ケッショウー弱さが災いするー#3

魔王城本丸

魔王城の最も上層部に位置する本丸。

座る者のいなくなった玉座はどこか寂し気に佇んでいる。

トルバ「……悪いねリーグス……俺がこの戦いで得るものは、きっと何もない。
今更勇者になろうなんて気もないし、リーグスに恨みがあるわけでもない……だから、この勝負はお互いにとって、無益なものになってしまうと思う」

ーー魔王が敗れた。
しかし"彼"にとってそれは、目的を達成するために必要なことでしかなく、彼自身が真に求めているものではない。

それは友人との戦いでさえもそうだ。

トルバ「俺はきっと、過去を清算したいだけなんだ。 勇者になれなかったことも、親友に嫉妬したことも……何もできない自分だったことも。
全部全部なくしたい……だから、俺がこれから自分に自信を持って生きるために……!」

リーグス「トルバ…………」

トルバ「……だからこのまま引き下がるわけにはいかないんだ。 俺は、俺自身を超える……!」

リーグス「……分かった! その勝負、受けて立つ!」

リーグスはトルバの意思を汲み取って、魔王との戦いで疲れているにも関わらず、親友のためにこの勝負に身を投じてくれる。
しかしトルバは「ありがとう……」とか細い声で返事をすると、それとは対照的にリーグスに向かって凄まじい殺気を出し始めた。

カジル「お、おい……あいつ、大丈夫なのか? 勝負と言ってる割には、殺気が強すぎるぜ!?
せっかく魔王倒したってのに、ここでリーグスが倒れちまったら最悪だぞ!?」

ラティス「確かにそうかもしれませんけど、止めても無駄なのは確かです……それに、リーグスもそれは分かっているはず。
今は彼を信じて見守りましょう……」

一方リーグスのパーティー一行は、そんなトルバの周囲を押し潰すような殺気に冷や汗をかきながらも、2人の勝負の行く末を大人しく見守ろうとする。

トルバ「ready……?」


リーグス「fight.」

メーシャ「!」

カジル「始まった!!」

遂に決戦の火蓋が切られた。
リーグスは早速魔法を自身に展開して臨戦態勢に入る。

リーグス「収縮 神刀

反転魔法 『ラストブレード』!!」

リーグスは呪文を詠唱しながら鞘に収めた聖剣に手をかけた。

トルバはその構えからリーグスの唱えた魔法の性質を即座に予測する。

トルバ(……なるほど。
あの魔法、おそらく魔王が使っていた『カッターボール』と真逆の魔法だ。
範囲が狭くて攻撃数も少ないけど、その分一撃は重く、当たればどんなに硬い相手でもおそらくやられる……!
近接戦闘を強いられる俺を倒せる魔法なことは間違いないな……

でも今は、俺にも『魔法』がある!)

トルバ「その手には乗らないよ、リーグス。


⬛⬛⬛⬛⬛⬛ 『カルムアクア』」

リーグス「!!」(呪文!?)

バシャンッッ!

リーグス「ぐあっ!?」

突然リーグスの足元から巨大な水柱が吹き出してきた。

リーグスは避ける間もなく水柱に押し上げられると、本丸の天井に強い水圧で叩きつけられる。

リーグス「ぐはっ!?」

ラティス「リーグス!!」

メーシャ「なんだあの魔法!? 魔力が全く感じられなかった!!」

魔法を使う人間は、魔力の流れを直感的に感知することができる。
しかし魔法の頂点に立つ『概念魔法』を扱うメーシャでさえ、この魔法から魔力を感知することはできなかった。

この場合トルバの魔力を扱う能力が非常に長けていて、魔力を相手に感じ取られないような緻密な操作ができるという可能性が考えられるが、まともに魔法を使えないはずのトルバが、そんな高等テクニックを持っているとは到底思えない。

故にリーグスにもメーシャにも予測できないこの魔法は、魔法とは呼べない違う原理で動く能力といえる。

トルバはそのことがリーグスやメーシャに勘づかれるのも時間の問題だと思い、敢えて自分からこの"魔法"の正体を明かした。


トルバ「まあな、今の技は魔法じゃなくて、『パラドックス』だ」

メーシャ「パ、『パラドックス』? な、何だそいつは……?」

トルバ「……俺にもわかんない」

バシィッ!

