとなくロビンソンの名をちらつかせ、181Grで買った事にしていたグレイトマン。オーガネイとしてはその黒幕がロビンソンなのかカンパネッラなのかも分からず黙認し、その差額は全部グレイトマンとファルコのものになっていたのだが、実際にキアーロ達がそれぞれ受け取るべきだったのは元手の263Grを引いても222Grであり、それを教えたからにはファルコも後には引けない。
『156だろうと、儲けは儲けだろっ。オレ達はほんの720Grを、余計に、貰っただけだ。だからファンガイやアクイラも、上手く誤魔化してくれよな』
『それはできないっ。頼むから、早く銃をしまうんだ。どうせ撃てやしないさっ。そうだろ?』
『さあ、それはどうかなっ!キアーロがこっちに付いて誤魔化してくれれば、まだまだ稼げそうな気がするんだけどなぁ』
『もう止めるんだ。聞きたくない…!万一オレがその事を黙っていても今度はまた別な奴に知られるぞ…!』
『ハハハッ、そうなったらそいつにもこのライフルを見せてやるさ』
聞いてやっと手下を出すキアーロ。同時に距離をとった彼を一発で殺す事はできないだろうが、川辺でも岩は無く、木々は遠く、死の危険は十分にある。
『リッキーが強いというのは関係無い。お前に仕事を譲った彼を撃てるか?仲の良いエルネストを撃てるか?助けてくれたタツカを撃てるか?そして、オレを撃てるか?お前はそんな奴じゃあないはずだ。だから落ち着いてからでいいからしっかり皆に謝って、金を返すんだ。いいな?』
『ハハッ…!』
だが少しずつ近づくファルコに覚悟を決めるキアーロ。ダァーーン…!そしてやはり先に撃ったのはファルコの方だったがフランクとマルメはキアーロより速くしかも、執拗に発砲。ボンボーン、ダァーン、ボーーンッ!バァーーン!カツミ達が揃って駆けつけた時のキアーロは既に川の流れを朱に染めるファルコを、見下ろしていたのである。そしてその夜…ドンッ!と大広間のテーブルを叩いたのはリッキー。そうなると他は黙るしかなかった。
『あの野郎ぉ!!金を騙し取ったことも赦せねぇが、ドンに銃を向けるなんて!』
それに続くのはカツミ。それに来たばかりのバイカと、ほんの少し前までファルコと飲んでいる酒は何か等と話していたはずの、デルフィーノだ。
『キアーロに片棒を担がせようとしたなんてっ。救いようがねぇ!』
『今度会ったらなぶり殺しにしてやる!そうドンがお望みなら、いつでも引き摺ってくるぜっ!』
『ハハハッ!だがドンに返り討ちにされて掲示板でも叩かれてりゃあ、世話ねぇな。だからオレだけは楽に殺してやろうかな~』
だが気持ちは分かるとしながらもその行動を禁じ、宥めるキアーロ。彼はあれからレットーラやアロマにファルコの事を調べさせていたので、その結果を教えてくれるように頼む。よって立ち上がるレットーラ。
『…ああ、実は奴のホームページや投稿なんかを調べたんだが、あいつ三十にもなってやっと今の女と交際したらしいな。それまではずっと一人だったらしいから多分、金が欲しかったんだろ。高級車や高級家具それにどうやって契約したか分からない部屋で寛ぐ写真なんかを貼って偽っていたようだが、金でしか女を釣れなかったって事さ。そうずっと過去へ遡って読んでみると、受付嬢を誘っただけで変質者扱いされたとか、ずっと友人のように話してきた女からある日突然無視されるようになったとか、そんな話は嫌になるほどあって、そのせいで仕事を辞める事も多かったらしい。まあ、だからといって…裏切りは明らかな悪だ…。女に相手にされず、男ばかりに囲まれてる奴なんて大勢いるぜ』
聞いて吐き捨てるように言うのはベティー。
『そうね。言い訳なんて聞きたくないっ。ファミリーからは永久に追放しないと』
だがレットーラは続ける。
『その心配は要らない。…だろう。何故なら調べたところ奴は子供がいると嘘までついていたし、借金を返すのに忙しい』
『ああ、追い詰められると人はそうなってしまうんだわ。リッキーが仕事を譲ったのも、焼け石に水だったのね』
