1000文字小説(55)・詩人の祖父⇔国語のテスト⇔意外な正答(国語)
「マジかよ」
俺は、帰ってきた答案用紙を、落としそうになった。
『0点』
これが、俺の国語のテストの採点。
設問は
『この詩集・晶子抄を作った時の、作者の心理状態を述べよ』である。
これが、もう「ゼロ点」という採点を喰らっている。
(低すぎる)
俺は、英語や数学は苦手だが、国語は得意中の得意。
俺様は、血統が違う。
「先生。これはあり得ないよ」
抗議する。
「あり得ない?」
「ええ」
「そうか。君もそう思うか」
「どういう意味」
「実は、結構、この設問は議論を呼んでいるんだ」
クラスメートが集まってくる。
――作者が、この詩集に込めた思いとは?
「これが、正解だから。間違いないよ」
俺は、テストの答案用紙をフラフラと揺らせてみせる。
「いや。君のは間違いだ。だからゼロ点なんだ。それこそ、あり得ないよ。バカにするのもいい加減しろよ」
担任が、睨む。
「実は、この詩人・三宗政太郎は、僕の義理の祖父なのです」
「本当か」
「ええ。ですから、聞こうと思えば、直接、話を聞くことができます。多忙の上、体調不良なので、アポが必要ですが」
「ご自宅はどこなの」
「病院です」
「病院?」
「ええ。今、肺病で入院中なのです」
こうして、俺たちは詩人・三宗政太郎に会いに行った。
台東区の病院である。
「恐縮です……実は、テストで出した設問のことなんですが……傑作・晶子抄に、込められた筆者の心情を知りたいのです」
「おう。それでは、生徒たちの答案用紙を見せてくれ」
三宗政太郎が、クラスメートの答案に目を通している。
「どれが、正解でございましょう」
「ううむ」
「かなり、揉めているのです。PTAや、学校長まで話が行っています。ですから、最も近いものを、ご本人に選んで頂きたいのです」
祖父が、笑っている。
「今から読むよ。これが正解だよ」
鼻からカニューラを挿入している。
呼吸が苦しそうだ。
祖父が選んだのは、俺の原稿だった。
当然である。
俺は、祖父本人から、何度か聞いたことがあるのだ。
間違えようがなかった。
『この詩を書いた時、筆者は金のことしか考えていなかった。この時は、デビューして間もなかった。だが、恋愛のゴタゴタで元恋人から訴えられていた。慰謝料。さらには、新恋人との結婚と将来設計の為に巨額の金が必要だった。だから、この詩を書く時には、金が必要だった。だから、お金。詩人は、お金のことを考えていた』
これが正解。