トルバは何かを言い出そうとして一瞬動きを止めるが、リーグスが体勢を立て直そうとしていることに気づいて話を切り上げ、リーグスの腹部に強烈な蹴りを入れる。

リーグス「ぐはっっ!?」

リーグスは一瞬白目を剥いて本丸の扉まで大きく吹き飛ばされ、扉を突き破って外まで転がり出てしまった。

メーシャ「リーグス!!」


カジル

職業 タンク(守り特化の戦士)

適性 戦士 魔法 ナシ

メーシャ

職業 ウィザード(魔法使い)

適性 プリースト(僧侶) 

魔法 対策魔法

ラティス

職業 プリースト 適性 プリースト

魔法 回復&強化魔法


トルバ「……嫌な予感がするけど、追わざるを得ないか……」

一見リーグスを追い詰めているように見えるトルバだが、風穴の空いた本丸の扉を見据えると動きを止める。
それはリーグスの抜け目のない一面を警戒してのことだ。

トルバ(リーグスは予想外の攻撃を食らってある程度効いている。 それは間違いない。 しかし、あいつはこれを"チャンス"と思っているかもしれない。
追い詰まっているという現状をエサに俺を誘い込み、魔法で確実に仕留めるつもりかも……
でも、外から魔法を撃ってこないなら、やっぱり"追う"しかない。 リスクを犯すことも止むを得ない……
俺の"技"が確実に決まる時は相手を目視している時だ……出るしかない)

トルバはリーグスの魔法を警戒しつつもフルスピードで本丸の外へ走り出した。

メーシャ「ああ、まずいぞ!
リーグスは今の一撃で沈むようなやつじゃないが、間違いなく大きなダメージを負ってしまっている……!
外で気絶してくれてたら幸いだが、立ち上がって戦い始めたら!」

ラティス「ええ、間違いなく死にますね……トルバさんの殺意も尋常じゃありませんし……それに、彼の"あの技"は復活魔法でも蘇らなくなるかもしれません」

一方ラティスたちはトルバの圧倒的な強さを目の当たりにして序盤から心労が絶えない。
イレギュラーとはいえ任務を達成したパーティーとしては、まず何よりも全員で無事に帰りたいところだ。

カジル「ーーおい、あいつを止めるぞ。会った時から薄々感じてはいたが、あいつは何かおかしい」

いよいよ先が危うくなってきたこの事態を前に、カジルの目が戦士|《タンク》の目になった。
カジルは立ち上がって身体を軽く伸ばすと、万が一に備えるべくとある作戦を提案する。

カジル「もしリーグスに何かあった時は、奴を意地でも食い止める必要がある。 だが、あいつの強さははっきり言って凄まじい、そうだな」

メーシャ「ああ、……どうする?」

カジル「一つだけ、奴に対抗できるかもしれない方法があるーー」

カジルはラティスとメーシャにトルバを止めるための作戦を説明し始めた……


魔王城 上空

バシバシバシバシバシバシィ!!

トルバ「くっ……やっぱりこうなった!」

そして同じ頃、リーグスを追って、本丸を出たトルバは、夥しい数の岩石による猛攻を受け、魔王城の上空へと追いやられていた。

トルバ「まずいぞ……! リーグスのやつ、魔王の『岩石封じ』を反転させて使っている! しかも、こうして岩石に気を取られている間にも、リーグスはどこかで傷を癒しながら俺を倒す方法を考えている! 早く、早くリーグスを見つけなきゃだ……!」

トルバは無限に飛んでくる岩石を避けながら、下へ下へと地上に向かって落ちていき、山岳に造られたが故の入り組んだ構造の魔王城を見渡してリーグスの居場所を特定しようとする。
しかし岩石の飛んできている中腹の辺りには、櫓や城を守るように取り囲んでいる出入り可能な岩城壁、罪人や捕虜を閉じ込めておく収容所などがあり、そこに隠れられてしまった場合は外から見つけることはできない。

トルバ「いないか……となると、やはり建物の中にリーグスは……あっ!」

瞬間トルバの目が櫓の一本の柱の影に人影を捉えた。

トルバ「リーグス! 危なかった!! 見逃していたら先手を取られていた!」

トルバは飛んでくる岩石を足場にして飛び回り、リーグスが隠れている櫓の柱に接近する。

リーグス(やはりバレるか……でも、さっきの蹴りの衝撃はだいぶ抜けたぞ……
水柱の能力は厄介だが、使えることが分かっていればそこまで脅威じゃない。
この勝負、『岩石のアウトプット』を囮に懐に入り込んで、一太刀で仕留める!)