『そうだな。だから奴より心配なのは、ドンが口外するなと言ったこのファルコの裏切りを、誰が流し、今掲示板で騒がれているか…だが』
だが再び口をひらくキアーロ。
『もういいレットーラ。…ありがとう。焦っていた事と借金や悩みが真実であればもうオレは、奴を赦そうと思う。決着はつけたからなぁ』
だがそこで言ったのはリッキー、アン、キャメロン。
『それはっ…ドンがそう言うなら従うしかねぇが、オレは奴を赦せねぇ!処分されたって何発かは殴るぜっ』
『そうよ!掲示板で叩かれてるのだって自業自得じゃない。リッキーは仕事まで譲って、ドンや私達もずっと友達だったのに…!』
『じゃあファルコを撃っただけで処分されちゃうの?』
『いいや、それは考えていないが、オレがこの手で、奴を殺した。その事実と世間的な制裁があるんだ。もうその話は止めようじゃないか』
キアーロがそう言ったのでやっとその場は実世界での彼が出世したという明るい話題となり、そこでやっとパメラとカメーリャもほっとして手を叩いたのである。するとその二人に微笑みをとり戻したのはリッキーやバイカ達。出世を理由にしばらく休むと言ったキアーロも裏切られたばかりで不安だったが、彼の救いは最後にもう一度ファンガイのパーティーに参加できる事。そうそれだけが実はその心から孤独を遠ざけていた。
ばちばちと小石を踏みながら山道を西へゆく黒いタクシー。車内はクリーム色の座席以外は皆黒に統一され、そこで運転手と話すのはキアーロだった。そうその会話は運転手にとってはサービス。だがキアーロにとっても行けども行けども見慣れた草木ばかりでは退屈しのぎに丁度良く、今どの辺りを走っているのかも訊いておかなければならない。そうその会話によると今走っているのはガビネールでもソピアー山の南側で、そろそろライゼルの北に入るらしく、今度は運転手が訊けばキアーロはある人物に会いに行くところらしいが、目的地には後どれくらいなのだろう。それを訊くと運転手は一度車を停め、キアーロも勧められるがままに車を降りた。するとそこにあったのは手前の黄色から、オレンジ、ピンクと咲き誇る花畑。その先の右手には丘があり、さらに遠くに見えるのは紺碧の空とどこまでも続き地を囲うような山々。キアーロはその景勝地を見て安心し、だが画面を切り替えすぐ運転手に訊ねる。
『実に清々しい。だが、目的地はまだか?』
『ここからなら歩いて行けますが…』
聞いて考えるとここで待つように言い、歩きだすキアーロ。しばらく西へゆくと道の北側には石造りの家が建っていたので立ち止まる。
『ああ、ここか…』
さて、どうしよう。そう画面を前につぶやくと、家の前にあるテーブルと椅子に目をやる彼。それは鉄製でちょうど椅子も二脚あり、家の煙突から煙は出ているが、まず相手がでて来てくれるかどうか分からない。だがそうして彼が逡巡している間に家からでて来たのは、髪を短く切り、ジーンズに白いTシャツを着たファルコ。彼はキアーロを見つけると驚いて言った。
『ああ…キアーロッ。ドン・キアーロ!あの時は、あの時のオレは本当にどうかしてたんだっ。酒が入って…。まず聞いてくれ。話せばきっと分かってくれるっ。撃たないでくれよ』
『撃つ気はない。少し話がしたいんだ。いいかな?』
『じゃあ…座ってくれ』
言うとキアーロが座るのを待つファルコ。キアーロは彼にいいから座れと言い、テーブルの上で手を組む。そうキアーロはレットーラやアバードに言ってファルコの居場所を突きとめ、今もカツミに言って一人ファンガイのパーティーを抜け出してきたようだが、色々と考えた割にその目的は単純だ。
『なぁファルコ、もう誰も裏切るな。お前も嫌な思いをしたろ』
『ああ、当然だ…!今とても後悔してるっ。何でもっとドンを信用しなかったのかって…!そしたらグレイトマンの口車になんて乗らなかったのに…。だからこんな静かな場所に越して来たんだ。そう聞いて欲しいんだが、オレはあれから謝りに行ったんだ。だが途中で…。途中で』
『まあ落ち着け。二人だけだ。途中でどうした?』
