ニンゲンのトリセツ 第十六話
新しい営業担当者が来たのは、お正月休みがあけて最初の月曜日だった。
「西園寺です。よろしく!」
と、その男は、ニヤッに限りなく近いニコッという顔をした。そういった表情が似合うのは、おそらく今はなきアイドルグループの誰かぐらいだろう。
(きらい)
ユミの心の声である。
よろしく!って‥ どこかの有名人のように、俺のこと知ってるよね?的な空気感。お前のことなんて、知らねーよ!と、喉元まで出かかった。
こういうのが一番苦手。見た目が好みのタイプであったなら、きっと違う感情がわいたかもしれない。けど、そこから一番、いちばーん遠く、なんの興味もわかないくらい残念なタイプの男だった。
「ぼく、アロマ歴かなり長くって、多分お役に立てると思うんだよね。なんでも言ってね。頼ってもらってOKだから!」
うわ!絶対無理!頼り甲斐のある男は、僕に頼って!と自分では言わない‥ユミはそう思った。
あーなぜこの人になったのだろう。よりにもよって一番お気に入りのメーカーなのに‥
こころとカラダの真のリラクゼーションを提供するサロン。オーナーのカオルが目指しているのはそんなサロン。そのカオルの最大のこだわりは本物の香りを使うことだった。
香りが脳に届くのは、約0.2秒といわれていて、最初に届くのは、本能に近いと言われる大脳辺縁系。食欲、睡眠、性欲などをコントロールする偏桃体や、記憶を司る海馬がある重要な場所である。さらに、自律神経や免疫を調整する器官にも届いていく。
真のリラクゼーションを求めるのに、この香りの力を使わない手はない。そして、その香りは、不純物の混じり気なし、純度100%の本物でなければ意味がない。
エッセンシャルオイル業界は、いまや本物から偽物まで、高価なものから安価なものまで、素人ではなかなか判断がつかないくらい、かなりのものが出回っている。
そんな中で、カオルのサロンは、高品質の純度にこだわった本物を扱っていた。カオルは、香りだけでなく、口に入れるものから、肌につけるものまで、本物にこだわっている。
サロンで使用するエッセンシャルオイルは、メーカーの営業担当者から購入する。担当者とは仲良くなれるほうが断然いい。情報のやり取りをして、仕事のクオリティもあがる。それゆえに、お客様に満足していただけるというものだ。
それなのに‥新年早々、担当が変わり、絶対仲良くしたくないような男になった。
ま、いっか。必要な話だけすればいいんだし。とさっさと自分をなだめた。アロマについてすごく詳しそうだし、意外とすごくいい人かもしれないしね!と思うようにした。そして、そう思った。
「ニンゲンのトリセツ」を知っているあなたなら、その理由はもうお分かりでしょう。
けれど、その時のユミは、その先に何が起きるかまではさすがに気づいていなかった。
新年が明ける瞬間にふと降ってきた言葉。
「宇宙とつながるようなSex」
過去にユミが思ったその物語がすでにスタートしていたことに。
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その言葉が降りてきた時のエピソード こちら↓