一方リーグスもトルバが居場所を突き止めたことに勘づき、空中を飛び回りながら迫ってくるトルバを迎え撃つべく柱から飛び出した。

リーグス「『ロックファイト』!」

トルバ「っ! やる気だな!」

ドドドドドドドドッッッ!

リーグスは岩石の魔法の出力を最大にしてトルバに打ち込んだ。
これには流石のトルバも両腕で防御することしかできず、リーグスに一歩たりとも近づくことはできない。

トルバ「ぐっ……こ、これは……強い!」

リーグス「今だ! 『ラストブレ……はっ!?」

リーグスはトルバが動きを止めている隙に間合いに入り、『ラストブレード』をトルバに放とうとしたが、すぐにそれを中断してトルバから離れようとする。

トルバの右掌から熱を帯びた小さな球体が出ていたからだ。

リーグス「ま、まさか!? トルバの能力は一つだけじゃ……!?」

トルバ「もう遅い。
パラドックス 『ハナビ』」

ドガンッッッ!

球体は一瞬で膨張して激しい光と熱、轟音を周囲に放ち、リーグスの岩石をあっという間に粉砕する程の大爆発を起こす。

リーグス「ぐあああ!?」

リーグスは爆発に巻き込まれて全身を火傷すると共に、大きく吹き飛ばされて岩城壁に全身を強く打ちつける。

リーグス「くっ……! こ、こうなったら……!」

リーグスは負傷した身体を引きずりながら逃走し、岩城壁に取り付けられた扉を開けて城壁内部に入る。

リーグス「く、くそ……! 回復魔法を習得するためには、『細胞を破壊する魔法』を覚えなきゃならない……! 何か、何かこの傷を治す方法が他にあれば……!」

リーグスは城壁の中にある木箱や樽の中身を覗きながら、何か使える物がないか探していく。
しかしそんなことをしている間にも、トルバは既に次なる一手を打ってきていた。

トルバ「パラドックス 『カルムアクア』」

ズシャアアアア!!

リーグス「な、何!?」

トルバのパラドックスによって岩城壁内部に水柱が発生し、たちまち城壁の狭いスペースは水浸しになる。

リーグス「あ、あいつまさか! 水攻めを狙っているのか!?」

リーグスは急いでここから脱出しようと試みるが、水柱が出口の扉を塞ぐようにしているため逃げることができない。

リーグス「く、くそ! だめだ! 完全にハメられた!」

ドボボボボボボ!!

水の勢いはどんどん強まっていき、あっという間に岩城壁内は水で満たされてしまった。

リーグス「ゴボッ! グブブ……ムグ……」(ま、まずい! 溺れ死ぬ前に、どうにかしてここから脱出しなければ!!)

リーグスは水中を泳いで壁際まで行くと、聖剣を握る手に力を込め、壁に向かって反転魔法『ラストブレード』を渾身の力で打ち込んだ。

リーグス(頼む、小さいヒビでもいいから入ってくれ!!)

ガキッ!

すると打ち込んだ壁に僅かなヒビが入り、その隙間に大量の水が流れ込んで壁の傷をメリメリと広げ始める。

リーグス(よし! 成功だ!)

バキバキバキッ!

壁のヒビは段々と大きくなって遂に決壊し、壁に人が通り抜けられるほどの大きな風穴が空いた。

バシャアアアア!

城壁内に閉じ込められていた水が滝のように穴から流れ落ち、リーグスはその流れに乗って脱出。
何とか溺死せずに危機を脱することができた。

リーグス「よし! これでいい!
後は収容所の地下にある独房の窓!
あれに飛び移る!」

リーグスは水流から脱して近くの鉄格子の窓が見える崖に飛び移ると、力の入らない身体を引きずるようにして格子に手を伸ばし、聖剣で格子を切断すると窓から独房の中に逃げ込んだ。

リーグス「はあ……はあ……いやー、やっぱりトルバの相手は骨が折れる……命の危険を感じるよ……」

トルバ「そうか、じゃあ悪いけど……もう少し肌で感じてもらうよ、リーグス……」

リーグス「あっ!?」

鉄格子越しに薄汚れた服装の大男が、疲れ果てているリーグスの目の前に現れる。

リーグス「……フフ、相変わらず抜け目ないな、トルバ……!」

トルバ「そっちもね……」

リーグスとトルバはお互いに睨み合い、誰もいない独房を緊張感とさらに深い静寂で包み込む。

ガタンッ

リーグスの部屋の扉がトルバに取り外された。

リーグス「『ロックファイト』!」

トルバ「くどい!」

ドドドドドドドドドドドドッッ!!