『途中でルッソの連中に見つかってお前の顔なんて見たいと思うかって言われて、引き返したんだっ。まったくその通りだ…!行ってもただ皆の機嫌を損ねるだけじゃないかって』
『ルッソは悪い奴に容赦しないからな。手を出せ』
『えっ?』
だがそうして手渡されるのがたとえ銃弾でも、ナイフでも受け取らなければならない立場なので、ファルコは素直に手を…。それをキアーロは、両手でしっかりと握りしめる。
『一体何でこんな私を裏切れた?ええ~?お前は悪魔なのか?それとも私の前世に恨みでもあるのか?』
『アハハッ、やめてくれ。あんたには二度と近づかねぇ』
『いいや、もう少し聞け。はるばる訪ねて来たんだ』
『本当に申し訳ないと思ってるっ。そうだ、実はあの時オレはキアーロあんたが恋路を邪魔する悪い奴に見えたんだっ。それで、どうしようもなくて…』
『うん…。それは随分追い詰められていたな』
『ファミリーでもずっと陰で馬鹿にされてるんじゃないかって思ってた。皆それぞれ役に立って、上手くやってるだろ?なのにオレは頭も腕っぷしも、中途半端だ』
『お前だって上手くやってたさ。オレも、皆も、ずっと頼りにしていたのにっ。何故そんなに悪い方へ考えたんだ。力量の問題じゃあない』
『かも知れないな。だが二度とこんな事はない…!誓うよっ』
だがその時ファルコが画面を見て気付いたのは、譲渡の知らせ。つまりそうしてキアーロから渡されたのが1,000Grだと分かると、声を失う彼。キアーロは頼むから受け取ってくれと念じたが、ファルコは受取りを拒否しながら言う。
『…いいや、やっぱりこれは返すよ。でもきっと、きっとどうにかなるっ。それより裏切ったのに……心配してくれてありがとうっ』
『いいや、オレはもうお前を殺した。それで決着はついたと説明して皆を納得させるから、安心しろ。だからどうしても、どうしても新しい仲間を見つけられなかったなら、帰って来いよ』
『ありがとうドン・キアーロッ』
『心から謝れば赦してくれるさ』
『ありがとう。でも気持ちだけ、受け取っておくよ』
『無理してまたずるい事をするよりはいい。借金の返済に充ててもいいし、息抜きに使ってもいい。人生をやり直すんだ。今は潤沢になった軍資金の、ほんの一部だっ。もう皆落ち着いて考えられるようになっているさ』
『ありがとう』
『ああ…』
『ありがとう』
何度もそう言って立ちあがるファルコ。キアーロはもだえ苦しむその心が少しずつ癒されるだろうと思っていたが、自分や恋人それにキアーロ達の為にもファルコは過ちを繰り返さないよう二度と会うべきではないと言って…そこで、
自ら頭に銃を突きつけ発砲。パーーンッ!当然キアーロはすぐ立ちあがったが、ただその最後を見送るしかなかったのである。
『ファルコ…!』
それでもその後すぐゲデルのホテルで行われているパーティーへ戻った彼。北向きの入口はコンクリートの駐車場でそこには既にタキシードやドレスを着た何人かの姿もあり、彼彼女らは突然曇りだした空に何事かがあったに違いないと騒いでいたが、建物に入るとキアーロの意識には再び、赤木で統一された部屋の気品が帰ってくる。彼の左手にあるのは、北にずらりと酒を並べたカウンター席。右手の舞台に立つ男は白いシャツに紺色のスーツを着て蝶ネクタイを締め女は白いドレスを着て共に歌い、だがそんなキアーロを迎えたのはやはり南に置かれた沢山の丸いテーブルから人垣をかき分けて来たカツミ、レットーラ、リッキー。だがその三人さえファルコの最後を耳にすると皆声を潜め、またその合間にもクーパーに一泡吹かせたファミリーのドンである彼は握手や写真撮影に応じ忙しかったが、いつの間にかその前にいたのはリッチ。彼は満面の笑みでキアーロを迎えると、その肩に手をそえて話す。
『お前は絶対大物になると思ってたぞっ』
『ファンガイやあんたらのお陰だ。感謝してるよ』
『まさかワインの事か?あんな事はいいさぁ。それより、早く帰ってこいよ』
『長くても半年くらいだ。その間はカツミ達が上手くやるさ』
