【小説】#見えない恋⇔行方不明⇔聴こえないハート(ショートショート)
(今日も来ないな)
私の名前は、アイリ。
――今では、視力がほとんどなかった。
近所の盲学校に通っている。
白杖にも慣れた。
二年前に難病を発症して、それからは真っ逆さま。
今や、障碍者手帳一級の所持者となった。
中学校から通い出した盲学校。
それから、健常者の友達がいなくなった。
手の平返し。
(薄情だよな)
予想していた。だから、それほど傷つかなかった。
慌ただしい毎日は、辛さを感じさせない。
バスに乗って、盲学校に向かう。
「今までの教科書と内容、ほとんど変わらないから安心して」
盲学校の校長は言った。
全くその通り。可もなく不可もなしといった授業。
点字を覚えるのは、少し苦労した。
だが、教科の内容は今までと変わらなかった。
(退屈だった)
高等部理療科は、あん摩やマッサージ、鍼灸の施術者として、国家資格の取得を目指す。
カリキュラムも、きちんとしている。
プロとして、やっていけると校長にも太鼓判を押されている。
バス停。
『ブロロロロㇿ』
バスがやってきた。列が動き始める。
(今日も来なかった)
アイリはバスに乗り込むのを辞めた。
「バス出るよ」
運転手が声をかけてくる。
「ええ。大丈夫です」
アイリは、今日は学校に行くのを辞めた。
こんなことは初めてだった。
いつもは、バス停の前で、アイツが手を取って、座席まで道案内してくれていた。
それが、一週間前からなくなったのだ。
アイツの名前は、アワムラ
アイリは、白杖を操作して、道路を歩き始めた。
点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)の続くところ。
ここまでのルートだと、どうしても限りがある。
今日は、その慣習を打ち破ってみたかった。
歩き続ける。
もう、どこかわからない。
『カン、カン、カン』
踏切の音が聞こえている。
どうやら、目の前は線路のようだ。
(死のうかな)
こんなことを思ったのは、初めてだった。
アイリは、近づいてくる電車の音に向かって、歩みを進めていった。
死。
「バカ!」
後ろから声。聞き覚えがある。
「危ないだろ」
身体が軽くなる。
アワムラが、アイリの身体を抱きしめている。
「アンタ、どこ行ってたの」
「作業療法士の試験があったんだ。アイリにも言ったはずだぜ」
「覚えてない」
「ああ。作業療法士の資格を取って就職するんだ。アイリをこれまで以上にサポートするつもり。バカだな。一人で、こんなところまで来て」
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