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じょっぱり

戦時歌謡曲で有名な「ラバウル小唄」。私自身はこの唄の時代の事は祖母や父から伝え聞いてきた世代です。
ラバウル小唄といえば、昭和のドラマ「渥美清の泣いてたまるか」で、渥美さんが傷痍軍人に扮して歌っている印象が強くて、それは軍歌そのものでした。
しかし映画「じょっぱり」の中で女優木野花さんが歌うそれはまるでブルース。
木野さんの唄は何かを伝えようと、凄かったです。

半世紀以上も前に繋いだ命が、64年後に映画化で恩返し。
心地よい話題を探すのが難しい今の情勢の中で、とても良いものを観せてもらいました。そして思いっきり泣きました。

先日(1月12日)、せんだいメディアテークで開催された詩・音楽・アートが織りなす朗読イベント「なぜ生まれたのか知りたい」に裏方としてお手伝いするという機会があったのですが。
この時に、コラボ開催として上映された映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』が強烈すぎました。
これはもっとたくさんの人の眼に触れてほしい映画だと心から思いました。

「なぜ生まれたのか知りたい」については別に書きます。

以前に「岩手の保健」という古い雑誌(今でも刊行されている)をアーカイブする仕事をしたことがありました。その時に、戦中戦後における過疎地域で起きていた地域保健の過酷な実態や、保健師の奮闘。そういったものを知ったのですが、それと同じ様な内容をさらにリアルに、かつ解り易く描いてくれているのがこの映画『じょっぱり』。かなり壮絶です。

写真は全部、オフィシャルサイトや映画パンフレットから抜粋させていただいた

1914年(大正3年)に青森県弘前市に生まれた花田ミキさん。
彼女がこの物語の主人公で、「青森のナイチンゲール」と称された人物です。
こんな人が東北にいたとは….
103歳まで生きた私の祖母と同じ時代を生きた人だというだけで、勝手な親近感をおぼえます。

上映会の後には、
五十嵐匠監督のトークも聴くことができてました。
「ミキさんは命の恩人なんです」と始まったお話し。
なんと監督自身が2歳の時にミキさんに命を救ってもらい、いつかは「花田ミキ」の映画を必ず作ると心に決めていたとのこと。
これはもはや運命のライフワークですね。
そして、その時の「命のリレー」の様子にも触れ、当時を語ってくれました。
しかし、実際には当時2歳だったご本人はあまり覚えておらず、大きくなってから聞いた話だとおっしゃっていました。

その時の新聞記事。映画のパンフレットより


若かりし花田ミキを演じるのは伊勢佳世さん

「じょっぱり」といえば、東北地域で広く使われている方言の一つ。
「頑固」や「強情っぱり」といった意味合いでしょうか、子どもの頃は私もよく言われていた記憶があります。
しかし五十嵐監督は本当の「じょっぱり」とはそんな甘いものではないと語っていました。
「自分の使命やこれが正しいと思った事は、たとえ人を傷つけても頑張りとおす人の事」それがじょっぱりだと。

観ていくうちに、この姿がめちゃくちゃ格好良いと思うようになってくる

晩年のミキさんを演じた木野花と、シングルマザーちさとを演じる王林。
二人の下北方言がリアル過ぎてぐいぐいと心に刺さってきます。
方言には拘ったと五十嵐監督が言っていましたが、それが腑に落ちる見事な演技でした。


王林さんの訛りがなぜか涙を誘う

晩年のミキが「あたりまえの日常ほど尊いものはない」と、
何度か、シングルマザーちさとに語りかけます。
お話しが進むにつれて、その意味が少しづつ解ってきます。
1945年の日本人の平均寿命は23歳。
その内訳は戦争に持っていかれた命の年齢だけでなく、生まれて来ることが出来なかった命の数も入っているのだとミキさんは教えてくれます。
その状況は、過疎や貧困により戦後もしばらく続いていきます。

「持ったら殺すな」が耳から離れない

昭和24年頃の青森県は、
乳幼児の死亡率が全国最上位だったとされる事実。
子どもたちが次々と八戸の病院に運び込まるシーンには目を覆います。
それは当時、青森県では治療できないとされていたポリオの猛威によるもの。
ワクチンが存在する今では考えられません。今の時代に我々が当たり前に手に入れることが出来ている健康。
この映画では、
今ではあたり前になった健康のために奮闘した、一人の女性の生き様がリアルに描かれていて強く胸を打ちます。

戦時中、三度の従軍経験を持つミキさんは「戦争で傷ついて次々と病院船に運ばれてくる兵隊さん、やっと治ったらまた戦場に送られ亡くなってしまう。せっかく仲良くなった頃にまた戦地へ。私は兵隊さんの命が奪われるために看護したようなもの」と晩年も自分を責め続けるのですが….

一方、戦争がやむことはないのは今も同じです。
感染症も収束していないし、希薄な人間関係による孤独死や、子どもへの虐待も後を絶ちません。
物語の終盤に差し掛かったところで、彼女が戦った時代と私たちが生きる現代はあまり変わっていない事に気付かされました。

こんなにぐしゃぐしゃ(涙)になったのも久しぶり。
あっという間の1時間半でした。

たぶん答えは見つからないと思いますが、
私自身、この時代をどの様に生きていけばいいのか考える良い機会になりました。


映画の内容は予告編を観ればわかると思いますので、内容にはあまり触れないで書きました。
残念ながら映画『じょっぱり 看護の人 花田ミキ』は現在、市販向けのDVD化も配信もされていない様です。

昨年公開されたばかりの新しい映画ですので、これから先に上映されることもあるかと思います。
その時にはもっともっと多くの人に観てほしいなと心から思います。


最後まで見てくださりありがとうございました。

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