『だったらもっと大物になれ。オレも鼻が高いからなー。ハハハッ』
しかもそこに運ばれてきたのは大きなチョコレートケーキ。集まった参加者達は皆それを皿に切り分けてもらい、そこへついに主催者であるファンガイが到着。その彼からはカンパネッラが正式にEA入りする事が発表されたので会場は盛り上がり、参加者達の相手をする役目がファンガイに移ったのでキアーロも楽ができるようになったが、その背中にきて話しかけたのは何と、グレイトマン。彼は突然キアーロに、自分と用事があるように言ってくれと頼み、その心にさざ波を立てる。
『だが、なぜ嘘を?断る』
『そんなこと言うなよ。オレとお前の仲じゃないか』
見ればその後ろにはロビンソンのソルジャー六人が立ち、その内がっしりとした体に黒いスーツを着てブラウンの髪を後ろへ流した男と、赤いジャケットを着て金髪にパーマをかけた女はキアーロに詫びながらも、グレイトマンを急かす。
『いいから早く行こうぜぇ。オレ達もさっさと済ませて、パーティーを楽しみたい』
『十分楽しんだでしょう?何にでも終わりがあるの』
『いいや、それなんだが…オレはまだまだパーティーを楽しみたい。だからお前らだけで行ってこいよ』
『ハハハッ!おい、何だと!ふざけてねぇでさっさと来い。あまりぐずぐずすると、ここで楽しむぞ?』
『その許可はもらってるの!これ以上待たせると酷くなるわよっ』
『…ああ、これだぁ。ロビンソンの奴らは、真面目過ぎてよくない』
だがそのグレイトマンの言葉に両腕を広げたキアーロの後ろに来たのは、エルネストやタツカそれにバイカやウィリアム…。そこでキアーロは、頭に人差し指を当てながら言う。
『いいから頭を冷やしてこい』
そこでやっとグレイトマンは男女と共に東にある扉から退場。丁度入れ違いにキアーロの前に現れたのは、赤い法衣をまとう神父を連れたアクイラだ。
『実はこのベンソン神父がどうしても話したい事があるらしくてなぁ』
『おお、この方が…!』
すると早速口をひらくベンソン。
『悪魔はその心に、まるで貴方自身であるかのように語りかけます。どうかその心がいつまでも清らかで…ありますように。アーメン』
聞いて胸に手を当てるキアーロ。彼は静かに言う。
『ありがとうございます神父様。ですがこの心は今もファルコの改心を望んでやみません。ご安心下さい』
それに頷き拍手するレットーラとファンガイやアクイラ達。そこでいつも通りアレッタが善良さにと言って酒を飲み干しパメラやアロマも続いたので、カンパネッラは皆で乾杯できた。そうその会場にいたのは他、ドン・グランデやドン・ハルキにファルコの裏切りについて説明するペスカーラや、グレイトマンを罵るリカを宥めるアバード。彼彼女らのその日もこうして暮れていった。
朝が照らすのは何もない私の日々 明日を不安にするのは夜 日が昇ると虚しさや悲しみは深く 喜びは独房に差す光ほど儚い 誰に笑いかけても誰と笑っても一人 いつも霧がたちこめて逃れるすべが見つからない どれほど努めても上手くはいかない 楽しいのはいつも初めだけ どんなものもこの運命を破壊できないのに悪いのはいつも私 勇気と知恵の足りない私
朝が照らすのは何もない私の日々 明日を不安にするのは夜 日が昇ると虚しさや悲しみは深く 喜びは独房に差す光ほど儚い 誰に与えても誰と分け合っても一人 いつも嵐が吹き荒れて逃れるすべが見つからない どれほど愛を注いでも上手くはいかない 楽しいのはいつも初めだけ どんなものもこの運命を破壊できないのに悪いのはいつも私 情熱と忍耐の足りない私
でもそれはいつか何もかも変わる 朝が照らすのは報われた私の日々 優しく迎えるのは夜 日が昇るとそれだけで命に感謝する 見た目には分からないけれど 誰もが私の言葉を理解し楽しい時を共にする 努めただけ欲しいものは手に入り 愛を注いだだけ美しい花が芽吹き 苦しんだだけいつまでもそれは輝かしくいつまでも 朝が照らすのは報われた私の日々 優しく迎えるのは夜