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ぽかぽかの賞味期限 最終章

「まちをつくる。」この言葉はとても曖昧です。建物やコミュニティーを作ること、すべて当てはまります。なにがなんだか分からなくなることもありました。それでも、とにかく、自分とみんなの「ぽかぽか」をつくり、大切にしたいと思えるようになった経験を紹介します。

グラデーションネイティブ

 海のそばで暮らし、表情を変える砂浜と、沈む夕日を見ていた浪越さんは毎日移り変わっていく時間を味わうことが体に染みついています。そんな浪越さんをグラデーションネイティブだと言う人がいました。日の沈む頃、父母ヶ浜でぼーっとしていると、昼から夜へゆっくり表情が変わっていきます。日が沈んでからも、まだ明るさは残ります。昼も夜も急には変わらない。当たり前のことではありますが、その感覚を忘れてしまいそうになります。大切なのは、グラデーションをみて、それを受け止めることだと思いました。どっちがいいのか、ではないのです。そんな浪越さんだからこそ、観光と定住も、急には変われないことを知っています。あいだの、関係人口をつくろうとしています。みんなグラデーションなんだと思いました。海を見て、感じてほしいです。あなたの目で、父母ヶ浜がゆっくり夜に変わっていく時間を、その生のグラデーションを見て、どうか自分に重ね合わせてみてほしいです。はっきりしていないからこそ、美しいものもあるんだと、感じてほしいです。


浪越さんが撮った父母ヶ浜


9月1日を超えて

 9月1日は、一番自殺率が高い日です。夏休みが終わり、学校が始まるのが大きな要因とされています。浪越さんの仲間が、学校も急に始まらず、ゆっくりグラデーションのように始められたら、いいんじゃないかと言っていました。家と学校のほかに居場所を作れたら、そしてそこにさまざまな先生がいて、学び合うことができたら、夏休みもゆるく学び続け、学校が始まっても他に居場所がある。そんな状態を作って、食品工場が子供の居場所になれたらいいね。と話していました。そんな浪越さんたちですが、居場所を作りたい。という想いが先にあるわけではありません。まずは「おいしいものが食べれるから行こう。」や、「なんとなく楽しそうだから行こう」というきっかけになれるような、イベントを開き、自分も楽しみ、楽しんでもらう。その結果、そこが居場所になっていた。という順番を大切しているそうです。

まちづくりは料理だ。

 
 最終日、最後に作ってくれた賄いは、ハンバーグでした。優しさがにじみ出ていて、永遠に食べられるハンバーグです。父母ヶ浜の塩と、三豊の肉と野菜を使って、こんなにおいしいものができる…!三豊にあるもので、感動させることができる。2週間浪越さんのもとで働き、最初のころにおっしゃった「まちづくりは料理と一緒なんだよ」という言葉が、ようやくわかりました。冷蔵庫を開けたとき、材料が足りなかったり、調味料がなかったりします。それでも、生きていかないといけません。それでも生活をしなければいけないとき、今ある食材で、何をどう組み合わせたらおいしくなるかなと考えます。まちづくりも同じことが言えると気づきました。財源や人が足りなくても、いまあるのはこれとこれだからなんとかこれはやれるんじゃないか、、。という発想です。人も料理も適材適所があり、スパイスのように瞬間的に目立つタイプもいれば、出汁のようにじっくり、静かに燃えるタイプもいる。長年料理をしてきた浪越さんは、感覚でどの食材と食材が合うのかが分かるそうです。それとおなじように、カフェでお客さんとお客さんをつなげるときも、まちづくりで仲間を集めるときも、どの人とだったら面白くなるかを考えているそうです。

浪越さんのつくるオムライス。優しい味で、無限に食べられる。



 私は2週間前に来た頃、三豊で活躍する素晴らしい方々を見て、憧れを持つとともに、自分はあそこまで行けない…と思うことが多くありました。思考が、「自分の能力を高めること」に寄っていたんだと思います。ただ、それではできることも小さく、やれることも限られます。それならば、能力があるものをどう組み合わせ、特に世代を超えた斜めの関係をどう引き合わせるかを考えた方が、地域は変わりやすいと気づきました。ただ、今私にはすぐに地域に貢献できる能力もありませんし、結び付けられる関係も築けていません。それでも、とにかく「いきなり役に立とう!」と考えるのではなく、(そんなことではすぐに燃え尽きてしまう)作られた場を緩く、長く、まずは楽しむ人になろうと思います。

ぽかぽかは続く。

 欲しいものを買ったとき、消費した時、そのぽかぽかの賞味期限は一瞬です。それでもこの社会はクーポンや誕生日に届く企業からのメール、新商品やセールなど、いろいろな保存料を駆使して、ぽかぽかを人工的に維持しようとします。電子レンジはすぐに温められますが、すぐに冷えてしまいます。三豊に来て、焚火で温めたものは芯から温かいことを知りました。火をつけるまでに手間も時間もかかりますが、それでも、一度火が付けばそうは消えません。モノそのモノや場所自体を好きになることより、地域の人と人の関係性を好きになることができれば、ぽかぽかは長続きすると気づきました。関係性を築くには時間がかかりますが、ゆるく、ながく、離れていてもぽかぽかが持続する関係を、浪越さんと。そして、これから出会う素敵な人と築いていきたいです。
 改めて、浪越さん。三豊で関わっていただいた皆さん。本当にありがとうございました。



【浪越弘行さんのTwitter】
日々感じていることを読めて楽しいです。



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