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1000文字ショート/陰謀論ファミリーの憂鬱(オカルト)

「ユリコ、電気つけっぱなしじゃないの。何をやっているの?」
 ママが帰ってきた。
 ママは、怖い顔をしている。

 いつものこと。
 般若のような顔で、部屋の中を覗き込む。
 
 髪もボサボサで、両方の甲には星のマークと逆さ卍のタトゥが彫られている。
 自分で彫ったので、甲はケロイドだらけ。

 ママの機嫌は悪い。
 極悪。

 理由は明白。
 家の明かりが外に漏れているから。

「何度言ったらわかるの」
 ママが勢い良く開けたので、ドアが酷い音を立てた。

「ギッ」
 弟のタクマが悲鳴を上げた。
 ドアの影に、げっそりと、やせ細ったタクマが寝転がっていた。
 
 タクマはドアに頭をぶつけた。
 何か、“ヒトリゴト”を言っている。

 ヒトリゴトは、例の“崇拝の言葉”に似ている。
 ママが、タクマに復唱させているうちに覚えてしまった。

「電気つけていたら、○○ステートの連中に見つかってしまう」
 ママは真剣な顔だ。

「○○ステート? またその話。いい加減にして」

「今日。電気会社とガス会社から供給停止の通知が来たのよ。ママが、わけのわからない陰謀論にハマっているから、家賃の支払いもできないし。タクマもおなかをすかせたまま、いつだって、そう。もういい加減にしてよ」
 ユリコは、督促状の束をママに投げつけた。

 督促状がママの顔にあたったが、平気な顔をしている。

「私たち3日間、何も食べてない。どこに行っていたの」

「ユリコ、何度も言っているでしょ。ママは、家族の健康の為に、あのグループに参加しているのよ。ユリコやタクマの為を思ってやっているの。その証拠に食べ物だってたくさん貰ってきたし」
 ママが紙袋を渡してくる。

「この袋、何が入っているの。気持ち悪い。こんなの食べろっていうの?」
 ユリコは、そのまま吐いた。

 袋の中から、生臭い湯気が立ち上っている。

「あの方が育てている“おいぬさま”の肉よ。大丈夫よ。みんな生で食べていたから、平気よ。栄養満点なのよ」

 その時、タクマの異変に気付いた。
 タクマは、ドアに頭をぶつけて大量に出血していた。

「救急車呼ばなきゃ」
 電話をしようとするママ。
 
「待って」
 ユリコは制止した。 

「ママ、ダメ。病院の血は遺伝子操作されていて、輸血すると細胞が破壊されて緑色の悪魔の血液に変わるのよ」
 ユリコは真剣に言った。

「ありがとう、ユリコ。危ないところだったわ」 
 
 やがて、血だまりの中で、タクマは動かなくなった。【了】
 

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