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1000文字小説(115)・敗戦⇔自害するサムライたち(胸糞・R指定ホラー)
ここは、サムライたちが自害した場所。
時代の過渡期。
愛する生まれ故郷に選ばれし血気盛んな集団。
正確にいえば、サムライとは違うのかもしれない。
だが、彼らは「武士道」らしきものに突き動かされていた。
今では、更地となっている場所。
漂う血の匂い。
気のせいではない。
死者たちの怨恨。
時代を変えられなかった悔恨。
送り出してくれた家族たちへの懺悔。
『旧勢力打倒』
目標を掲げ、死闘を繰り広げた。
そこには“革命の予兆”と呼ばれるものがあった。
長い年月を超えて、この土地に残る“思い”。
地縛霊だろうか?
幻覚?
朧気ながら見えている姿が、彼らの“思い”を裏付けている。
『兵どもが夢の跡』
戦場を、こう表現する者もいる。
だが、この地の禍々しさは今も消えていない。
立ち上がっている男。
かなりの年長者のようである。
「よく戦った」
「でも、もう終わりだ。潔く死のう」
リーダー格なのだろう。
若者たちは、その年長者を取り囲むように座っている。
慟哭。
涙を見せぬ者などいない。
この後、部屋は凄惨な光景に変わっていく。
あの事件が起こる。
「どうやって死ぬのですか?」
「刃だ」
凶器を取り出す年長者。
拳銃などではない。
短刀。
切腹用に、用意されものらしい。
奉書紙の巻かれた、白鞘の短刀である。
止まぬ嗚咽。
神様は残酷だ。
現世との別れは辛いだろう。
だが、それもやむを得ないのか。
死にゆく人は美しい
彼らは、髷など結ってはいぬ。
だが、もはや本物のサムライといってしかるべきだろう。
勢力争い。
日本史上最大の内戦。
命運を分けた戦術の違い。
旧勢力と新勢力との一連の闘い。
全ては、一方的な幕切れとなった。
血で血を洗う戦争は終結した。
この闘いを切っ掛けに、世の中は近代化を加速していく。
「お前らは英雄だ」
「英雄?」
「そうだ。時代に記憶されるべき英雄だ」
「本当に死ぬのですか?」
「死すことでお前らは永遠の命を得る。武士道精神を思い出すんだ」
「サムライなら、立派に死ね」リーダーらしき年長者。
「本当に、死ぬのですね?」
涙をぬぐいながら一人の若者が聞く。
「当然だ。このままでは、恥ずかしくて故郷に帰れないからの。死んでお詫びをするんだ」
「わかりました」
直後、連続する腹を短刀で掻っ切る音。
悲鳴が響く。
断末魔。
ロッカーの立ち並ぶ控室。
史上まれに見ぬ虐殺事件。
自害したサッカー部の部員たち。
決勝戦で敗戦した選手たちを自殺させるという陰惨な事件を主導したサッカー指導者は、逮捕された。