トルバはリーグスの放った岩石を見切って避けるとリーグスに殴りかかり、リーグスと激しい肉弾戦を繰り広げる。

トルバ「うおおおおおお!」

ドスドスドスッ!

リーグス「うぐっ……!」

トルバは武具を持たない状態で武装したリーグスを圧倒し、リーグスの鎧を突き破る程のパンチを容赦なく打ち込んでいく。

そして

トルバ「食らえ!」

ドガンッ!

リーグス「カハッ!?」

トルバがリーグスのガードの隙間をくぐるように蹴り込むと、リーグスは大きく吹き飛んで吐血し、フラフラと蹲るようにして遂に膝をついた。

リーグス「はあ……はあ……」

トルバ「終わりだ……!

パラドックス 『カルムアクア』!
それと……『ハナビ』!」

ジュババババババ!!

トルバの前に渦を巻くようにして水柱が吹き出す。そしてトルバはそれに重ねるようにして、もう一つの大技『ハナビ』を発動する。

トルバ「これが俺の切り札だ……!」

ドガンッ!!

リーグス「っ!?」

バシャアア!!

するとトルバの『ハナビ』が水柱の手前で爆発を起こし、リーグスの目に水しぶきが入ってしまった。

リーグス「うあっ!? しまった!?
目が、目が開かない!」

トルバ「うおおおお!!」

トルバは目が見えなくなったリーグスにトドメを刺すべく、チカチカと光る蛍光灯が照らす廊下を走っていく。


もうやめてよ! こんなことしたって誰も救われないよ!

トルバ「救ってくれなかったのは、お前の方じゃないか……!」

もういいじゃないか! 君は十分強い!

それで人をたくさん助けてきたらいいじゃないか!
こんなところで止まっている場合じゃない!

トルバ「うるさい! 消えろ! 消えてくれ!
俺は捨てたいんだ! 情けない自分を! 何もできなかった過去を!!

資格がなかったことも! それも全部!!
全部"俺|《お前》"のせいだーーーー!!」

チカッ チカッ……ツゥーー……

蛍光灯の光が途切れたーー


リーグス「…………? トルバ……?」

トルバ「……ごめんリーグス、本当に、ごめん……」

リーグスが目を開けると、トルバはポロポロと涙を零しながら膝から崩れ落ちていた。

リーグス「!? トルバ!? 大丈夫か!?」

リーグスが突然泣き出してしまったトルバを心配して駆け寄ると、トルバは今にも枯れそうな声でリーグスに謝り始める。

トルバ「ごめん……俺、勇者になれなかった自分が許せなくて、悔しくて、それで……!」

リーグス「いいよ、落ち着いてゆっくり話して」

トルバ「それもそうだな、大人になって子供みたいに泣くなんてみっともない」

リーグス「切り替え早いな」

トルバは我に返ったのか突然泣き止むと、リーグスをひどい目に遭わせてしまったことを改めて謝る。

トルバ「ごめん……俺、どうしても憧れに届かなかった自分を忘れたくて、リーグスに勝負を挑んだんだ……今の自分は勇者より強いんだぞって、そう思いたかったのかもしれない……
でもやっぱり弱い自分を否定できなくて……それで、リーグスに弱い俺を重ねて殴ってた……本当にごめん、こんなの、ただの八つ当たりでしかないよね……」

トルバは悪いことをしてしまった子どものような顔で、またも泣き出しそうになっている。
するとリーグスはトルバの涙をハンカチで拭ってこう言った。

リーグス「いいんだよ、俺の方こそごめん。 トルバと一緒に勇者になろうとずっと思っていたけど、結局俺だけが勇者になってしまった……それが気まずくて、ずっとお前に話しかけられずにいたんだ。
でも、そのせいでお前がここまで追い詰められていたことに気づかなかった。
俺の方こそ親友失格だ、本当にごめん」

トルバ「そ、そんな……リーグスは悪くないよ……悪いのは全部、俺なんだよ……」

青龍「そうそう悪いのは全部お前だぞ」

トルバ「うん…………うん?」

リーグス「え?」

青龍「え?」


リーグス「いやお前誰!?」

感動の仲直りシーンに割り込んでくる謎の青い龍。

いやごめん、お前マジで誰?

