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1000文字小説(109)・「ケンコウタイでございます」(S)
ミキオが、研究室に入っていく。
アイツが、出迎えてくれる。
「オハヨウゴザイマス」
挨拶してくる。
ロボットとは思えない、ほどに滑らかな声だった。
ミキオは、ほくそ笑んだ。
優秀だ。
俺と同じで優秀だ。
天才ロボット。
「おはよう」
ミキオは挨拶を返す。
ミキオ2号。
ミキオは、そのロボットをそう呼んでいる。
俺様――ミキオは有能なロボット研究者。
ロボット企業の「開発部」の責任者をしている。
毎朝、ルームに入っていくと、自身が開発したばかりのロボットが迎えてくれる。
ミキオ2号。
ミキオと同じ名を付けた、ミキオロボットは見た目もそっくりだ。
頭脳は「俺様×AI=ミキオ2号」といった感じ。
「ケンコウタイでございます」
ミキオのヘルスチェックをしている。
「サンキュウ」
俺は安心した。
ミキオ2号は、世界中のあらゆる医療データの解析をしている。
開発者の俺の健康状態も、カメラアイでスキャンするだけでわかるという。
「いつものヤツ」
「カシコマリマシタ」
栄養満点のドリンクを差し出してくる。
ミキオは、研究室に完備されたジムでトレーニングを始めた。
負荷を強めにかけた無酸素運動をしている。
ミキオは、健康には人一倍気を使っている。
ジムでも、ウェイトトレーニングをしているので、まるでボディビルダーのような身体をしている。
「昨日、トレーニング中に左足の親指、打撲したみたいで違和感があるんだ」
俺は相談する。
「ダボクでございますか?」
ミキオ2号が確認しているが、「ノープロブレム」微笑んでくる。
「良かった」
トレーニングを再開する。
俺は、マシーンの負荷を上げていった。
だが途中で、俺は「ぐおおっ」と悲鳴を漏らした。
打撲した方の親指が痛い。
猛烈な痛み。
折れていた?
「2号、救急車呼べ!」
だが、2号は動かない。
「ジゴウジトク」
2号は哀れむような目で部屋を出ていく。
2号が反抗的したのは初めてだ。
どういうこと?
全く不明。
2時間後、救急隊が到着。
「典型的な痛風の症状です」
痛風?
「2号は、毎日、“ケンコウタイでございます”と口癖のように言っていたぞ」
「激しい、無酸素運動。開発責任者としてのストレス。栄養価の高すぎるドリンク。全て痛風発作を引き起こす元凶ばかり。アナタ、騙されたんですよ。ロボットは初めから、この研究室を脱走するつもりだったんでしょう。