青龍「おいナレーション! お前説明役なんだから俺の紹介しろよ!」

トルバ「青龍!? お前いつの間にここに来たんだ!?」

ああ思い出した。
こいつあれだ、トルバの式神だわ、うん。

リーグス「え、ええ……ちょっと待てよ、トルバ君さ、君『式神召喚術』は禁止って言われたの覚えてる?
君そいつのせいで一回大学の校舎ぶっ壊して退学寸前まで行ったよね?
何でお前またこの龍呼び出してんの!?」

そう、実はトルバは肉体以外何も持たないというタイプの人間ではない。

正確に言うと、呪文にも特技にも属さない、というか入れてもらえない『禁止級特技』というものをもっている。
『禁止級特技』とはその名の通り、使うことを禁じられた魔力を消費する特技のことだ。
そしてその禁止級特技とは、トルバが使う『式神召喚術』という特技の一種ーー『セイシュハクゲン』である。
しかしこの『セイシュハクゲン』という特技、魔力で作った式神を使役して戦うという特技なのだが、使い手にとってかなり重大な欠陥が存在している。

トルバ「ご、ごめんよリーグス!
俺自分でも気をつけてるんだけど、この特技コントロールできないから、感情が高ぶると勝手に表に出てきちゃうんだよ!」

リーグス「いやダメだろ!?
政府に禁止されてる特技なんだからうかうかしてると捕まっちゃうぞ!?
早く始末しないと!」

そうこの特技、他の『式神召喚術』とは違い、式神の発生を自分でコントロールすることが不可能なのである。

トルバの感情がある一定まで高ぶると、自動的に式神が召喚され、しかも召喚されたら死なない限り消滅させることができないという厄介な仕様がある。

さらにトルバの呼び出す式神はどれも自我があり知能も高く、隙あらばトルバの使役から逃れようとトルバの精神の破壊を狙ってくる。

つまりこの特技は式神を操って戦うという『式神召喚術』の基本戦法を根底から崩した、使えない上に手に余る特技なのである。

青龍「よおリーグス久しぶりだな!
お前大学で俺たちが暴れていた時、楯突いてきた奴だよな?
ま、今後ともよろしくな!」

リーグス「よしトルバ、お前は何か色々可哀想な目に遭ってるみたいだから、俺の聖剣やるよ。
だからこのゴミをこの剣で今すぐ一刀両断しろ」

トルバ「御意」

トルバはリーグスの聖剣を手に入れた!

青龍「おい待て待て待て待て!!
トルバさ〜ん、そこを何とかさ〜、もう少し延命させてよ〜、流石にさ〜、この流れで出てきて一刀両断で終わりは流石にないって〜!」

トルバ「終われ、終わってくれ。
どうせロクなことが起きない」

青龍「やだなーー! そんな、俺ら疫病神じゃないんスから〜!
チョットセイキュウサレルオカネノハナシガアルダケデ」

トルバ「いや大事じゃないかそれ!?」

青龍「あ、いや、大したことじゃないんスよ!? ただあの〜、トルバさんが魔物の足止めを俺らに依頼してくれたんで、俺ら一生懸命働いたんスよ!
んでそんときに〜、ちょ〜っと俺ら本気出しすぎちゃって〜、必要以上に魔王城のインフラぶっ壊しちまったんスよ〜!
まあ俺で言うと、魔王城の地下にある発電所に忍び込んで水ぶちまけて〜、機械漏電させてぶっ壊して使い物にならなくしたり〜」

トルバ「いや何でそんなことしたの!?」

青龍「いや〜、何かやってみたかったていうか〜、ヤンチャってやつっすよ!」

トルバ「ヤンチャの次元超えてんだろ!?」

青龍「んで〜、そんときの損失額を条約違反で請求されるんだけど、その額がこちらです」

青龍はトルバにA4の請求書を差し出した。

トルバ「えっと……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまんひゃくまんせんまんいちお……! ええっ!!
こんなに!?」

青龍「まあインフラ止めたんでね〜」

トルバ「うわーーん!!」

朱雀「その件でしたら私もお話があります」

一体の燃え盛る炎のような体色の鳥が、懲罰房の方から歩いてきた。

この鳥は朱雀、トルバの式神の一体だ。
強力な炎と回復魔法の使い手で、彼の持つ羽は死んだものさえ生き返らせるという。

トルバ「す、朱雀……? まさかお前も」

朱雀「はい! こちらをご覧ください!」

朱雀は食い気味にA4の請求書を差し出してきた。

トルバ「ええと、書斎で図書を焼いたことによる損失額……ええっこんなに!? こんなのどうやって払えって言うんだよ!?」

朱雀「諦めんなよ!! もっと熱くなれよ!!」

トルバ「いや無理だよ!? 冷や汗出てきてむしろ寒くなってきたんだけど!?」

リーグス「害獣だなこの式神ども……」

白虎「よおよおお前ら盛り上がってんな〜!? 俺も混ぜてくれよ!」

トルバ「げっ!? 白虎……」

朱雀の後ろから凍ったモンスターの首をシャクシャクと噛み砕く一匹の虎が現れる。

氷使いの式神、白虎だ。

トルバ「お前もヤバそうだな……」

白虎「いやそんなすごくはないぜ。
ただ南国エリアの空調の換気扇に冷気を流し込んで住んでる魔物を全滅させてきただけで」

トルバ「やばいよ!!」

白虎「うるせえなー、損失額もこれまでで一番ショボいぜ。 感謝しろよ」

すると白虎もどこから印刷したのか分からないA4の請求書をトルバに押しつけてきた。
もちろん書かれている額はアホみたいに高い。

トルバ「ねえ、1000万ってどういうこと? これで低いって喧嘩売ってるの?」

白虎「いや低いだろ? あの馬鹿どもなんて億単位だぜ? 今更1000万なんて変わんねえだろう!?」

リーグス「お前も大概だろ」

白虎「あっ、玄武、あいつは相当やばいぜ。 税務署にある金庫爆破して文字通り国税溶かしてくるって。 ついでに書類もぶっ飛ばしてくるらしい」

トルバ「うわーーー!!! もうやだ! 聞きたくないよーー!!」

トルバはA4の請求書を床に並べて項垂れ、恐ろしく莫大な借金を前に絶望する。

リーグス「ちょっと止めてこいって言われただけで、ここまで余計なことできるのはもはや才能だな。 まあ落ち着いてくれトルバ。 今魔族陣営は魔王や側近を倒されてしまってかなり混乱している。 この調子ならどさくさに紛れて逃げ切ることも可能だ。 とりあえずここからでよ……って、トルバ!?
大丈夫か!? お前泡吹いてんぞ!?
おいトルバ! トルバ! トルバーー!!」

トルバ、あまりの借金に絶望し、失神。

青龍「フハハハハ! 壊れたな!
俺たちはお前の精神が壊れる瞬間を待っていた!! これで俺たちは自由だ! 一度手綱から手を離したら、馬はどこまでも自分勝手に走っていく!
俺たちも同じだ! 一回精神が壊れたらもう俺たちを束縛することはできない! 勝った! おいお前ら! 俺たちはこの見るからにひ弱そうな男から離れ、外界を自由に遊び回れるぞーー!」

白虎「しゃーー! やったったーい!」

朱雀「はあ……そうですか」(だから何だよ、別に何かやりたいことあるわけでもねえだろ、この単細胞生物どもが)

青龍「あ、やっべ忘れてた! こんなところにいると俺たち捕まっちまう!
じゃあな宿主! お前はここの牢屋にでも入ってろ! ハッーーハッハッハ!」

青龍たちは解放感からか爽やかな顔で収容所を出ていった。

リーグス「……追うの面倒くさいし、明日でもいっか……」

そしてリーグスは疲れていた!

リーグスとの勝負を通して過去を清算したが、新たな負債も作ってしまったトルバ。

彼が向かう先は天国か、地獄かーー



トルバ
職業 中小企業の社長 適性 戦士

魔法✕ 
ゴミ(ゆうてそんな強くないヤツ)

パラドックス セイシュハクゲン


おまけ

今回置いてけぼりにされたイロハは非常に怒っております。

イロハ「ムッスーー…………」(急にいなくなるなんてひどい! 急にいなくなるなんてひどい! 急にいなくなるなんてひどい! 急にいなくなるなんてひどい!)

トルバ「イロハ絞まってる!!
首締まってるってば!!」

おまけ2

結局出てこなかったカジルたちはトルバの式神 『玄武』に襲われ、現在戦闘中です!

玄武「何だお前ら、◯ね」

カジル「判断が早い!!!」


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